SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第三十二話

「私が、迷ってる?」

 

 アリアが不思議そうな顔をして言った。やっぱり、気がついていなかったようだ。こんなこと、明白な事、本来の彼女であったのならば分かりきっていることだったはずなのに。

 マミは、一度瞬きをする。自分の心と向き合う様に。

 

「えぇ、先輩は迷っている。だから、私は……私も、先輩を止めようとしてるんです。迷いの中で答えを出したとしても、後々後悔するだけだから……」

 

 一瞬の判断ミス。それが、後に巨大な損失につながる。それが、決断という物。その機会すらも与えられなかったからなのだろう。彼女が気がつくことができたのは。

 

「それにだ。お前が本当に魔法少女になる道が正しいと信じるのなら、さっきQBと出会った時契約してとっくに魔法少女になっていたはずだ。なのにそうはならなかった。SAOと魔法少女、それを天秤にかけて……」

「キンジさん?」

「キンジ?」

「ちょっと待て……」

「え?」

 

 刹那、キンジの脳内に一つの疑問が浮かび上がった。言葉にしてみてようやくわかった疑問。

 話の途中に言葉を区切ったキンジは、少しの間考えるそぶりを見せる。何だ、何かが引っかかる。この、頭の中に降って沸いた重い寸胴のような思考は何だ。何か大切なことが欠けているような。でも、その大切なものがなかなかで来ない。

 曖昧な思考だとは理解している。素朴な疑問、である可能性だってある。だが、自分の中に沸いた好奇心を果たして留め置くことができるであろうか。キンジは自分の心を整理して、額からさらりとした汗を流しながら言った。

 

「≪魔法少女になって願いを叶えてからSAOをプレイする≫、そんな選択肢もあったはずだ」

「あ……」

「そういえば……」

 

 言われてみれば、アリアもなんならマミもまたあたかもコロンブスの卵のようなキンジの発言に驚いた。

 そうだ。そう言う手段もあったじゃないか。アリアが、QBに願いをかなえてもらって母親の死刑を回避する。その後SAOをプレイしてあかり達の救出に向かう。そんな手段もあったはずじゃないか。なのに、どうしてそれが出てこない。何故そんな至極簡単で、なおかつ一番の解決策であろう物が浮かび上がらなかった。

 何故、どうして。キンジはアリアに問う。

 

「なんで、その選択肢が出てこなかったんだ?」

「そんなの、ダメ……な、気がしたから……」

 

 と、アリアはやはり瞳を動かしながら言った。しかし、そこには先ほどまでの有象無象のような動きはない。彼女自身も思考を止めていなかった。どうして、自分の中でキンジの言うような選択肢が出てこなかったのかと。しかし、どれだけ考えても分からなかった。

 

「要するに直感、か……」

「そういえば、さっき『魔法少女になったらSAOをプレイできない』って、どうしてそう思ったんです?」

 

 確かにそんなことも言っていた。あれはどういう意図の発言だったのか、マミに問われたアリアは少しだけ考えるそぶりを示してから呟いた。

 

「それは、その……なんで、かしら?」

「それまた直感、か」

「けど、アリア先輩の直感には必ず何かしらの論理があるはずよ」

「あぁ、それをすっ飛ばして答えを言うのがアリアだからな」

「なんか、改めて言葉にされると腹が立つわね……」

 

 と、少しだけアリアの推理力に関して改めて総括され、彼女はちょっと怒る。確かに自覚はしていたけれども、こうしてハッキリと、それも少し前の会話も含めて何度も何度も言われると余計に腹が立つ。

 が、残念ながら事実なのだから怒るに怒ることもできない。しかし理論を組み立てることができればおのずと答えが出てくるはず。そう考えてアリアも再度その言葉の本当の意味を自分でも思い当ってみるが、しかし分かるはずもない。

 

「ある程度の情報はあるが、明確な答えを示すための証拠が抜けてるってことじゃないか?」

「証拠が抜けてる?」

 

 つまり、キンジの言いたいことはこういう事だろう。アリアはこの数週間、武偵としての任務を全うしながらも、休みの日、予定のない日はマミのいる見滝原という場所に行ってその活動を手伝っていた。

 その間に、マミから様々な話を聞いている。そして、キンジもその内容についてあらかた教えてもらった。それをもう一度考え直してみよう。

 魔法少女、それはたった一つの願いと引き換えにして魔女と戦う使命を与えられた存在である。

 その魔法少女の契約は、QBという一個体との間で行われる。

 魔法少女とQBの契約の際には、ソウルジェムと呼ばれる宝石状のアイテムが生成され、それが魔法少女の証であり、魔法少女がその力、つまり魔力を使う事ができる理由。

 しかし、魔力を使いすぎるとソウルジェムはどんどんと濁り、その光沢がどんどんと失われてしまう。ソレを回避する手段が魔女が落とすと言われているグリーフシード。魔力の消費によって生まれるソウルジェムの穢れを吸いとって移し替えることができるアイテム。

