SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
このビルに立ち寄るのは久しぶりだ。随分と、長い間海外の色々な場所を転々としていたから、あの人と直接会うのも久しくなる。
火野映司は、その人と会う前にエレベーターの中で考えていた。左翔太郎から伝えられた、フィリップが検索していたものについて。
「涼宮ハルヒ、シュリディンガーの猫、平行世界、SAO、茅場晶彦。そして……ログ」
茅場晶彦とSAOの関連性に関しては言うに及ばないことだろう。シュリディンガーの猫、と言うのも、いつの日にか聞いたことのある量子物理学上における思考実験。
涼宮ハルヒ、誰かの名前なのだろうか。聞いたことがない。
そして、平行世界。ソレはきっと、かつて仮面ライダービルドやクローズがいたこの世界と平行して存在しているというこの世界に似た、しかし全くの別物の世界のこと。
今では仮面ライダービルド、桐生戦兎の活躍によってその平行世界とこの世界は一つになった。けど、ソレ以外にもさまざまな平行世界が存在しているはずだ。そう、例えば自分が数ヶ月前の戦いで、死んでしまった世界、とか。
あの時は、ビルドやW、ゴーカイジャーといった自分の知っている戦士達のおかげでなんとか助かることができた。でも、もしそう言う自分以外のに戦える戦士がいなかったとしたらーーー。
いや、やめておこう、そんな、絶望と希望の相反する可能性を考える事は。
今は元の思考に戻るべきだ。最後にフィリップが残したと思われる言葉。翔太郎が言うには、その文字だけがまるでミミズが這いずり回ったかの様な文字になっていたと言う。
文字を書く場所は乱雑ではあるが、達筆であるフィリップがそんな文字を書くはずがない。だから、その言葉がフィリップが検索していた時の最後の言葉と、なる。そう彼は言っていた。
その文字とは、『ログ』。
果たして、ログとはなんなのか。よくパソコンの掲示板に残された文章のやり取りのデータのことをログと言うが、ソレのことなのだろうか。しかし、どうしてフィリップはそんな物を最後の言葉に残したのだろう。
そもそもだ、フィリップは本当に消えたのか。消えたとしたらどこ行ってしまったと言うのか。翔太郎は、その謎を追うために今も風都や、その周辺を走り回っている。相棒の手がかりを、見つけ出すために。
「火野さん、もう少しです」
「はい、里中さん」
と、火野映司は目の前でエレベーターガールの様に立っている女性、里中エリカに返答した。彼の格好は、いつもの旅人スタイル。おそらくペルーかどこかの民族衣装に身を包んでいて、とてもじゃないがこれから一定の地位に就いている人物に会う格好とは思えない物。しかし、それがある意味での彼の正装なのである。
世界中を旅している、彼の正装。今、その正装をもってして彼はある人物の前に到着した。
「よく来たね、火野映司くん!」
「鴻上さん、お久しぶりです」
鴻上ファウンデーション会長。鴻上光生。
仮面ライダーオーズとして戦っている映司のサポートとして、ほとんどの武器の開発を指示した男である。
そして、色々な事件の元凶となった人物である。
とはいえ、鴻上は、全ての人間の行動の原動力が欲望にあると考えている人間であり、それが善意であり悪意であったとしてもすべてを肯定すると言う人物だ。だから、本人に悪気はない、悪気はないのだが、その結果として多種多様の方面で迷惑をかけているという色々な意味ではた迷惑な人間である。
そんな彼は、実は八百年前にコアメダルを開発させて初代オーズとなった古代の王の子孫であるらしい。嘘か誠か、分からないが。
現在火野映司はこの鴻上が組織した鴻上ファウンデーションの研究協力員として所属しており、世界中を旅しながらとある欲望を実現するための方法を探していたのだ。
「早速だが本題に入ろう!」
と、鴻上は大声で言う。自分の事を呼び出すなんてきっとまたとんでもない理由があるはずだと、映司は思っていた。いつもだったら、秘書の里中に持たせたパソコンや、様々な通信媒体を利用して連絡を取っていたのに、今回に限っては直接会って話がしたいと言った辺り、作為的な物を感じ取らざるを得ないのだ。
いったいどういう了見なのかと、映司が訝しんでいると、彼は笑顔を絶やすことなくとある箱を取り出した。
「これは……?」
「開けてみたまえ」
