SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第三十三話

 巴マミ、という少女は、ごくごく普通の女の子だった。

 ごく普通の一般家庭に生まれて、ごく普通に生きて、育って、そして人並の幸せを貰う、貰える人格者であった。

 けど、あの事件がすべてを変えた。

 数年前、極めて普通のドライブ、だったはずの物が彼女の運命すべてを変えた。両親とのドライブ中だった。運転手は勿論彼女の父親で、助手席には母親が乗り、そして、後部座席にはマミが乗った。まさか、その席順が命のやり取りのその最後の決め手になるなんて、彼女は全く思っていなかった。

 一瞬の出来事だった。目の前が真っ赤な炎に包まれて、自分の身にとてつもない衝撃が襲いかかって来たのは。

 自動車事故、である。今となってはその原因は定かではないけれど、分かっていることは、その事故によって前方の席にいた両親は即死してしまったこと。そして、後部座席にいた自分は運よく座席のシートの下にハマったことによって一命をとりとめていたと言う事。

 だが、それも風前の灯火だった。炎は二人の人間の命を奪ってもなおその勢いを衰えることなく少女のか弱き命すらも奪おうとしていた。いや、そうじゃなくても自動車から漏れ出たガソリンに引火したり、はたまた煙を吸ったことによる一酸化炭素中毒によって死んでしまう可能性だってある。何にしても、彼女が死に一番近いところにいたのは間違いなかった。

 嫌だ、助けて、死にたくない。幼かった少女は当然のように願った。当然の生への渇望だった。けど、残念なことにその場所はほとんど自動車が通ることのない道で、穴場スポットであると言う事を知ったのはずっと後の事。

 そのため、彼女を助けてくれる人間はただの一人もいない。このまま、自分も死んで、両親のもとに行くのだろうか、逝けるのだろうか、そんな希望とも絶望とも感じる思いが、頭によぎる程、彼女は混乱し、何も分からなかった。

 いや、ただ一つ、分かった事がある。それは―――。

 

『生き延びたいかい?』

『誰?』

 

 その事件で、彼に出会ったと言う事。

 そして。

 

『巴マミ。僕と契約すれば、どんな願いでもかなえてあげるよ』

『ねがい……』

『そう、だから……僕と契約して、魔法少女になってよ!』

 

 その願いが、彼女を救ってしまったと言う事。皮肉なことに、この事件に置いて彼女は生還、そして魔法少女としての戦いの日常が幕を開けたのだった。

 幸いにも、両親が残してくれていた遺産は膨大な物で、家族で暮らしていたマンションの部屋はそのまま残り、そこで彼女は、一般人としては変わらない日常を過ごすことができていた。

 そう。

 

「……」

「う、うぅ……」

 

 今もこうして、その部屋で、泣くことができるほどに。人前でも、憧れの先輩の前でも泣くことができるくらいに悔しくて、そしてそんな自分が嫌になる。

 

「マミ……」

 

 一方、キンジは一人家から出されて、ドアの前に立っていた。これは、何も追い出されたわけではない。キンジは少し前に思いをはせる。

 

『お願いキンジ、私とマミ……二人きりにさせて』

『アリア、だが……』

 

 と、呆然自失のマミの隣にいたアリアからそう願われたのである。しかし、キンジは不安だった。もしも自分が目を離している間に契約なんてものをしたら、そう思って。

 すると、そんな心配を感じたのか、アリアはフッと笑った。

 

『大丈夫、契約は……少なくとも、キンジのいないところではしないから』

『……分かった』

 

 と。キンジはその言葉を信じることにした。いや、信じるしかなかった。少なくとも、男である自分には全く分からない世界の話だから。

 

「……私、信じられないわ」

 

 ひとしきりに泣いた後だった。マミは、目元の涙を拭うと言った。

 

「QBが、私の事を騙していたなんて……今まで倒してきた魔女が、私と同じ、魔法少女の末路だったなんて……そんなこと知らずにたくさんの魔女を倒して……私、私ぃ……」

 

 そう、それが魔法少女の真実。それが、QBが話した魔法少女の全て。

 そもそも、ソウルジェムという物は、魔法少女となる契約の際に契約者である少女の魂を宝石に変えた物、つまり魔法少女そのものであると言う事。

 さらに、そのソウルジェムの濁りは、魔法を使用するだけじゃなく、負の感情、つまり悲しみや憎しみを持つことにもよって濁ると言う事。

 そして、そのソウルジェムが完全に濁りきったもの、その正体こそがグリーフシードであり、そしてなおかつ魔法少女たちの成れの果てが魔女である、という事。

 マミは絶望した、すべてに。QBに助けられたと思っていたのに、そのQBのせいで魂を肉体から離されて、さらにあろうことか元々は同じ魔法少女だった女の子達を殺していたと言う事実に。そんなこと知ろうともせずにばかばかしく魔法少女活動をしていたと言う事実に。

 そしてなおかつ、そんな魔法少女に憧れの先輩を誘おうとしていたと言う事実に、絶望した。

 

「……」

 

 アリアは、しかし他人だったからなのだろう。冷静に、そして俯瞰的にマミの現状をくみ取り絶妙に声をかけた。

 

「でも、マミはそのQBのおかげで助かったのよね」

「え?」

 

 それは、マミにとっては意外な発言だった。アリアは、さらにマミに向けて笑顔を放ちながら言う。

 

「前に言ってたでしょ? 自分が魔法少女になった経緯」

「……」

 

 アリアは知っていた。マミが魔法少女になった交通事故の事を。彼女の魔法少女の活動に着いて行っていた時に親しくなった時彼女に、あかりとともに聞いていた。

 だからこそ、彼女は言った。

 

「武偵憲章第5条……行動に疾くあれ、先手必勝を旨とすべし……」

 

 これまで、何度も何度も聞いてきた。いや、マミ自身も復唱し続けて来た武偵憲章。魔法少女としての活動も板について来て、将来の事を考えた時に、ふと武偵の話を聞いてそれ以来、目指し続けた職業。そして知った、アリアの存在。

 それが、自分の魔法少女としての活動の後半部の転機となったと言っても過言ではない。魔法少女として、裏で活躍する中でも、表の世界でもたくさんの命を救うために戦いたいと願って、就きたいと思った職業。

 それが、武偵。

 

「マミは、そのときできることをした。一度は失われるはずだった命を、救ってもらえるように願った。ただ、それだけの事よ」

 

 そう、彼女は一番の最適解を選んだのだ。その時、思い浮かぶ中で一番できる事。もしも両親の命を願ったところで、彼女自身が死んでいたかもしれないし、QBに願うことなく、誰かが助けてくれるのを待っていたらその間に死んでいただろう。

 彼女の選んだ、QBに願って助けてもらうと言うのが、最大のベストだったのだ。それ以外の選択肢なんて求めてはならなかったのだ。

 マミは、間違った判断なんて一つもしていなかったのだ。

 

「でも、私は……たくさんの……」

「魔法少女だった魔女を殺した。それは確かにそうよ……でも」

 

 アリアはそう言いながら立ち上がると、自分の胸に手を置き言った。

 

「貴方のおかげで、救われた命がたくさんある。何より、魔女にされた魔法少女を救ったのも、マミ。私とあかりだって、マミに救われた人間の一部だって事、忘れてない?」

「アリア先輩……」

 

 そう、マミがたくさんの、元魔法少女だった存在を殺してきた事実は拭えない事実だ。けど、それと同時に彼女によってアリアやあかりを含めた大勢の命が救わたことは確かだ。彼女は自分の命と引き換えにしてしまったと思うかもしれない。でも、事実を事実と述べることは何の間違いではない。

 少なくとも、彼女にその命を救われた本人が、そう思っているのだから。

 

「騙した、騙された。そんなことで泣くのはやめましょう、マミ……今までがどうかじゃない。これからどうするかで、考えましょう」

「先輩……」

 

 そう、これから、どうするか。どうなるのか。それが問題だ。

 マミは思っていたと言う。きっと、この人はこの後ある選択をするのだと。

 それが最善であるとは彼女自身も思っていないはず。でも、そんな愚かな選択をしなければ、≪二つ≫の命を救う事はできないのだと、そう分かっていたのだろう。

 そう、分かっていたからこそマミは心苦しかった。

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