SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
迷いは、人を鈍らせる。ドギーは数多くの事件を追い、そして刑事達を導いてきたことから、彼の矛盾した感情を理解した。
「皆本君。君が彼女の事を思う気持ちもわかる。だが、それでもかけがえのない仲間たちから離される痛みを分かっているのなら、彼女の気持ちを汲んでやることも大事ではないのか?」
「しかし! そのせいで、薫の、いや薫だけじゃない。澪やカズラの……大事な未来を、子供としての時間を奪うなんてこと!」
「皆本……」
「……」
この言葉には澪とカズラもまた少しだけ驚いた表情を浮かべる。まさか自分たちの事も考えていたなんて、だが彼らしいと言えばらしい事なのかもしれない。
「心配はいらないわ。政府は、今SAOをプレイしている子供たちに対して学生としての時間、つまり奪われた分の教育及び就職先の保証についても検討の最終段階に入ってる。奪われた分の学生生活は、そっちで補う事が可能になる制度よ」
「それは知ってます! しかしその制度には……」
「皆本!」
「ッ!」
「確かにさ、子供としての時間は大事だよ。かけがえのない時間だよ。でも……私、私は……」
薫は、手に爪が食い込むくらいの力を振り絞って言った。
確かに子供としての時間は大切な物。子供としてどう過ごしたかで、未来が変わるのかを皆本に教えてもらった。これからも、高校生活とか、大学生活とか色々とあるし、その後そのままバベルで働くのかとか、他の職業に就くのかとか、そう言う未来を考える時間も奪われるのだろう。
でも、それをひっくり返してでも、ソレを知っていてもなお、彼女は。
「私にとって、皆本や葵、紫穂のいない子供時代なんて、子供時代じゃない!! 私たちは四人でチルドレンなんだ! 四人一緒だから、これまでも、これからの未来も超えていけるんだ! だから、お願い皆本! 私も、SAOをプレイさせて!!」
「薫……」
必死に懇願、だった。その目に涙をためた彼女の本心を、無下にすることなんてできるわけがなかった。できなかった。皆本は、どこか諦めたかのようなため息をつくと言う。
「全く、お前はいつまでたっても変わらないな。わがままでお転婆で、仲間想いなところも……」
「皆本……」
「どれだけ止めても、無駄なのは分かっていた。お前の未来を、皆の未来を守りたいと言うその言葉に嘘はない。だから、俺からも言わせてくれ……」
というと、皆本は薫、澪、カズラの三人の顔を見渡してから言った。
「SAOの中でも、俺は君たち子供の未来を守る」
「皆本……それじゃ」
こうして、紆余曲折あった物の、明石薫のSAO参戦が、正式に決定したのであった。
「フッ、話を戻そう。パンドラのメンバー二人、そして明石薫君も普通の人々に狙われる可能性が高い。そこでだ、我々宇宙警察が運営している施設を利用することになった。そこは、普通の人々は確実に入ることが不可能な施設だ。セキリュティは万全だ」
「宇宙警察も、協力してくれるんですか?」
「……そのことについてだが」
というと、ドギーはスッと立ち上がり、その頭を垂れて言った。
「今回の一件で、君たちバベルの人間を巻き込んでしまったこと、そしてSAO事件に関して、我々宇宙警察が何もしてこなかった事をここで謝罪させてほしい」
「ドギーさん……」
「いえ、こちらの特務エスパーが囚われることは最初から決まっていたことなのでしょう。あの荷物が、届いたときから……」
と、柏木は言った。そう、もしも宇宙警察の介入がなかったとしても、自分達バベルは茅場晶彦の挑戦状ともいえるモノを受けていたかもしれない。それが挑発だったとしたらなおさら、バベルの特務エスパーの性格からしてみれば、喜んで勇み足をしていた。
特務エスパーが囚われたこと、それは宇宙警察の責任ではないのだ。
そして、SAO事件に際して宇宙警察がそれ以上の行動を見せなかったことも。民事不介入という言葉があるように今回の茅場晶彦の一件は地球単体で発生している事件。もしもこれが宇宙規模になったら違っていたのであろうが、茅場の行いは、宇宙から見てみれば、一つの惑星だけで、しかもその惑星の住人が起こした事件。宇宙全体からみれば、小石のように小さなものだろう。
「だが、今日からは違う」
「え?」
皆本は、その言葉に疑問符を呈した、その直後ドギーは言う。
