SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
プロデューサーは、その放送が流れた後の喫茶店の様子について、あまりよく覚えていなかったと言う。
覚えているのは、茅場晶彦の発した全部の言葉と、そして自分の所にもしかしたらナーヴギアが届くかもしれないと言う淡い期待だけだった。
そして、その背後にいた少女アスミはそのテレビの向こうに消えた茅場晶彦を見なければならなかったために、彼の背中を見続けるしかなかった。孤独との戦いに負けそうな、哀れな一人の男性を。
風鈴アスミと、名乗った、プロデューサーの目の前に倒れて来た少女。聞くところによると、どうやら疲れたから倒れた、というわけじゃないらしい。そもそも自分には疲れたと言う感覚はないと言う。よく分からないことだが、ともかくその場で彼はアスミに言った。
「アイドルに興味はないか?」
と。
しかし、アイドルと言う物をアスミは理解してくれなかった。そもそも自分がスカウトされたと言う認識すらもなかった。ただあったのは、彼の心がすさんでいるという確かな感覚。
本当ならすぐに立ち去ってもよかった。でも、やはり一年間≪この世界≫にいたから、彼女たちと出会い、話していたからなのだろう。彼女は一度話を聞いてみるために彼に着いて行ってみることにした。
そして、二人が入ったのは喫茶店。本当なら、事務所の方に連れて行きたかったとプロデューサーは言っていたが、しかしその場所から事務所までの距離を考えた結果、近くにある喫茶店に入ることにしたのだ。運が良かったのは、そこが動物も入店が許可されている店であり、彼女がその手に抱いている子犬も一緒に入ることができたことだった。
そこで、プロデューサーは驚きの光景を目の当たりにする。彼女が頼んだのは、普通のどこにでもあるようなパフェ。それ自体は何もおかしい物はない。
しかしだ、それが消えるスピードが尋常じゃなかった。まるでブラックホールにでも吸い込まれて行くかのように消えていくアイスクリームと恐らくかさましのためであろうコーンフレークの山。そして、彼女からはお代わりの要求が出て、瞬く間に空っぽになったグラスがテーブルの上に並んでいった。
この子、もしもアイドルとして活躍するのなら大食いアイドルにもなれるぞ、そうプロデューサーが思ったのは当然の事なのかもしれない。ふと、自分の財布の紐の心配をしようとしていた時だった。
「そ、そう言えば君の親とも話をしないといけないんだけど、連絡先って教えてもらえるかな?」
恐らく、あまりも高速で積み上げられていくグラスに動揺したのだろう。これでは何かの勧誘と間違われてもおかしくはない。いや、実際にアイドルへの勧誘なので何も比喩になっていないのだが、ともかくもしも本当にこの子をアイドルとして迎え入れるとするのなら、だ。彼女の親とも会っておかなければならない。そう思っての発言だった。
一方で、アスミはパフェを食べる手を一度止めると、とてもさわやかな風のような表情で言う。
「私の親は地球です」
「……え?」
ちょっとキャラが濃すぎないかと、プロデューサーは心配になってしまった。
そもそもアスミをスカウトしようと思ったきっかけ、それは彼女の美貌だけじゃない。765プロに所属している今のアイドルの、つまり仲間たちの居場所を新しく作るためのきっかけが欲しかったから。つまり、新しいアイドルを入れて、プロジェクトSAOに加担したアイドル達という汚名を少しでも薄くするための、自分でも姑息とも思えるほどの作戦の一つのためだった。
しかし、だ。大食いに加えて電波系の発言までする女の子、これはこれでもし本当にスカウトが成功して765プロに所属してもらったとしても、あまりにもキャラが濃すぎて他の仲間たちを喰ってしまうのではないだろうかと、そんな心配が出てきてしまった。
とにかく、だ。スカウトするしないにしても、まずは彼女の事を深く知らなければ。とはいえ、親が地球何て発言する女の子に何を聞いたらいいのか。
「そ、そうだ友達は? いるのかな?」
「友達、ですか……?」
不思議な顔をしたアスミ。当然だろう。親の事を聞いて今度は友達の事なんて、これははた目から見ても怪しい勧誘にしか見えない。彼女だってそう思うだろう。これは望み薄だなと、彼女が食べたパフェの代金の方に目を向けていた時だった。
「ゲームの世界に行っていない友達であるのなら、一人だけ」
「え……」
その一瞬、プロデューサーの顔は凍り付いてしまった。あたかも、先ほどまでパフェの上に乗っていたアイスクリームのように凍え、固まってしまったかのように。
其の時、プロデューサーが飲んでいた水の中に入ってた氷がカランと音を立てて滑り落ちていった。
それから十数分後、彼女の友達であると言う女の子が来るまで、二人は少しの間だけ話そうと言うことになった。その時の、茅場晶彦の声明だった。
正直言って、あまりにも衝撃的な話だった。現在もナーヴギアとSAOを持っている人間に遅れてログインさせるチャンスを与える。それだけじゃなく、約五百人もの人間を無作為に選んでその二つを送り付けるなんて。まるで、地獄への新しい切符のような、そんな気がした。
