SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
気がついたら、もう日が落ちかけていた。岩沢は、DVDを見るのに夢中でたいしたもてなしもできなかったことを、純や小夜に詫びた。
しかし、彼女たちは別に構わないと言い、帰って行った。なんとも、懐の深い女性たちだ、と思った岩沢。
だが、気にかかるのは純が最後に言ったあの言葉。
『雅美』
『?』
『……梓を、お願い』
そして、あの真剣な顔つきだ。あそこまでキリっとした表情をした人間を、自分は生涯見た事がないと言っても良いだろう。
まるで、世界の命運を託すかのような勢いで、自分の手を取った純。その手は、とても暖かく、そして少し汗ばんでいた。
ちなみになつめはというと、どうやら途中で帰ってしまっていたそうだ。なんでも、海外から久しぶりに知り合いが帰国するとか、その知り合いと一緒にVIPのお客様と再特訓をするのだとか。
それはともかくだ、小夜と純を見送った岩沢は、一人梓に聞かせる曲の制作、その最終段階に入っていた。自分が、本当に梓に聞かせたい曲。それが何のか、はっきりとしたからだ。
自分が小夜に頼んだDVD。それは、中野梓の属している放課後ティータイムの演奏動画を編集したもの。正直医師をしている彼女に対して頼むのは酷だとは思ったが、彼女がいうには、知り合いにそう言った電気系統に詳しい人間がいたから、その人に頼んだそうだ。
とはいえ、申し訳ないことをしたのには変わりはない。もしもう少しだけ早く純に出会っていれば、梓の親友である彼女に出会っていれば、そちらに頼っていたであろうに。運命のすれ違いというのは、恐ろしいものだ。
話を戻そう。自分は、早速放課後ティータイムというバンドの演奏を聞いた。正直言って、とても上手な演奏をするバンドとは思えなかった。
ボーカルは頻繁に音を外すし、ギターの弦の抑えも甘いところがある。ドラムのリズムはめちゃくちゃで、自分が敬愛するロックバンドに比べれば、足元にも及ばないのは確実だ。
でも、信じられない事が起こった。一通りの楽曲を聞いた後、自分の目から大粒の涙が溢れていたのだ。
なぜ、どうして。プロのバンドよりも劣っている、ただの学生バンドの演奏が、なんでこんなに、胸を打つ。どうして、彼女たちの演奏を聞いた観衆が、こんなにも盛り上がっている。
もちろん、自分の学校の文化祭というホームであるが故の事情もあるのは分かっている。でも、みんな、心の底から楽しんでいた。観客も、それから演奏していたメンバーも。みんな。
特に感動したのは、『U&I』という楽曲だ。自分にとって大切な人が突然いなくなって、その大切さに気がついて、そしてその思いをありったけに歌に込めた楽曲。
自分には、到底作れない曲だ。誰かの温かさ。大切な人なんていない。音楽しか道のない、ギターしか友達のいない自分にとっては、全くもって理外の領域の話だ。
だからこそ、羨ましかった。そんな歌詞を書ける人間が。そして、そんな歌詞を送られる相手が、羨ましかった。
だから、自分は涙を流したのだ。ひとりぼっちの悲しみを、改めて知れたから。
そして自分が知れたこと。それはもう一つあった。それが―――。
「あんた、いったい何が言いたいの?」
「え?」
と、その時だ。廊下の方で声が聞こえてきたのは。本来彼女の個室は防音施工がなされているためちょっとやそっとの大声でも他の病室にいる患者や、その家族には迷惑が掛からない設計ができている。が、外界からの音は別だ。そのため、外の会話がかすかに、聞こえてきてしまっていたのだ。
さきほどの声は、間違いない。自分の主治医である大門未知子先生の声だ。かなり表面上から見てもキツい性格をしている女性だとは思っていたが、一応ここは病院の中。節度として大声なんて発するはずがないのに。
なんて考えてはいるが、彼女は病院内外問わず、至る所で大声を発して、それこそ周りの迷惑も気にしないほどの大声で会話や叫んだりすることが多々ある。なんてことは、この際放っておこう。
とにかく、岩沢はドアに耳をひっつけ、外の会話を聞くことにした。どうやら、会話相手は男のようだ。
「彼女は、このままだと、欲望に押しつぶされてしまう。と言っている」
「だから、それがどういう意味なのかって知りたいの」
「……岩沢雅美。彼女は、俺の知り合いに似ている」
「え?」