 魔法少女は、そのグリーフシードを手に入れるために戦わなければならない。

 

「魔法少女、魔女、ソウルジェム、グリーフシード、戦わなければならない理由……」

「そうよ、それだわ」

「え?」

 

 キンジのつぶやき、これまでの魔法少女に関しての情報を整理する発言を聞いたアリアが、どうやら閃いたようだ。自分の中にあった魔法少女に関する疑念に。

 

「マミ、聞きたいことがあるわ」

「な、何かしら?」

 

 アリアは、土石流のようにズズッとマミの前に出ると聞いた。

 

「確かソウルジェムはグリーフシードを使わなければ濁るって、そういったわね」

「え、えぇ……」

「そもそも、どうしてそんなグリーフシードを魔女が落とすのかしら?」

「え?」

 

 マミは一瞬彼女の言葉の真意を理解することができなかった。そんな事、考えたこともなかったから。それが、いつも通り、という事だったから。

 

「確かに、RPGのモンスターじゃあるまいし……都合よく魔法少女を回復させるアイテムを落とすか、普通……?」

「あ……」

 

 言われてみればそうだ。どうして今まで気がついてこなかったのだろう。いや、それが普通だったから、それが魔法少女としての役目の一つの報酬だと、そう思っていたからなのかもしれない。

 しかし、キンジの言葉にも一理ある。魔女にとって、魔法少女という存在は目の上のたん瘤と言ってもいいような存在。そんな魔法少女に対して、敵に塩を送るような真似をして何になると言うのか。

 

「もう一つ、グリーフシードはソウルジェムの濁りを取る物って言ったわよね、濁り切ったらどうなるの?」

「そんなの……考えたことはなかったわ」

 

 そんな状況になった事、今まで一度もなかったから。マミはそう頭の中で答えた。自分は魔法少女になってから今に至るまで、たくさんの魔女を倒し、そのたびにグリーフシードを、時には落とさない敵もいたけど度々ソレを入手して、ソウルジェムの穢れを取りながら魔法少女として戦っていた。

 もはや本能だったと言ってもいいのかもしれない。絶対にそうしなければならないと言う使命感にも似た何かだったのかもしれない。

 けど、そのせいで理由まで追求することを忘れてしまっていたのは、きっと信じていたからなのだろう。自分を救ってくれた、魔法少女という存在、そしてQBという存在を。

 

「QBからも、聞いてないのか?」

「え、えぇ……」

 

 QB、そう彼ならば何かを知っているかもしれない。いや、知っている。魔法少女を、そしてソウルジェムを生みだした張本人なのだから、知っていてあたりまえの事。キンジはマミに言う。

 

「なら聞いてくれ、QBに。ソウルジェムが穢れ切ったらどうなるのか」

 

 男であるキンジは、QBと会話をするためにはマミやアリアを一度挟まなければならない。そんな一方通行な会話をずっと続けているのにもいづれは限界が来るだろう。そう考えたキンジは、二人にQBから話を聞くように頼んだ。すると。

 

「……QB、キンジさんに姿を見せてあげて」

「そんなことができるのか?」

『仕方ないね、呼んだかい? 遠山キンジ?』

「これが、QBか……」

 

 不思議と、驚きのようなものはなかった。それまで、魔法少女の事を何度も聞いていたから、あるいはそんな程度の事で驚いている時間なんてなかったからなのだろう。

 だから、キンジは聞いた。

 

「早速だが本題に入る。QB、お前は知ってるはずだ、もしソウルジェムが濁り切ったらどうなるのかを」

「いったい、どうなるのQB?」

 

 マミが食い入るようにキンジの言葉の後に聞いた。本当だったら、自分自身が疑問に思わなければならないことだったのに、自分が今までそんなことも考える事なかった、それに気がつくことができなかったが故の事だったのかもしれない。

 果たして、QBは何のためらいもなく下記のような発言をするのだった。

 

『そんなの簡単さ、その瞬間、ソウルジェムはグリーフシードに変換されるんだ』

「え……」

「な、なんですって……」

 

 時刻は、夜中から真夜中に入ろうとしていた。都合よく、マミの魂の光を際立って魅せるかのように。その光に、少しの穢れが現れるのは、そう遅い事じゃなかった。

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