SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
日が落ち、街頭の灯り火のみが照らす街並みを、花家大我は息を切らせながら走っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、クソ!」
ソレもこれも、タクシーをひろえなかったことが原因にある。どうしてこの街はこんなにタクシーが少ないのだと愚痴をこぼしそうになる口を閉じ、彼は桜ヶ丘高校へと向かっていた。
目的はもちろん、中野梓を救うため。
彼女のゲーム病を最初に診察し、ワクチンを投与したのは自分だ。その自分が今回の事件の最後の場面に立ち会わなくてどうするという。
彼を動かしていたのは、ゲーム攻略への欲望ではない。ただ、一人の患者を救いたいというドクターとしての矜持に近いものがあった。
しかし、間に合うのだろうか。先ほど確認してみたのだが、今自分がいる場所から桜ヶ丘高校までは歩いて一時間近くかかるようだ。そんなにたらたらと歩いていたら容赦なく中野梓はゲームオーバーとなり、身体が消えてしまう。
自分の、親友のかつての姿のように。
そんなこと、二度とさせてたまるか。大我の心はその時のトラウマに支配されそうになっていた。
だが、どうする。今からタクシーを拾うか。いやそんな悠長なことをしている時間なんてない。
ならどうすれば良いのだ。どうすれば。
と、その時だった。背後から聞き覚えのある排気音と共に、一台の黄色いバイクが現れ、彼の前に止まったのだ。
「花家センセ、乗ってくかい?」
「レーザー……」
それは、九条貴利矢が変身する仮面ライダーレーザーのフォームの一つ。バイクゲーマーレベル2。
本来彼らゲーム病専門のドクターが変身する仮面ライダーは、SD体型の二頭身の状態が、昨夜のバグスターユニオンとの戦いでも見せたレベル1。そこから一段階レベルが上がり、レベル2になることによってようやく通常の体型、となることができる。
しかし彼、仮面ライダーレーザーは違う。彼の場合はレベルが2になると文字どおりバイクの姿になってしまうのだ。人の形になることができるのはさらに上のレベルになってから。
だが、その状態であったとしても自走できたり、他の仮面ライダーの仲間を乗せることができるという利点があるにはある。
今回も、桜ヶ丘高校からかなり遠い位置にいた花家大我が、時間内に目的地にたどり着くことができないことを見越して駆けつけてきたのだ。
花家はレーザーに向けてうなづくと、どこからともなく取り出したヘルメットをかぶり彼に跨った。
「さぁ、振り切るぜ、なんてな!」
「っ!」
と、同じバイクの姿になれる仮面ライダーの台詞を拝借して、レーザーは走り始めた。
なお、向かっている最中自分も変身して飛行する形態になれば良かったのではないかと大我は気がついたのだが、あまりにも遅すぎる判断だった。
医師であるのなら、少しの判断ミスも許されない。なのに、そんな単純とも言えるミスをした。
おそらく、彼は焦っていたのだろう。桜ヶ丘高校に近づけば近づくほどに大きくなっていく不安。嫌な予感に、思考を止めてしまっていたのだろう。
早く辿り着かなければならない。そんな確信にも、焦燥感にも似た何かを、感じ取っていた。
何かがすでに起こっているのか。であれば、もはや間に合わないかもしれない。とはいえ、法でさだめられた速度を守ることも重要。こんな大事な場面でスピード違反で捕まっていましたなんて、ソレこそ良い笑い者になってしまう。
大我は、レーザーに極力急ぐように伝え、二人は街の夜の中に消えていくのだった。
そして、花家の嫌な予感は最悪な形で現実のもとなっていた。
「ッ! ぐあッ!」
扉の影から現れた化け物。アナザーポッピーの重い一撃を頭に受けた岩沢。その瞬間、スローモーションのようになった世界で、彼女はおそらく人生でも一番とも言える身体能力を見せる。
そのまま吹き飛ばされていたら、きっと背中を強打していたことになっていただろう。だが、そんなことはさせられなかった。
彼女は今、大切な、大事な相棒であるギターを背負っていた。もし背中を強打することになれば、必然的にギターにも傷が、いや壊れてしまうかもしれない。
岩沢は、空中で体を反転させ、その着地面に決してギターが来ないように、身体の前、あるいは頭を着地面とすることに成功する。いやこの場合はしてしまった、と言ったほうが適切だろう。
岩沢は木製でできた音楽準備室の床に思い切り強打。瞬間、彼女を襲ったのは。
「ッ! あッ!!」
今までに感じたこともないほどの頭の痛みだった。まるで、ハンマーで2回叩かれてしまったかのような痛みに、顔を歪めた岩沢。
「ぽ、ぱ、ぴ、ぷ、ぺ、な、る、てぃ、い」
「キャァァァァァァ!!」
その中、アナザーポッピーは自分の後ろにいたさわ子に目を向けたようで、その恐ろしいまでの顔つきを彼女に向けた。
さすがのさわ子も、そんな存在が目の前に現れれば狼狽するしかない。彼女は目の前の化け物を前に床に尻餅をつくように座り込むしかなかった。
「山中せん、せ、ッ!!」
すぐにたちあがり、さわ子を助けようとした岩沢。しかし、その瞬間、彼女の頭に再び重い激痛が走った。いや、再びなんてものじゃない。先ほど頭を強打したときからずっと、頭が、痛いのだ。
これは、まさか。
「まさか、脳出血が……」
再発、したのか。いや、正確にいえばまだ完全に治りきっていないにも関わらず再度の損傷を受けたことによって、治りかけた血管が再び破れてしまったのだろう。
今の彼女には、立ち上がる力すらも、残っていなかった。
「い、いやぁ!」
その中でも、アナザーポッピーはさわ子に近づく。
まずい、このままでは彼女までやられてしまう。
「くッ、動け……動け、私の、身体……」
自分がどうなったって構わない。だが、彼女の、梓に残された最後の軽音部の仲間は、先生は、顧問は守りたかった。
例え、自分にそんな力がないと、わかっていても。しかし、無情にもアナザーポッピーの攻撃を前に、彼女にできることはもはや残されていなかった。
「せん、せい……」
「中野さん!」
怪物を前に、恐怖で座り込んでしまったさわ子。もう、このまま殺されてしまうのではないか。そんな恐怖が襲い、下半身の力が抜け、逃げることも抗うことも止めようとした。その時だった。
アナザーポッピーの向こう側から、声が聞こえてきたのだ。自分を呼ぶ声が。中野梓の声だ。聞き間違えることはない。
間違いなく、彼女はこの向こうに、怪物の向こう側にいる。
ソレがわかった瞬間だった。彼女の中から不思議なことに、恐怖心はからっと無くなってしまった。
「ッ!」
そして、まるでそれまでの醜態が嘘であるかのように彼女はスクと立ち上がると、アナザーポッピーが振り上げた手の下をすり抜けて、梓の元に。
ではなく、掃除道具入れへと向かった。そして、その中に入っていた使い古したモップがけの掃除道具を取り出すと、今度こそ梓とアナザーポッピーの間に立ったのである。
「先生、なんで……」
「分からない、分からないけど……」
そう、分からない。さきほどまで恐怖で手も足も出なかった怪物。というか、今でも正直怖い。
足は小刻みに揺れ、心臓はバクバク音を立てて、モップを持つ手も酷く揺れていた。
それに、足をつたう生暖かい水の感覚。
そんな恐怖の中でも、彼女が梓の前にたつことができたのは、自分でも理由は分からない。
けど、もし理由があるとするのならば、それは。
「私が、先生だから……かしら」
そう、自分は先生だから。クラスも、学年も違っていても、彼女は自分の大切な生徒だから。
だから、命を賭けるなんて安いもの。そう考えられる清廉潔白な教師が果たして彼女以外に何人いることだろうか。
果たして、何千人の教師が、怪物を目の前にして逃げると言う選択肢を頭から外すことができるのだろうか。
そんなこと、さわ子にも知ったこっちゃ無い。知ったこっちゃないが、しかし彼女は確実に怪物を前にして怯まなかった。
それは、ひとえに、彼女が生徒のことを思う、とても優しい先生だったから、なのだろう。
たとえ、その選択が愚かなものであったとしても。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい