SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第二十一話

 自分は、正しい判断をしたはず。そう信じるしかない。例え、それで彼女が傷ついたとしても、皆本はそう考えながら、バベルの用意してくれたヘリコプターの背部の椅子に座っていた。

 

「皆本さん」

「柏木さん……」

 

 前には、現在抜け殻状態になっている桐壺の代わりにバベルをまとめ上げている柏木の姿もある。彼女は、携帯型タブレット端末を使用しながら彼に言った。

 

「貴方は正しい判断をしたわ。事実、超度7の力がなかったら解決できない事件がある以上はせめて……薫ちゃんがこの世界にいる事は最優先にしなければなりません」

「そう言われると、救われます」

 

 皆本はそう柏木に言った。

 そう、救われる。自分は確かに正しい判断をしたはずなのだ。それなのに、まるで心につっかえ棒ができてしまっているかのように皆本は息苦しい気分に陥っていた。

 何かのストレス、なのだろう。いや、その理由は彼にもはっきりと分かっていた。そして、柏木にも。

 

「けど、正しい事が全部良い事じゃない」

「え?」

「皆本さんは、確かに九十九%は正しいことを言ってる。でも、それは薫ちゃんの気持ちを汲まなかった場合よ……」

「……分かっています、俺だって」

 

 柏木に言われて、皆本は心の底から絞り出すかのように言った。そうだ。自分だって分かっているのだ。薫もまた、SAOの世界に本気で行きたいのだと。本気で、葵や、紫穂を助けに行きたいのだと。そう願っているのだ。任務とか、そんなもの超えた存在として、仲間として、友として、親友として、助けないといけないのだと。

 知っているからこそ、自分は彼女に言った。柏木の言った通り、超度7である彼女でなければ解決できない事件がある。だからこそ、彼女はこの世界に残るべきなのだと。

 でも、結局それは建前なのだ。

 

「皆本さんは、本当は薫ちゃんを危険な目に巻き込みたくないのよね」

「……」

 

 本当、この人は鋭いところを付いてくる、と自嘲するように笑った皆本は言った

 

「今更ですよ。たくさんの危険な現場に連れて行って、死ぬかもしれない任務をあいつらにさせて来た。なのに、今更……SAOをしてもらいたくないなんて……」

 

 危険にさらしたくないと、思うなんて。本当に、今更過ぎる願望だ。皆本は自分の考えの腹立たしさに苛立ちを隠せなかった。

 

「ずっと後悔してた。あの日、どうして僕はSAOをプレイしなかったんだって、葵や紫穂、ナオミちゃんたちが眠っている姿を見て……大人である自分がどうして彼女たちの未来を守れなかったんだって……」

 

 自分は、ずっと未来と戦って来た。そう言っても過言ではなかった。未来で勃発するはずだったノーマルとエスパーとの戦争。その最前線に立っていた薫を撃ち殺した自分。そんな未来を変えるためにずっと戦って来た。

 結局、その未来は全て塗り替えられた。その未来を作り上げたと言うべき主犯も既に逮捕拘留され、二度と表社会に出てくることもない。

 けど、結局大勢の人間の未来は塗りつぶされてしまった。誰も予知することのできなかった、最悪のゲームのせいで。

 勿論、バベルの保証によって、彼女たちの人生は少しはましなのかもしれない。でも、学校生活や、大切な十代後半の大半の時期がSAOという存在によって打ち砕かれている。そう考えた時、自分の体の中にあるずっと落ち続けている砂時計が割れていくのを感じた。割れて、零れて溢れ出て、二度と元に戻すことができない。掬う事ができない砂ボコリ。

 

「ッ……!」

「皆本さん……」

「子供たちの未来を守れず、子供たちがしたい事もしてやれない。僕たち大人の身勝手で葵や紫穂の人生を縛っただけじゃなく、デスゲームなんて物に参加させてしまった……」

 

 もしも、彼女たちの力が超度7なんて物じゃなかったら。もしも、彼女たちがバベルに所属していなかったら、そもそももしも彼女たちがノーマルで、一般人と同じような生活をしていたら。

 こんな事件に巻き込むことはなかった。

 

「なにがエスパーだ。何がバベルだ! 結局は子供たちの未来を守ることができないで子供たちに危険な事ばかりさせて、これじゃ、何のために未来を変えたのか、意味なんて、なかったじゃないか……ッ!」