「この度、我々宇宙警察、地球署は、本部に掛け合いこのSAO事件の捜査に介入することとなった。茅場晶彦が入手した物が、地球外の物であったことが、不幸中の幸いだと言える」
「つまり、宇宙警察が介入する大義名分ができたと言う事ですか?」
「その通りだ。既に地球署にあるデカを呼んだ。今そのデカが担当している事件が終わり次第、こちらに来てもらう事となっている。我々地球署は全力をもって、このSAO事件を担当する」
これまで、内部干渉を避けて来た、いや避けざるを得なかった地球署の面々。しかし、今回の事件の発端が茅場晶彦が地球外からもたらした機械であったことを理由に挙げて、ドギーは宇宙警察の本部を説得、結果今回のこのSAO事件への介入の許可を貰ったらしい。そして。
「実は、パンドラに病院施設の貸し出しを条件にバベルとの一時的な和睦を提案してきたのも、このドギーだ」
「そうなの?」
「あぁ、ちょうど彼らも施設を探している最中だったそうだからな、都合が良かった」
「というか、私たちってまだ敵対してたの?」
「疑問持つのそこからなの澪?」
結果、バベル、パンドラ、そして宇宙警察の三つが協力し、戦力や資金を出し合う事が、バベルの局長代理をしている柏木、地球署の代表であるドギー、そしてパンドラの副リーダー的な立ち位置にある真木との間に交わされた約束事であった。
ふと、薫は疑問に思った。
「ねぇ、京介は?」
「……」
京介、本名兵部京介は、パンドラのリーダーであり、創設者でもある。≪史上最悪のエスパー犯罪者≫という別名を持つ彼は、今回の和睦に関してどう思っているのか、薫が聞いてみると、真木は暗い顔をして言った。
「現在、少佐はコールドスリープに入っている」
「え……」
「な、何だと!?」
「初耳よ、そんなの……」
と、この言葉にはパンドラのメンバーであるはずの澪達も驚きを隠せないでいた。因みに、何故兵部が少佐と呼ばれているのか、それは彼の軍属時代の最終階級が少佐であったから。そう、彼は第二次世界大戦を生き抜いた人間、つまりかなりの高齢であるのだ。
しかし、生体制御能力によってアンチエイジングを施していることによって青年期の外見のまま、彼の見た目は変わっていない。つまり、中身はおじいさん、見た目は普通の青年という男性なのだ。が、流石にその中身ではもう限界が来ているのだろう。
「少佐ももう九十を超えるから……いくらアンチエイジングを自分にしていると言っても限界が来ているのよ。でも、それでも、クイーンたちの未来を見るまでは死ねない、だって」
「京介……」
「少佐……」
リーダーの不在、それはパンドラを瓦解される一つの要因になるかも知れなかった。故に、パンドラの中でも兵部のコールドスリープに関して知っている者は幹部含めてごくわずか、そう、一年前のように、自分の組織に秘密を設けていたのである。ある意味彼らしいと言えば彼らしい。
「しかし、良いんですか、柏木さん」
「何の事かしら、皆本君?」
と、少し暗い雰囲気になったソレを変えるためなのか、話題を変えようと柏木に話しかけた皆本。彼は言う。
「薫がいなくなれば、確率変動値7の事件が起こった際に止めるすべは……」
そう、これが薫がSAOの世界に言ってはならない理由だった。ソレを理由にして、薫を現実の世界にいさせることに成功していた。だと言うのに、それを無視して彼女をSAOの世界になんて行かせていいのか、そう聞いた皆本に対して、柏木はいつもの笑顔で言った。
「大丈夫、宇宙警察の情報網を元に、何とか探し当てたわ。皆本さんたちも、先ほど見たでしょ?」
「え、俺たちもって、まさか!」
「その通りだ。皆、入ってきてくれ!」
先ほど見た。その言葉に当てはまる人物達なんて、一つの集団しか思い当たらない。
ドギーの言葉と同時に入って来た者たち。それは、六人の、先ほど戦ったフードをかぶった人間たちだった。
そして、そのフードを取った先にいたのは―――。
≪補足≫
京介は生年が1930年、SAOが2022年サービス開始なので現実的に考えると既に92歳……。確かに原作でも80歳代で活動してたけど、果たして90歳に入っても原作通りの活動ができるの? ってなりました。彼の設定的にはギリギリ行けそうな気がするし本作中でも言ってる通り一年前まで活動してるのに今更感ありますが、ちょっとこれは読者からも疑問に思われるかなって思いました。
で、どうするか考えて寿命で亡くなりましたはあんまりなのでコールドスリープに入った、という設定にしました。蕾見管理官も同じようにコールドスリープに入ってます。