SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
それが今、開示されます。
飛行機事故だった。英知は、アメリカに行くための飛行機に乗り込んで、引き取り先の夫婦と一緒にそこに行く途中の事。
海の真上で突如として爆発、炎上した飛行機。その中に乗っていた乗客乗員は全員が死亡、百二十四人がその命を落とすという大惨事となった。
当然、英知も死亡した。それを聞いたとき、フルムーンの心は、真っ白になった。両親を失って、もうそれ以上ないだろうと言うほどの絶望を味わったのに。それからたった四年後には、今度は、互いに夢を交わした相手が死んでしまった。
思い出そうとすると、泣いてしまいそうになって、心の奥底に封印してきた、そんな記憶。
でも、今となってはそれが希望となってしまったのは、皮肉な事である。
「私ね、ずっとずっと怖かった。声を失って、だんだん英知くんじゃない私になって、死んで行くのが怖かった。でも……」
というと、フルムーンはとても澄んだ、まるで雲一つない夜空に浮かび上がった満月に見えるクレーターのような笑顔で言った。
「このゲームに閉じ込められて、希望を貰ったんだ。声も失わずに、仮想の姿だけど私を保ったままで、英知くんに出会えるんだって……」
「……」
ユウキは、何も言葉が出てこなかった。いや、違う。これは、ユウキは自分の中にある感情と戦っていた。確かに、彼女の人生を決めるのは彼女自身。自分が、口を出したらいけないこと。
自分だって、彼女のようになっていた、いや可能性が高かった人間だ。でも、それでも。
「不思議だね。現実だと、悲しくて英知くんが死んだ事を、誰にも言えなかったのに、この世界だと涙が出ないからかな……分からないけど、でも、ね、私。怖くないよ。死ぬのはけして怖くない……≪英知≫くんが待っていてくれるから……」
「だめ、だよ……」
「……ユウキちゃん。ダメって言ってくれるのは嬉しいよ。でも……」
「違うよ!!」
というと、ユウキはフルムーンの前に立ち、その肩を持つと言った。
「最後まで生きようよ! 頑張って、英知さんの分まで……嬉しいとか、そんなんじゃなくて、後悔しながら……この世界が、楽しいって、そう思って、そう感じて、こんな楽しい世界から離れたくないって後悔しながら……」
「ユウキちゃん……?」
そう言うと、ユウキはフッ、と手を降ろして言った。
「私もね、両親と、双子のお姉ちゃんを亡くしてるんだ……」
「え……」
「発症してから、進行するまでが、あまりにも早かったって、お医者さんは言ってた。普段はこんなことにならないのにって、でも≪あのウイルス≫に罹って抵抗力を失ってたから! 免疫力が落ちてたから、お父さんとお母さんはすぐに、お姉ちゃんも、だんだんと……やせ細りながら……私もそうなるんだって、あの人に出会わなければその程度の人間で終わっていたんだよ!!」
「発症って……」
と、呟くと、ユウキはフッと笑うと。
「軽蔑、しないでね」
「え?」
「HIVだったんだ。四人とも」
「HIV……四人、とも?」
そして、それは草むらでこっそりと話を聞いていた他のパーティーメンバーの耳にも入っていた。
「……」
「グレース、本当なの?」
「うん……ユウキちゃん、それにそのお姉ちゃんの藍子さんの事はよく覚えてる……」
グレースは今でも覚えていた。ユウキの姉が自分が入院している病院に運び込まれてきた時の事、そしてユウキがとても悲しんでいたことを、よく覚えていた。
自分も、いつかはこうなるんだと、姉の藍子に嘆き、でも優しい笑顔で自分の分まで生きてと、言うその姿をずっと見て来た。
「お姉ちゃんは、どんどんやせ細っていった。私の知っている私じゃなくなった。それがとても悲しくて、でもそれでも私には、自分以上の、いい思い出を持ってって、私以上に頑張って生きてって言ってくれて……」
苦しかった。辛かった。グレースだって、そんなユウキの姿を見て励ましの言葉を少しくらいしかかけられなかったことを悔やんでいた。
自分もまた、原因不明の病気ー今となっては≪ビョーゲンズ≫というこの世界では未知の病原菌のせいだと分かっているがー、ソレのせいで当時は己も怖かったから、いつ死ぬことになるのか分からなくてそれどころじゃなかったから。
でも、それでも彼女がユウキと友達になろうとしたのは、心に強いものを持っていたから、のはずだ。
「でも、軽蔑ってどういう事でしょうか?」
と言ったのは、ぴの、である。彼女は人間の事を良く知らないからその言葉が出てしまったのだろう。あるいは、しかし周囲の人間はソレを無知であるが故の疑問であると捉え、先生であるフォーゼが言う。
「HIVってのはな、ヒト免疫不全ウイルスの事で、ヒトの免疫細胞に感染させて最終的に後天的免疫不全症候群に移行させる厄介な病気の事だ」
「その主な感染経路は、母子感染、血液感染、そして……性的接触」
と、グレースが言った。事ここに至って≪アライア≫達がいなくてよかった。そう、彼女達は思ったと言う。もしあの集団がいたのならばどのような言葉を発した事だろう。
