SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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SAO×侍戦隊シンケンジャー (その2)

「それで、どういう事だ母上?」

 

 屋敷のいつもの席に座った丈瑠は、母である薫を出迎えていた。

 薫より少し目線が高い位置で座布団の上に胡坐をかいている丈瑠に対して、目の前で同じく座布団に座り、こちらは正座をしている薫。果たして、どちらが礼儀を知っていると言えるのだろう。しかし、胡坐というのは今でこそ行儀が悪い座り方のように思われているが、かつては男性の一般的な正式な座り方であり、女性でも胡坐をかいている時があったということなので、古来からの伝統を樹脂している侍の家系として胡坐の方が男性の正式な座り方として正解なのかもしれない。

 それはともかくだ。

 

「言った通りだ。私は、SAOというゲームをプレイすることとなった」

 

 SAO。それは、最新のVR技術を使ったゲームである。詳しくはよくわからないが、頻繁に丈瑠の屋敷に来ては勝負を挑んでいる家臣の一人が良く世間話程度に話しているので、その概要だけは知っていた。

 

「あれは、半年ほど前の事だった……」

 

 それは、自分が隠居している家の庭で剣を振るっていた時のことだ。彼女もまた戦うことが無くなったとはいう物の、万が一の有事の際にすぐに戦うことが出来るように日々の鍛錬は忘れてはいなかった。そのため太刀筋は鋭く、直ぐ前線に出れる程に綺麗な形で剣を振るえていた。

 平和という物は必ず崩れる物だ。その有事の時というものがすぐに訪れるかもしれない。その時、丈瑠や志葉家の家臣達をサポートするのが自分の役目であるのならば、その時のために自分自身を鍛え上げなければならない。薫は常に向上心の中に存在していた。

 その日も、一人剣を振っていた薫。屋敷が山深くにあるが故に周りは木が多く茂っており、一度風が吹けばその枝から千切れた葉が枝ごと落ちてくる。薫は、その枝付きの葉の根元を狙って斬る。

 当然のことだが、それにはかなりの技術力が必要となる。そもそも空中にある物を斬ろうと言うのだ。普通の人間が同じことをやろうとしても刃を振るうときにできる風の流れで枝の動きが変わってしまう。集中力、判断能力、そしてするどく迷いのない太刀筋。あらゆる神経を総動員して初めて断ち切ることのできるそんな難しいものなのだ。だから、彼女が落ちてくる葉を次々と斬っていくその様子を簡単なものであると見るのは大間違い。その裏には並大抵の技術ではできない所業のオンパレードであるのだ。

 

「ふぅ……」

 

 二時間ほど経っただろうか。気がつけば、薫の周りには枝とその枝に就いていたであろう葉が大量に落ちていた。

 このゴミは、後で黒子が全て片付けてくれるのだが、今日は少しやりすぎたかもしれない。

 今日は心がざわつくこともあって、いつも以上にやりすぎてしまった、

 だがなんなよだろうこのざわつきは。なにか良からぬものが迫ってくる気配がする。一体、これは。

 一抹の不安を抱えたまま、薫は庭先に生えている木に掛けていたタオルを手に取り屋敷の中に戻ろうとする。少し汗をかいてしまったので湯船に浸かりたい気分だ。

 その時だ。背後から迫る悪しき気配。咄嗟に、彼女はシンケンマルを背後に振った。勿論、相手がまだ敵かどうか分からないため寸止めで停止させる。

 シンケンマルは、見事に背後にいた者の首筋寸前で停止する。これも、卓越した技術の持ち主であった彼女であったからこそ出来るものだ。

 

「失礼、驚かせてしまった」

 

 果たして、そこにいたのは若い男性だ。なんの変哲もないような。どこにでもいるような。そして、得体の知れない不気味さを持ち合わせた男だ。

 

「いや、こちらもすまなかった」

 

 とにかく、相手が得体の知らない相手であるとはいえ自分と話をしようとして来たと思わしき人物であるのならば剣を納めなければならない。薫は一度謝罪するとシンケンマルを下ろす。だが、何があっても良いように直ぐ相手を斬れる体制を崩さない。

 

「お前は何者だ?」

「私は茅場晶彦。量子物理学者であり、ゲームディレクターですよ」

「茅場……晶彦……」

 

