SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第四十話

 私はずっと、目を逸らしていました。逃げ続けていました。ずっと、ずっと出口のない迷宮の中で行ったり来たりして、怯えていて、苦しんで、もがいている。そんな女の子に対して真摯に向き合う事を避けていました。

 そして、それは彼女の母親もきっと、同じこと。

 私≪青木れいか≫は、もう逃げ出さない。彼女に、逃げてもらいたくない。そんな自分勝手な理由で、あの家族を引き裂こうとしている。それは決して許されない罪。邪道という言葉すらも生温い、外道。本来の自分であれば決して取らないはずの道のり。

 けど、そうしなければあの子を救えないのならば、私は―――。

 

「れいかちゃん」

「……え?」

 

 と、その時だった。れいかの隣を歩いていたやよいが、ふと声をかけたのは。考え事をしていたれいかはその言葉に一瞬だけ反応が遅れた。やよいは、そのいつもとは違う反応の遅さにため息をつくと言う。

 

「れいかちゃん顔がこわばってるよ。そんな怖い顔してたら、聞いてくれる話も聞いてくれないよ?」

「……そう、ですね」

 

 やよいの指摘も、もっともの事だったのだろう。彼女から声がかけられるまで、れいかの顔はまるで雪女と見間違うほどの無表情で、むしろそれに恐ろしさを感じずにいられなかったらしい。きっと、これから行う外道に、自分の心と身体が剥離してしまった結果の事なのだろうとれいかは思っていた。

 もう、季節は冬。厚着のコートなどの私服に身を包んだ少女二人は、それぞれに見舞いの品となる物をやよいが、段ボールに包まれたソレをれいかが持って友達の家に向っていた。その足取りはとても重く、まるでこれから人殺しでもしに行くかのように幻視するほどだった。

 

「みゆき……」

 

 その頃、彼女たちの友人である星空みゆきの家。育代は、彼女の部屋の前に来てドアをノックしていた。しかし、彼女からの返事は一切なく、ただただ何かを書いているような音が中から漏れ出て来るだけだった。

 

「お昼……ここに置いておくから……」

 

 といって、育代は質素ながらも家庭的なお昼ご飯を彼女の部屋の扉の前に置くと、≪放置されていた朝ごはん≫を下に持っていく。

 もう、かれこれ三週間。みゆきはご飯を一口たりとも食べていなかった。喉を通らなかったとも言うのかもしれないが、とにかく自分が持っていったご飯を一切食べていないのは確かだ。あんなことがあったのだ、精神的に参ってしまっているのは分かるが、しかしそろそろ限界であろう。

 病院に連れて行った方がいいだろう。誰だってそう思ってるし、現在長期の出張に言っている夫に相談した時にもそんな話をした。でも、果たして彼女が部屋から出てくるだろうか。ソレがそもそもの問題だった。

 完全に部屋に引きこもっているみゆきの部屋の中に入れるのは友達のれいかややよいだけ。母親である自分ですらも部屋に入ることができないと言うのに、それよりもよい友達ができたと言うのは嬉しい事なのかもしれないが、でもどこか親としての敗北感のようなものを感じ取っていたのは確か。

 育代は思っていたと言う。このまま、みゆきがどこか遠い世界に行ってしまうのではないかと。果たして、その懸念がかなり的を得ていた物だと知るのは、それから十数分後の事だった。

 

「あら……」

 

 家の呼び鈴が鳴った。育代はみゆきの朝ごはんを処分し、皿洗いを済ませた直後、これからどうするかと考えて居た時の出来事であった。

 タオルで手を拭いた彼女は、すぐさま玄関に向かい、ドアの取っ手を掴んだ。

 

「はい、どなた?」

 

 そして、玄関のドアを開けた先、そこにいたのは。

 みゆきと同い年くらいの女の子と、そしてかなり歳を重ねた、でも自分でも羨ましいと思うほど美しい女性―に負けず劣らず育代も綺麗なので謙遜である―であった。

 

「初めまして。星空育代さん、ですね。私は雪城ほのか、みゆきさんのお友達です」

「みゆきのクラスメイト……?」

「あ、いえ。私高校生で……その、ちょっとした集まりで出会ってお友達になったんです」

 

 嘘はついていない。ただ、ちょっとした集まりというのが少し語弊があるだけだ。ほのかは心の中で冷や汗をかいていた。

 育代は、そんなほのかに対して優しい微笑みを浮かべて言う。

 

「そう……ほのかさん、ね。みゆきのお見舞いに来てくれたの?」

「あ、えっと実は……」

「?」

 

 ここで、ほのかはしどろもどろになってしまった。それにちょっとだけ不思議な感覚になった育代。

 そう、今回ほのかの訪問理由はみゆきのお見舞いのためではない。それよりももっと大事な用事があったから。それは、彼女の隣にいる女性が関係している。

 女性は懐から≪警察手帳≫を取り出すと言った。

 

「星空育代さんですね。警視庁の平井です」

「警視……庁?」

 

 つまり、警察官。どうしてそんな人間が今家を訪ねてきたのだろうか。それも、みゆきの友達という少女を連れて。育代はまたしても不思議な感覚に陥った。

 そして、平井―ここからは愛称の大福に戻す―は、ゆっくりと懐に警察手帳を戻すと言った。

 

「今日はみゆきさん、ひいては育代さんにとっても大事な話をするために来ました」

「え?」

 

 と。

 何故、この二人がれいかたちよりも先に星空家を訪れたのか、その理由は数十分前にさかのぼる。

 

「本当に、みゆきさんのお母さんに話すんですか?」

「えぇ、それ以外に、みゆきちゃんをSAOにいかせない方法はありませんから」

 

 そう、言いながら星空家へと向かっていた大福とほのか。あのプリキュア全員が集まっての会議からまもなくに時間近くが経った

 大福は、パトカーの中で上司である大岩に事のあらましを話した。大岩は、マナたちの意思を変える事は困難であると判断、だから、せめてそれ以上未来溢れる子供たちがSAOをプレイしないようにと大福に伝えたのである。

 勿論、大福ははなからそのつもりだった。プリキュアという女の子たちははっきり言って自分たちでは敵わない程に性格が濃いと言ってもよい。個性豊かで、それぞれの考えを持っていて、そんな少女たちがこれと言って決めたことを簡単に覆すような物じゃないと大福はあの会議の中で思ったそうだ。

 大岩は大福に対してみゆきがSAOをプレイするのを止めるようにと指示を出した。だが、それはもとより大福の脳裏に会ったこと。だからこそ、会議の直後に、れいかとやよいの二人がSAOを手にし、彼女たちに残った最後の仲間である星空みゆきの下に向かった後、大福もまたすぐそばにいた雪城ほのかを連れ、パトカーに乗り込んだのだ。

 星空みゆきがSAOをプレイするのを、止めさせるために。

 パトカーの中でほのかは言う。きっと、今のみゆきがSAOを目の前にしたら、絶対にプレイするだろうと、奪われた友達や、そして自分のせいでSAOに行ってしまったえりかを取り戻すために、いばらの道を進むことだろうと。

 だから、その前に星空家に辿り着き、そして説得しなければならない。本人ではなく、母親を、である。

 いくらなんでも娘が死の世界に行くことを望む親なんていない。彼女の母親であれば、きっとみゆきの事を説得してくれるはずだ。でも―――。

 

「みゆきさん……それで本当にSAOに行くのを止めるんでしょうか?」

「……」

 

 それは、自分自身も思っていたことだと、大福は言う。ほのかから、現在の星空みゆきの状況を知れば、彼女の性格を知れば誰だってそう思う事だろう。

 でも、それでも彼女を止める方法があるのであれば。少しでも彼女を救う事ができるのであれば、そう大福は思いながら彼女の家に向かった。

 けど、その中で大福は感じていたと言う。果たして、本当にそれが正しい事なのかと。

 確かに、自分たちの思う最悪は未来のある子供がデスゲームなんてものに囚われてしまって、その豊かな人生を閉ざしてしまう事。でも、それは自分たち大人が勝手に思っているだけで、彼女たちにとっては余計なお世話だと言われてしまうのかもしれない。

 実際、相田マナ達がSAOをプレイすることを表明した時、明確に止めようとしていたのはただの一人だけ。その一人も、絶対にマナの意思を覆すことができないと知っていながらもそれでもなお、という願望に近い物だった。

 SAOは、みゆきにとって救いなのかもしれない。自分の友達に、そして自分が送り込んでしまった友達に会って、謝って、そしてまた笑顔になれる。そんな手段の一つだったのかもしれない。

 だから、きっと自分が行ったところで、それでも少しでも希望があるのならば。

 大福は、とても曖昧な感情を持ったまま星空家に向かった。パトカーを家の前に止め、ほのかと一緒にパトカーを下り、ドアをノックして、彼女の母親が出て来て―――。

 

「今日はみゆきさん、ひいては育代さんにとっても大事な話をするために来ました」

「え?」

 

 正義の味方を気取って見せる。果たして、それが正しいと言えるのだろうか。

 大福にも、何なら隣にいるほのかですらも分からなくなってしまっていた。

 そして、大福が育代に件の話をしようとした。

 

「キャァァァァァァァ!!!!」

「え……」

 

 その刹那、絹を裂いたような叫び声が、聞こえて来た。




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