SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「魔法少女に魔女、それに契約、か」
「信じられないことかもしれないわね。特に、男の人には」
そう、話しているのはキンジ、そしてマミの二人である。そして、そのはるか後方のベンチには、うつむき加減で座っているアリアの姿も。
ここは、都内にある海の見える公園。だが、今はその公園を主に使っているであろう子供たちの姿はない。当然だ。時刻は夜の八時を回って、辺りは真っ暗。いくら治安がいいと言われている日本であったとしてもその時間まで子供を遊ばせる親なんているわけがない。いたとしたら通報案件である。
だから、その公園の中にいるのは、彼ら三人だけであった。本来なら、彼らも自分たちの寮に、そして家に帰らなければならない。けど、その前にキンジは聞きたかったのだ。アリアが、虚空に向けて話をし始めたその理由を。
もしもそれが精神的なストレスが原因の幻視幻聴であるのならば武偵であるアリアにとって一大事であるから。そしてキンジは聞いた。マミから、魔法少女、魔女、そして契約の話を。
たった一つの願い事を叶えてもらう代わりに、魔女という怪物と戦う魔法少女。まるでアニメか御伽噺の世界での話のようにも聞こえてしまう。
「あぁ、今もこうして話してる俺たちの間に、その契約主のQBがいる。けど、俺には見ることができない」
「……」
それに、触ることも。そう言いながらキンジは虚空に向けて手を差し出した。しかし、そこにいるソレに触れることはできない。マミが言うにはそこにはQBという女の子を魔法少女にする、いわゆる妖精と彼女が呼称している存在がいるのだとか。
しかし、キンジにはソレを視認することができなかった。彼には魔法少女になる素質はなかったのだQBが言うには―マミの翻訳付きではあるが―、魔法少女としての素質があれば何歳だって、何なら男だって魔法少女になることができるそうだ。
だが、その中でも一番適切と言えるのが第二次成長期、つまり大体小学校高学年から高校の中頃までの年代であるのだとか。アリアも、年齢から換算するに本来であれば魔法少女として契約することができる年齢からやや外れていた。が、その素質から、今から魔法少女をやり始めても遅くはない、今だったらまだ契約することができる、とのことだった。別に体型が中学生だから、なんて失礼な理由ではないようだ。
馬鹿げている。とんだ妄想話だ。そうどれだけでも貶したり否定することのできる文言ばかりだ。けど、キンジにはソレを否定することができなかった。
「だが、アリアが乗り込んだ仕事だ。確かなのは、間違いないだろうな」
そう、彼女が、自分から乗った船なのだ。自分から乗り出した船なのだ。だからこそ、マミという自分たちの学校とは程遠い場所にいる女の子とも交流を持て、そしてこうして夜遅くまでアリアに付き添ってくれているのだ。きっと、彼女たちの話は本当なのだろう。
「信頼してるのね、彼女の事」
「いや、ただ俺は、アリアがどんな選択をするのか気になるだけだ」
まるで、話をはぐらかすかのように言ったキンジに対し、マミはそっと呟くように言った。
「……アリア先輩に、依頼をして来たのは誰なの?」
彼女に、SAOのプレイを依頼してきたのはどこの誰なのか、を。
前回、依頼内容を簡単に記したかもしれないが、全文を記すとすればこうなる。
『拝啓 ―――、貴方に依頼したいことがある。SAOをプレイしてもらいたい。SAOの中には現在のべ八千人以上の人間が囚われており、現在もゲーム攻略はあまり進んでいない状況にある。このままではゲームがクリアされるまで何年かかるか分からない。そこで、優秀な武偵として名をはせる貴公にプレイしていただき、SAOの攻略が円滑に進むように皆を導いてもらいたい。報酬は、それなりの物を用意する予定だ。今後、その提示をするが、それまでの間どうするか考えてもらいたい。これは、貴公の人生も、そしてそのほか多くの人間の人生にも影響を与える選択であることを憂慮し、熟考願う』
