SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
海は時にすべてを拒絶する。夢も、希望も、明日でさえも飲み込み、そして二度と地上という故郷に戻すことは無い。
海は怖い。海はすべてを包み込む母親のような温かい存在であると思い込んでいた。でも、違っていた。海が包み込むというのは真実である。しかし、包み込んで二度と返すことは無い。海は冷たく、体温を奪い、やがて飲み込まれていく。
海は、簡単に近づいてはいけない物。侮って近づいてしまえば、その身体を自然に返す怖さがある。
私たちは、それをあの航海の中で海に教えてもらった。でも、その恐怖を乗り越える方法も教えてもらった。
海は私たちを迎えてくれる。恐ろしさも、哀しさも、全てを巻き込んで未来へと導いてくれる。そして、海という故郷を旅立った私たちを地上へと送り届けてくれる。
私は海が大好きだ。海は私たちに安らぎを与えてくれる。怖さを知っていて、どんな海が恐ろしいのかを知っていれば、付き合うことなんて容易いのだ。だって、海は私たち人間を生み出してくれた大事な大事な故郷なのだから。
悲しいことがあった時、やるせないことや、言いようのない不安があった時、海に来ればいい。全て海が優しく包み込んで、また新しい一歩を歩かせてくれるから。
私たちは決して忘れたりしない。私たちに、海の大切さを、すばらしさを、そして仲間たちと共に助け合うことを教えてくれたあの艦のことを。
その艦の名前は……。
海の上を進む巨大な影がある。魚たちはそれを見ると身の危険を感じて海の底深くへと逃げていく。そのようなことをする必要はないということは影、艦の上に住んでいる者であればだれでも分かるものだ。
海原を行く艦の上には一つの街があった。たくさんの人間が生まれ、暮らし、子を作り、育て、年を取って、死んでいく。そんな普通の街並みが存在していた。
ここは大洗学園艦。数々の試練を乗り越えてもらって生き残った、奇跡の艦である。
学園艦という名前が表す通り、この船の上には学校が存在する。いや、どちらかというと学校が主体となっていると言ったほうが正しいのかもしれない。ともかく、何故艦の上に町並みや学校があるのか不思議になることだろう。だが、それよりももっとあってはおかしいと思える存在がその艦の上には存在していた。
それが戦車。今現在も軍隊で使われる地上兵装の一つである。
では、何故そのような物が艦の上にあるのか、それはかつての日本史が関係している。
1900年代初頭、かつて世界で二度の世界大戦があった。
多くの人間が国のため、自分の愛する者を守るために戦い、多くの命が犠牲となった。この日本という国も、その犠牲を多く払った国の一つ。そして、二度目の世界大戦の中心となった国であった。
空襲や原子力爆弾といった兵器によって焼け野原となった日本に残ったのは数少ない戦艦と、心の傷、そして戦争を許してはいけないという使命感だった。
それからこの国は変わった。もう二度と自分たちが味わった悲しみを、痛みを繰り返してはならないと声高々に叫び、戦争の根絶を主張し始めた。その第一歩として日本は行った政策が、日本に残った戦艦の学校としての使用。これからを生きることになる子供たちのために学校や街を戦艦の上に作る、というなかなかの皮肉も籠ったその政策によって、多くの学園艦と呼ばれるものが作られた。
それからもう一つ、戦争が起こったのは日本が男社会で、女性の声が一切外に出ないからだという声がいたるところから上がり、女性の社会進出を促す声明が出された。これには日本のみならず世界中が大きく賛同し、どうすれば女性が表舞台に立てるようになるのかを各国の代表が話し合いを繰り返した。
その結果、ある一つの案が生まれた。
≪戦車道≫の設立である。
