SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
あの日、あのお医者さんが現れてから数か月がたった。その間にも、お姉ちゃんの病気はどんどんと進行していき、いつ死んでもおかしくないと言われるほどに悪化していた。そんな時の事だった。
私は、久しぶりにお姉ちゃんに会いに行った。のどかちゃんやのどかちゃんのお父さん、お母さん、そして一人のホームステイしていると言う女の子と一緒に。そのころ、のどかちゃんは既に別の町に引っ越していた。本当は、その時が来るまでそばにいると両親を説得していたそうだけど、私はのどかちゃんに、せっかく治ったんだから、一足先に外の世界を見て来てと言って、見送った。
のどかちゃんの病気は、原因不明のまま回復した。これには、お医者さんの蜂須賀先生も驚いていて、それと同時に私には蜂須賀先生の無力感を感じ取れていた。
蜂須賀先生は、私にとっても主治医だったから。あの時の、何もできない己を責める姿を忘れることなんて決してできない。
でも、その蜂須賀先生の願いが、私を救ってくれたと言ってもいいだろう。
無菌室の中、もうほとんど言葉も発することのできないお姉ちゃんに、私は言う。
「お姉ちゃん、聞いて……」
「……」
おそらく、もうこうして私の話を聞くのも辛いのだろう。でも、お姉ちゃんはそれでも笑顔で、私に顔を向ける。私は、ガラス越しに見える色々な管に繋がれてるお姉ちゃんに言った。
「あのね、私……治ったよ。本当に、もう、どこも悪くない。HIVは身体の中から消えたんだ」
その言葉に、お姉ちゃんが驚きではなく、不思議な顔をしたのを、今でも覚えている。そして、それと同時に涙を流したのも。
それは、悔しかったのか、いや違う。嬉しかったのだと、私は信じている。その後、私の事を治してくれたお医者さんが、お姉ちゃんに謝ったのも、よく覚えている。
「本当は、君やご両親にもこの治療法を施したかった。しかし、君たちの症状の進行が速かったのだ。申し訳ない」
「ど、う、やって……」
「お姉ちゃん……」
姉は、どうやって治したのか、そう呟いた。恨み言じゃないその言葉は、お姉ちゃんらしいものだったけど、言葉を発するのもようようの身体で、口で先生に聞いたのだ。先生は、一度目を瞑り、彼女にそれ以上しゃべらないようにと、彼女の体力の事を考えて止めると言った。
「幹細胞移植だ」
「……」
「今から十年前の事、アメリカ人のある男性がHIVと白血病を同時に発症した際、骨髄移植手術を受けた。白血病による骨髄移植手術自体は良くあることだが、その結果、HIVのウイルスもまた消滅したことが発表されたのだ」
「ッ!?」
その言葉に、お姉ちゃんは目元をぴくりと上げて、驚いている様子だった。
「これは、HIVのウイルスが細胞に侵入する際の足掛かりとなる特定のたんぱく質を持たないドナーからの骨髄を提供されたためと仮定された。それからHIV患者への希望となった。十年、症例はごくわずかだが、幹細胞移植によって寛解が発表された症例があった。蜂須賀先生は、それに望みをかけ、ドナー登録をし、そしてこの私を見つけ出したのだ」
「彼は、今この日本にいる医師の中でも一番の腕と知識を持っていて新しい術式にも詳しい。僕が無理な事だったとしても、彼だったらと……そう思った」
蜂須賀先生は、無力感の中にあっても決して諦めなかった。答えを見つけ出そうとしていたのだ。結果、この先生に出会えて、そして、幹細胞移植による治療法を見つけたのだ。
「医学の世界に置いて、賭けと言う物は決してあってはならない。それも、人間の身体を使った物は言語道断。新しい術式を確立するためにはいくつもの壁がある。だが、だからこそ、蜂須賀先生は、俺を頼ってきてくれたのだ。常に新しい術式を更新し、俺の村で≪公にはされていない≫はずのその術式を成功した、この俺に」
「先生……」
「……」
「そして、数か月前、ついに君たちに適合するドナーが現れた。残念ながら、既にAIDSを発症している君には、新しすぎる技術であることもあって適応外だった。だが、君の妹、ユウキはまだAIDS発症前で間に合う状態にあった。だから、俺はすぐに彼女にこの幹細胞移植を実施したのだ!」