 薫は、その名前を呟来ながらも具にその身体を観察する。

 その白衣の下に何か武器を隠しているのではないか。

 ズボンのポケットに入れている手にナイフや毒針を仕込んでいるのではないか。

 油断はできない。

 勿論、他の人間に対してはそのようなことをしない。ただ、目の前にいる男の得体の知れなさに対して自分の中での警報が鳴り止まないのだ。

 気を緩めてはならない。気を許してはならない。目の前にいるのは、自分の、敵だ。そう教えるかのように彼女の頭の中では様々な細胞が活性化し、心臓からは身体中に血液を送り込んでいる。

 次に、茅場晶彦が何をいうのか、聞き逃さないように耳に神経を集中させる。

 

「実は現在私は世界がひっくり返るようなゲームを作っている最中なのです」

「ゲーム?」

 

 そういえば、先程ゲームディレクターであると言っていた。しかし、物理学とゲームとは、一体なんの関係があるというのだろうか。そう言ったものに疎い薫にはよくわからない。

 

「そのゲームの剣のモーションに、貴方の剣術をモーションキャプチャーという技術を駆使して落とし込みたい」

「……」

 

 モーションキャプチャーとは、身体の関節などの動きの起点となる場所に機器を取り付けてその動きを記録しゲーム、主にアクションゲームのキャラクターの動きに落とし込む技術の事だ。

 

「貴方の剣技は、実に見事なものでした。その動きを、私のゲームに組み込めば」

「断る」

 

 一閃、薫はその提案を斬り捨てる。

 モーションキャプチャーというものがどんなものであるのかは知らないが、しかしそのような提案に乗るわけにはいかない。

 

「私が振るうのは人々を守る剣だ。娯楽や、私利私欲のためじゃない」

 

 志葉の剣は何百年も前から人々を陰ながら守り続けて来た秘技のような物。それを、ゲームという公の目に晒される場に持ってくるなど、言語道断の話だ。

 そして、その剣を金儲けの手段に使わせるわけにもいかない。人々の幸せを奪うかもしれない、人々を苦しませるかもしれない、人々を傷つけるかもしれない。

 そんな危険性がある物に、使わせてはならない。

 

「そうか……残念だ」

 

 それだけ言うと、茅場晶彦は薫に背を向けて歩き出す。薫には、その姿がスローモーションに見えた。

 ゆっくり、ゆっくりと、自分が切った葉っぱの上を歩いて去ろうとする茅場晶彦。

 なんだ、なんだこの違和感は。この胸騒ぎは。息をするのも窮屈になるほどの圧迫感は。違う、これは警告だ。ここで、この男を返していいのか。このまま、何もせずに終えていいのか。そんな侍の直感がこの状況を作り出しているのだ。

 この感覚、どこかで感じたことがある。それと同じだ。けど、どこだ。どこで、感じた。思い出せ。思い出せ。思いだせ。

 そして、その言葉は咄嗟に薫の口から飛び出していた。

 

「待て!」

「ん?」

「分かった……協力しよう」

 

「と、いう事があった」

「そんなことが……」

 

 まさか、彼女がゲームのモーションキャプチャーという物に誘われていたとは知らなかった。という事は、薫はそのソードアート・オンラインというゲームの開発に携わったという事になるのだろうか。しかし、薫がそのような物に参加するのは意外であったが、それにもう一つ丈瑠には気がかりなことがあった。

 

「あの、丹波が良く許可したものだな」

 

 丹波、とは薫の教育係として一番近くで彼女のことを見守ってきた、丈瑠にとっての日下部のような存在である。薫曰く頭が硬い人物であり、

 

『伝統ある志葉家の剣術をゲーム等という物に使おうなど何たる不届きものか! えぇい、かくなる上はこの私めが成敗してくれる! 者ども、討ち入りじゃ! 出逢え出逢え!!!』

 

 などと言ってもおかしくはないが。

 

「言っていた。だが、いつも通りハリセンで黙らせた」

「そうか……」

 

 実際に丈瑠の想像通りの事を言っていたそうだ。そのことに、なんとなく安心感を覚える丈瑠であった。

 しかし、茅場晶彦。自分も千明に聞くまで知らない人物であったが、薫はその人物に何を感じたというのだろうか。

 