「皆本さん……」

 

 もう、柏木には皆本に何もしてあげることはなかった。皆本はもう、何を言ったとしても励ましにもならないから。それどころか、彼の傷を広げてしまうだけだから。彼女たちの未来を守ることができなかった。その後悔で埋め尽くされるだけだから。

 だから、彼女は何も言う事ができなかった。何も、何も。

 だから、せめてこれだけでも―――。そう、彼女が思った時だった。

 

「着きました」

「ッ! はい」

 

 どうやら目的の場所に付いたらしい。ゆっくりとヘリコプターが着陸体制に入り、地面に車輪が付いたことを確認した皆本と柏木の二人は、地面に降り立った。

 

「まるで何もない、いや採石場だから当然か。ここで、本当に確率変動値7の事件が起こるんですか?」

「……そのはずよ」

「皆本!」

「あ……」

 

 そして、彼女『達』もまた到着したらしい。もう一台のヘリコプターから薫は念動力を用いて自分の身体を浮かせて飛び立ち、そして≪他の複数人の仲間≫にもソレを使って、一部の人間は自分自身の能力でその場に降り立った。

 ただ、予想外だったのは。

 

「バレット、ティム! それに、パンドラの三人まで、どうして!?」

 

 バレットとティムの二人はまだいい。今回のサポート、確率変動値7の事件ではあるが薫一人でその未来を変えることができるか分からないからと二人も呼び込んだのだから。

 しかしだ、敵対(仮)しているはずのパンドラの三人まで来たのは予想外の事だ。

 

「薫に通信が来た時に偶々私たちも近くにいたのよ」

「で、なんだか面白そうだから付いてきたの」

「俺は面倒だからやめろと言ったんだが……」

「君たち……」

 

 パンドラの人間たちは自由で、ある意味羨ましい。バベルとは大違いだ。皆本が、少し前の薫と同じ思考を持った時だった。

 

「なぁ、皆本」

「どうした、薫?」

 

 薫は、ゆっくりと皆本に近づくと呟くように言った。

 

「澪や、カズラもSAOを送られてきたってさ、それで……プレイするんだって」

「な……」

 

 まさか、パンドラにもソレが送られてきていたなんて、思いもよらなかった。いや、それ以上にその二人がSAOをプレイする、そのことに、子供たちの未来が汚されると言うこと自体に、ショックのようなものを感じていたのかもしれない。

 

「君たちは、本当にそれでいいのかい!?」

 

 と、珍しく声を荒らげた皆本の言葉に、澪は面倒くさそうに言う。

 

「仕方ないじゃない! 私たちの所に届いたってことは、茅場晶彦からの挑戦状ってことでしょ! そんなの受け取って、引き下がれないでしょ!」

「へぇ、けど本当は違うんでしょ?」

「ッ!? べ、別に、その、クイーン、じゃない、薫のためじゃないんだから!! 薫がSAOプレイできない分、ゴッデスやエンプレスや千里を助けに行きたいとか、皆本を助けたいとか、そんなんじゃないから!」

「ツンデレか、コレ?」

「本人はそのつもりらしいな」

 

 と、あきれたようにパティとカガリが言った。だが、皆本の心中は違っていた。

 

「俺のために……澪や、カズラちゃんも……」

 

 皆本は、どうでもいいことが心の底から飛び出すくらいの衝撃を受けていた。

 自分のために、彼女たちの人生まで狂わされるなんて、そんなの、あってはならない。

 

「だから、皆本! 私、やっぱり!!」

 

 皆本は、そんな薫の言葉を無視して、澪とカズラの二人を説得しようとしていた。

 その時が、訪れたのは、まさしく突然の事であった。

 

「ッ!」

 

 地面にいくつもの弾丸がめり込んで、数人の黒い服を着た集団が、そして―――。

 

「……」

「なに、あれ……」

「怪物……か」

 

 異形の茶色い生物のような、しかし人間の大きさのソレが現れたのは。戦隊、あるいは仮面ライダーの敵か、そう皆本は考えた。しかし、どれだけ頭の中を整理しても今目の前にいる敵がいたか、思い出すことができない。

 彼のIQは相当なもので、記憶力は高い。それこそ、瞬間記憶能力者のように、一度見た情報は頭の中にインプットされている。そのため、どこにでもいるようなごく普通のおじさんの情報すらも頭に叩き込んでいるはずの皆本が見たこともない敵。つまり、新しい敵という事になる、のだろうか。

