SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
つまり、『Angel Beats!』の楽曲は使用不可、ならば彼女は一体何を歌えばいいのか?
大門未知子と明日那が、その教室に辿り着いたのは泊達警察組が到着するほんの少し前の事であった。
両開きのドアはすでに開放されていて、階段を昇った時にはすでに、朧げながらも中の様子を見ることができていた。
まだ、夜目が効かない状態だったから、ハッキリと分かる様子では無かったが、しかしそれでも彼女の目にはしっかりと映っていた。
教室の中、壁にもたれ掛かっているメガネをかけた女性。
床に突っ伏している今にも消えかけそうな中野梓。
そしてーーー。
「大門先生……」
自分が担当している患者である、岩沢雅美の姿。
おそらく、ここであの怪物と一悶着があったのだろう。その身体は至る所が傷だらけで、腕はだらんと垂れ下がり、彼女の傍には血だらけの包帯が置かれている。
「これで、一応の応急処置は完了したわ」
「ありがとう、小夜さん……」
というと、小夜は傍においてあった救急箱ー後で聞いた話によれば、保健室から持ってきたそうだーの蓋を固く閉じた。
応急処置という言葉、そして血だらけの包帯から察するに、おそらくここであった一悶着で、新しい怪我を負った彼女の包帯を取り替えるなどをしていたのだろうと推測できる。
大門は、血が香る教室の中にズカズカと入っていくと、その勢いのままに岩沢に言った。
もしも、彼女が患者ではなかったら、それはもう、殴りかかりそうな勢いで。
「アンタ、なんでここにいるの!?」
その言葉には、焦燥感があったからなのか、洗い吐息が混じった物となる。
岩沢は、その言葉にふんわりと笑うと、呟いた。
「歌を、歌いたかった、から……」
「だからって、勝手に病院を抜け出して」
「あたしの歌……」
大門の言葉は、岩沢の力のない、しかし優しげな声に遮られた。
それはあたかも、七日目の蝉かのように儚くて、寂しくて、そして覚悟を決めた最後の泣き声のように。
「ありがとう。あたしの歌を、救ってくれて。あたしには、歌しか取り柄がない。歌があたしの命だって、知って……手術をしてくれたんだろ?」
「もしかして、さっきの奴との会話、聞いてたの?」
岩沢は、黙って頷いた。
そうか、自分とあの謎の気に食わない男との会話を聞いていたのか。なら、彼女がここにきた理由も自ずと分かると言うもの。
「アンタ、まさか自分の歌でバグスターと戦おうとしたわけ?」
「……」
そう、自分の仮説。岩沢の歌はバグスターウイルス感染症に効果的である。その話を聞いたからこそ、こうして、この学校に、中野梓の前にあらわれたのだ。そう大門は考えていた。
が、岩沢はゆっくりと首を振ると言う。
「あたしは、バグスターに歌を届けにきたんじゃない。梓に、歌を届けに来たんだ……」
「岩沢さん……」
床に突っ伏している。というよりも、起き上がる気力もない梓は、その言葉に感謝の念よりも先に恐怖を覚えた。
自分の命がかかっているかもしれないのに、病院を抜け出して歌を歌いに来たからなのか。
いや、違う。彼女が本気で恐怖したもの。それは。
「もしかして、私が、岩沢さんにあんな、酷い事を言ったから……」
昨日。自分は彼女に対して暴言に近い言葉を発した。彼女の歌は、独りよがりだとか。そんなもので誰も救えないのだとか。
正直、あの時は自分自身余裕がなくて、違う、心の中で彼女の歌を受け入れたくなくてあんな言葉を吐いてしまった。けど、今となっては後悔している。
「御免なさい……私、そんなつもりじゃ……」
もしも、彼女がそれで意地になって、自分の死の体をおしてでも歌うという選択肢をしたのなら、ソレは、自分の責任だ。梓は、そう考えて、言った。
「私、本当は岩沢さんの音、好きでした……岩沢さんの、歌は、感情的で、荒削りだけどそこも良くて、とても、心に響きました! でも……でも……」
そうだ。自分は、岩沢の音楽性が好きだった。もしかしたら、自分がかつて憧れていたモノ、憧れていたバンドの演奏が、岩沢のソレだったのかもしれない。そう、感じるほどに彼女の歌は格好良かった。
胸が高鳴った。
でも。
でも。
でも!
