SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第四十三話

 自分が、九条美海、つまり自分と一緒にやって来た前の世界の家族、そのプロデュースをする。

 その発言に興味を持った―あるいは、その発言を待っていたのかもしれない―鴻上は、ゆっくりと立ち上がると問う。

 

「天海君、その言葉の意図を聞かせてもらおうか」

 

 圧力にも、脅しにも聞こえるその言葉にも、春香は臆することはなかった。いや、こんな緊迫する場面、何度も乗り越えて来た。仲間たちとともに、何度も、何度も、だから彼女は勇気を出して言う。

 

「私の世界には、確かに敵がいました。その敵と戦うために、仲間と……時々喧嘩したり、仲間割れしたりして……でも最後には仲間たちと結束して、世界を救う事が出来ました」

 

 そう、彼女は多くの経験をしたのだ。多くの、心に傷を負うような出来事を経験し、そのたびに成長してきた。それは、仲間がいてくれたから、だけではない。時には仲間が敵になったり、その仲間と命を懸けた死闘を繰り広げたり、その中で自分は成長することができたのだ。

 そう、思っている。だから、きっとこの世界の家族だって。

 

「一緒に戦う事ができないなら……私が、765プロの敵となって、戦う……」

 

 己が表舞台に立てないのなら、裏方から、九条美海をプロデュースすることで家族たちの敵になる。敵対関係になったことによって成長できたと信じている彼女だからこそできた提案なのだろう。

 しかし、この提案には大きなリスクが存在している。鴻上は、ソレを指摘した。

 

「それで、765プロがつぶれる可能性だってある」

 

 そうだ。それこそ、最後の一押しになるのかもしれない。今現在、脆弱となっている765プロを潰してしまう最後の手段と、なってしまうかも。今の心理状態の家族なら、可能性はなくはない。新しいライバルという存在に怯え、恐れ、そして再び立ち上がることができなくなるかもしれない。

 自分だって、何度も何度も挫折を経験して、何度も這い上がって来た。でも、這い上がれたことは全部奇跡だったと思う。仲間がいてくれたから、大切なモノがいてくれたから起こしてくれた奇跡。

 自分一人じゃなかったから起こすことができたのだから、きっと彼女たちだってそうだ。そう一途に信じなければこの提案をする意味はないのだ。

 勿論、恐ろしさだってある。未来溢れる原石を潰してしまうと言う可能性に、自分自身がプレッシャーを感じてしまう。けど、だからと言って立ち止まってしまえば、一歩も前に進むことはできない。

 まっすぐ、自分の顔を上げて、前を見て、答えを言うのだ。

 

「そうかもしれない。でもそうじゃないかもしれない。でも、もしそうなるんだったら……」

 

 覚悟を持って言う。生半可な気持ちじゃ、きっと彼女たちに勝てないはずだから。九条美海という一人の女の子の人生を狂わせようとしている時点で、何の覚悟も持たずにその世界に足を踏み入れることはしてはならないのだから。ハッキリと、自分の言葉で、力で、意見で、立ち向かわなければならないのだ。だから、

 やるとするのなら―――。

 

「私は、765プロを潰します」

 

 徹底的に、本気で、彼女たちを潰しに行く。そうしなければ、この計画の意味はないのだから。

 

「それが、君の欲望かね?」

「いいえ……我儘です」

「素晴らしい!」

 

 と叫んだ鴻上は、大げさな拍手をする。あまりにも大げさすぎて、一瞬花火の音とも幻聴してしまうほどに派手な拍手を何度かした後、彼は己の仕事用の机に向かった。

 そして、窓の外を見ながら大きく手を広げて言うのだった。

 

「君の覚悟、しかと受け止めた……いいだろう、作ろうではないか。新しい会社を! その前に、里中君!」

「はい」

 

 と、どこにいたのかも分からないが秘書の里中を呼んだ鴻上、すると彼女は何かホテルのバイキングに使うようなカートを押しながら現れた。その上には、ちょっと大きいのではないかと思う銀色の蓋によって隠された皿が乗せられていて、ちょっとした涼やかさというのも感じられる。

 

「開けて見給え、天海春香君」

 

 そして、ソレを春香の目の前に持ってくると鴻上は春香自身の手で開けるようにと促した。

 春香はおっかなびっくりと言った様子で、その重厚な蓋を取った。すると、その先には。

 

「え?」

 

 ≪ハッピーバースデー! 鴻上プロ!!≫。

 そんな文言が書かれた大きな平たいバースデーケーキが乗せられていたのだった。勿論、鴻上自作のケーキである。

 まさか、春香は鴻上の顔を見た。瞬間、彼はやはり張り付いたような笑顔を浮かべながらに言う。

 

「前々から考えていたのだよ。芸能界には、多くの人間の欲望が渦を巻いている。その中心に迫ることで、欲望が結実する瞬間、欲望が崩れ落ちる瞬間、様々な欲望の結晶を見ることができるのだと!」

 

 そして、彼は続いて机の上に置いてある大量の資料の束を指して言った。

 

「これは、そんな欲望にまみれた芸能界を見てもらうためにとひそかに調査していた、大きな欲望を持つ者たちのリストだ!」

「これが……全部」

 

 凄い量だ。春香はしかし、大企業の会長が紙の資料なんてものを使っていると言うちょっとした時代錯誤のようなものを感じてしまった。

 推測であるが、彼にとってはソレが一番欲望を具現化しやすい物だったのだろう。

 確かに今の時代、ノートパソコンやタブレット端末で情報を整理するのは容易いことだ。実際彼以外の社員は全ての仕事をそう言った電子機器に頼りきりになっている。けど、それでは欲望の大きさという物が判断できない。薄っぺらいたった一つの画面の向こうにある情報を見ているだけでは、何の感情も湧いてこない。

 紙という、むしろアナログともいえる物質であるが故に質量を持ち、そして彼が言う欲望という物を視認することができる、だから彼は紙の束という物にこだわっているのだろう、そう思った。

 だが、これでハッキリとした。鴻上ははなっから自分と美海を芸能界に送り込もうと思っていたのだ。自分自身の、欲望を叶える、ただそれだけのために大勢の人間を巻き込もうとしているのだ。

 全く持って、欲望に貪欲な人間ほど面倒な物はない。

 

「この中から芸能界に送り込むアイドルを、芸能人を選出し、新たな会社、鴻上プロを作る!! 君は、そのプロダクション最初のプロデューサーとなるのだ」

「……」

 

 全部織り込み済みだったのだ。自分が765プロの家族を愁い、この提案をしてくることも、美海を芸能界に送り込むことも、全て。

 まるで人形師のような人物だ。自分が決意を決めて行う事を全て先読みして勝手に物事を進めて、全く持って油断も隙もない。

 春香は思ったと言う。このような人間を≪敵に回さなくて≫良かったと。

 

「ハッピーバースデー!! 天海春香P!!」

「……」

 

 だが、全て掌の上で踊らされていると言うのも少し癪に障ると言う物だ。あれよあれよという間に自分の想定以上の事が目の前で起こって、混乱していたが、しかし春香にはどこは反抗心のようなものが沸いていた。

 後になって思えば、それすらもまた鴻上によって導かれた欲望であるのかもしれないが、ともかく春香は面と向かい、彼に言った。

 

「……鴻上会長さん、一つお願いがあります」

「何かね? 天海P」

 

 これが、765プロの絶対的な敵対者となる鴻上プロの誕生、そして本来アイドルであるはずの天海春香のプロデューサー就任の瞬間であった。

 果たして、彼女がこの世界に現れたこと、それが毒になるのかそれとも薬になるのか、それはまだ誰も知らない。

 きっと、目の前の男以外は誰も。

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