SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第43話

 岩沢は、言葉の意味を理解することができなかった。自分を、利用した? 一体、どう言うことだ。

 彼女はその言葉を何度も何度も心の中で反復しては、吐き気を催すような気分になってしまう。

 まさか、あれほど自分に真摯に接してくれていた大門が、自分を利用するなんて、そんなこと、ないはず。

 でも、ふと彼女は気がついた。自分は彼女の何を知っている。彼女が好きなもの、嫌いなもの、性格だって少しきつめの性格であると言うこと以上に知っていることなんてないではないか。

 それでも自分が彼女に全幅の信頼を置いていたのは、ひとえに、その命を救ってくれたから。ただそれだけに限る。

 そう、梓と同じだ。自分は大門未知子のことも知ろうとしていなかった。大門未知子の何もかもを知らなかった。それなのに、彼女をただ、命の恩人ということだけで信頼していたのだ。そんな自分に、彼女はようやく気がついた。

 

「何が言いたいの?」

 

 と、大門が男に背中を向けたままで聞いた。男は、その白い背中に向けて言う。

 

「岩沢雅美の歌には、バグスターウイルスを弱体化させる力がある。貴方は、それを知っていたんじゃないのか?」

「私の歌が……」

 

 己の歌が、バグスターウイルスを弱体化させることができる。初めて知った事実で、ある意味、驚愕的な物であると言ってもいいだろう。

 自分が、自分の歌に、そんな力があるなんて知らなかった。いや、そもそもバグスターの前で歌なんて歌ったことないから知るよしもないことなのだが。

 バグスターウイルスの存在自体は知っている。あれほど世間を騒がせた一大事件だったのだ。家庭の事情で携帯を買ってもらえなかった自分でも、その恐ろしさは分かっていた。そのバグスターウイルスが、自分の歌に弱いなんて。

 岩沢はしかし、それに喜びは感じなかった。当然だろう。だって、自分にとってバグスターウイルスなんて物、何の接点もないものであるのだから。むしろ、困惑の方が勝っていたと言ってもいいだろう。

 

「貴方は仮面ライダーじゃない。だから、バグスターウイルスを切除することができなかった。だが、彼女の歌を利用すれば、バグスターウイルスの切除も不可能じゃなくなる。だから、貴方は彼女に近づいた。そうじゃないのか!?」

 

 男が、声を荒らげて言う。

 大門は、ようやく再び男の方に向き直って言った。

 

「もし、そうだったらどうなの?」

 

 と。一切の表情を崩すことなく彼女は言い放った。

 岩沢は、もしかしたらここで否定してもらいたかったのかもしれない。違う。そうじゃないと、言ってもらいたかったのかもしれない。でも、虚しくも彼女の願いは届くことなく、彼女のぶっきらぼうな性格が仇となってしまった。結果。

 

「貴方の計画は、失敗した。そうだろ?」

「え?」

 

 失敗とは、どう言うことなのか。岩沢は、何か嫌な予感がした。

 底の知れない違和感。上がっては沈み、また上がっては沈んでいく虚無の恐怖。彼女の心を支配しているのは、そんな言いようのない疑心だった。

 果たして、男はイライラを隠せない大門に向けて更に言った。

 

「中野梓は、彼女の歌を聞いた後に、ゲーム病を発症した。つまり、彼女の歌が、中野梓にゲーム病を引き起こすトリガーになったんだ」

「ッ!」

 

 今、なんて言った。梓が、あの、悪化したら、最悪肉体が消滅してしまうというゲーム病を、発症した。その原因が、自分だって。

 確かに、彼女がゲーム病で入院したという事実自体は小夜から聞いていた。でも、軽症だって、ワクチンを投与したからすぐに治るって、そう、言ってたのに。

 

「まさか、あの、歌で……」

 

 梓は、ゲーム病を発症したというのか。確かに自分は彼女に自分の歌をきかせた。彼女のためを思って、自分の思いの丈を乗せた歌を。心の底からの叫びを歌に込めて、彼女に聞かせた。

 でも、結果は散々だった。梓は、喜ぶどころか怒り出し、自分に罵詈雑言を浴びせて病室から出ていってしまった。今となっては、何となくその理由もわかるが、しかしあの時の自分には分かることのない。そんな、彼女の心の痛み。