「母上、結局その違和感の正体は……」

「……依然分からないままだ。モーションキャプチャーやゲーム自体は意外と楽しかったがな。いい経験が出来た」

 

 違和感はともかくとして、どうやら薫はβテスターという物に参加して先にゲームをプレイしており、なかなか楽しい時間を送っていたようだ。それはそれで本筋から離れていまいか気になるところだが。

 

「しかし、違和感の正体はともかく、既視感の正体は分かった」

「む……」

 

 どうやら、本筋は忘れていなかったようだ。薫は、ゲームに参加し、茅場晶彦とも言葉を交わしていく中で、自分が感じた違和感、侍の感という物が何に反応したのか、それに似た物を思い出したのだという。

 

「一体、それは……」

「……血祭ドウコクだ」

「なに?」

 

 丈瑠は、その言葉に顔を驚愕に染め上げた。血祭ドウコク。それは今から十三年前に丈瑠たち、侍戦隊シンケンジャーが決死の思いで打倒した外道衆の総大将。そして、先々代のシンケンレッドである薫の父親の仇でもある怪物である。

 その強さ、その恐怖は、時間が経ってもなお丈瑠の身体に染みついており、今でもドウコクが復活する夢を時折見るほどだ。

 

「あの感覚……あの男と相対したときの感覚は、まさしく……血祭ドウコクと戦った時のそれと似ていた」

 

 十三年前の戦いの時、薫は血祭ドウコクと対峙し、封印の文字を使って倒そうとした。しかし、結果は知っての通り敗北し、大怪我を負わされてしまった。

 あの時の恐怖、あの時の圧迫感。茅場晶彦と対峙したときのソレが似ていたのだ。

 

「だが、茅場晶彦はただの人間じゃないのか?」

「無論だ。それに、はぐれ外道でもないようだ。隙間センサーも何の反応もなかったからな」

 

 はぐれ外道とは、人間が大きく道を外れた所業を行ったことによって外道衆たちと同じくアヤカシの姿を持つようになった者たちの総称。つまり、人間であり、アヤカシである者たちの事だ。

 十三年前の戦いのときにも薄皮太夫、そして腑破十臓という二人のはぐれ外道が現れ、丈瑠たちと死闘を繰り広げた。思えば、あの戦いで血祭ドウコクの次に厄介だったのは、そのはぐれ外道二人だった。

 薄皮大夫がその身体を血祭ドウコクに取り込ませたことによって、志葉の家が長年の準備と苦難と、そして丈瑠の人生を狂わせてでも完成させた封印の文字は通用しなかった。

 腑破十臓は、幾度も丈瑠の前に現れて死闘を繰り広げ、あの時の戦い一年間の間脅威となり続けていた。

 あのはぐれ外道二人がいたからこそ、十三年前の戦いは波乱を極めたと言ってもいいだろう。

 話を戻そう。はぐれ外道になるためにはそれ相応の人の道に外れた行為。例えば、大量殺人等を行わなければならない。だが、はぐれ外道の存在が分かったことから、そのような事件が起こっていないか監視の目を光らせてきたが、最近そのような大量殺人のニュース等流れてきた覚えがない。つまり、はぐれ外道になり様がないのだ。

 それに、隙間センサーという外道衆出現を知らせるセンサーが反応しなかったのも、その男が外道衆ではないという事の証拠になる。

 

「では一体……」

「分からん。だが、ヒントがあるとするのなら、あの男の作ったゲームの中……」

「ソードアート・オンライン……」

「そういう事だ」

 

 なるほど、つまり薫がSAOをプレイするというのは、そのSAOの内部から調査をするという意味だったのか。

 だがそれは少し危険すぎないだろうか。いくら、ただのゲームとはいえ薫の侍の感が危険を知らせるような男の作ったゲームの世界に行くなど、無謀ともいえる行為だ。

 

「確かに、私も危険は重々承知だ。だが……だからこそ私が行くのだ。もし私に何かあって、志葉は既に丈瑠が継いでいるのだからな」

 

 そう、薫が志葉家の姫であっても、志葉の18代目の当主であろうと、すでに先代当主。その実権は養子である19代目当主の志葉丈瑠に譲っている。そのため、もし先代の自分に何かが起ころうとも、今の当主である丈瑠が無事である限り、侍戦隊は守られる、ひいては民衆の平和は守られるという事であるのだ。

 

「しかし……」

「心配性だな。そんなに、母親が信用できないか?」

「……」

 

 心配するのは当たり前だ。何か嫌な気配がする世界だと知って、そして地雷原であるという事を知っているというのに、わざわざ足を踏み入れようとしているのだから。

 だが、確かに彼女は自分の前の当主。実際に外道衆と戦った時間は短かったものの、長年の鍛錬は休まずに行ってきた人間だ。それを考えれば彼女に何らかの危険が迫ったとしても対処はできると思うが。

 

「なら、私も一緒にゲームの世界に行くのはどうでしょう?」

「え……」

 

 そう言って通路から現れたのは女性。凛々しく、そして美しい女性が姿を現した。

 

「茉子、来ていたのか?」

「たまたま前を通りかかったら、お姫様が来ていると聞いてご挨拶に」

 

 白石茉子。侍戦隊シンケンジャーのシンケンピンクとして丈瑠達とともに一年間に渡り戦った戦士だ。

 かつての戦いにおいては面倒見が良く、優しい性格で仲間たちを精神面でもサポートし、時に鋭い洞察能力を持って物事を見ることのできる、サブリーダー的な存在である。現代のシンケンジャーの中では丈瑠次ぐモヂカラの持ち主であり、その扱い方も家臣の中では一番上手でもあった。

 茉子は、現役時には保育園でバイトをしており、戦いが終わった後には両親のいるハワイへと旅立った。それから何年か後に再び日本に帰ってきて、現在は正式に保育士の免許を取って働いているのだそうだ。

 

「だが、一緒にとは言うがアレは一万個限定販売の代物だぞ?」

「大丈夫。実は私も、興味があったから抽選に参加したんです。そしたら、運良く当選しました」

 

 世の中には、無欲の勝利という言葉がある。先程話に出した千明、シンケングリーンだった男なのだが、そちらはSAOが欲しくて抽選に参加したものの、結局当選することはなく今回はプレイすることができないそうだ。

 それ比べて、興味本位で応募した茉子はSAOに当選しプレイすることができる。なんとも理不尽な世界であることか。

 

「だが……いや、分かった。では頼む、茉子。もしなにかあった時にはすぐさまゲームをログアウトし、丈瑠と合流しろ。それが条件だ」

「はい」

 

 薫が一度躊躇した理由。それは、彼女が現シンケンピンクであるからか。茉子は、まだ未婚であり子供はおろか養子もいない。そして兄弟姉妹も存在しない。そんな人間にもし何かあったとしたら、今後の志葉の家に多大なる影響が出る。彼女はそれを考えたのだろう。

 しかし、茉子がこれと言ったことを曲げない人間であると言うことを薫は知っていた。そのため、何かあった時にはゲームを終わらせて丈瑠たちと共に事件を解決させてくれ。そう言葉を紡ぐだけ紡いで、彼女の参加を了承した。

 茉子は、薫が何を心配しているのか察していた。もし、自分も結婚し、子供がいたのならばもっと簡単に了承してくれたのだと思うが、しかしそこは侍の家系に生まれた彼女故の苦労のようなものがあるのだろう。

 侍の末裔として、自分ができることをする。自分が未来のためにできることをする。それが今の自分の役目だと知っているからこそ、どんな危険が待ち受けているのか分からないゲームの世界に連れていくことを躊躇したのだ。

 茉子は、そんな彼女の優しさに感謝すると同時に、もう少し肩の力を抜いても良いのではないかとも思う。

 丈瑠は、そんな二人に対して、これ以上ゲームをプレイしろと言えない雰囲気になっていることを感じ取り、フゥと息を吐いていった。

 

「分かった母上。それで、俺はいったい何をすればいい」

「……茅場晶彦からドウコクと似た気配がして、それでも何もないとするのならば、外道衆と手を組んでいるという可能性もある。そして、もし外道衆と結託して何か事を起こそうというのならば……」

「ゲーム開始と同時に、何かが起こる……」

「そういう事だ」

 

