SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第55話

(嫌、そんなの、嫌!)

 

 姿形が、先ほどまでとはうって変わって鮮明になった少女、梓は、倒れ行く岩沢に向けて手を伸ばした。

 しかし、そのような物無駄であった。それは、彼女自身もわかりきっていたこと。でも、それでも彼女に向けて手を伸ばしたのは、その歌声が聞こえるのが嫌だったのかもしれない。

 確かに、彼女の歌声は梓を救った。

 彼女のその胸の奥まで響くような歌声が、梓のストレスを減らし、バグスターウイルスの力を弱めた。より鮮明になったその姿が、消えてしまいそうだった姿がはっきりと具現化したのは、その証拠である。

 恐らく、これでもう彼女の中のバグスターウイルスが活性化するという事は限りなくゼロに近いであろう。

 しかしその代わりに、また彼女の目の前で大切な人が失われようとしていた。

 自分が、けいおん部の仲間たち、憂、純、それに続くぐらいに心を寄せた、自分の心を動かした女性が、今目の前でその命が尽きようとしていた。

 嫌だ、そんなの。

 だって、自分はまだ彼女の歌を聞いていたい。

 もっともっと、いろんな、音楽の話をしたい。

 彼女と一緒に、過ごしたい。一緒に、いろんな場所に行って、くだらない話をして、笑いあいたい。

 そう、この教室で、先輩たちと一緒に過ごしたように。

 それに、彼女と一緒に―――。

 それは、もしかしたら彼女は望まないことなのかもしれない。

 けど、彼女はずっと孤独だった。

 親は喧嘩ばかりをしていて、信じているのは音楽だけ。だから、音の世界に身を投じて、命を懸けてまで歌い続けるしか方法はなかった。

 そんな彼女を救えるのはいったい何なのか。

 決まっている。

 仲間、だ。

 彼女と一緒に歌を奏でてくれる仲間。

 彼女と一緒に、歌を届ける仲間。

 そして、彼女を取り巻く環境。

 自分にはそれができる。

 この場所で、教えてもらったから。

 仲間の暖かさ、誰かといることの大切さ。思いやりも、うれしさも、教えてもらったから。

 彼女に教えたい。放課後ティータイムという温もりを。

 いつもいつも、くだらない話ばかりをして、バンドの練習なんてほとんどしなかった。

 でも、それでもそのくだらない日常が大切なものであると教えてくれた。あの人たちのことを。

 表面だけ見て、その奥にある日常を知ることができなかった彼女にも、知ってもらいたい。

 放課後ティータイムを、最高のバンドと評してくれた彼女にも、

 放課後ティータイムの本当の凄さを。

 教えてあげたい。

 教えて、あげた、かった。

 けど、その時間もない。

 彼女の、力を無くした身体は今まさに床に倒れ伏しそうになっていた。

 もう、梓には彼女を助けることはできない。

 手を伸ばす。それだけしかできない彼女には、もう、どうすることもできない。

 もう、彼女にできることは何もない。

 ならば―――。

 

「え?」

 

 その時だった。岩沢の身体を支える手が伸びたのは。

 暖かくて、心を包んで、その命を決して手放さないような大きな手を持ったヒト。

 繊細で、聡明で、それでいてちょっと怖そうな一面も垣間見える女性。

 梓は、彼女のことを知らなかった。

 彼女が、希望であることを、知らなかったのだ。

 

「気は済んだ?」

 

 女性、大門未知子は腕の中にいる岩沢にそう聞いた。岩沢はゆっくりと頷くと言う。

 

「あぁ……もう、これで、悔いはない……」

 

 自分はもう満足した。だから、もう後悔なんてあるわけがない。そう呟く岩沢に、大門は言う。

 

「何言ってんの。アンタは、これからも歌わなくちゃならないでしょ?」

「え?」

「歌が自分の人生だって、そう言ったのはアンタじゃない」

 

 そう、だ。けど、自分は、もう。

 

「もう、私……」

「私が何のためにここにいるのか、分からないの?」

「え?」

 

 何のため? そういえば、何のためだろう。

 中野梓のためか。いや、仮面ライダーにも変身できない、戦闘能力もない、そんな彼女が来たところで、一体何の助けになるのか。

 なら、どうして彼女はここに来たのだろう。

 そんなもの、決まっている。

 

「それは、私が医者だから。けが人を治療するために、ここに来たの」

「医者……」

「まっ、それがアンタだったのは、ちょっと想定してなかったけど……」

 

 と、大門は呆れるように言った。

 が、しかし少しは考えていたのかもしれない。彼女、岩沢雅美が危険な行動を起こす可能性を。

 彼女の歌にかける思いが、自分の想定以上の行動をとるという事を。そのために、“アレ”を考えていたのだから。

 

「とにかく、アンタは私が治す。絶対に」

「……」

「けど、一つ条件がある」

「条件?」

「そう。それがそろわないと、百パーセントにならない」

「百パーセント?」

 

 意味がよく分からなかった岩沢は、痛む頭を押して、彼女の話に耳を傾け続ける。そして、彼女は言うのだ。

 

「前は内視鏡を使った手術だった。だから、リハビリまでの時間も短くできたし、短時間でオペも終わった。あんなに早く歌えるようになるのは、私も予想外だったけど……」

「……」

「けど、それじゃダメなの。開頭。つまり、頭蓋骨を大きく切って脳を露出させて手術をする。そうしないと、アンタの脳出血の手術を最後までやりきることはできない」

「え? 最後までって……」

「それじゃ、前の手術じゃ最後までやってなかったの!?」

 