と。
「聞く意味があると思ってるか?」
「……」
キンジの返す刀のような返答に、マミは沈黙してしまった。そう、武偵にとって依頼人との契約は絶対的な物。その依頼内容、ましてやそのクライアントの名前を明かすなんてこと、言語道断と言ってもいいだろう。それは、マミも分かっているつもりだった。
「アリア先輩は、どちらを選ぶのかしら……」
「マミは、どうしてもらいたい?」
キンジの言葉に、肘を立てている柵のある一か所を見たマミ。恐らく、その目線の先にはQBがいた物と推測できるが、ソレを見た直後、彼女はフッ、と笑って星空を見ながら言う。
「本音を言うなら、魔法少女になって一緒に戦ってもらいたいわ。魔法少女コンビとして、一緒に魔女退治をして、アリア先輩の技を目の前で見たい」
彼女の元からの身体能力だ。きっと魔法少女になったのならば自分なんてすぐに追い越されてしまうだろう。でも、それでもいい。それでいい。それが、自分の憧れた先輩の姿なのだから。
これまで、何度も魔女退治に着いて来てもらって、その動きを見せてもらって、でもそれ以上を求めてしまう。そんな自分を憐れみながら、彼女は呟いた。
「でも、それは私の我儘。私の寂しい気持ちを埋めるためだけにあの人に魔法少女になってもらいたくはないわ」
「俺もだ。ただでさえ武偵の仕事は危険極まりないのに魔法少女までやり始めたら、アリアがどうなることか……」
武偵というのは常に命の危険に見舞われている。最近、というのもおかしな話だが、『武偵殺し』という武偵専門の殺し屋のような存在がうようよとしており、いつどこから狙われてもおかしくない程。
それこそ、自分達はエスパーと同じくらい毎日命の危険に悩まされているのだ。そんな、武偵としての仕事をしていると言うのに、加えて魔法少女何て物をやり出したら、彼女の命が持たないかもしれない。いや、それだけじゃない、『その心』も、どうなった物か分からない。キンジはそう考えて居た。
「……ずっと思ってたのだけれど」
「ん?」
ふと、ここでマミは素朴な疑問をキンジにぶつけてみることにする。そう、彼女が今日この日、アリアからキンジを紹介された時からずっと考えて居たこと。それは―――。
「キンジさんは、アリア先輩の恋人ですか?」
「ッ!?」
まぁ、ある意味年相応とも言えるような質問であった。
「ち、違いますから! 断じて!!」
と、誤解を解くためにキンジは必死でそう言い張る。だが、ある意味その姿こそが答え、だとマミは思った。けどここまで否定してくると言う事はその淡い恋心に少しは気がついているけれど、ソレを受け入れたくないと、そう思っているからなのだろうか。そう思いながら、マミは残念そうに言う。
「そうなんですか……」
と。その姿を見てため息をついたキンジは、今度はこっちの番だと言わんばかりに聞いた。
「どうしてそう思った?」
すると、マミはとてもはにかんだ顔をして言った。
「キンジさんがアリア先輩に向ける感情が、なんとなく愛情なんじゃないかって、そう思ったから。きっと、アリア先輩も……」
「……」
「なんて、アリア先輩仕込みの直感ですけどね……」
「まったく、大した観察眼を持ってるな……」
と、賞賛を送るキンジ。だが、ソレを肯定すると言う事は自分が、彼女に対し恋心を持っていることを意味することになるのでただそれだけしか言わなかったキンジ。
なお、余談ではあるがキンジは、心の中で自分の中にあるもう一人の自分とも言うべき存在と戦っていたりするのだが、それは今のところ関係ない事であるので隅に置いておいてもいい事であろう。
「……」
と、その時だった。ベンチに座っていたアリアが、虚な目をして現れたのは。
「アリア」
「アリア先輩……」
「マミ、キンジ、私決めたわ」
そして、アリアは語る。自分の覚悟を。その目にもう一度光を宿し、しかしどこか明後日の、いやおそらくQBを見ていたのであろう揺れ動く瞳で、言うのだった。
「私、魔法少女になる」
と。