幹細胞、それは失われた細胞や、再び生みだして補充する能力を持った細胞の事で、皮膚、赤血球、血小板等人間を構成する様々な細胞を作り出す能力、また全く同じ能力を持った細胞に分裂することができる能力を持った細胞の事だ。
故に、この細胞は全ての人間に存在していると言ってもいい。幹細胞移植とは、別のドナーの幹細胞を患者に移植することによって病気や損傷した組織を修復、再生させる一種の再生療法の事。
その方法は三つあり、血液の下となる造血管細胞を移植する造血管細胞移植。
血中の造血管細胞を採取し移植する末梢血幹細胞移植。
そして、三つ目が、皮肉なことに、ユウキを救ったものは―――。
「今回、ユウキ君に使用されたのは、臍帯血、つまり新生児と母親を繋いでいる臍帯の中にある血の事だ」
瞬間、その場にいた人間全員の顔が歪んだのを覚えてる。当然だろう。
「臍帯血には、造血管細胞が多量に含まれている。故に、白血病や再生不良性貧血といった血液の病気に利用される。今回、そのドナー登録されている患者の中で、尚且つHIV耐性を持つ臍帯血がユウキ君に移植された」
奇跡的な確率だった。人間の細胞の中には、CCR5、C-Cケモカイン受容体5というHIVを含めた多くの感染症の感染プロセスに関わりのある受容体が存在する。
具体的に言えばHIVの外膜にあるgp120というタンパク質がまずCD4受容体に結合し、その後CCR5に結合することでウイルスが細胞内に侵入ふる。このプロセスが阻害されると、HIVは細胞に侵入できなくなる。
本来、これはCCR5の異常であり、主にヨーロッパ系の人々に多く見られるものであり、日本人でこの異常がある人間はごく稀と言われている。
臍帯血移植自体はHLA、ヒト白血球抗原が一部の一致でも移植が可能であるが、それでも適合する臍帯血を見つける事自体難しい。
それに加えてのCCR5の異常があった臍帯血。それを見つけたのは、まさしく奇跡的といえよう。
「術後数ヶ月経ち、彼女の中にあるHIVは検出されなくなった。しばらくすれば、薬すらも飲まなくてもよくなるだろう」
「そ、れじゃ」
「私、生きれるんだよ。お姉ちゃんの分まで、お母さんやお父さんの分まで……だから……」
ユウキは、座っている膝の上にポタポタと涙を落としながら言った。自分一人が、生き残ることができるという嬉しさと、ほんの少しの罪悪感を用いながら。
「おかしいよね、あの時まではお姉ちゃんの分まで少しでも長く生きるって意気込んでいたのに、治ったら、お姉ちゃんにも生きてもらいたかったって思うなんて、おかしいよね……」
本当だったら、姉にもこの方法を試してもらいたかった。それは、移植を担当したその先生もまた同じことを言っていた。もっと早くにこの方法が確立されていれば、なによりこの方法が一般的となっていれば彼女もまた救えたかもしれない命。
この方法は先も言った通りまだまだ新しい術式。先の症例もまた、HIVと白血病が並行して発症している際に、白血病の方を治すために幹細胞移植をしたら、偶然HIVが寛解したと言う奇跡的な発見によるものだった。
だから、世界の国々ではまだこの方法が一般化されていない。むろん、この日本でも。術者が、ある意味で≪この先生ならできるかも≫という期待があったからこそ許された術式だった。
彼も言った通り、一か八かで手術をするなんてことはできない。世界で少しばかりの症例があったからこそ、この手術に臨むことができた。もし、手術をしなかったら、一人の女の子の命を救えないと、考えたから。
「ごめんね、私。そっちに行くの遅くなっちゃう……お父さんとお母さんと、お姉ちゃんに会うの……もっと、もっと遅くなっちゃうんだ。だから……」
「ゆ、う、き……」
「ッ!」
その時だ。姉はゆっくりと、一言一言に思いの丈を乗せて、ハッキリと呟いた。ハッキリと、そして全ての文字に自分の命を乗せるかのように、重く、呟いた。
「お、め、で、とう」
「お、姉ちゃん……」
祝福してくれている。ある意味裏切り者となってしまった自分の事を。違う。裏切り者だと、自分を思わなかったら家族に悪いと、そう思っていた自分の事を、彼女は心の底から祝福してくれたのだ。
