SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
少女は、目を開けるとすぐさま自分のま隣を見た。やっぱり、誰もいなかった。知っていたことだ。三週間前のあの事件以来、自分の隣は、心にぽっかりと空いた穴のように何もなくなっていて、空虚感のようなものを感じていた。
少女、明石薫はもう中学三年生。子供ではない。子供であると言える時間は、そう長くはない。だから、いつものように、前のように彼女たち二人と、幼いころからずっと仲のいい二人と一緒に寝るというのもあとわずか、そう思っていた。
でも、それがこんなにも早く来るなんて、思ってもみなかったじゃないか。
三週間前までは、仲良く、皆で一緒に寝ていたじゃないか。狭いとか、暑苦しいとか、色々言われながらも笑顔で、一緒に寝て、一緒に起きて、一緒に、皆本をからかったりして遊んで、任務に出て、それなのに。
「葵、紫穂……」
薫は、今もデスゲームの世界に囚われている、少し前まで同居していた二人の少女の名前を呟いた。
もはや、これが日課になってしまっていると言っても過言ではないだろう。後は普通だ。普通に服を着替えて、普通に台所に行って、普通に≪勝手に作った隣の家との間のドア≫を通って皆本のところに行く。
そう、それが普通だった。
何かおかしい文面があった様な気がするのだが、それは置いておくとして、だ。しかし、その日は決して彼女の知っている普通の日ではなかったのだ。
「え……」
彼女の家の台所に、奇妙な物が置かれていたのである。昨日まではなかった段ボール箱。それが、台所の机の上に置かれていた。薫は、恐る恐るそれに近づいた。もしかすると爆弾かもしれない。そう思いながら、ゆっくりと近づいて、すぐに逃げられるように、あるいは超能力によるバリアを張れるようにして近づいていく。
見ると、どうやら手紙も一緒に置かれているようだ。薫は、ソレを手に取ると中身を確認した。
そして、背筋が凍った。
≪拝啓 明石薫様
等と堅苦しい物言いは無しにしよう。私は茅場晶彦。SAOの開発者だ。君も知っての通り、私は先日数百人の人間に向けてSAOとナーヴギアを送ることを宣言した。そして、目の前に置いてある段ボール、その中身が、ソレだ。君は、いや、君たちは選ばれた。ソレを使うかどうかの判断は、君に任せる。ただ一つ注意してもらいたいのが、このナーヴギアは君にしか作動させることができないと言う事だ。簡単に言えば、君専用の切符、と言ってもいいだろう。君以外の人間には扱えない代物、君でなければSAOの世界に行くことはできない。もし君以外の人間が使おうものなら、ナーヴギアのマイクロ波によってすぐにその人間の頭を焼き切ることになるだろう。何度も言うが、君がこれを使うかどうかは自由だ。しかし、もしも大事な友人を、仲間を取り返したければ≫
「私の世界に来い……茅場……晶彦」
薫は、読んでいた手紙を握りつぶす勢いで力を込めた。ふざけるな。何が自分専用の切符だ。そんなの、地獄への片道切符も同じじゃないか。
超能力も使う事もできない、自分の運動神経も通用しない、体験することができなかった普通のノーマルとして過ごすことができる世界。確かにソレに最初は魅力を感じたかもしれない。
でも、今は違う。
今は、ソレは自分にとって仲間たちを沢山吸い込んだ悪魔の掃除機と言ってもいい物。
ソレを使って、仲間を取り返しに来い、大事な友人を取り返しに来いだと、馬鹿げている。
でも―――。
「薫!」
「皆本ッ!」
と、その時だった。隣の家、に通ずるドアから一人の男性。皆本光一が入ってきたのは。彼は、薫の姿を見るとはぁと息を吐いて膝に手をついた。
「よかった、使ってなかったんだな」
「あぁ、私も皆本にこれのこと……って、え?」
薫は一瞬不思議な気持ちになった。どうして、≪使っていなかった≫ことに安心したのか。つまり、彼はこれが、SAOとナーヴギアと思わしきもの―まだ中身を見ていないからそう書いている―が薫の下に届いたことを知っていたと言うことになる。けど、どうして。
まさか、薫の背筋に何か言い表せない不安のようなものを感じた。
「皆本、まさか……皆本の所にも……」
と、薫が恐る恐る言葉を紡ぐと、皆本はキリッとした表情に変えていった。
「あぁ、俺の所にも届いたよ。茅場晶彦からSAOとナーヴギアが」
「ッ!」
やっぱり、そうだったのか。薫は、自分の推測が正解だったことの安堵と、そのショックに崩れ落ちそうになる。だって、知っているから。彼の性格を。知っているから、彼がこの後何をするのか、予想できるから。
「今ティムに中身の確認をしてもらっているが、どうやら、本当に中身はSAOとナーヴギアらしい。薫は、触るなよ」
と、皆本は近づきながら言った。ティム、というのは以前にも出てきたかもしれないが、バベルに所属しているエスパーの一人。合成能力者。幻覚やテレパス、念動力を同時に用いることによって物をおもちゃのように操作することができる人間、そして皆本と同居している人間だ。
なるほど、彼の能力だったら爆発物処理班が使うようなロボットのように遠くから安全に段ボールを開けることも可能であろう。皆本は中身が偽物で、爆弾テロの可能性もある、そう考えていたのかもしれない。薫には何もかもお見通しだった。そう、なにも、かも。
「皆本……」
「なんだ、薫?」
薫は、皆本の服の袖を掴むと言った。
「もし本物だったら、行くんだろ? SAOに」
「ッ……」
皆本は、一瞬図星を突かれた表情を見せた。やっぱり、そうだったか。本当に彼は分かりやすい性格をしているものだ。それは、彼と彼女たちとの関係が深いことの表れでもあるのかもしれない。普通の人間だったら気がつかない程些細な反応だったかもしれない。
でも、分かってしまうのだ。彼との関係が、深いばかりに。
「最初はただの調査だった。だから、安心して葵や紫穂を送り出した。でも、今は違う! だから、行くんだろ……皆本はさ」
「……あぁ」
確かに、最初のSAOにバベルのエスパーが関わった理由は、宇宙警察からの捜査協力があったから。ただのゲームだと思い込んでいたから。だから、皆本も葵と紫穂、そしてザ・ワイルドキャッツのナオミやザ・ハウンドの小鹿と初音を笑顔で見送った。
でも、今は違う。SAOがただのゲームじゃない。デスゲームだと知っている。これが、とんでもない大事件であるとすでに把握している。
そんな状況で、その世界への切符ともいえるナーヴギアとSAO。そして、皆本の責任感。これを合わせれば出てくる答えはそう難解な物ではない。
皆本は、絶対にSAOの世界に行く。皆を、死の世界に送り込んだその償いとして、笑顔で見送ったその咎を自らに課そうとしているのだ。
因みに、この時点で宇宙警察はSAO事件への介入はほとんどないに等しかった。所詮地球という場所で発生した一事件という認識なのだろう。宇宙警察の人間も二人、巻き添えになってしまっていると言うのに、宇宙警察本部からは、地球以上の大事にならない限りは、介入するなと言われてしまったと、地球署の責任者であるドギー・クルーガーは言っていたそうだ。
それは、置いておくとしてだ。
「皆本、私も連れていけ」
「薫……」
「私だって、葵や紫穂の事が、みんなの事が心配なんだ! 耐えきれないんだ! だから……」
「……ダメだ」
「なんで!!」
「ただでさえ超度7の人間二人が囚われているんだ! この状況で、確率変動値7の事件が起きたら薫一人で対処しなければならない。なのに、その薫までSAOの世界に行ってしまったら、この世界を誰が守る!」
「それは……」
以前にも話したが、確率変動値7の事件を覆すことができる超度7のレベルを持っている日本のエスパーは、ザ・チルドレンの三人だけ。つまり現在この日本にいるのは明石薫ただ一人。そんな彼女までSAOに囚われてしまったら、一体だれが確率変動値7の事件を解決するのか、多くの人々を守ることができるのか。
薫しかいないのだ。彼女にしか、できないことなのだ。彼女でも、無理かもしれないことなのだ。でも、それでも彼女に頼るしかないのだ。だから。
「だから、すまない。薫」
「皆本……」
薫が欲しい言葉は、そんなものじゃない。皆本はそうとも気がつかずにその言葉を発して、机の上の段ボールを持って行き、隣の部屋へと入ってしまった。
一人取り残された薫。果たして、彼は気がつてしまっているのだろうか。
「それじゃ、今度こそ私一人ぼっちじゃん……」
彼女の中の空虚が、また一つ増えるという、その事実に、そのことで彼女が傷ついていると言う事に、果たして、気がついていたのだろうか。それは、はなはだ疑問である。
薫は、おもむろに携帯端末の中に入っている、ザ・チルドレンの写真を取り出すとソレを見た。
もう、集まることがないかもしれない、その四人の姿を、笑顔で写真に写っているその姿を見て、一人涙をこぼすしかなかったのである。
今回からは、長編の外伝の中でも中編に値する≪一組のグループ≫に視点を当てる回の一つ、今回は≪超能力者編≫です。
因みに前回の少女の話、前々回のシノの話みたいなものが短編となります。
本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。
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