 と、明日那が叫んだ。

 大門はその言葉に対して彼女をにらみつけて言った。

 

「勘違いしないで。出血点は全部止めたし、血種も全部取れる物は全部取った。でも、内視鏡じゃ取りきれない血腫、それに破れそうな血管がいくつかあった。とりあえず、血腫はしばらく放置しても大丈夫な範囲だったけど、内視鏡じゃ破れかけた血管にまで到達できなくて、完全に治すことまではできなかった。きっと、今回の出血は、そこが破けたんだと思う。だから、今度は開頭で手術をする。今度こそ、百パーセント、アンタを治すために」

「……」

 

 彼女は前回の手術の際できる限りの処置を行った。できる限り血種、つまり血の塊を掻きだして、内視鏡でできる限界までの処置を行った。

 けど、それでも完全に手術を終えることができなかった。それは、彼女が言った通りだ。

 だから、今度は開頭によって、完全に手術を終わらせる。もしかしたら今回の出来事によってさらに悪化している可能性もあるかもしれないが、それもまた治す。そもそも彼女にはその技量があった。

 なら、どうして。

 

「どうして、最初の手術で、開頭術? っていうのをしなかったんですか?」

 

 そうだ。どうして、最初の手術で彼女は開頭術をしなかったのか。そうすれば、術野は広がり、彼女の脳出血を完全に治癒することができたというのに。どうして。

 

「それは……」

「それは、貴方のためよ。岩沢さん」

「私の?」

 

 大門の代わりに答えたのは、すぐ近くにいたこちらもスーパードクターの一人である小夜、であった。

 最初は、彼女も分からなかった。何故、大門未知子ほどの人間が術式の選択を“失敗”したのかと。

 でも、違う。彼女は“失敗”したのではない。彼女は、ちゃんと“成功”していたのだ。

 

「自分には歌しかない。そう考えている貴方が、長い期間のリハビリをしないといけない開頭術をしたら、貴方の心が折れてしまうかもしれない。そう考えたから、大門先生は開頭術じゃなく、内視鏡を選んだ。貴方の心の支えを、救うために」

「……」

 

 ここで岩沢は思い出した。自分が目を覚ましてすぐの事。

 速くギターを弾きたい、歌を歌いたい。そう願って願って数日。ようやくギターを持てて、歌も歌えたあの喜び。

 いや、絶望からの解放。

 歌を歌えない自分に意味なんてない。飛べない鳥が羽を持つのと同じように、自分と歌は一心同体。かけがえのない物だった。

 もしもその状態があと何週間続いたとしたら、自分はどうなっていたのか。

 絶望し、狂い、悶え、苦しんでいただろう。

 たった数日で、あれほど悔しかったのだから、きっとそうに違いない。

 だから、大門は回復が早くて、リハビリにもすぐに取り込める内視鏡を選択したのだ。

 例え、そのために再手術が必要になるとしても。

 例え、そのために、自分が失敗したと言われようとも。

 彼女の心を救うために。

 

「でも、今のあなたは違う。あなたは、歌以外にもこんなにも心配してくれる友達がいる」

「……梓」

 

 そう、だ。自分には、梓がいる。今の自分には、歌以外の心の支えがいる。

 友という、自分が今まで知らなかった心の支えが。

 開頭術。きっと、成功してもそのリハビリは長期にわたる物であろう。ギターを持つことも、歌を歌う日も、きっと随分遠くになることだろう。

 でも、今の自分なら乗り越えられる。

 だって、大切な友が、すぐ近くにいるのだから。

 寄り添ってくれるのだから。その辛さも、乗り越えて、前に進むことができる。そう信じていた。

 

「正直賭けだった。アンタの血管がまた破けるのと、心の支えが見つかるの、どっちが先なのか。けど、アンタが歌を歌えるようになってすぐに梓があの病院に来たのは、ラッキーだったって思ってる」

「……」

 

 梓は、ほぼ毎日のように病院に通っていた。

 毎日仲間たちの見舞いをして、嘆き、苦しみながら帰っていた。

 その時に聞こえて来たあの歌声。

 リハビリを始めた直後だったからまだ本調子じゃなかったギターも、彼女にとっては救いとなった。

 二人を、めぐり合わせてくれた。

 大門未知子が、すぐに、彼女に、歌を届けてくれたおかげで。

 

「今のアンタなら、長期のリハビリに耐えられる。だから、開頭術で手術をさせて」

「……」

 

 大門の懇願。これまでの己だったら、きっと拒否していた。

 歌を歌えなくなるくらいなら、死んだほうがましだ、そう思えるくらいに。

 でも、今は違う。

 彼女は、麻痺していない手を彼女に差し出すと言った。その手は震えていて、ただそれだけでも辛そうだ。

 

「なら、頼みます。今度こそ、百パーセントの手術をして……もっともっと、私に、歌を、歌わせて……たとえ……」

 

 もし失敗して、歌を歌えなくなっても、自分は大丈夫だから。

 そう呟き彼女の手は、意識は落ちて行く。

 真っ暗闇の中へと。

 そんな彼女に向けて、大門未知子は自信に満ち溢れた顔で言う。

 

「安心して……」

 

 いつもの、あのセリフを。

 後がなくなった患者を、勇気づける、あの魔法の台詞を。

 

「私、失敗しないので」

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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