「……」
また、おなじみの会長が作ったケーキだろうか。鴻上は、ケーキ作りが趣味のような物であり、何かあるたびにバースデーソングを歌いながらオリジナルのケーキを作る。それも、良し悪しを問わずとして、だ。聞いた話によると、十年前の戦いのとき、最後の最後でコアメダルを大量に取り込んだウヴァという怪人が暴走して、ビルが崩壊しそうな時にもいをかえさずにケーキを作っていたらしいからその執念はすさまじいものがある。
だが、別に自分はお祝いされるようなことはないはずだ。そう思いながら、その箱を開けた瞬間だった。
「これは……」
もはや言うまでもないのかもしれない。そこにあったのは、SAOとナーヴギアだった。驚嘆の表情を浮かべる映司に対して、鴻上はやはり笑みを絶やすことなく言う。
「そう、これぞまさしく、茅場晶彦という一人の男が、自らの欲望を叶えた夢の結晶! 興味がわくとは思わないかね?」
「いや、興味がわくかはどうかと思いますけど……」
と、映司は困惑気味だが、しかしこの言葉遣いは少し彼らしいなと思う映司であった。
なお、後で里中に聞いたところによると、彼はSAOがデスゲームとなった瞬間にもケーキを作り。
『ハッピーバースデー! ソード・アートオンライン!!』
等と言ったそうな。まったくもって、色々な人の琴線に触れそうな発言をする人間である。それはともかく、だ。
「これを見せたって事は、俺にSAOの世界に行けと言うんですか?」
「その通り!」
「お断りします」
映司は返す刀で返答した。それは、明らかに自分が所属している会社の会長に使う言葉ではない物、しかし彼自身の欲望を叶えるには、十分すぎるほどの理由だった。
「俺は速く、アンクを蘇らせる方法を見つけないとならないんです。だから……」
アンク、それは彼にとっては特別な人間だった。いや、人間ではない。アンクは、欲望の怪物グリード、つまり映司が当時戦っていた、本来であれば敵の一人であるはずの人物。何なら、十年前のグリードとの戦いの元凶と言ってもいい怪人。それが、アンク。そして、火野映司を仮面ライダーオーズに導いたのも。
しかし、戦いの中でギブアンドテイクの間柄だった二人は、いつの間にか互いを理解し合う関係、つまりは友情のような物を感じ、そして、アンクは最後に火野映司を助け、消えてしまった。
否、消えたわけじゃない。アンクはまだここにいる。映司はそう思っていた。それは、アンクを形作っていた割れた一組のコアメダルが表していた。
ここに、アンクの意識は眠っている。そのコアメダルを直す方法さえ見つければ、アンクは蘇るはず。いつか、長い時間をかけたとしても必ずアンクを復活させて見せる。それが、彼のただ一つの欲望となった。それが、彼の生きる目的となった。
「しかし、見つけたのだろう? 方法を」
「それはッ……」
鴻上に言われて、ハッとした表情をした映司。そう、彼は既に知っているのだ。アンクを、コアメダルの怪物グリードをよみがえらせる方法を。
ある国の遺跡に描かれていた方法。それを使えば、アンクを復活させることができる。それは知っている。だったら、どうしてその方法を試さないのか。決まっている。試したくても、できないからだ。なぜなら、その方法とは―――。
「だが、君はソレを試みることはない! なぜなら、君が人間であるからだ! そうだろ? 火野映司君」
「……」
人間だから、か。言い得て妙な物言いだが、しかし彼の言う事ももっともなのかもしれないなと、映司は思っていた。
自分が見つけたアンクを復活させる方法は、人間、というよりも生き物全体で見てもあまりにも非情な方法。一か八かで試してはならない方法であり、なおかつ、決して実行してはならない悪魔的な錬金術。
だからこそ、躊躇っていた。その方法を試すことを。ならば。
「だからこそ、君はこの世界に入るべきだ!」
「え……」
その方法を、強制的にさせればいいだけだ。それは、鴻上による火野映司の欲望を満たすための善意による行為。しかし、他の人間から見れば、悪意にしか見られない行為。
でも、映司からしてみればわずかな希望を持ってしまう欲望だった。
次回から、超能力者編と同じような連続性のある短編、やります。
因みに短編は今回のような一話完結ではない数話連続で描く話。予定だとプリキュア編の残り後半含めて8つを予定しています。
ーーー本編まで遠いなおい!?