SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
外は、あの涼しくて、でもとても胸を焦がすような秋から冬になろうとしていた。
今日のおやつ、彼女は気にいるだろうか。そう考えながら彼女の家に向っていたれいかは、ふと、自分の手元に雪のようなものが落ちて来たのを幻視する。まだ、そんな季節には早いと言うのに、ソレを彼女の目に見せるのは、きっと自分の心がソレを望んでいるから、なのだろう。
全てを氷で包み込む雪のような冷酷さを、冷徹さを持て。そうすれば、自分がこれ以上傷付くことはないのだと、知らせてくれているのだろう。
でも、そうはいかない。なぜならば、彼女は大事な友達、大切な友達なのだから。決して、無下にすることなんてできはしない。
そう、例えその心が二度と戻ってこないとしても―――。
「……」
彼女の母親である女性は、リビングで一人、コーヒーを飲んでいた。家事洗濯全部を終えて、残った仕事と言えば、娘の衣服の洗濯だけ。でも、彼女は服を着替えようとしなかった。
いや違う。彼女は今、部屋から出てくることはない。
あの日から、ずっと彼女は部屋の中で一人過ごしていたのである。ただ一人、ずっと、ずっと毎日。何かを書きなぐるような音は聞こえてくるのだが、しかしそれ以外には何も聞こえてこない。
持っていく朝ごはんや晩御飯も、全く手をつけず、トイレにも行っているのかも把握できない程に、彼女はその部屋から頑なに出ることを拒んでいたのだ。
でも、自分には何もできることがない。それが、彼女の母親、星空育代の悩み、そして、罰。彼女は、もがき苦しんでいる。娘ももがき苦しんでいる。でも、何もできない。それが辛くて、悔しかった。
そんな時、ドアのチャイム音が耳に聞こえて来た。また、あの子が来てくれたんだ。そう思った育代は、玄関に向かう。そして、その先にはやはり、れいかの姿があった。
「お邪魔します、育代さん」
「れいかちゃん。毎日、ありがとう」
「いえ……」
といって、れいかは彼女の家、星空家の中に入っていった。
育代が言った通り、れいかは毎日この家に通い続けていた。毎日この家に足を運び、毎日彼女に会い、毎日彼女の言葉を聞くために。
不思議なことに、育代すらも入ることを許されない彼女の部屋に、れいかだけは入ることが許された。いや、もしかするともう二人の仲間や、自分たちだけが知っている秘密の友達でもいいのかもしれないが、しかしそれを試したことはない。試して、それで何かが好転してくれればいい。でも、もし悪化したら、これ以上悪化したら、そんな不安が、彼女の中にあったから。だから、ほかの仲間たちには断りを入れ、自分一人があの子に出会う。
ソレで何も、変わらないと言うのに。
「みゆきさんは……いつも通り?」
「えぇ……」
やっぱり、か。れいかは予想通りの答えに残念そうに眼を下にそむけるしかなかった。彼女は育代に言う。
「今日も、行ってまいります」
「お願いね」
許可を貰ったれいかは、ゆっくりとした足取りで、彼女の部屋がある階段を上った。そして、彼女の部屋をトン、トン、トンと叩き言う。
「みゆきさん。れいかです」
数秒の沈黙が流れる。そして、中から、鍵を開ける音が響き、ドアがゆっくりと開いた。
「あ、おはよう。れいかちゃん」
「もう、午後ですよ。お菓子と、それから色鉛筆……買ってきました」
「わぁ、ありがとう」
みゆきは、≪エガオ≫でソレを出迎える。れいかはそれを痛々しそうに見てから彼女の部屋に入った。
薄暗い、電気も何もつけておらず、カーテンで閉め切られた部屋の中。以前、SAO事件が始まる前にも幾度となく彼女の部屋に入ったことはあったがしかし、灯のあるなしとでは全然印象が違う様に見えるのは人間の真理として恐ろしいところだ。本棚の中から覗く光がなかったら、きっと何も見えないのだろう。いや、光と言っても目に見える光線ではない比喩的なものなのだが。
みゆきは、れいかからもらったお菓子の方には目もくれず、れいかが買って来た色鉛筆を取り出すと。それで、絵を描き始めた。