 なるほど、薫はゲーム開始を合図として外道衆が何かを仕掛ける可能性を考えている。だから、こうして丈瑠に自分がゲームをプレイしている間の現実の世界の守りを託しに来ていたのか。

 

「本当は、何もないのが一番だが、念には念を……とも言うからな」

「分かった。舞台で忙しい流ノ介や海外にいる源太はともかくとして、ことはや千明を呼び寄せておく」

 

 と、丈瑠は他の家臣。つまりシンケンジャーの仲間たちにも念のために声をかけておくことを薫に約束した。

 シンケンブルーの池波龍ノ介は歌舞伎役者であり、現在舞台の真っ最中であるため呼ぶことはできない。

 梅森源太は、シンケンゴールドで家臣ではなかったのだが丈瑠の幼馴染ということで丈瑠の代から共に戦っているシンケンジャーの仲間だ。が、現在はフランスで寿司の店を構えているため彼も簡単に呼ぶことが出来ず。

 という事で呼ぶことが出来るのは京都で花嫁修業中というシンケンイエローの花織ことはと、SAOの発売のために有休をとったと言うシンケングリーンの谷千明の二人くらい。いや、この二人だけでも十分である。念のために他の戦隊にも声をかけたほうが良いだろうか。

 

「頼む。この世界の事、頼んだぞ」

「あぁ」

 

 こうして、侍戦隊シンケンジャーのSAOへの方針が決定した。

 

「ところで、話は変わるが結婚はしないのか?」

「ぶっ!? い、いきなり何を……」

 

 話が一段落したところでお茶を一服していた丈瑠は、突然の薫の言葉に驚き、つい吹き出してしまった。

 

「お前もそろそろいい年齢だろ。いい加減結婚して『孫』の顔を見せてくれ」

「それを言うなら母上も」

「なんだ?」

「いや……」

 

 と、ややセクハラ的な問題のあるセリフのようにも思えるが。侍の家系を継ぐものとしてお世継ぎ問題というのは避けては通れぬ道。丈瑠も薫もどちらも美形であり、モテていてもいいと思えるような顔立ちをしているという物の、あまりそういった話に恵まれてこなかった。

 薫に関しては丹波から頻繁に見合い写真を提示されてはいたもののあまり気に入る人間がいなかったため。だが、すでに薫は29歳。侍の家系を継ぐものとしては丈瑠にも、そして何かがあった時のために分家となった薫にも子供がいてしかるべくというようなことなのだ。

 だが、結婚相手といってもそう簡単に決めるべきではないと丈瑠は思っている。

 

「俺たち侍は、いつ何時死ぬか分からない。いつ命の危機にさらされるか分からない。だから、結婚相手も慎重に選ばなければならない」

「分かっているらしいな、丈瑠……」

 

 そう。これが理由で結婚を渋っているのだ。薫もまた結婚しないのはそれが理由。特に彼女は父を血祭ドウコクとの戦いで失っている。残されることになる人間の思いも、辛さも知っていたのだ。だから、結婚相手にはそれに耐え、そして進んでいけるような人間を望んでいるのだ。

 

「なら茉子やことははどうだ?」

「ッ! ゴホッゴホッ!」

 

 茉子もまたそのセリフにむせこんでしまった。

 

「身も心も強い人間だ。妻には申し分ない」

「ひ、姫……」

 

 とんでもない流れ弾が飛んできた物だ。というか、殿様が家臣と結婚したらそれはそれで世継ぎが面倒なことになるのではないのだろうか。

 まぁ、結婚問題に関しては今はさほど問題にする必要はない。

 本当は、今後どんな事件が発生するかわからぬ不安に満ちた場を和らげようとしたのだ。

 おかげで、二人ともかなり落ち着いたようだ。

 薫はこの後いくつか情報の交換を行なったのち、自らの屋敷へと帰る支度をする。

 怖くない。そんな事を言えば嘘になる。いや、恐怖心を忘れては命をかける侍などできないのだ。だから、彼女はいつだって恐れている。自分自身の身を、他者の命を。今回の危険は、いつものように分かりきった物ではない。だが、これだけは言える。

 もう二度と、この世界を外道衆の好きにはさせない。何があっても、どんな事があろうとも、民の平和を守って見せる。

 そう、丈瑠の背後にある志葉家の家紋に誓い、薫は屋敷を後にした。

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