SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
最後の一人。じゃない。
軽音部のメンバーは、梓以外にも、まだ残っている。
その女性が、桜が丘高校に一番に現れたのも、きっと何かの運命。否、それが彼女にとっての使命だったのかもしれない。この、通いなれた学校に一番最初に辿り着ける人間。そんなもの、唯一人しかいなかった。
「中野さん……」
校門の前に停められた赤い車。その中からとりあえず外に出られる位に質素なメイクと、そしてベージュ色のコートを羽織った女性が現れた。
そう、吹奏楽部顧問と兼任で軽音部の顧問として、三年間を軽音部と共に過ごしていた、山中さわ子である。
なぜ、彼女が夜遅くの学校に現れたのか、それは純からの電話が関係していた。
彼女自身は、今回の事件には一切の関わりを持たなかったが故、先ほどのグループ通話の中には入っていなかった。しかし、その通話が終わった直後、鈴木純は彼女に報告をした。
中野梓が、桜が丘高校にいるかもしれないと。
梓が、ゲーム病に感染して、CRという場所に隔離されていたということ自体は知っていた。そんな梓が、どうして学校に向かうことができるのか、そんな疑問を持つ時間もなく、彼女は一目散に学校へと向かった。純には、夜遅いから出歩くのは危険だと、自分一人で行くことを伝えて。
先生として、そして、軽音部の仲間の一人として、ソレが当たり前の行動なのか。いや、そんなもの関係ない。一人の人間として、梓の事が心配だった。だから、学校に来たのだ。
正直なところ、彼女は自分自身のことを弱い人間だと思っていた。
生徒たちが、軽音部の生徒たちが半ば監禁されている状態になっているというのに、その姿を見に行こうとしなかった。勿論、職務が忙しかったという理由はあった。でも、そんなものただの言い訳に過ぎない。
自分は怖かったのだ。恐ろしかったのだ。彼女たちが死ぬ。その瞬間を目の当たりにするのが、現実を直視するのが。
けど、そんなことただの逃げだと思い知ったのが、今回の梓のゲーム病の罹患だった。
正直SAOの中にいる唯達が死ぬ確率はかなり低かったと、さわ子は考えていた。確かに軽音部はのほほんとしたメンバーの集まりだが、それでもしっかりものの澪、それに唯の妹でありながらとてもできる子である憂が一緒についているのだ。戦って、負けたら死んでしまう。そんな危ない冒険を、危ない橋を渡るような子達じゃない。だから、彼女達が死ぬ確率はかなり低いんじゃないかと、さわ子は考えていた。
でも、それでも彼女は見舞いに行かなかった。行けなかった。臆病だったから。
そんな時の、梓のゲーム病。
ハッキリ言ってしまえば、コッチの方が、遠くにある仲間達の死よりも恐ろしいものだった。
ゲーム病がどんな病であるのか、そしてその末路がどんなものであるのかは、数年前にあった仮面ライダークロニクル事件においてよく知っている。
そして、そのせいで何人もの人間の肉体が消滅したということも。
梓の死。それが、紛れもなく近くに来た時。自分の頭は真っ白になった。そして後悔した。
どうしてもっと彼女の話を聞いてあげることができなかったのか。どうしてもっと、彼女に寄り添う事をしなかったのか。
ゲーム病がストレスによって悪化する病であるのならば、自分がもっと彼女の傍にいてあげていれば、発症することはなかったのではないかと、彼女は考えていた。
そんな後悔、しても遅すぎるのに。
だから、彼女はいち早く学校に向かったのだ。もう、遅過ぎたなんて、後悔しないために。
幸い、彼女の家が他のメンバーがいる場所と比べて最も近くにあった為、最初にたどり着く事ができた。それは、ある意味では運命的なものがあるのかもしれない。軽音部六人目の仲間として、何か見えざるものの手が、差し伸べてくれた手。
今度は、決して離しはしない。そんな覚悟をもって、彼女は学校の先生全員に配られているスペアキーを使用して校門の鍵を開けた。
「っ、くぅ!」
そして、校門をゆっくりと開く。というよりも、やはり鉄製の門はかなり重たくて、成人女性一人の力では、人一人分が入れる隙間を作るので精一杯だった。
それでも、開く事ができたのだ。彼女の場所へと続く、一本の道が。
早く梓がいると思われる音楽準備室に、自分たちの居場所に行こう。そう考え、学校の中に足を踏み入れようとしたさわ子。
「あの!」
「え?」
その時だった。背後から声をかけられたのは。
彼女が振り向いた先にいた少女。少女は、パーカーにスカートという自分よりも簡素な格好をして、頭には包帯が巻かれているという異様な姿。
でも、それでもその女の子のことが不審者だと思えなかったのは、背負っているものが原因だろう。
ギターケースである。中身は当然、ギターなのだろうが。その姿が、どこか自分たち軽音部の部員の姿に被ってしまって仕方がなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
少女は、どうやら走ってきたらしく、膝に手をつき肩で息をして、言葉も発することができないようだ。
「ここ、桜が丘高校……で、合ってますよね……」
しかし、それも数秒ぐらいで、息も絶え絶えではあったもののようやく声を出すことができた少女。
さわ子は、おっかなびっくりと言った表情で少女に言った。
「え、えぇそうよ」
「そう、ですか……」
話をしていると、次第に彼女の息も整ってきたようで、顔に浮かんでいた汗をパーカーの袖で拭うと言った。
「私は、岩沢雅美……梓の、知り合いです」
「中野さんの……」
「はい……」
動物的な直感と言ってもいいだろう。グループ通話にも参加せず、そもそも彼女がどこに行ったのかも知りもしなかった彼女が、桜が丘高校に、梓がいると思ったのは。
岩沢は、梓が消えたと聞いた瞬間。ふと、思ったのだ。もしも彼女に、死を前にした人間に行きたい場所があったらどこだろうかと。
家族のところ? 自分が大好きなバンドのライブ?