「分かっている。ううん、分かったよ、梓……アンタが、放課後ティータイムを大事に思っているって事……」
「え?」
「言ったでしょ? 放課後ティータイムは最高のバンドだって。あたしの音楽性とは全く違うけど、でも、それがとてもあたしの心に響いたって」
「……」
「だから思ったんだ。あぁ、梓は、このバンドを大事にしたいんだなって……」
「……はい」
そう、なのだ。梓は、か細く返事を返してから言った。
「私にとって、放課後ティータイムは、けいおん部は、居場所でした。私にとって、唯一と言ってもいい居場所。一番そこにいたくて、一番暖かくて、一番、好きな場所。それが、この場所。そして、先輩たち……」
「中野さん……」
「だから怖かった! 岩沢さんの歌を聞いて、この人と、一緒にいるのもいいって思うのが! 先輩たち過ごした日々が、過去のものに、放課後ティータイムが過去のバンドになるなんてことが……嫌だった。だから……」
プロでもありうることだ。最初はとても仲が良く、この場所以外に心地のいい場所はないと思えるようなバンドであったとしても、その後別のバンドに移り変わった時にはそのバンドのことも忘れて、今ある仲間達を大切に思う。
その考え自体は悪くないかもしれない。元々、人間は方向性の違う人間の集まりだ。だからこそ、互いに反発しあい、互いを高めていくことができるのだから。
でも、梓はそれが嫌だった。
あの先輩たちとの日々。
自分の臨終の場所に選ぶほどに心地の良かった居場所。
それが、岩沢の演奏を聞いた事によって、まるで引力に惹かれるかのように彼女の歌に惹かれてしまって、何度も、何度も、けいおん部の事が思い出となろうとしていた。
その感覚、考え、思い、重圧。それが梓のことを苦しめ、やがてソレがストレスとなってしまった。
「バカみたいですよね。自分の身勝手で、勝手に苦しんで、岩沢さんを苦しめて、そしてたくさんの人に迷惑をかけて……思い出に出来ればよかったのに、私って、本当に……」
「思い出になんて、ならないさ……」
「え?」
そう言った岩沢は、糸で繋がれた操り人形のようにフラフラと、まるで亡霊のように立ち上がると言う。
「アンタが生きている限り。放課後ティータイムは無くならない。アンタが、放課後ティータイムの歌を、曲を、歌い続ける限り、奏で続ける限り。あの子達がいた証は、そこにある」
「私が、歌う限り……」
自分はボーカルではないのだが、なんて無粋な言葉は言いはしない。彼女は確かに奏でている。
ギターで、自分たちの歌を。彼女たちの歌を。放課後ティータイムという魂を、奏で続けている。ギターで歌い続けている。
いや、歌い続けることができるのだ。この世界に、たった一人だけ残った純粋なる放課後ティータイムの歌い手として、その歌をとどける担い手として。
そして―――。
「アタシの歌も、アンタの中で、ずっと、ずっと、生き続ける……」
「いわ、さわさん……」
その時、梓は見た。岩沢の背後に神々しく、そして煌びやかに見える白いモノ。
それは、単なる幻覚に過ぎなかったのかもしれない。だが、確かに彼女には見えたのだ。岩沢の背後に―――。
「さっき言いそびれたけど、アタシさ……アンタのこと、天使のように見えたんだ」
「え?」
それは、岩沢も同じだった。
「最初に、アタシの病室に入ってきた時。まるで、天使が舞い降りたかのように思えた……天使が、アタシを迎えに来たんだって」
彼女はたしかに見えていた。彼女の、梓の後ろに天使の羽を。そして、天使のような微笑みを。
確かに、感じ取っていた。
「だから、そんな天使に、聞いてもらいたいんだ。“私の歌”……いや……」
「……」
「“私たちの歌”を」
梓は、臨終の場所に思い出の地を選んだ。
なら、岩沢は最後の曲を誰に送るのか。
決まっている。
今度こそ、梓のために、梓だけのために歌う。
自分の歌じゃない。誰かを助けるための歌じゃない。誰かの心を震わせる、そんな大それた歌でもない。
ただ、楽しい音楽を。
「……」
大門未知子は、そんな彼女を止めることはなかった。
ただ、唇を噛み締めて、彼女の顔を見つめるだけ。その姿は、まるで“デーモン”の様にも見えた。
けど、その顔も天使の歌声をきけば全く違うものに見えてしまう。
それが、歌の持つ力。
彼女が、救おうとした力。
そして。
♪同じ音で 同じ呼吸で 歌うように 生きよう ふたり ユニゾンで♪
彼女の最後の歌が、始まった。
楽曲は使用不可、ならばどうする? 他の曲を歌って貰えばいい。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい