ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイ   作:牢吏川波実

30 / 131
警視庁・捜査一課長×相棒×探偵学園Q 解決編

 キュウたちが現場に帰ってきてから一時間後、帰ってきた出雲刑事そして三人の第一発見者も含めて全員が応接室に集められる。

 その部屋は、簡単な会議室のような役割を持っていたらしく、十人以上の大人が入っても手狭に感じることはなかった。

 

「あ、あの。一体何が始まるのでしょうか?」

 

 マリアが、不安そうか顔をして聞く。警察からの尋問の後しばらく待っていてくださいと言われて他の二人、そして警察官と一緒に待っていたら、突然この部屋に案内されたのだ。

 中に入ると、自分達と一緒に会長を発見した子どもたちや、大勢の刑事が待っていると言う異様な光景を見せられているのだから不安にならないわけがない。

 彼女の質問の後、杉下右京が誰よりも前に出てき、そして少しの溜めを作った後に言った。

 

「この事件の、真実です」

「真実って……」

「一体、何です?」

 

 加藤、中林の二人の言葉を受けた杉下は、指を一本立てると言った。

 

「まず、この事件は当初、殺人事件であるとみられていました」

「まぁ、断定はしてなかったですけどね」

 

 と、伊丹が嫌味ったらしく言う。そう、凶器の拳銃が現場にはなかった。これは、何者かが持ち去ったと言うことの裏付けである。

 しかし、解剖の結果殺人か、自殺のどちらかで捜査をすると言う方針をとろうとしていたので,断定というのは間違っている。事実、大岩も自殺の線か、殺人の線か、どちらに方針を定めるのかを決めかけていたのだから。

 

「けど、その後現場を検証した結果、庭先にある木にごみ紐でつるされた拳銃を発見したんだよな」

「ゴム紐に、銃?」

 

 キンタの言葉にマリアは首を傾げる。何故そんなところに凶器があるのかと。

 普通なら凶器から指紋などの物証が出るのを恐れて持ち去っているはずの物を、なんでそんなところに吊るす必要があるのか。

 そんな、マリアの疑問に対し、リュウは冷静に告げた。

 

「古典的な保険金を目当てにした自殺の手段ですよ」

「じ、自殺?」

「自分に向け発砲した直後、脱力した腕から銃が抜け落ちる。その場合、拳銃は自殺した人間のすぐそばに落ちている」

「ですが、拳銃の持ち手にゴム紐が結ばれている場合、ゴムが縮む時の力で拳銃を遠くへと移動させることができるんです」

「死亡した人間の近くに凶器がなければ、警察は何者かが凶器を持ち去ったと考え、他殺の線から操作を始めます。保険金の中には、自殺の場合受け取れる額が少なくなる契約となっていることが多いですからねぇ、自殺したとばれないようにそう言った手段を取るという事が、よくあるのですよ」

 

 と、大岩、リュウ、最後に杉下が順番に説明をして行った、

 柱にはゴムが擦れたような痕跡が見つかった事から、被害者が自殺であるとするのならば、その痕跡はゴムが縮む時についた跡、と言うことになる。

 

「そ、それじゃ会長は……他殺に見せかけた自殺……」

「そんな、自殺なんてするそぶりなんて……」

「やはり《アレ》が原因で会社が傾いていたから……それを苦にして自殺を……」

 

 経営難を苦にした自殺。動機も十分で証拠も十分。誰もが自殺であると思う状況である。

 

「だけど、今回の事件は自殺じゃありません」

「「「!?」」」

 

 しかし、キュウはそう三人に向けて言い放った。これは、自殺ではなく、他殺なのだと。

 三人は一様に驚きを隠せないでいた。

 

「じ、自殺じゃないって……だって、自殺したっていう証拠が出てきたんでしょ!?」

「それは、真犯人による偽装工作なんです」

「これを見て」

 

 メグの言葉に追随する様に、カズマは自分の最新型ノートパソコンの画面を三人に見せた。

 そこには、ポリゴン状となった殺害現場の間取りや物、そして被害者や凶器の拳銃、ゴム紐がくくりつけられた木、さらには柱までも再現されていた。

 

「これは?」

「被害者が座っていた椅子から、拳銃が発見された木の間を、ゴム紐の付いた拳銃が通った場合のシュミレーションだよ」

 

 カズマがそういいながらボタンを押すと、被害者役であるポリゴンが動き出し、手を下におろした。

 すると、その手から拳銃が離れ、ゴムに引っ張られて木へと銃がスライドし、吊り下がった。

 画面は、突如として柱へとズームアップする。そこには、《二つ》の痕跡が残されていた。ゴムが擦れた様な跡、そして何かがぶつかった傷の様な物だ。

 

「仮に、拳銃がゴム紐の力によって引っ張られたとしたら、柱にはこのような傷跡が付くはずなのですよ。しかし、そのような傷、柱には存在しません」

「色々なパターンを考えてはみたんだけど、どうしても柱かえんがわの床に傷がついちゃうんだ」

 

 画面は、何度も何度もリピートを繰り返す。その度に様々な落ちていくパターンを映し出すのだが、その全てにおいて、どこかしらに傷を作っていた。つまり被害者が自分で撃てば、必ずどこかに傷を作る。と言う意味なのだ。

 逆に言えば、この傷が存在しないと言うことは、被害者がいた場所から発砲したと言うことではない。つまり今回の事件は自殺ではないと言う証拠となり得るのだ。

 

「そして、もう一つ……自殺ではないという証拠があります」

 

 リュウは、そういうと一度席を外して、指紋などを付けないよう手袋をして部屋の外からコップを持ってきた。

 

「い、一体それは……」

「台所に置いてあった水の入ったコップですよ」

「どうしてそれが証拠になるんです?」

「オレら、DDSから事件の調査に必要な薬液をたくさんもらっているんです」

 

 彼らの所属するDDSの上級生徒には、警察手帳に匹敵する権力を有するDDS探偵手帳が配布されている。

 その手帳の中には、指紋採取セットや特殊万能ナイフと言った探偵七つ道具とも言うべきものがあるのだ。

 今回、キュウたちはその中の一つである検査キットをそのコップの中の水に使用してみたのだ。

 

「それで調べたところ、このコップからは睡眠薬の成分が検出されました」

「睡眠薬?」

「なんでそれが、自殺じゃない証拠に?」

 

 確かにそうだ。被害者がそうであったかは、不明だが、不眠症の人間で有れば睡眠薬を飲むなんてことはよくあること。それが、自殺の否定につながるなんて思えない。そう、芹沢は考えるがしかし、杉下はそんな彼の考えを両断するかの様に言った。

 

「これから自殺をする人間が、睡眠薬なんて飲むでしょうか?」

「あっ!」

 

 もしこれが、一酸化炭素中毒による自殺であるとするのならば、睡眠薬を使用するのも理解はできる。しかし、拳銃自殺で睡眠薬を使用するのはまずないだろう。

 この場合、睡眠薬を使用する理由はただ一つだけだ。キュウが言う。

 

「そう、犯人は被害者に睡眠薬入りの水を飲ませて眠らせて、被害者を椅子の上に座らせて、引き金を引いた……現場には被害者を引きずった跡、それに足には擦過傷もありましたからこの台所から引きずったんじゃないかな?」

「犯人は、その引きずった跡を隠すために段ボール箱を崩したのですよ」

 

 杉下が、キュウの推理に補足する。

 この二つの証拠、確かに自殺の線を消すには持ってこいの物だ。それに、この証拠品のおかげでもう一つの仮説を立てることもできる。すなわち、これは物取りの犯行ではない。と、いう事だ。

 用意周到に手配された自殺の準備、被害者が真犯人が注いだと思われる睡眠薬入りの水の入ったコップ、これから考えるに、犯人は、被害者が何の疑いもなく水を飲ませることが出来る人間。つまり、顔見知りの犯行だという事だ。

 だが一つ疑問が浮かぶ。これらの事実が正しいのならば、犯人は他殺に見せかけた自殺をした。と、思わせといて被害者を殺したという事になる。しかし、何故そんな手間のかかるような真似をしたのか。そんな疑問が刑事たちの間で蔓延したが、そんな疑問を発することもなく、大岩はさらに言った。

 

「そしてもう一つ……犯人はある物を隠すために段ボール箱を崩した……」

「ある物って……」

「眼鏡ですよ。ペシャンコになって、割れていましたけど……」

 

 リュウは、そう言いながら袋に入った証拠品の眼鏡を提出するその場に出した。瞬間、現場は騒然となった。

 

「め、眼鏡って……」

「おい、それって……」

「ま、まさか犯人は……」

 

 第一発見者の三人のみならず、刑事たちもみな、ある一人の人間の顔を凝視し始める。

 そう、いたではないか。メガネを無くした人物が。それに、その人物であったならば被害者に容易に水を飲ますことが出来る。それに、考えてみれば睡眠薬が入ったコップが、下水に流されることもなく台所に置かれていたというのはあまりにも迂闊すぎる。しかし、その人物であればそんな迂闊であった理由にも説明ができる。

 すべてが、ある人物の犯行であるという事を示している。

 

「そう、この事件の犯人は……」

 

 そして、キュウ、大岩、杉下右京の三人はある人物を指さして言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「中林勉(さん! あなただ!)(お前だ)(さん。あなたですね?)」」」

「ッ!?」

「えぇぇ!?」

「な、中林さんが!?」

 

 この三人の答えに、これまた騒然となった現場。だが、その理由は先ほどとは全く違う。

 『まさか、あの人が犯人だったのか』。先ほどまではそんな空気が蔓延していた。しかし、今では『え!? その人なの!?』という空気で満ち満ちている。

 

「どういうことですか警部殿!? 眼鏡が殺人現場に落ちていたのなら、犯人は三日前に眼鏡を無くしたっていう井出マリアじゃ!?」

 

 伊丹の言う通り、DDSの五人、杉下、大岩以外の面々は誰もがハウスキーパーの井出マリアが犯人であると思い込んでいた。彼女は眼鏡を三日前に失くしている。もしそれが嘘で、本当は昨日失くした物であるとするのならば、犯人が井出マリアであるという推理には何の問題もないのだ。

 が、しかしカズマは言った。

 

「その三日前というのがポイントなんだ」

「なに?」

「もし現場、それも争った形跡の下に眼鏡なんて落ちてたら、偽装工作をした時にうっかり落としちまったって考えるよな」

「ですがもし、実際に彼女が三日前に眼鏡を無くしていたとするのならば、現場に落ちていたのは不自然です。因みに、彼女が眼鏡を無くしたというのは三日前で合っているそうです。ご近所さんにも聞き込みをしました」

 

 と、キンタと杉下が言った。

 そう、杉下が大岩に報告した、井戸端会議をしていたご近所さんが彼女に違和感を覚えていたという証言。それは、彼女の使っている眼鏡がいつもの眼鏡とは違っていたという意味だったのだ。

 だが、今回の事件は計画性のある犯行。もしも彼女が自分に疑いの目が向くことまでを見越して三日前から違う眼鏡を使用して失くしていたという事にしている可能性もあった。

 しかし、キュウは言う。

 

「それにもう一つ。偽装工作の時に眼鏡を落として割って段ボールで隠したのだとすると、それは不自然になるんです」

「不自然?」

「現場には、空の水槽があるんですよ? もし眼鏡を落として割ったのなら、水槽を割ってガラスの破片と混じらせた方がよっぽど自然ですよ」

 

 そう言われて平井もハッ、とした。言われてみればそうだ。例え眼鏡がなくて前がぼやけていたとしても、彼女はこの家のハウスキーパーであり、片付けは彼女が行っていたから、水槽のある場所も把握していたはずだ。そんな彼女が、眼鏡の破片を簡単にごまかすことのできる水槽を使用しない理由なんてあるだろうか。

 仮に、フレームが残ってしまうという理由があったとしても、眼鏡のフレームは針金のように細い物ではなく、また完全に折れ曲がっているわけじゃないので、十分にガラスに注意をすれば拾うことも容易い物だ。やはり、水槽という隠れ蓑を使わなかったことは不自然極まりない。

 つまり―――。

 

「つまりこの眼鏡は、真犯人が井出マリアさんに罪をかぶせるために置いたものであると考えたほうが、自然なんですよ」

 

 と、いう事である。

 

「それも踏まえた、昨夜の犯人の行動を推測してみましょう」

 

 杉下は、指を一本立てて周辺を歩き回りながら言う。

 

「まず、犯人は被害者を睡眠薬入りの水で眠らせ、殺人現場まで引きずりました」

「その後、床に眼鏡を置いてからその場に積かな去っていた段ボールを次々と崩していった」

 

 と、メグが言った。だが何故犯行後、ではなく犯行前に段ボール箱を崩したと分かるのだろうか。

 

「硝煙反応や発射残渣の事もあるし、自殺の偽装のためには、殺害したのは段ボールを崩した後と考えていいだろうね」

 

 なるほど、カズマの言う通り、発砲した後に段ボール箱を崩したのであれば硝煙反応の位置がずれてしまっておかしなことになってしまう。自殺の偽装という観点で見るのであれば、そのような証拠品をおかしくしないように犯行の前に段ボールを崩しておいた方がいいと考えるのが普通であるのだろう。

 

「後は、自殺の準備をする。その段階でアクシデントが発生したのではないでしょうか?」

「アクシデント?」

「雨が降ってきたんですよ」

 

 リュウのその言葉に疑問符を浮かべる一同。

 

「え? でも、雨は犯人が銃声を隠す為の仕掛けなのでは?」

「そもそもその時点で我々は間違っていた」

「え?」

「雨は自然現象だ。そんなものを犯罪計画の一つに使用するなんて馬鹿げている」

「天気予報でも降水確率は0%、昨晩の大雨は誰にも予測不能の事態だったんです」

 

 大岩とメグの説明に納得する者、疑問を感じる者が多数。

 台風等の場合、その進路やスピードなどでいつ頃に到着するのか、素人でも想定することが出来るが、降水確率は過去の記録をもとにしている物である。膨大な量のデータがあるその中でもわずかな穴をねらって犯行計画を立てることなんて不可能に近い物。つまり、今回の大雨は犯人にとって予想外であると断定してもいいのだ

 その場合、新たな問題が発生するのだが。小山田は言う。

 

「なら、犯人は元々どうやって銃声を消す予定だったんだ」

 

 そう、住宅街で発砲なんてするとすぐ近くに住む住人に気が付かれてしまう。そのデメリットは、そもそもどうやって消そうとしていたというのか。そんな疑問に対して杉下は言う。

 

「そもそも、消す予定なんて無かったのではないでしょうか?」

「なに?」

「銃声がしたからと言って、普通の人にそれが認識できますでしょうか? 爆竹かが破裂したのかもしれない、夜中に花火をしている若者がいるかもしれない。もしそうじゃなかったとしても、家から道に出るまでは多少の時間があり、逃げる時間には十分にあります。犯人は、その時間を使って家から出る予定だったのではないでしょうか?」

 

 警察官は射撃場などで銃の練習をするなどして常日頃から銃声という物は聞きなれているし、そのために銃声がどのような物であるのかを認識することが出来る。だが、一般人であれば銃声をすぐに認識できないという可能性がある。それは分かる。

 しかし、それはあまりにも運に頼りすぎているというか、偶然に寄り添いすぎているというか、ともかく、囮に犯人を用意するほど用意周到な犯人がするようなこととは到底思えなかったのだ。

 

「その為のスケープゴートだったんだ」

「スケープゴート?」

 

 スケープゴート、とは生贄や身代わりの意味を持つ聖書が由来となる言葉である。つまり、今回の場合のスケープゴートは井出マリアという事になるのだが。

 大岩は続ける。

 

「仮に姿を見られても、この事件が自殺ではないと判明するだけだ。現場に決定的な証拠品があれば、その家から出てきた怪しい人物はスケープゴートとされた井出マリアさんと認識される可能性が高い」

「そんなことが……」

「そう、つまり他殺に見せかけた自殺、それに見せかけた井出マリアさんによる殺人事件。そう見せかけることによって犯人は自分に向けられるである疑いの目から逃れようとしたんです」

「今の時代、検査すれば体内から睡眠薬の成分が発見されたり、足の不自然な擦過傷なりですぐ自殺じゃないことがバレるからね」

 

 リュウ、カズマの二人がそう締めくくる。井出マリアは、ハウスキーパーとしての仕事が終わると一時間かけて自宅に帰り、後は何処にも出かけることなく就寝する。つまり、市議と終わりからのアリバイは無いに等しい。

 姿を見られても、現場に彼女が犯人であるという事を示す偽の証拠品が置かれており、なおかつ彼女にアリバイがないと分かれば、井出マリア犯人説はさらに濃いものとなったことだろう。

 

「話を続けましょう。犯人にとって予想外の雨ではありましたが、既に自殺の偽装は半分終了して後戻りは出来ない。そのため、木に括り付けるのがしにくくなるだけと言うことで犯人は偽装を続行しました」

「雨の中偽装したっていうのは、外の物置の中にあった脚立の足についた乾いて間もない泥が、証明してるぜ」

「えぇ、足場についてた被害者の靴底の足跡もまた、その偽装の際についた物でしょう」

「そして、後は被害者を撃ち、急いで家から……恐らくできるだけ目撃者がいないようにと裏口から出た」

「犯人にとって運が良かったのは、大雨のおかげで銃声が雷鳴と勘違いされて誰も通報しなかったという事。そして、大雨で視界が不良で、目撃者らしい目撃者が出なかったことです」

「これが、昨夜のあなたの行動ですよ、中林さん」

 

 沈黙が、その場を包み込んだ。まさか、この事件の真実にそんな計画に計画を重ねた恐ろしい真実が隠されているなんて、思いもよらなかった。

 7人の展開した推理、特にDDSの子供たちの推理力に小山田たちは舌を巻いた。まさか、子供である彼彼女たちがこれほどまでの推理力を持っているとは。自分が慕っている大岩や一目を置いている杉下に勝るとも劣らない推理力。伝説の名探偵団守彦の後継者の証は伊達じゃないという事か。

 しかし、この推理に対して憤慨する者が一人だけいた。

 

「ふ、ふざけるな! そんなのあなたたちの勝手な憶測にすぎない! 証拠でもあるのか!」

 

 そう、犯人と目されている中林だ。確かに、ここまでの7人の推理の中には確固たる証拠は何一つない。本当に中林が犯人である。と証明するものは何も提示されていないのだ。このままでは中林を逮捕することは叶わない。

 が、しかしその言葉も予想していたかのようにキュウは鋭いまなざしを止めずに言った。

 

「ありますよ」

「!?」

「マリアさん。さっき証言をしているとき、被害者が愛用している靴の底に穴が開きかけているって言ってましたよね」

「あ、はい……」

「その靴は玄関に置いてありました。びしょ濡れで、靴底の跡と脚立に残った足跡とまるっきり同じ物でした」

 

 と、メグは補足するように言う。確かに、マリアは先ほどの尋問の際に世間話程度の情報としてそんなことを言っていた。彼女自身もうっすらと忘れていたことであったのだが、それが今回の事件に関係あることなのだろうか。

 

「犯人はそれを、自殺の準備をしたのが被害者であると誤認させるために、履いてしまった。その結果、思いもよらぬことになってしまった」

「思いもよらぬこと?」

「靴下もまたびしょ濡れになってしまったんだ」

 

 そう、靴が濡れているのであれば、その真下にあるはずの靴下が濡れていたとしてもおかしくはない。大岩はそういう意図でそう言った。

 

「服や髪の毛は、タオルで拭くことによってどうにかできる。でも、靴下は脱ぐしかなかった。そして、犯人は容易に部屋に帰ることができなくなってしまったんです」

「ん? なんで部屋に戻れないんだ?」

 

 キュウの発言に対して、伊丹はそう質問する。なんで靴下を履いていないと言うだけで部屋に戻ることが出来なるなるという事に繋がるのか。そんな疑問に対して、リュウは冷静に言う。

 

「お忘れですか? 犯行現場には被害者を引きずった後にできたささくれや、段ボールの下にあるおかげで大多数は隠れていますが、メガネの破片があるんですよ?」

 

 伊丹は、そういえばという風にゆっくりと頷く。

 

「万が一にも裸足でそれを踏んでしまえば自らの血が付着し、自分の犯行であることがバレる恐れがある。かといって濡れた靴下のまま室内に入れば、水によって足跡がスタンプされ、その足の大きさで井出マリアの犯行ではないと分かる恐れがある」

「被害者の性格のため、この家には靴下はなかった。だから、替えの靴下を履くこともできなかったんです」

「なるほど……」

 

 大岩、杉下の二人の説明に納得する伊丹。確かに自分の痕跡を一つでも残したくないというのは犯人の心理としては適切であるし、その答えには同意できるものがある。

 

「なら、犯人はどうやって部屋に戻ったんです?」

「履物を履いたんですよ」

「履物?」

「スリッパだ」

「えぇ……ちょうどこの部屋の縁側すぐ近くにスリッパの山がありました。恐らくそこから一組を取ったのでしょう」

 

 思い返してみると、リュウの言った通り確かに窓側の倒れていた段ボールの中身はすべてがスリッパであった。どれもこれも色が似たり寄ったりの物であり、蒐集癖があるにしてもあまりにも無駄な買い物すぎると思っていた。あそこから一組取ったとしてもハウスキーパーの井出マリアお気が付くことは無かっただろう。

 

「そして、改めて被害者に向けて引き金を引いた。けど、その時に犯人はミスをしてしまったんです」

「ミス?」

「転んでしまったんですよ、薬莢を踏んづけて」

「!?」

 

 キュウ、リュウの言葉に中林は初めて動揺を受ける。さしづめ、何故そのようなことまで分かるのだ、といった感じか。

 

「ほら、この薬莢少し凹んでるでしょ? これは、犯人がこの上に乗ったから付いた跡なんだ」

「それから、陥没した段ボール。犯人は、この段ボールの上に乗っかっちまったんだな」

「さらにその時、手に持った銃を手放してしまった。そのせいで柱に銃がぶつからずに飛んで行ってしまったんです」

 

 カズマ、キンタ、メグの言葉が続く。

 特別な事情がない限り、これが初めての殺人であろう中林は、動揺し、バランスを崩してしまった。そのために薬莢を踏んだ時に体制を立て直すことが出来ずに転んでしまったのだろう、とは大岩の言葉だ。

 

「その、転んだ勢いで思わぬ出来事が起こりました。スリッパが、飛んで行ってしまったんです」

「被害者の足の大きさは、中林さんよりも小さい。だから、スリッパは小さくてちゃんと履くことが出来なかったんです」

 

 そう、被害者の足のサイズは23cm、中林の足のサイズは27.5cm。あまりにも小さすぎる。しかし、それでも履けるものはそれしかなかったから履くしかなかった。その結果が、思わぬアクシデントに繋がったのだ。

 

「そして、そのスリッパはあそこにあるスリッパの山に……中林さん、貴方は焦っていたはずです。すぐに外に出ないといけないのに自分が履いていたスリッパという物証がどれか分からなくなってしまっただから、一か八かで二足を持って帰った」

「ですが、貴方はその一か八かの賭けに負けてしまいました。結果、事件現場には証拠が残ってしまったんです」

「いやしかし警部? なんで犯人が証拠のスリッパを残して行ったって分かるんですか? その犯人が使ったスリッパっていうのが簡単に分かるんならともかく……」

 

 キュウ、杉下の推理に対して芹沢がそう質問をした。確かに、大量にスリッパがあるのだから、間違って持って帰ってしまう可能性が高いのはまだ分かるが、もしかしたら奇跡的に正解を引き当てたという可能性もあるのではないか。そう、芹沢は考えたのだ。

 

「簡単ですよ」

「え?」

 

 しかし、キュウはなんてことのないように言った。

 

「確かにたくさんあるスリッパですけど、その中に一つだけ……靴底に証拠が残っちゃってるんです」

「これのこと……だな」

 

 と、大岩はスリッパの入った袋を見せる。先ほどのヒントを聞いた後に彼自身もそのスリッパを探し当てたのだ。彼の言う《靴底の証拠》を頼りにして。 

 

「この靴底に、剥がれている箇所がある。恐らく、発砲直後に排莢された薬莢の熱で、剥がれてしまったんだろう。薬莢にも、この靴底と同じ、革が付着しているしな」

 

 排莢直後の薬莢は、熱いことがある。スリッパの底に使われていた素材は熱に弱い物であったらしく、そのせいで靴底の一部が剥がれて薬莢に付着してしまったのだ。

 

「恐らく、このスリッパには足の指紋……足紋が付いているはずです」

 

 と、リュウは言った。仮に靴下を脱いでスリッパをはいたとするのならば、スリッパの中には足紋がついているはずなのだ。足紋は、指紋と同じく人によって違う。そのため、それを調べることによって誰かスリッパを履いたのかを明らかにすることが出来るのだ。

 杉下は、トドメをさすようにマリアに聞いた。

 

「マリアさん。このスリッパ、三日前に被害者が購入した物の一つですね?」

「あ、はいそうです……」

 

 ここまでくればもう何が言いたいのか分かるだろう。彼らは逃げ道を封じようとしているのだ。犯人が、中林が言い逃れのできないように少しずつ少しずつ外堀を埋めていき、最後にキュウが言った。

 

「説明してください中林さん。最後に被害者と会ったのが一週間前と言った貴方の足紋が……三日前に購入したはずのスリッパに付着している理由を……」

「ッ! ……くそ……雨さえ、降らなきゃ……」

 

 もはや言い逃れはできないと観念したのか、中林は崩れ落ち、四つん這いになって床を叩き悔しがる。

 ついにすべての謎が明かされた。会長の綱渡剛三を殺害し、井出マリアに罪をかぶせようとした卑劣な犯人、その正体は中林勉であったのだ。

 だが、分からないことがある。

 

「そ、それじゃ本当に専務が……ジジィを……」

「でも、なんで?」

「……」

 

 そう、動機だ。このような犯罪に彼が手を染めた。その理由は、人を殺めないといけなくなるような、そんな理由がどこにあったというのだろうか。それは、犯行を解明した7人にも全く見当がついていなかった。

 人が人を殺めるという事は、並大抵の覚悟を持ってはできない。また、まともな精神状態では決してできない。心を病み、どうしようもなくなってしまった人間が最後に取る手段が、殺人だ。なら、一体何が彼を追い詰めたのだろう。何が彼を殺人に駆り立てたのだろう。

 と、その時リュウの携帯電話が鳴った。

 

「もしもし……そうですか……ありがとうございます」

 

 リュウは電話の相手と一言二言だけ会話を交わすとすぐに電話を切った。

 

「今のは、DDCからの連絡ですね」

「えぇ……」

 

 中林の犯行の動機、それは彼の経歴にある可能性がある。そう考えたQクラスの面々は、DDSの講師たちが所属しているDDCに調査を依頼していたのだ。彼らが調査を依頼したのはわずか二時間前の事であるというのに、犯行動機が判明する時間が早いのは、一重に彼らDDCの優秀さの裏付けであろう。

 

「中林さんの犯行動機が明らかになりました。すべては、30年前の裁判が原因だったんですね」

「30年前の……」

 

 30年前、そのワードには思い当たる物があった。加藤がつぶやく。

 

「社員の過労死や自殺の責任を問う……あの裁判」

「そうか、そのどちらかにこの男の家族が……」

「いいえ、違いました」

「え……?」

 

 伊丹は、中林の家族がその会社に務めており、その結果過労死もしくは自殺した。その復讐であると考えていたのだが、どうやらそれは違うらしい。

 

「中林さん……貴方のお父さんは……」

「あの会社の……顧問弁護士でした……」

 

 リュウが、答えを言う前に中林は水中にいるかのような薬実の中でそう言葉を発した。

 顧問弁護士とは、依頼された会社からの様々な法律問題に関して継続的に相談を受けたり事案を解決するためのアドバイスをする弁護士の事だ。その主な仕事は法律相談に止まらず、契約書のチェック、証明郵便の書面の作成、そして訴訟対応。

 

 

「なら、30年前の裁判の時にも、法廷に立っていたという事か」

「えぇ、父は真っ当に仕事をした……なのに、それなのに! 被害者遺族の怒りは、全部父に、それに俺たち家族にまで向けられた!」

「被害者遺族にとっては、明らかに責任があるはずの会長を弁護し、無罪にしたことが許せなかったんでしょう」

「そんな……」

 

 いくら会長を弁護したと言っても、中林の父親は会社の顧問弁護士としての仕事を果たしただけである。それなのに、遺族等からの怒りを喰らうなんて、お門違いもいいところだ。

 しかし、彼らにとっては自分たちの家族を奪った人間を弁護する者のことがまるで悪魔のように見えてしまったのか。だから、行き場の無くなった怒りを彼らに向けてしまったのか。

 どちらにしろ、それはただの八つ当たりである。

 

「毎日毎日いやがらせの電話やFAXが届いて、母は心労がたたって病気で死に、そして父もまた……」

「ヒドイ……」

「えげつねぇ真似しやがる……」

 

 この中林の言葉にQクラスの面々もまたやり場のない怒りを感じる。

 

「あの裁判では、社員のほとんどが会長を庇って何も証言をしませんでした。最初から無罪が決定的だったはずの裁判だったんです。だから、怒りの矛先が向かうのは証言をした社員であるはず……なのに、なんで真っ当に仕事をしただけの父が! 俺たち家族が批判を受けなければならなかったんですか!」

「だから、復讐をしたんですか……会長に……」

「それだけじゃない! ……会長のすぐそばにいて奴がどんな指示を出していたのか、何をしていたのかを全て見ていたはずなのに、証言をしなかった当時秘書をしていた井出マリア! お前も、同罪だ!!!」

「!?」

 

 マリアは、名指しでの罵倒を受けて、口を押えて後退りした。人間の悪意の行きつく先、それを今一心に浴びている女性に対して伊丹は聞いた。

 

「そうだったんですか……」

「えぇ……怖かったんです。会長……当時社長ですが、社長に逆らうと、会社を解雇されるだけじゃない。その後の就職先にも圧力をかけられてしまう……だから、誰も本当の事は言えなかったんです……」

 

 綱渡の人脈は相当広かったらしい。そのせいで同業他社だけではすまない様々な企業に裏で手をまわして再就職先をつぶすという事も容易い物だったのだ。だから、誰も本当の事を証言できなかった。

 けど、そんなものただの言い訳だ。そう中林は考えていた。

 

「その嘘のせいで! どれだけの人間の人生が狂ったと思ってる! あんな男がいなければ、こんな会社がなければ! あんたたち社員がいなければ!! 父さんや、母さんが死ぬことは無かった!」

 

 復讐鬼となった哀れな男。その怒りの理由は確かに最もであるのかもしれない。誰かを殺す理由としては十分なのかもしれない。

 しかし。杉下は、怒りを糧にして立ち上がった男の前に立つと、顔を近づけて言った。

 

「だからと言って、殺人をしていい理由にはなりませんよ! ……いいえ、殺人どころか、復讐をしていい理由などどこにもありません」

「なに?」

 

 そう、確かに殺人をする理由としては十分な理由だ。だが、だからと言って実行に移すことは決してあってはならないことなのだ。

 人が人を殺してはならない。そこには、確かに倫理的な問題が大多数を占めている。しかし、それ以上にもっと大切な物がある。それを表すとするのならば、こう言葉にしよう。

 人が、人でいられるために、人を殺してはならないのだ。

 

「中林、お前はさっき言ったな。父親は真っ当に仕事をしただけだと……なら、何故その仕事を無為にするような真似をした」

「貴方のお父さんは、弁護士としての責務を果たしたまでの事です。依頼人を信頼し、依頼人を守る。例え、証言があったとしても、貴方のお父さんは会長を無罪にするために全力を尽くしたことでしょう」

「それが、貴方のお父さんの……弁護士としての誇りだった。貴方は、そんなお父さんの誇りを傷つけてしまったんです」

 

 大岩、杉下、リュウ、三人の言葉が続く。

 依頼人を信じて弁護をする。例え、相手が犯罪者なのかもしれないと分かっていても、それでも依頼されたからには、依頼人を信じて精いっぱいの弁護をする。例えどれだけ不利な状況であったとしても、依頼人の事を守るためにできる限りの事をする。それが、弁護士という仕事だ。

 

「俺、たくさんの事件現場で、たくさんの人たちを見てきました。でも、復讐を成し遂げて幸せになった人なんて、一人もいないんです……皆どこか傷ついて、悲しんで、殺したことに後悔して……本当なら、そうなる前にこんな殺人止めたかった……貴方の事も、救いたかった」

 

 キュウを含めてQクラスの五人は、これまで多くの殺人事件に立ち向かってきた。そして、その中にはやはり復讐が目的の殺人も数多く存在していた。

 メグは記憶している。これまで自分たちが出会ってきた多くの班員たちの顔を。復讐を成し遂げて、それでも心が晴れることは無い、とても物悲しい最後を。

 そんな人間たちを救うこともまた探偵の責務である。道を踏み外さないように、これ以上道を踏み外さないようにと、探偵たちは犯人を捜すことに躍起になる。無論、被害者の無念を晴らすという事が一番大事なのだ。しかし、それと同じように復讐の鬼となった者たちの心を救いたい。そう考えるのはあまりにも欲深い行いであるというのだろうか。

 叶うのなら、こんな事件が起こる前に止めたかった。中林が犯行を起こす前に間に合いたかった。

 けど、どれだけ考えてもすでに後の祭りなわけである。

 

「中林、お前は……父親を復讐の道具にしてしまったこと、何も思わないのか? 父親のためときれいごとを使ってはいるが……その裏にあるのは、ただの八つ当たりだ!」

「うぅぅぅぅぅ……うあああぁあああぁぁあぁ!!!」

 

 最後に、大岩の言葉。あまりにもきついようにも感じる。しかし、それ以上に犯罪を許すことが出来ないという確固たる意志を感じる。そんな叱責だった。

 その言葉を受けた中林は、再びその場に手を付き、そして這いつくばり、号泣した。それは、まるで昨晩この周辺を洗い流した大雨のように。

 どうしてこんなことをしてしまったのだろか。何故、父の仕事を、誇りを無下にするようなことをしてしまったのか。なんで止まることが出来なかったのか。何度も、何度も、何度も自問自答を繰り返す。

 しかし、失った命は二度と元に戻ることは無い。どれだけ泣き叫んでも、犯した過ちを清算することはできない。これから彼は自らの罪と共に生きなければならないのだ。何年も、何十年も、いつまでもずっと、ずっと。

 

「後は……署の方で」

 

 伊丹は、中林の手を取って立ち上がらせると、その手に手錠を付けて芹沢とともに家の外に出ようとした。だがその直前、立ち止まった中林はQたちに向けて振り返ると言った。

 

「最後に、教えてもらっていいですか?」

「なんでしょう?」

「どうして、俺が犯人だと……現場の状況だと、加藤にも犯行は可能だったし、その可能性もあった。なのに、どうして俺が犯人だと……いったい、いつから……」

 

 彼の言う通りだ。彼らの推理は、そっくりそのままもう一人の発見者である加藤にも当てはまる物。足のサイズにしても、加藤よりも中林の方が大きかったとはいえ、それでも被害者と比較すれば、加藤もまた十分に足のサイズは大きかった。

 スリッパという証拠品があったとしても、その足紋を中林と照らし合わせたわけではないので、今この場で中林が犯人であるという根拠はないに等しい物だった。一体何故、彼らは中林が真犯人であると見抜いたのか。

 

「尋問の時ですよ」

「え?」

 

 キュウの答えに続いて、Qクラスの面々は答えていく。

 

「あの時点で、私たちの素性は誰も知りませんでした」

「だから、マリアさんや刑事さんたちも僕たちの事探偵クラブの子供って言ってたんだ」

「けど、アンタは俺たちの事を《依頼を受けた探偵》って言ったよな」

「被害者から依頼があったのは、昨晩の事です。最後に話したのが一週間前なら、貴方がいつ僕たちの事を知ることをできたのか」

「それでピンと来たんです。もしかして中林さんは昨日の夜被害者に会って、俺らの事を聞いてたのに、それを隠していたんじゃないかって」

「被害者と会っていたことを隠す理由はただ一つ。貴方が犯人であること以外にはない。そう、考えたまでですよ」

 

 以上、メグ、カズマ、キンタ、リュウ、キュウ、そして杉下の言葉であった。

 つまり、彼らは最初の尋問の時点ですでに分かっていたという事なのだ。彼が犯人であると。後はそれを前提にして推理をくみ上げていくだけで十分であったのだ。

 

「なるほど……将来有望な探偵たちだ……それに……」

「……」

「……」

「貴方たちの内のどちらかがあの時、捜査に加わっていれば……もしかしたら……」

 

 もしも、30年前のあの裁判の時、杉下や大岩のような警察官がいたら、それにQクラスのような探偵がいてくれていたら。もしかしたら、裁判の結果は違っていたのかもしれない。けど、逆に言えば―――。

 

「……」

 

 中林は、ただそれだけを言うとやんわりとした笑みを浮かべて伊丹につれられて去っていった。

 その後姿を見た大岩は言う。

 

「もしかしたら、奴は心の底では期待していたのかもしれないな」

「え?」

「いくつもの謎を解いて、真相にたどり着くことが出来る人間が、現れるということを……」

 

 大岩は、ただそれだけ言うとその場から去ろうとする。そんな彼に対して、出雲は聞いた。

 

「大岩一課長どちらへ?」

「次の現場だ。事件は、ここだけで起きているわけじゃないからな」

「……」

「……」

 

 そう、事件は彼らの事を待っていてはくれない。今もどこかで凶悪な犯罪が発生し、誰かが泣いている。それを止めることが出来るのは、自分たち警察官だけだ。そう改めて心の中にとどめた大岩は、Qクラスの面々に振り返ると、敬礼する。Qクラスの五人もまた、それに対して敬礼をする。

 大岩は、ただそれだけを見届けると、ゆっくりと去っていった。




 今回の事件は、科捜研の女season1の第一話からインスピレーションを得て書きました。とはいっても、他殺に見せかけた自殺の部分だけですが。それ以降はオリジナルです。
 因みに今回の話の中では描写はできなかった没セリフがいくつかありまして……。以下がその文言。

小山田「忘れたのか伊丹刑事。特務エスパー、特に接触感応能力者(サイコメトラー)はその性質上精神的な負担が大きすぎる。そのため一部の例外を除き、捜査が行き詰まりを起こした時や万引きや強盗などの人の生き死に関係のない事件でのみ、適用が許可されるという事を」

 没セリフで参戦が明らかになる作品……。

 あと実は探偵学園Qの面々はある大きな謎に挑戦中であったりする。
 ヒント:メグの能力・特務エスパー・探偵学園Qの原作のある事件・矛盾

この小説、本編と外伝を……(希望する方を選んでください)

  • 一つの小説でやってもらいたい
  • 本編と外伝を分けて投稿してもらいたい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。