でも、プロデューサーはどこかそれに期待してしまっていた。なぜなら。
「貴方も、大切な友達をゲームの世界に囚われているのですね」
「ッ!」
「そして……その世界に行きたいと思っている」
戦慄が走った。アスミは、自分が思っていたことをずばりと言い当てて来たからだ。覚悟を決めたか、あるいは諦めたかのようにプロデューサーはズズ、とイスに深く座ると言った。
「仲間が、七人もSAOに囚われたんだ……」
「仲間、ですか……」
「あぁ……事務所の、大切な仲間たち。俺がプロデュースしているアイドルも大勢……」
「そうだったのですか……私と同じですね」
「……」
「私は友達が二人、いえ≪あの子≫と、友達の親友も含めると四人ですか……ゲームの世界に囚われたそうです……」
「そう、なのかい?」
「えぇ」
四人。ここで大事になるのは囚われた人数ではない。彼女もまた、大切な友人をSAOの世界に囚われてしまったと言う事実だけだ。
けど、とプロデューサーは何か彼女の言葉に不審な点を持った。
「そうです?」
「……」
囚われた≪そうです≫。推定の意味を持つ単語だ。どうしてそんな言葉を使うのだろう。どうして、確定で言葉を繋がないのだろう。
「実は私、普段は遠い国にいて連絡手段もあまりないのです。少し前にこの地球の友達とお話をしようとした時に、ソレを知って……」
「そう、なのか……」
つまり、彼女は人づてに自分の大切な人たちがSAOに囚われたとしか聞いていないと言う事、か。果たして、それが幸運な事なのか、それとも不運な事なのか、彼には判断することができなかった。
アスミは、窓の向こう側にある晴れ渡った空を見上げながら言った。
「辛い事です。元々なかなか会う事ができない友達が、さらに会うことができなくなってしまっただなんて」
「……」
不思議と、彼女からは悲壮感と言う物を感じなかった。むしろ、どこか淡い期待を持った、そしてなにか確信に近い物を持った期待の目をしている。そんな風な気がした。
きっと、信じているのだろう。その友達が無事に帰って来るのだと、何年かかっても、必ずこの世界に帰って来るのだと、信じて疑わないのだろう。
「信じましょう。無事に帰って来ることを」
「それじゃ、ダメなんだ……」
「え?」
プロデューサーは振り絞るような声で言った。そう、それじゃダメなんだ。無事に帰って来ただけじゃ、それだけじゃアイドルとしての彼女たちは死んだままなんだ。
アイドルは輝き続ける物。輝き続けなければならない物。輝きを消されてしまったら、もう一度その輝きを取り戻すには途方もない時間がかかると言う事。下手をすれば二度と―――。
「皆がいる場所を、いられる場所を守らなきゃ、だめなんだッ!」
「……」
彼は、再び振り絞るかのような声で発した。まるで、自分に言い聞かせているかのように、まるで自分自身を鼓舞するかのように。そうしなければ、崩れ落ちてしまいそうなほどに、彼の言葉は彼自身の中で反響するのであった。
「そのために、他者を、つまり私を利用しようとしているのですか?」
「ッ……」
と、アスミに言われてプロデューサーは言葉を失った。なぜなら、彼女の言う通りだから。自分は、誰かのために、仲間たちのためにという大義名分を付けて、誰かの人生を勝手に弄ぼうとしていた。
アイドルと言う物は過酷な世界だ。誰からも知られ愛される存在になれるかもしれないという期待と、しかし誰からも見向きもされずに、見送りもされずに人知れず去ってしまうかもしれないと言う恐怖と戦いながら続ける仕事。
そして一度炎上してしまえば、今の仲間たちのように干され、バッシングを受け、そして道を歩くことすらも困難となってしまう。そんなとても恐ろしい、甘美な香りしか残さない世界。それが、アイドル。芸能界。
自分は愚か者だ。そんな過酷な世界に、彼女を勝手に、仲間達と言う理由を使ってハエトリ草のように誘おうとしていたなんて、彼女の原石のような煌めきに、心を揺り動かされていたなんて、自分は、最低な男だ。
そう、彼が思っていた時だった。
「アスミ! ラテ!!」
「ちゆ」
「ワン!」
彼にとっては、頭脳を揺さぶるかのような轟音とともに、一人の女の子が喫茶店に現れたのは。彼女が、アスミの友達なのだろうか。ちゆ、と呼ばれた少女はアスミの下に駆け寄る。
「どうしてこっちの世界に……だって、アスミとラテは……」
「こちらの世界でやるべきことがあった。ただ、それだけです……あ、紹介が遅れました。こちらの男性は、プロデューサーさん……」
「ど、どうも……」
と、取り合えず紹介された手前、お辞儀をしたプロデューサー、その瞬間だった。
「私をアイドルにしてくれると言う方です」
「「……え?」」
思わず、プロデューサーとちゆの二人は言葉を重ねてしまった。アスミはそんな自分たちに対して儚げに微笑みかけるだけ、であった。
本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。
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