SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第三十九話

 被害者の会、と言う物を知っているだろうか。とあるところでは、ある共通の事件、事故、あるいは同一の事柄によって被害を受けた被害者たちが結束してできた組織、ということになっている。

 その行動目的は様々あるが、しかし、こと今回に置いてはやはり第一に、心のケアが目的の会、となっているのだろう。

 都内某所。そこに、多くの人間が集まっていた。そう、SAOに家族を、友達を、知り合いを奪われた者たちだ。その数、本来であれば会議室程度あればいい様な人数しか集まらないであろう。しかし、こと今回の事件はあまりにも被害が多すぎた。

 結果、とある会館の大ホールを貸し切れるほどに被害者が集まったのである。そこにいる人たちは年齢も性別もバラバラ。下は中学生上はおじいちゃんおばあちゃんと言われる年齢層まで、一列目から最後列、果ては二階席まで埋まっているほどだった。

 だが、これでもまだ序の口。今回集まれた人たちだけではない。全国各地、様々な場所にSAO被害者がいて、それぞれの支部があるのだ。その中でも、ここはその総本山と言ってもいい場所。そこで、ある、一人の女性が声を上げようとしていた。

 

「みなさま、今日はお集まりいただき、ありがとうございます」

 

 彼女は、SAO被害者の会の一応の総代表を務めている人物だ。名を、西住しほという。

 女性は元々戦車道、西住流の家元であり、本来であれば熊本に拠点を持つ女性であった。そのため、本当はそちらの支部にいればいいのだが、しかし彼女のカリスマ性もあったのだろう。今回の事件で、彼女の娘が被害にあったと聞いた多くの人間から、被害者の会の総代表を任されてしまった。

 当初は、自分は戦車道しか教えられないからと固辞していたのだが、しかし被害者の者たちと話していく間に、彼、彼女たちに寄り添いたいと言う思いが強まったそうだ。

 別に、傷のなめ合いをしたいわけじゃない。今回の事件で失われた多くの人間の時間。多くの人間の人生、そして多くの茅場晶彦に対しての情報を共有するためにこの集団は集まったのだ。

 しかし、今日の本題はいつもとは少しだけ違っていた。

 

「先日、茅場晶彦から新たな犯行声明が出されたことを知っている方も多いでしょう」

 

 その瞬間、会場がざわついたのが、壇上にいた西住しほにも痛いほど分かった。当たり前だ。あの放送は、ある意味でSAO被害者である自分たちに対しての侮辱にも等しい物。また新たな被害者を増やそうとしている宣言にも、あるいは、来れる者なら来いと挑戦状をたたきつけられたかのような気分になった人間もいるのだから。

 だが、それも想定内の事だ。そして、ソレを込みで彼女は一度目を瞑ってから言う。

 

「そして今朝、私の下に二つの……SAOとナーヴギアが届きました」

 

 その言葉を受けて、一層騒然となった会場は、壇上にあるしほの顔を直視することなく隣にいる人間と話し始めたり、混乱をきたしていた。

 なによりも、このSAO被害者の会会長とされてしまっている西住しほの下に、≪二つ≫のSAOとナーヴギアが届いたこと、それが意味なすことを、多くの者は分かっていた。

 

「静粛に……手紙には、私と、娘のまほにぜひプレイしてもらいたいと……そう、書かれていました」

 

 西住まほ。西住みほの姉にして、戦車道の強豪校たる黒森峰で隊長、指揮官を務めていた女の子だ。

 因みに、そのまほは。

 

「お母様……」

 

 壇上のすぐ横にある幕の後ろでソレを聞いていたりする。

 彼女も、ついさっき聞かされたこと。そして、どうするのかは自分で決めるようにと、そう言われた。

 妹のみほが囚われていることはとうの昔に知っている。そして、今は自分と同じように学園艦から降ろされて、陸にある病院で完全隔離、管理されているのだと。まほも、時折見舞いに行って、大洗や他の学校の戦車道を学ぶ、いわば同士とも言うべき人間たちと会話を交わすことが多々あった。

 西住まほは、しほの後を継ぐ、つまり、西住流の後継者として育てられてきた人間だ。しかし、だからと言って完璧超人であるわけがなかった。

 妹がSAOの世界に囚われ、何も思わない程冷徹な人間ではいられなかった。他人が見ている前では気丈に振舞ってはいたが、しかし一人になって、みほの事を見つめている彼女の切なさは、誰にも理解することはできないだろう。と、誰もが思っていた。

 違う。彼女だけじゃない。彼女の母だってそうなのだ。もう西住の家とは縁を切ったと、そう公言させたみほのことを思っているのは、まほと同じことだった。

 彼女の愛娘、みほは家から勘当された人間だった。一年前の試合で、西住流にあるまじき振る舞いを、しかし人間としては正解である行動をした結果、勘当された人間。

 でも、それは西住流という名前がさせたこと。母親としては、勘当したこと自体に腹立たしさを感じ、そして心配していた。大洗に彼女が行った後も、SAOの世界に囚われた後も。ずっと、ずっと。

 

「恐らく、ここにいられる方々の中にも、同じ人間がいるはずです。SAOとナーヴギアが届いた、そんな人間が」

 

 瞬間、ざわついていた会場が一気に静まり返った。まるで、魔女探しでもしているかのような光景に、しほは自嘲しながら言う。

 

「今、ここで私は宣言しましょう。西住みほは確かに私の娘、ですがすでに勘当し、家から出しました。私の……娘ではありません」

「お母様!」

「しかし……この、SAO被害者の会の中でも≪数少ないはず≫のSAOを入手できた人間としての義務を果たしたいと思います」

「え……」

 

 その言葉の意味を、まほは一瞬理解することができなかった。しかし、会場にいたごくわずかの人間。自分と同じように子供をSAOに囚われた≪日向秋≫や≪八坂頼子≫。妹を囚われた≪才川苗≫や≪宮永照≫と言った、同じく≪SAOとナーヴギアを受け取った人間≫、そしてそうじゃなかった人間にも分かった。

 それが、彼女の西住流家元としての立場と、母親としての立場、二つを両立させるための建前なのだと。

 彼女は言う。

 

「私は、SAOをプレイします。その結果自分がどうなろうとも、私は……ここにいる皆様の、大切な家族を、友を、仲間を……救い出します」

「お母様……」

 

 まほは、ぎゅっと手を握りしめ、胸の前に置いた。まるで、自分自身も覚悟を決めるかのように、しほは続ける。

 

「この三週間は、≪皆様≫にとって、苦痛の毎日だったでしょう。≪家族≫と離れ離れになってしまう。ともすれば、二度と会えないかもしれない。≪皆様≫にとって、それは、例えどんな苦痛よりも耐え難いもの。近くにいるのといないのと、遠くにいるけれど、元気でやっているのだと知っているのとでは全然違う。≪皆様≫は、そう、思われていることでしょう。≪皆様≫は……」

 

 違う。彼女は≪皆様≫という大きな言葉でごまかしている。自分の辛さを、自分の苦しみを、今この場にいる人間たちを利用して、自分の後悔を表しているのだ。

 娘を危険なデスゲームの世界に囚われて心配しない母親がいる者か。それが自分の流派として正しい行いで、苦渋を飲んで追放した娘であったとしても、いや、あったとしたらなおさらだ。

 西住流の名前を汚してしまったと言ってもいいみほは、確かに戦車道から離すべきだった。でも、あの時のみほの行動について、母親として咎めたことは一つだけしかなかった。

 たった一つだけの罪、しかしソレを、彼女は今度は自分の意思ではない他人の力によってその罪を背負わされているのだ。

 そんなの、母親として許しておくのか、いや、できるわけがない。

 しほは、最後に思いの丈を込めた言葉で言い放った。

 

「私は……西住流家元としてではなく、SAO被害者の会代表西住しほとして……SAOをプレイします」

 

 其の時、彼女は思っていたと言う。西住流という枷から外れた自分が、果たしてどうなるのか、みほのように仲間に恵まれて、たくましく、自分の戦車道を見つけたように成長できるのか、それとも―――。

 恐れと、期待、そして人生を費やすと言う選択。

 彼女の覚悟は、その会に参加していたSAOを受け取った人間たち、迷いのあった人間たちの心を統一させるのに十分であった。

 ここに、SAO被害者の会会長西住しほの参加、及び、SAO被害者の会こ数人の人間によるSAOのプレイが決まったのであった。




 今回は、SAO詐欺に引き続き、やっぱり原作でもあったのでは?と言う会、そして母親、姉妹勢の参戦エピソードになりました。参戦する人間は、想像できてると思いますが、また今度。
 あと、しほさんの台詞、一部某スポーツ漫画の台詞をオマージュさせていただきました。
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