 救いたい。彼女の心を、そう願った自分の歌。そのせいで、梓は、ゲーム病を発症した。本当に、本当に、そうなのか。

 だとしたら自分の歌は、一体何のためにあるのだ。自分は、いったい何のためにこの世界に存在しているのだ。

 自分の憧れたバンドのボーカルのように、歌で、誰かを救いたい。そう願って自分は歌い続けてきた。でも、その歌のせいで今、苦しんでいる人がいる。だったら、自分はいったい何のために歌うのだ。

 いったい、何のために。

 

「そうじゃないのか、大門せ」

 

 刹那、乾いた音が誰もいない病院の廊下に響き渡った。

 男の頬を叩いた大門未知子は、鬼のような形相を浮かべながら、そして冷たい氷柱のような鋭い口調で言う。

 

「馬鹿なこと言わないで」

「……」

「私があの子の事を助けたのは、バグスターウイルス感染症の治療のためとか、あの子の歌を利用するとか、そんなことのためなんかじゃない。あの子が……脳出血を起こしたから! 病人だったから助けたただそれだけ! あんたの言うような私利私欲のために助けたんじゃない! 私は、あの子を心の底から助けたいって思ったから助けた! ソレの何がいけないっていうの?」

「心の底から、助けたい……」

 

 同じだったんだ。初めて知った。自分も、大門先生も、ただ誰かのことを助けたい。そう願って動いていた。

 自分は、歌で。彼女は、手術で。全く違うように見えて実は底の方では深く繋がっていた両者。

 それは、まるで一本の枝に巻き付く二つのツルのようだったのかもしれない。互いに違う場所から生えたそれが、同じ場所に向かって伸びていく。成長していく。そんな様子と似ていたのかも知れない。

 

「だが結果として彼女の歌はバグスターウイルスには通用しなかった! それは事実だ」

「だからなんなの?」

「ッ!」

「いい? 私たち医者は、絶対に失敗しちゃいけないの。何でか分かる? 患者は、何もすることができない。タバコをやめるとかお酒を断つとか、生活環境をよくして少しでも身体をととのえることくらいであとは医者に任せるしかできない。その怖さ、あなたは知ってる? それで失敗なんてしたら、患者は死を待つしかない……失敗された患者に次なんてないんだよ!」

「大門先生……」

 

 そういえば言っていた。大門未知子は以前大病を患ったことがあると。ソレで自分の手術を他人に任せるしかなかったと。怖かったと。

 彼女は経験していた。誰かの体を切るということの恐ろしさも、そして切られる怖さ、死への恐怖も。

 

「でもね、歌は違うの」

「え?」

「一度誰かに拒絶されても、誰も見向きもしなくても、音程を外れてどうしようもない歌を聞かせてガッカリされても、何度だって立ち直ることができる。また誰かに歌を聞かせることができる。あの子の音楽はね、絶対に誰かを救うことができる音楽になるの。今はそうじゃないかも知れない。でも……生きていればいつかは世界中の人達を救う歌を歌えるかも知れない。私は、その可能性を守りたかっただけ……アンタの言うようにバグスターウイルスのためなんて物じゃない。私は、純粋に、あの子の歌を救いたかった。ただそれだけよ」

 

 その言葉を最後に廊下は沈黙に包まれた。そして、大門未知子の思いは、隠れて聞いていた岩沢雅美の心を揺れ動かした。

 そうか、確かにそうだ。一度や二度の失敗なんて、大したことじゃない。歌は、ただ、誰かに聞いてもらえるだけでもいい。その歌で、誰か不特定の人間を救えれば、ただそれだけでよかったじゃないか。

 梓を救うとか、そんなの考えなくてよかったのだ。自分は、自分の思うように歌を歌った。つもりだった。

 でも、違う。自分の思いは、彼女のソレと全く違っていたのだ。

 彼女が求めていたものは、苛立ちや苦しみをぶつけられることじゃない。

 彼女は欲していた物。

 彼女が失っていた物。

 そして、彼女たちが持つ強み、それは―――。

 

「大門先生!」

 

 と、その時だった。仮野明日那が廊下の奥から小走りでやって来たのは。なにやら、すごく慌てている様子だが、どうしたのだろう。

 自分は、呑気にそんな事を考えてしまっていた。でも、そんな言葉が吹き飛んでしまうほどの急報を知らせる彼女の言葉が、岩沢を含めた、その場にいた全員の胸に突き刺さる。

 

「大変です。中野さんが!」

「梓がどうしたの?」

「CRから、いなくなりました……」

「え?」

「なに?」

「ッ!」

 

 気がつけば、陽はすでに沈み込んでいた。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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