SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第三十七話

「アリアの遺伝子……つまり、ホームズの遺伝子か!?」

「その通り、稀代の名探偵とされ、そのあまりにも荒唐無稽の活躍から多くの人間には小説の中の人間として認識されている、シャーロック・ホームズの遺伝子。それが財団Xの狙いだったようだ」

 

 どんな複雑怪奇な時間も解決に導いてきたシャーロック・ホームズ。その活躍の幅はッとても広く、そしてあまりにも多くのイギリス国内外の事件に置いて活躍をほこった名探偵。そのあまりの活躍から、本当はそんな人間いなかったのではないかと多くの人間から思われている人物。

 しかし、彼は実在していた。アリアが、その証拠である。そして、そのホームズの遺伝子を色濃く受け継いだ結果、論理や推理をすっ飛ばして結果だけを即座に言い当てることができる神崎・H・アリアが産まれたのだ。

 

「資料にもそう書かれていた。財団Xの狙いは明白だ」

「そのために……私の遺伝子を狙って……でも、どうして私のママが死刑に……」

 

 そう、問題はそれだ。アリア自身を誘拐するなどであれば分かる。どうして母親のかなえまで巻き込まれ、おまけに死刑判決を言い渡されてしまったのか。その因果関係がよく分からない。

 そんな彼女に対して、翔太郎は手元の機械を操作して言った。

 

「財団Xは近い将来、お前の母親の命の保証と引き換えに、自分たちの懐にしまい込もうとしていたらしいぜ」

「そんな……」

「母親を人質に取られれば、どれだけ信念の強い人間であったとしても従わざるを得ない……特に、お前の性格からすれば間違いないく財団Xの指示に従うはずだ。それが奴らの考えだった。」

「なんて奴らだ……」

 

 アリアは思う。確かに、もしも自分が母親の命と自分の命を天秤にかけられたとしたらどうしたのかと、母を助けるために悪の道に入るのか、それとも母を見捨てて、空虚な武偵という生活を続けるのか。QBに問われたあの質問と似ている。そこに悪意があるかないかというのが決定的な違いだが。

 そんな彼、彼女たちに言葉を受けた三宮は徐に言う。

 

「犯罪が横行するこの時代、そしてその膨大な事件の量をさばききることができなくなったが故に出来た序審裁判システムは、数多の冤罪を生んだ。中には、冤罪であることが後に分かった死刑囚もまた存在する」

「ッ!」

 

 瞬間、アリアの顔がこわばった。その序審裁判システムの被害者が、自分の、母親。いやそれだけじゃない。他にも多くの人間がそのシステムの被害者となっている。

 三日。そう、たった三日で人の人生を狂わせてしまうのだ。今の法律のシステムは。だが、確かにそれだけの多くの事件が多発していることもまた事実。多くの人間が嘆き、苦しみ、犯人を一刻も早く捕まえてもらいたいと願うのも事実。だが、その結果真相が闇に葬られてしまう。

 否、それはまだいい方だ。もしも、冤罪にかけられた人間が死刑判決を受けてしまったら。恐る恐る、キンジは聞いた。

 

「その……人は……」

「それが分かった時には、既に刑が執行済みだった……」

 

 キンジは、苦虫を嚙みつぶしたような、どこか怒りにも思える表情を浮かべた。

 三宮の上げた死刑囚、その名前は≪青影丈≫。連続殺人事件の犯人として警察が捜査し、そして≪SL9号事件≫と呼称される事件に置いて一人の人間を殺害した事を原因として逮捕され、有罪判決を受けた男だ。

 しかし、その逮捕した事件そのものが冤罪、多くの人間の思惑と、そして他に行った5件の殺人事件で立件ができないと判断した人間の手によって、間違った正義を行使した結果何人もの人間の人生を狂わせてしまった日本の法曹界の歴史上類を見ない程のスキャンダル。

 死という究極の手段を使用することによってその犯行を永久に止めた、と言えるかもしれない。確かに青影丈は連続殺人事件の犯人だったのかもしれない。しかし≪違ったかもしれない≫。真相は闇の中に消え去ってしまい、誰もその真実を見ることができなくなってしまった。それが、冤罪による死刑囚が産まれたきっかけ、そして現在の法律システムの欠点。

 

「そんな……」

「同じ過ちを、何度も繰り返してはならない! だが、財団Xの資料だけでは彼女の無実を完全に……ましてや今の日本の裁判のシステムでは取り消すことができないのだ……」

 

 死刑、あるいは無期懲役となった人物が、冤罪を訴えてソレが認められる事案は多々ある。しかし、それは旧時代の法律システムのことであり現在の素早く裁判を終わらせると言う法律システムにおいてはなんの役にも立たない。

 もっと根本的な、彼女の母親が完全に無罪であるのだと証明する証拠が必要なのだ。だが、そのためにはあまりにも時間がなかった。

 

「そこで、スケバン刑事(デカ)の出番だ」

 

 と、翔太郎に言われてキンジはハッとなる。

 

「なるほど、前のスケバン刑事(デカ)だった人と同じように、その任務に就いている間は死刑の執行が延期される……ソレを利用することにしたのか」

「その通りだ。つまり、≪お前たち≫がSAOの中に入っている間は、神崎かなえの死刑は行われない。クリアされるまでに確固たる証拠が出れば、無実にすることができる」

 

 そう言うこと、か。いや、今なんて言った。

 

「ちょっと待って、お前……たち?」

「そう言えば言ってなかったな。実は、俺にも同じ依頼が来たんだよ」

「え?」

 

 青天の霹靂、である。そんな事、一言も言っていなかったじゃないか。アリアは喫驚しながらも、キンジは続けた。

 

「俺だけじゃない。白雪に理子、それにジャンヌにも同じ依頼が届いたそうだ」

「ッ!? そんな」

 

 彼があげた名前、ソレは全て武偵仲間、特に白雪とジャンヌの二人は主要武器が剣である二人だ。確かに、SAOはゲームの世界。その世界に送る人間であるのならば、二人の剣士は必要であるのかもしれないが。

 でも、何だろう。何か、都合がよすぎる気がする。

 

「……こんな諺がある。≪卵が先か、鶏が先か≫……ってな」

「え?」

 

 突然、翔太郎が言い出した。

 

「アリア……何か違和感のようなものを、感じないか?」

「違和感?」

「あぁ、そうだ。同じ探偵として、何が違和感なのか、分かるはずだ」

「正確に言うと武偵だけど、ね……そうね、気になることと言えば……」

 

 そう、気になることの最たるものとしたら、やはりコレしかない。

 

「あまりにも都合がよすぎるわ。SAOが私たちのところにきたタイミングで、貴方たちが接触してきたこと……かしら」

 

 その言葉に、三宮が頷いた。アリアはソレを確認した後に続けて言う。

 

「仮に貴方たちが本当の依頼人だったとして、どうやって私たちの分のSAOとナーヴギアを用意できたのか」

 

 警察で確保できているSAOとナーヴギアは少ない。そもそも購入者の、ほとんどがSAOに行ったり、そうじゃなくても当人が見つからなかったと言う理由で回収できないものが多かった。だから、五人分のナーヴギアとSAOを用意するなんて、普通じゃ考えられない。

 

「それに、卵が先か鶏が先か……まさか!」

「アリア?」

 

 今回で言うのなら、依頼が先なのか、ソレともSAOとナーヴギアのセットが先なのか。ソレを考えた時に彼女は直感的に感じた。

 

「本当の依頼人は、貴方達じゃない……」

「何?」

「……その通りだ」

 

 三宮はかけているメガネを一度あげると言った。

 

「本当の依頼人は茅場晶彦……SAO事件の主犯だ」

「!?」

 

 まさか、主犯自らが警視庁にSAOとナーヴギアを送付したと、そう言う事なのか。でも、だったらなおさらおかしなところがある。

 

「それが、警察経由で私たちに回って来たって事ね……でも、どうしてわざわざそんな回りくどい事をしたのかしら? 私たちに直接依頼をすればいいだけなのに……」

「普通に依頼されて、ソレを承諾したか? 特に、母親の死刑が間近に迫っている……お前がな」

「……」

 

 いや、正確に言うとソレは違う。何故なら自分にはSAOに行きたい理由というものがあったはずだから。茅場晶彦はそのことを知らないだろうが。

 

「もしかすると、茅場晶彦と財団Xの間につながりがある可能性がある。が、それについてはまだ分かっていない。だが、少なくとも、我々を経由したことによって、君にSAOを確実にプレイさせる目的が作られたことは事実だ」

「全部、茅場晶彦の手の上で、踊らされていたってことなの?」

「もしそうだとしたら、相当な知略家か、あるいは魔性のギャンブラーだな……だが、おかげで、大義名分ができた。かなえさんを助けて、SAOをプレイして……そして……あいつらを救いに行けるチャンスがな」

 

 そう、全てが繋がった。自分の、全ての望みが達成できる道筋が、たった一つの懸念事項を除いて、だ。

 

「……」

「アリア?」

 

 すっと目を閉じたアリアは数秒、考える。そう、彼らの中ではもう自分に後顧の憂いという物はないと思ってくれているのかもしれない。でも、彼女には一つだけ、たった一つだけどうにかしておかなければならない問題があった。

 うっすらと目を開けたアリアは、言う。

 

「ちょっと、電話だけさせて」

「あぁ、勿論」

「ありがとう」

 

 そして、アリアは倉庫の外へと出て行った。周りに誰もいないことを確認すると、携帯を取り出し、ある人間に電話をかける。

 数秒、電話のコール音が響いた後。相手が、受話器を取った。そして、アリアは言う。

 

「もしもし、マミ?」

 

 と。

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