SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第57話

「井戸田さん……私は……!」

 

 音符の攻撃が自分に迫る中。シノは、数日前に出会った男性に託された言葉を思い出していた。

 

「ふざけんな……」

「え?」

 

 その言葉は、それまでの井戸田の言葉とは全く違う。怒気を孕んだ言葉だった。煮え立つような憤怒の中、手に持ったガラス製のコップを叩き割る勢いで机に手を突いた彼は言う。

 

「ふざけんな!」

「ッ!」

「普通の世界で生きている意味がないだと! そんな事、お前の仲間たちにも言えるのかよ! 今もゲームの世界で必死で戦って、必死で生きている奴らにも、そう言えるのか!!」

 

 まるで人が変わったかのような井戸田の言葉に、しかしシノもまた天秤のようにぐらついた心で反論する。

 

「しかし! もう、アイツらと私は別世界の人間なんだ……待っている意味なんて、待っていても、辛い現実が待っているだけで……」

「そんなの、ただアンタが逃げたいだけなんじゃないか!?」

「え?」

「今の言葉で分かった! アンタ、怖いんだろ! 辛い現実から成長して帰ってきた仲間たちと再会して、それでも笑っていられるのか! 普通に隣に並んでいられるのかって!」

「だからそう言って」

「でも、アンタはくらい強い人間なら! 待つことだって、できるはずだろゥ!」

「どうして! どうして、そう言い切れるんですか……」

 

 シノは不思議だった。井戸田がそこまで言い切ったことに。そこまで、自分が強い人間であるのだと信じている理由が。

 

「気づいていないのかよ……」

「え?」

 

 そういうと、井戸田は波が引いたかのように怒りの矛を沈めると、ゆっくりと椅子に座って言う。

 

「アンタ、さっきから全然、自分の友達が、仲間が、≪死ぬ≫可能性を考えてないだろ?」

「あ……」

 

 言われてみれば確かにそうだ。自分は彼に出会ってから、というか仲間たちがあのデスゲームの世界に閉じ込められてから一度たりとも彼らが死ぬという可能性を考えたことはなかった。

 彼らは絶対に帰ってくる。それを信じて止めなかった。

 確かにムツミやトッキーのような柔道や空手の経験者という戦いに少しは慣れた人間はいるが、それ以外の者たちは皆、運動系の部活にも入っていない一般人の、人間たち。

 その全員を、自分は、帰ってくると信じ切っていた。勝手に、無自覚に、無責任に。それはなぜか。

 

「分かんねぇなら教えてやる。それは、仲間だからだ! 自分が心の底から信じられる、どんなことがあっても決して切られることがない絆を持った仲間だって、信じてるからだ!」

「絆……」

 

 考えたこともなかった。いや、考える暇すらなかった。考えてみれば、津田とはこの二年、アリアやスズとはそれ以上の付き合いとなる。

 彼ら三人とは、生徒会役員という役職の中での付き合いであって友人や知人、それ以上の間柄などではない。そう思っていた。

 でも、違う。自分たちは確かに、絆でつながった仲間なのだ。

 互いに目に見えない細い糸でつながった仲間たち。たとえ意識がこっちの世界になかったとしても、例えゲームの世界に行ってしまったとしても、自分たちの中には決して切っても切れない絆という物がある。

 だからこそ、考えたことなかったのだ。彼らが、≪死ぬ≫かもしれない。そんな可能性を。

 仲間だから。二年間も一緒に居た、友であるから。

 

「そうだろ? 天草会長?」

「あ……はい……」

「フッ、とはいえアンタにもなにかできる事があるかも知れねぇな」

「できる事?」

「そう、例えば、思い出させること、とかかな……」

 

 思い出させる。誰に、何を。そんな疑問がシノの中に沸いた時だった。

 

「おっと、ソロソロ時間みたいだ。それじゃ、あとはがんばれ」

「あ、はい……」

 

 そう言うと、井戸田は領収書を持ち立ち上がって、二人分のコーヒーの値段を払うとそそくさと店を後にしてしまった。

 残ったシノは考える。

 

「誰に、何を……か」

 

 井戸田が言った、その意味を。

 それは、きっと自分に関係のあることなのだろう。

 絆、決して途切れることのない仲間たちとの友情。友との日常。何気なく、笑いあったあの毎日。

 それを喪った人間が、もう一人、いる。

 

「そうだ……」

 