いつもと同じ行動だ。れいかは、床一杯に敷き詰められた紙の束と、端の方に無造作に置かれたお菓子の袋を見た。
たくさんの絵が描かれていた。友達と一緒に手を繋いでいるであろう絵。虹のような物の下で友達とキャンプをしているであろう絵。それと、友達と一緒に学校に行っているであろう絵。
あろう、絵。どうして確定できないのか。それは一目見れば分かる通りだ。
全部が全部、抽象的であったから。それに、虹に関しても彼女からそうと言われなければ気づけない程に禍々しいものになっていたから。こんなの、前の彼女だったら考えられないことだった。
よく見ると、床には大量の色鉛筆の束がばらまかれていて、鉛筆削りで削ったカスもあるようだ。しかし、彼女はそんなことに気にもとめないで、一心不乱に絵に向っていた。
まるで、それが自らに対する罰であるように。
「みゆきさ」
「れいかちゃん」
れいかが、みゆきに何かを問うよりも先だった。彼女は≪エガオ≫で聞いた。≪黒≫の鉛筆で、絵を描きながら、瞳孔が開き目から輝きを失い、三日月の口元を曝け出しながら聞いた。
「あかねちゃんやなおちゃん、それにえりかちゃんはまだ生きてる?」
「……えぇ、もちろんです」
「そう、よかった」
あかね、なお。この二人は彼女の友達であり、そして今回のSAO事件に巻き込まれた人間だ。二人も他の多くの人間の例にもれず、病院に集められて、監視体制がとられている状態。なので、その身の安全は保障されているが、しかし彼女が聞いたのはそう言う事じゃないのは確か。
「三人が死んで、私が生きてるなんておかしいもんね」
「……」
れいかは、答えることができなかった。勿論、可愛そうになんて同情することもしなかった。だって、彼女の気持ちは自分だって痛いほどに分かるのだから。
いや、分からないか、彼女の気持ちは。だって、自分は誰かにSAOとナーヴギアを渡したわけじゃない。誰かを死地に送り込んだわけじゃない。誰かを、危険な目に会わせてたりなんてしていない。
それに、彼女のように一心不乱に絵に取り組めるほどに冷静ではいられてない。現に、自分が部活動として、そして精神統一の一環としてやっていた弓道の方も最近は的に当たる事すらも困難になってきていて、あまりにも自分の集中力が乱されていることが分かっていた。
さらに言えば、一心不乱に絵に取り込んでいる彼女の事を冷静である、とも言えない。だって、彼女の絵は全部。
≪イロがない≫のだから。
そう、全部黒。クロクロクロ。全部が全部モノクロの絵で書きなぐられていて、カラフルな絵を描けていた彼女の過去とはまるっきり別物となってしまっているから。そう、だから黒以外の色は全部床に放り散らかしているのだ。自分の心を染めている黒以外の色なんて、必要がないから。
そして、書いている絵だってそう。全部が全部、誰かを描いているのは確かなのだが、誰を書いているのか分からない。なぜなら、彼女の書いている絵の顔は全部≪クロで塗りつぶされている≫から。まるで≪笑顔≫を掻くことを禁じているかのように。黒以外の色がないように。笑顔と言う世界を彩る物が、この世界にあってはならないかのように。
「ねぇ、れいかちゃん」
「……なんでしょう」
みゆきは、絵を描く手を止めることなく聞いた。
「れいかちゃんは、ずっと私の傍にいてくれるよね?」
「……」
「ずっとずっと、死んでも一緒にいてくれるよね? れいかちゃん」
「みゆきさん……」
れいかは、涙をこぼすのを我慢する。だって、ここで泣いてしまったら、彼女があまりにも、あまりにも、不憫だと、そう思ってしまうから。勝手なことに。
星空みゆきは暗闇の中にいた。もしこれが、一年前の戦いのときにあったら敵に付け入るスキとなっていたであろう。それくらいに彼女の心は真っ黒に染まっていた。未来は、黒く塗りつぶされていた。
闇は、心を支配していた。
本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。
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