人を殺す兵器として使用されていた戦車に女性が乗り、安全な装備を付けて戦う。提案した日本以外の諸国は何を馬鹿なことを言っているのかと、ソレに何の意味があるのかと最初は日本をけなすようなことばかりを言っていた。だが、それでも日本はこの戦車道政策を推し進めた。乙女淑女が戦車という両極端な存在に乗る。そのインパクトは絶大だったのだろう。たちまち茶道や華道のように戦車を上手に扱っている者たちが中心となって家元が生まれ、そしてごく小規模だった戦車道という文化は瞬く間に日本中を席巻し、かつては戦争の負の遺産とまで言われた戦車を、乙女の嗜みというちっぱな文化にまで仕上げたのである。
この政策の成功を見た日本はさらに学園艦に戦車を載せることを提案する。これは軍備強化のためかと各国から非難の声が上がることもあったが、しかし日本政府は断固としてそれを否定し、当時の総理は世界中に声明文を出した。
戦車の恐ろしさ、兵器の恐ろしさ、それを子供たちが知ってこそ未来の戦争根絶に繋がるのである。と。
もし失敗すれば、辞任騒ぎどころではない、下手をすれば日本という一国家の存続の危機にも値するような政策、しかしそれでも総理は今を生きている硬い頭しか持たない自分たちではなく、未来を生きることになる子供たちのことを信用したのだ。
結果、世界中の首脳が、何故このような無茶が成功したのかと頭を抱えるほどとなる。学園艦に乗る子供たちのみならず、大人たちもまた戦車にのる子供たちのことを応援し、支援し、戦車道は一躍茶道、華道に次ぐ三つ目の道として確立していった。
今は、戦車道設立から時間が経っていることもあり多少は沈静化している面もあるが、しかし今での戦車道とは乙女の嗜みであると主張するものが多いほどの文化となっている。また、この戦車道は日本好きの外国人にも高い評価を得て、世界中から戦車道の家元に弟子入りするものが現れ、それを自国に持ち帰って独自に戦車道を教え広め、その競技人口は爆発的に増大し近く世界大会を開くことが決定しているほど、まさしく一つの文化として人々に根深く宿る物となっているのだ。
この大洗学園艦にも、戦車道は当然ある。とはいえ、少し前までその系譜はとだえていたが。
前述したとおり一つの文化として根付いた戦車道であるが、戦車を用意し、さらには砲弾や火薬や燃料、メンテナンス等で多額の資金が必要となることから、徐々に資金難に苦しみ、いくつかの学園艦からは姿を消した。
この大洗学園艦もそうである。年々生徒数が減少していくこの学園で戦車道を存続させていくお金はなく、十数年前に戦車道は廃止となり、そもそもこの学園艦に戦車道があったという事実すらも次第に忘れられようとしていた。
だが、今年その戦車道を復活させた一人の少女がいた。
少女は、この大洗学園艦に生まれ、この艦で生きてきた少女だった。しかし自分が生まれ育った艦が部活などの活動実績がないことや生徒数の減少などを理由として近々廃艦となるかもしれないとしった少女は学校全体を管轄している文科省の役員と交渉し、もし大洗学園の戦車道が全国大会で優勝することがあれば、廃艦を取り消すという口約束を交わして戦車道を復活させた。
そして、戦車道の家元の娘が転校してくる。卓越した運転技術を持った少女が履修する。それまで戦ってきた多くの学園が手を貸してくれる等様々な奇跡が重なった結果大洗学園艦の存続をつかむことができたのだ。
そして、そんな文科省の役員と交渉をした先輩含めた三年生が引退、というのはこの学園の戦車道が選択授業の一つであるためふさわしくないのかもしれないがともかく引退し、新たなスタートを切っていたさる10月の事だった。
「う、嘘……」
寮の自分の部屋でパソコンに向かいあっていた大洗学園高等学校二年、西住みほは驚きを隠せないでいた。
ここ最近話題となっている最新ゲーム、その抽選に参加していたのだが、実のところ最初からあまり期待はしていなかった。ゲーム自体という意味ではなく、当選するという形でのことだ。
競争率が半端ではない。そのお店で売り出されるゲームは1万分の二十個ほどであるのに、抽選に参加したのはなんと二十万人。当選確率一万分の一という狭き門だ。そんな中で自分が当選すると考えられる人間は、よほど運がいいのか楽天家であるのだろう。