 彼女だ。

 中野梓。自分の事を避けていたあの少女。軽音部という仲間を失い、友をSAOに送り込んだことによって絶望の中にいる、あの少女。

 彼女が自分の事を避ける理由に関しては既に察しがついている。しかしもしその考えが正しいのであるとすれば、それは彼女の勘違いもいいところ。

 だって、彼女と、軽音部の仲間たち、そして自分は―――。

 

「伝えなくては……梓に……」

 

 救わなければ、彼女を、どん底から。今それができるのは、彼女と同じ声を持ち、なおかつ彼女と似た自分にしかできないこと。

 シノもまた井戸田のように立ち上がると学生かばんを持ち、店を出る。そして、ある場所へと連絡を取りながら走るのだった。

 その相手は―――。

 

「もしもし、小夜さんですか?」

 

「たくっ……こんな役目、アタシは苦手なんだって」

 

 と言いながら、井戸田はビルの隙間から電話をかけているシノの姿を見守っていた。

 どうやらあの様子。決心がついたようだ。自分で考えてみてもかなりきつい言い方になってしまった感はあるが、しかしそのおかげで彼女も気が付いたようだ。自分が一体、何をすればいいのか。何をなせばいいのか。その答えを。

 

「おっと……」

 

 と、その時ある人物を見つけた井戸田はその人物に見つからないようにビルの陰に隠れるとそのまま姿を消してしまうのであった。

 もう自分の役目は終わった。後は他の仲間の、そしてその仲間たちが見つけ出した人物たちにすべてを託すべきだろう。そう、考えて。

 それから数分の事だった。

 

「ふぅ、最近寒くなってきたなぁ……」

 

 トリプルブッキングマネージャーである井戸田が、そのビルのすぐ横を通り過ぎたのは。まさしく、危うくブッキングする一歩手前であったのは、やはりそれだけ彼が何かを持っているという、そう言う事なのだろうか。

 

「ん、あれは……」

 

 その時、井戸田は町の中にある人物の姿を見た。天草シノである。そういえば、彼女を初めてスカウトしたのもこの交差点だったなと思い出を回想しながら、彼は再びシノに声をかけようとした。

 

「あ……」

 

 しかし、その伸びた手はシノに触れることはない。

 いや、触れたら触れたでそれは少しまずいことなのかもしれない。だが、その時井戸田が目にした彼女は前とはずいぶんと違っていたのだ。

 彼女は、きらめいていた。かつて、彼女は原石としてこの一般社会の歯車の一部として生きているしかない女性だった。けど、今の彼女は違う。まるで、女優、アイドルのようなオーラを身に纏い歩くその姿は、初めて彼女を見た時とは全然違う何かを持っていた。井戸田はそう感じた。

 果たして、その考えが正しかったのかどうか、そして≪この≫井戸田が現れる前、シノと話をしていた≪井戸田≫はいったい何者であるのか。その正体が明かされる日がいつか来るのであろうか。

 ただ一つ分かること。ソレは―――。

 

「俺も、頑張ろう……」

 

 井戸田は、正直疲れていたのかもしれない。トリプルブッキングの仲間がSAOに囚われて、毎日のように事務所に鳴り響くクレームの嵐に、身も心もすり減ってしまっていたのかもしれない。しかし、そんな彼を救ったのがシノ。

 その光り輝くような髪と、目だった。

 それを見ていると、自分もまた頑張ろうと、そう言う気になってしまうのだ。

 彼もまた行く、魑魅魍魎跋扈する芸能界に挑む覚悟を改めて身に染みて、前に進むのだ。

 これは、一人の≪女性≫が関わったことによって発生したバタフライエフェクト。本来だったら発生することのなかった光。その光に巻き込まれた男女の人生がここからどう変わっていくのか。

 それは、≪女性≫にも分からないことだった。




 今回の話、明らかに「?」と思われる描写がありましたね。
 以前にも約一名、「あれ、この台詞って?」みたいな事を喋ったキャラいましたね。
 実は今回の岩沢雅美の一件、並びに中野梓の一件、本来の『歴史』とは違う世界に変えようとしてる人間たちが暗躍しております。
 さらに言えば、今回の件は、本来あった『歴史』の、あるとんでもない悲劇を回避するための『ついで』の様なもの、すでに捻じ曲がってしまった『歴史』の一部を一度正しい『正史』に直す。ソレと同時に悲しい結末を迎えるはずだった彼女たちも救いたいと願った人達。果たして今回暗躍してる人たちの目的は一体……。

本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。

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