「性的? あぁ、人の子を作るために男と女がまじ」
「ちょ、それ以上はストップ!!」
「地下とはいえ仮にもアイドルなんだから少しくらいは憚りなさいよ!」
安心した矢先に、これである。
カガミとアイドルの先輩であるチハヤはやはり無知なぽぽろんが危険な言葉を言う前に遮る。まぁ、彼女の本当の顔を知ってたら、人間の病気に関して無知なことと、それから人間を含めた多くの動物が行ってる情事などさほどきになることではないのだろう。
それはともかく、だ。
HIV、それは日々人間の事を脅かしているウイルスの一つであり、そして並びに今の医療の進歩では根治させることが難しいとされているウイルスの事。
そして、知識の浅はかな人間やそれに煽動された人間達によって偏見や不当な扱い、就職や職場での不利など、人権を侵害する事が多々あり、ユウキ達家族はそんな偏見と共に戦ってきたのだ。
バグスターウイルスのようにワクチンを作ろうとしたり、結核のように根治させる薬をつくるために日々努力をしている研究機関はある。でも、そのどれもが、完全なる成功には至っていない。おまけに、だ。
「ユウキちゃんのHIVは、寄りにもよって、出生の時の輸血用血液製剤に入っていたHIVで、薬の効きづらい≪薬剤耐性型≫って言うのだった。だから、薬でのコントロールも、できない、んだって……」
「そんな……」
「そして、もしそのHIVがAIDS、つまり後天的免疫不全症候群に移行したら、根治させる方法は……ねぇ……」
「ッ!?」
と、断言したフォーゼ。そして、その時にユウキの、藍子の顔を思い出して今にも泣きそうになるグレース。
「だから私、藍子さんと約束したの。その日が来るまで、ユウキちゃんが発症するまで、絶対、絶対いい思い出をつくるからって、最後はいい思い出をもって私の所に来てもらいたいって、藍子さんは、そう言って……」
「グレース……」
「「でも……」」
と、ユウキとグレースの言葉が重なった。
「奇跡が、起きたの……」
「き、せき?」
「うん……私のHIVは、根治された……」
「え……」
根治、ってどういうことだろうか。ユウキは、茂みの中でグレースたちが話しているのとほぼ同一の事をフルムーンに話していた。HIVの恐ろしさ、それをフルムーンも知っていた。でも、それが、根治。一体どういうことだ。
「誰にとっても、奇跡的だと思う。そう、うんあの日……私の所に、ある先生が来てくれた……」
あの時は、グレース、のどかちゃんもいたっけ。そう思いながら思い返すのだ。あの日の事を。
『ユウキ君だな……』
『え、うん……』
その人は、まるでクマみたいに大きな人だった。太くて、たくましい腕を持っていて、本当にお医者さんなのかって疑うくらいに大きくて、その人が言ったんだ。
『君の主治医に話を聞いてきた。君のお姉さんは……』
『分かってます。もう治らないんですよね。そして、私も、アソコに行くことになるんだよね……』
と言って、彼女が見たのは、姉が運ばれていった無機質な鉄のドアの向こうだった。
覚悟していたのか、あるいは、悲観的だったのから出た発言なのかは分からない。でも、その時にはもうユウキは諦めていた。でも。
彼は、言った。
『そうだ……しかし、それは何も手を打たなかった場合だ』
『え……』
『どういう事、ですか?』
その場にいたのどかも聞いた。当然だ。彼女も、ユウキの病気の事を聞いて調べた。HIVの事。まだ幼かった彼女では分からないことも多々あったが、少なくとも根治させることは不可能なウイルスである、と聞いていたから。
『ユウキ君、君は……生きたいか?』
『え?』
不思議な質問だった。だって、その言葉への答えは、一つしかないから。彼女の中にはたった一つしか存在しない。でも、ある意味彼女だからこそ、強く、言い放つことができる言葉だったから。
『生き、たい。お父さんやお母さんの分まで……お姉ちゃんの分まで、外の世界で生きて……いろんなところを見て、回りたい。のどかちゃんと、最後まで思い出をつくりたい……』
『ユウキちゃん……』
決して長くなくてもいい。でも、それでも残ったほんのわずかな日常。親友となったのどかと暮らす、ほんのわずかな日常を大切にしようと、そればかり思っていた。のどかも、そんな彼女の最後まで一緒に着いていてあげようと、そう思って、抱きしめる。悲しみであふれた少女たちを見た男は、スッ、と立ち上がると言った。
『そうか、その≪勇気≫、俺に預けてもらえないか?』
『え?』
『確かに、AIDSへの効果的な治療法は今もなお存在していない』
『だったら……』
『そして、HIVに対しても薬によってその効果を薄める事しか方法はないと、そうされてきた。だが……』
『だが?』
ギュッ!
そんな、音が聞こえてきた気がした。
本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。
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