みほ自身、それほど運がいいとは思っていなかったし、しっかりものであったみほは、きっと当選しないんだろうなと半ば諦め気味で、しかし少しの記念にというような感覚で抽選に応募したのだ。
だが、ある意味でそんな無欲であったことが幸いしたのだろう。抽選が終わって一時間弱、多くの人間がそのページに殺到したために重くなって見ずらくなっていた当選結果を知らせるページにたどり着いたみほは確かに見た。自分が今持っている抽選番号に書かれた数字を。
まさか、自分がこれほどまでの強運を持って言おうとは思ってもみなかった。いや、そもそもこの学園艦に来れたこと自体がとても幸運だったから、そこからの始まりだったのかもしれないのだが。
みほは身支度をすると急いで寮の自室から飛び出していく。自分の身に怒った出来事を早く友達に、仲間たちに伝えたかったのだ。この学園艦で出会い、共に戦った戦友たちへと。
彼女、西住みほは戦車道の名門である西住流の現家元である西住しほの次女としてこの世に生を受けた。家元の娘と言っても、次女であり、既に彼女の前に女の子が生まれていたため、年功序列の判断から察するに時期家元はその長女であろうことは確実である。
だが、家元の娘にとして生を受けたことから、その近くにはいつも戦車がある生活だった。だから、自然と彼女は戦車のことが、戦車道のことが好きになっていった。
そして将来は家元になるであろう姉の補佐をできるようになりたいと当時戦車道の全国大会で連覇中だったある学校に姉に続くように入学した。
だが、彼女の独断での行動によりその連覇の歴史は途絶えることになり、またその際に母親から受けた仕打ちが原因で彼女はその学校から退学、また別の、それも戦車道のない学校へと入学した。それがここ大洗学園艦である。それから紆余曲折あり、この学園で復活した戦車道の中心メンバーとして、その卓越した指揮能力、作戦立案能力を駆使してほとんどが戦車道素人というあからさまに不利な状況の中での戦車道全国大会優勝を勝ち取った。
また、その中での幾多の戦いの中で他校の生徒とも友情を育み、やや険悪な仲になっていた姉とも和解、母親から完全に許してもらったのかは定かではないが、しかしいつかは面と向かって話せる時が来るのだと信じている。
高校二年生のみほは、来年が高校生活最後の年で、戦車道全国大会への出場は次が最後となる。今はソレに向けて準備期間に入っている最中、簡単に言えば充電期間であるのだ。
そんな中で彼女が見つけた物があった。
曰く、天才科学者茅場晶彦という人物が製作した。
曰く、世界で初めてのVRMMORPG。
曰く、最初の販売個数がたったの一万個である。
曰く、これは世界的に見てもゲーム業界に革命を起こす大作である。
あまりゲームに興味のなかったみほではあったが、それほどまでに仲間に宣伝されてしまえば、興味が出てしまうのは当然だろう。
だが、まさかその狭き門に自分が足を踏み入れることになるとは。思いもよらなかったのだ。
そんなこんなで、寮を飛び出したみほは、戸締りを確認すると自分と同じ戦車道履修者の住む家に向かった。
そのさなかであった。
「あっ!」
「危ない!!」
みほは、十字路の右側から歩いてきていた少女に勢いよくぶつかり、尻餅をついてしまう。少し痛いが、大した怪我はしていないだろう。いや、自分の事よりも問題は相手のほうだ。
「あの! すみません、怪我はありませんか!?」
「痛たたた……え? あ、うん大丈夫! それよりごめんなさい、私前を見ていなかったから……」
どう考えても走っていた自分の方に非があると思うのだが、違うのだろうか。
少女の服は、航海科の制服。この大洗学園艦の操舵を任されている学生たち、その一員なのだろう。
少女は、落ちていたスマホを拾うと傷がないことを確認して服に着いた土埃を払いながら立ち上がる。