違う。自分にとって、もっとも思い出がある場所。
つまり、彼女の通っている高校の、軽音部の部室だと。
「早く、梓のところに……」
といって、痛む頭を押さえながら学校の中に入ろうとする岩沢。
「ま、待って! あなたは一体誰なの!?」
病院に来ていた梓や純と違い、初対面だったさわ子。先ほど梓の知り合いであることも明かしていたはずなのに、そう聞いてしまったのは、きっと気おされていたからなのかもしれない。その見た目と、そして彼女から感じる迫力に。
けど、考えてみればさわ子が岩沢を止めるのも当たり前のことだ。なぜなら、彼女は完全に学校の部外者であったのだから。そんな人間を簡単に学校の中に入れるわけには行かなかった。とはいえ、これから続々と部外者が押し寄せてくるわけなのだが、それはさわ子も知らぬことである。
「梓に、聞かせたい曲があるんだ」
「え?」
おもむろにつぶやいたその言葉に、彼女の手を掴んでいたさわ子の手の力が緩んだ。
「あたしは一度失敗した。梓を救うことができなかった。でも、今は違う。今度は、梓のことを救ってみせる。すくいたいんだ……あたしの歌で、あたしの、本当の気持ちを込めた歌で……」
不思議な気持ちだ。歌というワードを出されてしまったら、少女のことがあまり不審に思うことができなくなった。むしろ、なんだろう。朧げにつぶやくような言葉であったはずなのに、なぜだか妙な圧力があるような、そんな気がしてならない。
「お願いします。私を、梓に会わせてください……」
といって頭を下げた少女の申し出を断る気分には、彼女はなれなかった。
「わかりました。一緒に行きましょう」
なぜだか、そんな言葉が出てしまったさわ子。夜の校舎に子供とはいえ、部外者を招き入れ事になって、後々面倒な事になるかもしれないがそんなこと構っている暇なんてない。
少女の必死の懇願、それを無下にするなんてできない。
さわ子は、岩沢と共に暗い校舎の中に入っていく。勿論、スペアキーを使用してだ。
流石に校舎の中の鍵は職員室以外には持っていないため、一度職員室に向かって、他のスペアキー、と言っても目的地である教室がどこであるのかは知っているため、そこの鍵を手にすると、岩沢と共に階段を登る。
一階、二階、そして。三階―――。
「この部屋よ……」
「ここが……」
音楽準備室。彼女が、臨終の地に選んだ、思い出の場所。
いや、死なせはしない。絶対に。岩沢はそう自分に言い聞かせるように一人ごとをつぶやくとさわ子に言った。
「早く入りましょう」
「えぇ、そうね」
さわ子は、扉の鍵穴に鍵を差し込み、ゆっくりと回した。
カチャ、という音が聞こえるとともにこれまた恐る恐ると言うようにドアを開けた二人。
「梓!」
「中野さん!」
そして、彼女達はみた。スン、と鼻に抜ける芳しい紅茶の匂いの向こうに梓の姿を、その姿が薄くなってはいるがしかし、確かにそこにいる哀れな女の子の姿を。
「梓! お前に……」
と、言いながら音楽準備室に岩沢が一歩を踏み入れた瞬間だった。
「え?」
彼女はみた。視界の端の一番近く。つまり、ドアの影にいた一体の怪物が、自分に向けて手を振り上げている姿を。
その脳裏に、両親の喧嘩の時に受けたビール瓶の一撃を思い浮かべながら。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい