SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
バベルの本部のあるビル。ここに、一体何度足を踏み入れたことであろうか、薫はオスプレイから降り、会議室に行く途中でずっと考えていた。
前までは、葵にテレポートで送ってもらってたりもしていたから、移動手段としてそれを使うのは大体二回に一度くらいだった。何度か、任務中の怪我とかでヘリやオスプレイからそのまま医務室に運ばされていたっけなとか。そんなことを考えながら、彼女はもはや実家よりも馴染みのあるバベルの中を入っていく。
「なんだかんだ言っても、バベルの中枢部に来るのは私たち初めてね」
「確かに、今はアレだけど、本来バベルと敵対しているはずだし」
と言いながら後ろにいるパンドラのメンバーも、珍し気にビルの中を見ながら呟いている。言われてみれば確かに、彼女たちがバベルの本部、その上層部に足を踏み入れることなんて初めてだ。当然の配慮だ、いくら自分達が仲良しであったとしても、本来パンドラはテロリスト、自分達と相容れない存在なのだから。
大人たちはその限りではない。しかし、特に彼女たちにどうしても隠さなければならない物があった一年前とかは、微妙に距離を置いていたような、そんな記憶がある。
果たして、何故自分たちがここにいるのか。というか、パンドラの面々を普通に入れて良かったのかなどと薫にはあまりふさわしくない思考をしている時だった。
「着きました。ここです」
と言って、柏木が案内してくれた会議室。そこは、薫にとってはあまりにも胸が締め付けられる場所だった。
そう、あの日、SAOを誰がプレイするかの会議と、そしてその後のじゃんけん大会が行われた、あの会議室。本当なら入りたくない。しかし、大人数で会議をするのならばうってつけの場所はここくらいしかない。そう言う事で、柏木はその場所を選んだのだ。
そして、中に入ったバベル、並びにパンドラの面々は驚いた。
「あれって!」
「真木、それに紅葉くん!?」
「あれ、どうしてここにいるの?」
そう、そこにいたのはパンドラの主要メンバー、幹部と言っても差し支えのない男女、真木司郎と加納紅葉の二人。
真木は、合成能力者で、髪の毛に偽装した炭素を自由に操ることができる能力者。
紅葉は、テレポートベースの合成能力者で、空間の一部を固定して、相手の動きや攻撃を一時的に止めることが可能な人間だ。
いや、いるのはそれだけじゃない。先ほども見た、犬の顔をした人間が立ち上がるという。
「改めて、私の名前はドギー・クルーガー。地球署のデカ達を取り仕切っている」
「ドギーさん……」
こうした会議場の中で出会うのは初めての事、先ほどは色々とあって詳しく話を聞けなかった。しかし、今なら、今この場所なら聞ける。
「あの戦闘は、あなた方宇宙警察が仕向けた物だったんですか?」
「え、どういうこと皆本?」
その言葉に、ドギーは眉一本動かさなかった。皆本は続ける。
「考えてみれば分かることだった。あの辺鄙な場所で確率変動値7の事件が起こるはずないという事を。それに、相手は薫や澪の能力を知ったうえで行動をしていた。今回の戦いは仕組まれたものだった。そうでしょ、ドギーさん、パンドラの二人……そして、柏木さん」
「か、柏木さんも!?」
そう、皆本は考えていた。元々今回の事件、いや戦闘の事を最初に知らせたのは柏木だった。だから、もし、この戦闘を背後から操っている者がいるとしたら、バベルを現在取り仕切っている様相になっている柏木も一枚かんでいなければならない。そう考えたのである。
「いい推測だ皆本。その通り、今回の戦闘は、我々パンドラとバベル、そして宇宙警察が共同で仕向けた物だ」
答えたのは真木だった。
「何でそんなことしたわけ!?」
「澪、落ち着いて。クイーンや皆本も、一度席に付いたら?」
「……」
色々と言いたいことはあった物の、紅葉の言葉に頷いた諸メンバーはそこにあった椅子に座った。それから数秒後。
「最初に言いますが、我々バベル、並びにパンドラは今回のSAO事件解決のために司法取引を締結しました」
「司法取引?」
「そうだ。SAO事件の解決、もといSAOのゲームクリア、もしくは茅場晶彦の逮捕まで、双方ともに手出しはしない。勿論我々パンドラのメンバーは事件は一切起こさないように統制する」
「ッ!?」
「どうしてそんな取引を!? 仮にも彼らは……」
犯罪組織、テロリストだ。そう皆本が言おうとした時だった。
「確かに私たちだって思うところはあるわ。でも、今はそんなことを言っている場合じゃないの」
「どういうことだ?」
紅葉は、スッ、と立ち上がると言った。
「今回のSAO事件によって、私たちパンドラもパティという仲間を囚われた。そして、澪とカズラもまたSAOに入ろうとしている。そこで問題になるのが二人の受け入れ先の病院なの」
「受け入れ先の病院? そんなの、ウチの裏工作でどうとでもできるんじゃないの?」
パティの時みたいに、そう澪が心の中で呟いた。確かに、彼女たちはテロリストだ、しかし一応ロシアに国籍があり、しかもその外交官をパンドラのメンバーがやっていて澪たちはその子息ということになっている。
故に今も外交官特権を利用したりなんだりを使って病院の確保は簡単にできるはずなのだ。
「確かにそうだ。しかし、問題は前のSAO移送の一件で、セキリュティ面が高い病院の空き病床数が少ないことにある」
「どういう事?」
「……パンドラは普通の人々によるエスパーの排除を危惧しているのか」
「え?」
「その通りだ」
普通の人々。それは、超能力者の抹殺を訴え散るエスパー団体、エスパーは人類文明の破壊者であるとしてエスパー追放を目的と掲げて、場合によっては一般人をも巻き込むことも辞さない過激な団体、≪我々はどこにでもいる≫のスローガンを掲げ、様々な勢力、勿論バベルの中にも何人ものスパイを持っているとされる。当然数多くの病院の内部も。
「パティを受け入れてくれた件の病院のセキリュティ管理が高いことは認めよう。しかし……」
「そんなにセキリュティの高い病院が残っているか……貴方たちだったらツテがあるかもしれないけれど、私たち≪これでも一応≫テロリストなわけだし」
「これでも一応……ね」
と言ったのは、澪である。最近はそのテロ活動は一切行っていないからほとんどエスパー保護団体、ちょっと過激なバベルみたいな様相になっている気がするのだがそれは置いておくほうがいいのだろう。
「そして、君たちバベルにも必要なものがあるはずだ」
「え?」
そう言ったのは今度はドギーであった。ドギーはさらに続ける。
「皆本君、そして超度7の明石薫君。この二人がSAOの中に入る事により別の戦力の確保が急務のはず。そうなった時……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 俺はともかく、薫は……」
「はい、そうです!」
「薫!?」
薫は、皆本の言葉を遮って言った。覚悟を持って、皆本に、彼女は言う。
「私一人が残されたって意味ないじゃん! 私一人のけ者にされて、取り残されて、三人が、皆が、友達が帰って来るのを一人待ちぼうけするなんてそんなの……私は嫌!」
「薫……」
「もう、あんな孤独を味わうのは、嫌だ!!」
「ッ!」
その時、皆本は思い出した。そう、彼女は生まれた直後からそのたぐいまれな機能力のせいで他者から疎まれて、孤独の中にいて、葵と、紫穂という自分と同じ超度7の友達ができるまで孤独の中にいた。そして二人と出会った後も、それ以外の人間とはうまく付き合うことができずに三人は、孤独の中にいた。
皆本光一という、文字通り光が現れるまでは。
かくいう皆本だってそうだ。その類まれなき才覚、頭脳を持っていたが故に周りの子供たちとは馴染むことができずに、先生からも見捨てられて、ついつい数少ない友達に持ってきてもらった難しい数学の問題を解決させてしまったらそのせいで海外に行くことになってしまって。
そんな孤独感を味わったからこそ、薫や、他のエスパーにもノーマルの、そして超度の低いエスパーのように普通に学校に通わせてあげたいと願うようになった。だから分かる。分かってしまっていた。分かっていたからこそ、自分は彼女の気持ちを踏みにじるとしても、この世界のためと、そして彼女と言う未来を守るために、この世界にいるようにと願った。
そんな願い、薫にとっては地獄の苦しみであると知っていてもなお。彼女のために、命を、守るためにと。