「スマホにメールが来て、それに気を取られちゃったから……」
どうやら、ぶつかる直前にポケットに入れていたスマホに誰かからメールが届き、そちらの方に気を取られた瞬間に自分とぶつかってしまったらしい。とはいえ、やはりそれでも勢いよく走っていた自分の方が悪い気がする。
「いえ! 私の方こそ、走っててよく前を見てなかったから……すみません!」
と、謝罪をすれば相手もまた謝罪をするという流れが幾度か続き、結局は二人で笑いあってその場は解決ということになった。
「あれ?」
「え?」
ふと、少女が地面に落ちたみほのスマホの画面に映るメールを見た。そこには、先ほどのSAOとナーヴギアが当選したというメールが映っていた。
「これって……あ、それじゃあなたもSAO当選したの?」
「え? あなたもって……」
「私もなの!」
と言って、少女は先ほど拾いあげた自分のスマホの画面を見せる。そこには確かに、自分のスマホに届いたメールと同じ文章があった。と、いうことはこの少女が言う通り彼女もまたSAOに当選した人物であるということなのだろう。
「ホントだ……でもすごい偶然ですね。十字路でぶつかった二人ともにSAOに当選していたなんて」
「うん! あ、そうだ。先輩、もしもよかったら、私と一緒にSAOしませんか?」
「え?」
「ここで出会ったのも何かの縁ですし」
「縁……か」
そう、思えば自分は縁によって助けられてきた。
実家から追放されて精神的に病んでいた自分を救ってくれたのはこの学校で作った縁。
後輩、先輩問わず多くの友達を作ってくれたのは戦車が繋いでくれた縁。
そして、その戦車が繋いだ縁は、この学園艦を救ってくれた。
自分は縁によって今ここにいる。その縁があったおかげで、かけがえのない共に出逢うことが出来た。なら、その縁を大事にしよう。
「そうですね。もし私の友達もゲームに当選していたら、皆で一緒にゲームをしましょう」
「その時は、私の友達も一緒にお願いします! あ、そうだ先輩の名前教えてもらえませんか?」
「名前、ですか?」
「はい!」
みほはある意味この言葉に驚いた。自慢でもなく自惚れでもないが、自分はこの学園艦を廃校の危機から救った戦車道履修者を率いた人間。だから、学校中の人間が自分のことを知っている者とばかり思っていた。いや、やはり自惚れか。自分が一つ事を成したことによって有名人気取りになっていたなんて。
「すみません、名乗りもせずに。私は大洗女子2年、西住みほです。あなたは?」
「横須賀女子海洋学校、航洋艦≪
「よろしくね!」
「はい!」
それから連絡先を交換し、二言三言交わしたのちそれぞれに別れた少女達。
果たして、二人にどんな未来が待つのか、だがこの時の二人はただただ幸せだった。多くの友達に囲まれ、多くの仲間を得て、そして一緒に未来を歩んでいける。そう信じて疑わない。
その希望が、崩れることになるとは知らずに。
「横須賀女子海洋学校?」
「大洗学園?」
「「って、なに?」」
日常とは崩れるのが早い物。露にも思っていなかっただろう。もしくは,知らないままの方がよかったのかも知れない。
まさか、自分が一人ぼっちでこの世界にいると言うことに。
これだけは許して、泣きの1作品
ハイスクール・フリート
参戦
因みに前半の戦車道の歴史は書いている途中にその場で描いた妄想なので、その辺の設定があったら御免なさい。
泣きの1作品枠、実はこれともう一つあったのですが、今回は断念。その後、スパロボ小説がお蔵入りとなったので無理すれば外伝に参加できるのでは? と、思ったのですが、最初の設定を通すことにしました。
この小説、本編と外伝を……(希望する方を選んでください)
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一つの小説でやってもらいたい
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本編と外伝を分けて投稿してもらいたい