それが、ユウキの心を救ったのかもしれない。
「藍子さん! ユウキちゃんの事は心配しないで!」
といったのはのどかだ。のどかのその言葉に続いて、彼女の両親も、そしてホームステイしていた少女も言う。
「ユウキちゃんは。私たちの家で預かることにしたわ。貴方たちの実家も、ユウキちゃんが大人になるまで残るよう、ご両親がお金を残してくれてる」
「安心してくれ。僕たちの街には、とても優しいのどかの友達や、町の人たちがいる。だから……」
「藍子……命とは、ここまで重く、受け止めなければならない物なのですね。私は、また、学ぶことができました。私も、ユウキの友人として……傍にいます」
「藍子さん! ユウキちゃんには、ずっと私がいるから! だから、だから、藍子さんも……」
頑張って。そんな言葉、出るはずがなかった。だって、彼女はもう十分頑張ったのだから、戦ったのだから。病と、偏見と、戦い続けてきたのだから。だから、だからのどかは、流れる涙を拭くと言った。
「ッ……今まで、お疲れ様。藍子さん」
その時、お姉ちゃんの目が潤んだような気がした。安心したのだろうか。彼女は、必死に首を私の方に動かした。
「……ゆう、き」
「ッ!」
この時、彼女が何を思ったのか、それをうかがい知ることはできない。だが、それでも、彼女は最後にその言葉を残した。
「た、くさん、の、おもいで、き、かせて……む、こう、で……」
「ッ、うん……うん!」
この言葉に、ユウキは決意したのだ。最後まで生きることを。最後まで、両親と姉が生きれなかった分まで生きることを。HIVが無くなったとはいえ、まだ免疫力が落ち込んでいるのは確かなので、他の病気にかかって死ぬ可能性や、事故によって死ぬ可能性だってある。
でも、それでもそうなってもいい。そうなっても後悔しないと思えるくらいの生き方を、姉や両親の分まで生きる生き方をする。そう、ユウキは彼女に誓ったのだった。
後悔のない人生なんてない。それを一番彼女は知っていたから。それを、ずっと間近で見て来たから。だからこそ、後悔を減らす道を、彼女は選んだのだ。
最後に、藍子は聞く。
「お、い、しゃ、さん……な、まえは?」
と。冥途の土産。父や母に、ユウキを、もう一人の娘を救ってくれたのが誰なのかを伝えるために。
男性は言った。
「K……神代一人だ」
「け、い……」
数日後、彼女は安らかに天国へと旅立った。ユウキという希望を胸に抱いて。
彼女の葬式は、こじんまりとしたものだった。ユウキが喪主を務め、彼女の親戚筋からの出席者が四人であるという事もあって、彼女たち家族がどれだけ迫害されていたのか、分かることだろう。
でも、友達は多かったのが、幸いだった。その多くが、ユウキの友達ではあったけれど、でもユウキのお姉さんのお葬式に参加しないなんてと、のどかやのどかの両親。そしてその友達。それに、藍子の知り合いだったと言う人間も参加した。そして、主治医だった蜂須賀先生と、ユウキの執刀を担当してくれたK、神代一人先生も来てくれた。
産まれてからずっと病気と闘い続けて来た、その少女の冥福を、皆で、祈った。その願いが、空高くに届くと信じて。
その日は、晴れだった。まるで、空の上から自分と、自分と仲のいい友達を見てくれているかのように晴れ晴れとしていて。
ユウキとのどかは、その空を見て微笑むのだった。
≪今から十年前の事、アメリカ人のある男性が〜≫→本当
≪人間の細胞の中には〜≫→調べた結果概ね本当
≪ユウキとグレースの同居≫→この小説の中では本当=ユウキはヒーリングっとプリキュアの物語に介入してる=ユウキは(キュア)グレースの正体を知ってる
≪今この日本の創作物の中でこの術式ができるであろう、日本で一番医療分野に詳しい。尚且つ読者がその名前を聞いたら『あぁできそうだな』と説得力のある人物≫→K!
てことで、奇跡を起こした男と共に参戦!
K2
ちなみに登場人物は原作の連載が現在進行形のため全員SAOの外にいます。
本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。
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