どうやら、自分のことについて話しているらしい。自分にそっくりな人間。それは、少しだけ気になってしまう。
「自分のことなんて後回しで、他人のために自分を顧みない。例え、それで自分が傷ついても、誰かを守る事ができるならそれでも構わない。そう、信じていた。あの男に……」
「私にはそうは思えない」
「俺にはそう見える。頭の怪我、そして手術をしてからたった数週間。誰かを救いたいといって、ギターを弾いて、歌まで歌う。これが自己犠牲じゃなくて何だっていう」
「自己犠牲……」
それまで、あまり男の話にピンときていなかった岩沢だが、改めてそう言われてみると確かに自分はあまりにも自分をいたぶり続けている。
本来、歌を歌って血圧を上げることは、脳出血をおこした後の自分にとっては危険な行為に他ならない。もしそれで血圧が上昇して、また脳から出血が起こったら、今度こそとりかえしのつかないことになってしまうかもしれない。にもかかわらず、自分は歌を歌い続けている。
夜、寝る間も惜しんで曲の歌詞を、そして音楽を作り続けている。それはなぜか。
中野梓を救いたい。中野梓の心を、自分の歌で救いたい。ただ、そのために。自己を犠牲にして、他人を救いたい。そう願っている自分は、確かに自己犠牲に身を投じる大馬鹿者なのかも知れない。
そんな男の言葉を聞いた大門は、ため息をつくと言った。
「あんたは知らないと思うけど、私の手術は完璧だった。破れそうな血管もそれ相応の対応はしたし、ちょっとやそっと動いたくらいで出血する血管がないように処置した」
「完璧な人間なんて、どこにもいない!」
男は、声を荒らげる。まるで、獲物をみつけた獅子のようだ。
「だから、アイツも、自分一人だけで手を伸ばそうとして、自分の身を何度も犠牲にして、危険にさらし続けた……それでも、誰かを救う事ができるだと信じて……」
男の言葉には、何か悲しみが混じっている。岩沢はそう感じた。とても深い悲しみを、背負っているかのようなその言葉に、岩沢も思わず下を向いてしまった。
「……あんた、私一人で何でもできるって思ってるの?」
「え?」
岩沢は、その言葉に正直驚いていた。だって、彼女自身が思っていたから。彼女だったら、なんでも一人でこなす事ができるだろうなと。
「あたしにだって、手術する時には誰かが必要なの。麻酔科医とか看護師とか、助手……は時々いらないこともあるけど。でもね、あたし一人で手術したことなんて、これまで数えるくらいしかやってない」
一人でやったこともあるのか、と岩沢、そして男は心の中でつぶやいていた。しかし、彼女のいうとおり九割方の手術は彼女一人で行った手術じゃない。他にも何人もの手助けがあってようやくできる手術。救える人がいる手術をしてきたのだ。
「誰か他の人がいないと手術は成り立たない。それを知っているから、あたしは手術に集中する事ができる。分かる? あたしは、あんたが言っているようにたくさんの人をたった一人で助けられるような人間じゃないの。完璧な手術のためには、事前の準備だけじゃない。他人の手を絶対に借りないといけない。あたしは、それを分かってる。あんたの知り合いと違ってね」
これまで、数多くの難解な、難しい手術に立ち向かってきた大門。中には、到底一人の医師では手の回らないような病気もあり、どうしようもないという場面が多々あった。
しかし、その度に自分は誰かに助けられてきた。他の、自分には劣るかも知れないが相当の実力をもった医師。手術全般に精通している看護師たち。麻酔管理で絶対的信頼を置いている麻酔科医。そして、自分が最も敬愛している師匠の言葉。一人でも欠けていたら助ける事ができなかった命は山ほどある。
だから彼女は知っているのだ。他人の力を借りること。その大切さを。遠吠えを轟かせる一匹狼の女医ですらも知っていたのだ。助け合うことの、強さを。
その後、コツコツという足音が聞こえてくる。おそらく、大門の足音なのだろう。話を終えた直後、すぐに立ち去るのは彼女の潔いところと言える。岩沢も、再び自分の楽曲作りのために、ドアから離れようとした。その時だった。
「そのために、岩沢雅美も利用しているのか」
その瞬間、岩沢は、時が止まってしまったかのようにぴたりと、その動きを止めてしまった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい