SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 えぇっと、今回、まさかの三年前に一回だけ出てきたキャラというか作品の忘れた頃の再登板。この作品ともう一つ、はいふりが泣きの一枠とするのなら、その二つは悪あがきの二枠、となるでしょう。


メインシナリオ第三章 外伝 第四十二話

 立ち並ぶビル街。そこは、多くの会社の所有物であり、そしてそこにいる人間たちには思い思いの欲望が渦巻いている。

 彼はある意味で、その欲望を見るためだけにこの場所に会社を建てたのかもしれない。この場所から大勢の人間の日々蔓延する欲望を見るため、ただそのためだけに彼はこのビルを買ったのかもしれない。

 会長室で、数多くの資料に目を通す彼、鴻上は今ある目論見を立てていた。≪彼女が≫自分の想像するような人間であるのならば、きっとこれからこの資料が役に立つ。彼は、ほくそえみながらその時を待ちわびていた。

 一人の人間が欲望を曝け出す。その香しき瞬間を。

 と、その時秘書の里名が現れて言う。

 

「会長、彼女が面会を求めています」

 

 やはりそうか。彼は見ているだけで憎らしくなるほどの笑顔を浮かべると言った。

 

「そろそろくる頃合いだと思っていたよ。入り給え!」

 

 それから、もう間もなくの事だった。魔王の城の扉のように重々しいソレを開いて、一人の女性が姿を現した。

 

「失礼します……」

 

 ≪両方の≫髪をリボンで結んだ少女は、どこか臆病ながらもしかししっかりとした意思を持って鴻上の前に立った。

 彼女は、SAOサービス開始の日に、突如として鴻上コーポレーションのオフィスへともう一人の少女と共に現れた女の子だ。

 その時、社内は騒然となっていた。無理もない。目の前に現れた少女は、その中身はともかく、外見は≪彼らの≫良く知っている顔に瓜二つだったから。

 だが、鴻上にとってはそんな事さして問題ではなかった。彼は気がついていた。その、彼女と一緒にやって来たもう一人の少女が、とんでもない欲望を持っているという事を、そしてそれは彼女とて同じこと。

 鴻上には見えていた。今目の前にいる少女が、夢という欲望を持ち、雪崩のような獰猛さをその内に隠しているのだと。

 

「さっそく、要件を聞こう!」

 

 鴻上は、答えが分かりきっている質問を彼女にした。すると、彼女は深々と頭を下げながら言う。

 

「お願いします! 私を、765プロの皆の所に行かせてください!!」

「どうしてだね?」

「……今、765プロの皆は苦しんでいるんです。仲間をSAOに閉じ込められて、仕事も減らされて、ネットでは誹謗中傷も受けて……そんな皆を、助けたいんです!!」

 

 以前765プロのプロデューサーがあくせく色々な現場に足を運んでいた時に説明した事なのかもしれない。今、765プロというよりも、あのプロジェクトSAOに参加した人間たちは、会社は窮地に立たされていたのである。

 ただSAOの宣伝に駆り出された、それだけを理由として罵詈雑言をあび、表の番組に出ることはなく、SAOに関係したなかったはずの会社に所属しているアイドルにまで影響を及ぼしていた。

 765プロは元々小規模な事務所。その事務所がこのような窮地に立たされてしまえば、つぶれるのも時間の問題だ。彼女はソレを敏感に感じ取っていた。だから懇願するのだ、自分を彼女たちの所に、≪仲間≫の所に連れて行ってもらいたいと。

 

「だから、お願いします!!」

「765プロに行くのは簡単なことだ。が、しかし!」

 

 スッ、と立ち上がって彼と彼女の間にあった大きな机を迂回しつつ少女に近づき、その横を通り過ぎて客人を招くためにソファに欲望のままに動く男は座ると言う。

 

「行ったところで、君には何もできることはない。そうだろう」

 

 何故、彼女が向かったところで何もできることはないと断言できるのか、どうして仲間の所に行くと言うだけなのにここまで反論されるのか、それは、彼女の出自に、そしてその容姿に関係があった。

 彼女は、ある人物にそっくりなのである。まるで、双子の片割れのように姿形の似た人物。

 いや、それも当然なのだろう、何故なら、彼女は、≪彼女本人≫なのであるから。

 そう、彼女の正体とは。

 

「……平行世界の、天海春香君!」

「……」

 

 現765プロ所属、そして現SAOプレイ中のアイドル、天海春香の平行同位体なのであったから。

 それが三週間前に鴻上ファウンデーションの職員が色めきだった理由。今を時めくトップアイドルのはずの天海春香が、突然目の前に現れ、そしてその後この世界の彼女がSAOに囚われたと言う事から、では一体自分たちの目の前に現れた天海春香はいったい何者なのかと騒然となっていた。

 当然ながら鴻上はそんな事意にも返すことなく、彼女たちをかくまうことにした。自らの欲望に殉ずるために。

 

「この世界の君は、SAOの中に閉じ込められている。今君が表舞台に立つことは、決してできない、いや許されないことなのだ」

 

 彼の言う事も一理ある。今彼女が表舞台に立つことは、すなわち天海春香がまだこの世界にいると言う事、彼女がSAOに閉じ込められたと言う765プロの発表が嘘であったと言う誤解を生みかねないのだ。

 そのため、この世界に平行同位体がいないことが確認されたもう一人の少女はともかくとして、彼女がこの鴻上ファウンデーションの外に出たことはこの世界に来てからただの一度もない。彼女は、ずっとこの会社が社内に用意した―というより鴻上が用意させた―部屋にかくまわれているのである。

 混乱を避けるため、765プロを守るためには自分は表舞台に立ってはならない。分かっているのだ、そんな事。でも。

 

「それでも、それでも何か力になってあげたいんです!」

 

 悲しんでいる仲間たちを、苦しんでいる仲間たちを放っておくなんてこと、できはしない。たとえそれが、自分の知らない仲間たちであったとしても。

 最初は、大いに混乱した。それもそうだろう、なぜなら彼女は別の世界から飛んでいった世界から≪またしても別の世界≫に飛んできたのだから。

 本来の自分の世界は二つ前の世界だった。そこで彼女はあるロボットに乗って多くの戦いを経験した。≪アイドルマスター≫として戦って、苦しい戦いを、辛い戦いを、胸を締め付けられるような裏切りを、そして身を引きちぎられる程の別れを経験した。

 その後、普通のアイドル生活をして、人気アイドルになって、生活も日々彩が増えて言った中で、彼女は別の世界に飛ばされた。

 そこにいたのは、≪765プロの面々≫だった。今いるこの世界にいるその面子と≪一人≫を除いて全員同じ人間がいて、己は大いに戸惑い、混乱して、でも彼らはそんな自分の事を≪家族≫として迎え入れてくれた。

 それから色々あって、元の世界で別れたモノとも再会して、また新しい戦いに挑もうとする、その矢先の事だった。

 自分達二人がこの世界にやってきたのは。

 どうして、そんなことになったのか、まるっきり分からなかったし、再会したカレともまた離れ離れになってしまったことは辛いことだ。でも、それでも今ならハッキリと分かる。自分たちがこの世界にやってきたのは、きっとこの世界の家族を救うためなのだと。

 しかし。

 

「心意気だけでは世界は変えられない! 変えられるのは、ただ一つ……欲望のみ」

「そんな事……」

「君だって、そう言った欲望の中で戦ったはず、そうだろう?」

「……」

 

 春香は、黙り込むしかなかった。確かに、自分は見たから。あの戦いの中で多くの人間がそれぞれの欲望をもって行動をした結果どうなったのか。

 ある人間は仲間に裏切られて死に、またある人間は過去の因縁に追い詰められて死に、そしてある人間は過去に縋って消滅した。

 多くの人間が死に至った。世界が、破滅寸前にまで陥った。

 そんな自分たちの世界を知っているからこそ、彼女は何も言う事ができなかった。

 

「欲望と行動は決して、切っても切り離せない物……欲望があるからこそ行動し、その欲求を叶えるために人間はいるのだ。君は、その欲望をどのような行動で叶えたいのかね?」

「欲望と、行動……誰かを守るために、戦う……誰かのために、戦う……」

 

 春香は、鴻上の言葉を反復して声に出しながら考える。自分がやるべきこと、自分の欲望、つまり765プロの家族を救うために出来ることが何であるのか。自分が表舞台に出ることができないのであれば、一体何をすれば彼らの、彼女たちの助けになるのか。

 そのために、どんな犠牲を払うのか。

 ふと、その時彼女はある人物の顔が思い浮かんだ。そして、閃いた。閃いてしまった。ともすれば、家族たちを引き裂くことになるかもしれない、そんなとある考えを。

 

「だったら……」

「ん?」

 

 彼女は、天海春香は俯いていた顔をキリリと上げると、鴻上の顔をしっかりと見て言った。

 

「だったら、私に、あの子の……九条美海さんのプロデューサーをさせてください」

 

 と。




 アイドルマスター XENOGLOSSIA
                 参戦済みでしたよね。
 三年前の告知で名前だけ出てきた子。
 ちなみになんでこの子ともう一人が悪あがき枠かは作者の複雑な事情があります(ヒント:実はこの二人に加えてダンクーガノヴァの飛鷹葵も出てくる予定があった)。
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