 あるいは。

 

「合成能力者……か」

「……」

 

 その言葉に、皆本側の合成能力者組が反応した。と言っても、ここにいるバベルとパンドラのエスパー陣営の中で、純粋に単独の力で戦っているのは薫一人位なものなので、彼女以外が反応した、と言ってもいいだろう。

 そして、一つ異様だったのはその隣に立つ五つの人影。

 黒いフードのポンチョに身を包んでいるために、その顔立ちをうかがい知ることはできない。分かることと言えば、一人がかなりの太っちょ体型、力士のように大きな人物であると言う事だけ、か。

 

「お前たち、一体何者だ!」

「我々は……新人類!」

「新人類?」

 

 皆本は思わずオウム返ししてしまった。その、ある意味で予想外ともいえる言葉に。

 

「そう、人類を超えた新たな人類として、この世界に君臨する者! 故に、ノーマルである者は処分する!」

 

 と、怪物が言い放った。なるほど、分かった。要するにだ。

 

「つまり、こいつらはパンドラの同類ってことだろ!」

「ちょっと、私たちをこんなのと一緒にしないで!!」

「いや、組織としての理念は同じような物でしょ?」

「うっ……」

 

 と、薫の言葉に反応した澪に対して、カズラが突っ込んだ。言われてみれば、パンドラの理念と言う物は≪ノーマルを滅ぼし、その支配からエスパーを解放してエスパーだけの世界を作る事≫である。

 今となっては、そのリーダーたる兵部京介の諸事情や、バベルとの利害関係の一致等々でうやむやになっているが、そもそもそんな犯罪組織だったはずのパンドラ。それと、目の前の新人類というのは同じと言えば同じ、だが。

 

「でも、なんかこんな怪物と同類にされるのはなんかむかつく!」

「あぁ、同感だな」

 

 澪、そしてカガリがそう言った。そうだ。自分たちの崇高な理念、というか目標だった物と、目の前の怪物が言っていることが同じであったとしても、だ。茶色いセミのような怪人と同類扱いされるのは何か癪に障る物があったそうな。

 

「面白そうってだけで付いてきたけど、どうやら事は私たちパンドラにも関係する事みたいね……」

「だな、少し癇に障るが相手が六、こっちもお前たちを入れて六人のエスパーがいる」

「皆本、良いだろ!? 澪達と共闘しても!」

「……」

 

 バベルと犯罪組織であるパンドラとの共同作戦。前代未聞、というくらい極まれの事ではない。時折利害の一致を見た時に彼らと共闘することはあると言ったかもしれないが、しかしこんな小競り合い程度の事で彼らの手を借りていい物なのか、皆本は一瞬組織の人間の一人として悩んだ。

 しかし、だ。一人の人間としての答えは決まっていた。

 

「確率変動値7という情報もある。薫とバレット、ティムの三人でどれだけその予知を変えることができるか分からない以上、致し方ないか」

「それじゃ……」

「久しぶりの共同戦線ってわけね!」

 

 と言って、カズラが拳を掌に当てた。そう、久しぶりだ。薫は、催眠をかけられたことによって覚えていないが、恐らくこの面子で一緒に戦うのは小学生時代以来初めての事。そして、SAOをプレイするとなったらしばらくは絶対に貼ることのできない共同戦線だ。というのなら、燃えないはずがない。

 

「薫、頼むから怪我だけはしないでくれ」

「皆本……」

 

 いつもの皆本とは違う。薫はそう感じた。そして―――。

 

「特務エスパー、明石薫! 解禁!!」

 

 頼んでいたのになぁ、リミッターを解除するときには、絶対に≪ザ・チルドレン≫の名前を付けてくれって、そう薫は思いながら、流れそうな涙をぐっとこらえたのだった。




 今回出てきた人達、聡明なる読者ならば既にお分かりですね?

本小説、見てわかる通り参戦作品にあまりに年代的に幅を持たせすぎてる上になかなか読者に知られてない作品が今後も増えていくと思います。そこで、素朴な疑問ですが、そもそもこの小説見てる層がどこなのか、どの層に需要があるのか知りたいため質問したいと思います。質問は、大雑把ですが、気楽にお答えください。では、あなたはーーー。

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