SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
改めて考えると、だ。
「この子犬、ラテっていうのか? すごく可愛いゾ!」
「ワン!」
「フフ、ラテも喜んでいます」
「……はぁ、ここまで来たなら、やるしかないわね。我那覇響さんね、よろしく」
「知っててくれたのか?」
「私走り高跳びをしていたの。貴方の運動神経はよく知っているわ」
「つまり、私のライバルってことか! 絶対に負けないゾ!!」
「えぇ」
「な、なんだか円ちゃんってどこかで見たことある気がするんだけど……」
「……気のせいでなくて?」
「まぁ、それじゃひめちゃんは本当にお姫様なの?」
「そう! 本名はヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイ! めぐみたちがSAOから帰るまで、日本にいる方法を考えてた時に、アスミに誘われたの!」
なんとも個性的なメンツになったことか、いやソレは元々だがーーー。なお、後から聞くとこの中で沢泉ちゆだけは、ここに来たのは元々アイドルになると言った面々を止めようとしていたからなのだとか。
が、765プロに到着した折に高木から逆にスカウトを受けてしまったため、あれよあれよと言う間に話が進んでいき、最終的に電話で友達に助けを求めたら『面白そうだからアイドル経験しときなよ』と言うありがたい話を何人からも授かったのだと。結果、仕方がないからアイドルとなることになった、というらしい。それはさておき、いやさておかないような気もするのだが。
プロデューサーは、親睦を深め合っている少女たちを端の目で追いながら、部屋の隅の方で高木と契約の最終交渉をしている少女の方へと向かう。
「あの……フェリシアさんって、確か……ミュージカルスターの……」
「あ! 知ってくれているの! ありがとう!! 正確に言うと、ミュージカル『シスター』なんだけどね!」
「シスター?」
そう、彼女フェリシアは他の人間たちとは違い、日本人ではなくアメリカ人の女性、というか素人ではなくプロの舞台女優であった。本人曰く、ミュージカルシスターであるそうなのだが、彼女の活躍に関しては海を渡ったこの日本でも大きく響き渡っている。
因みに、彼女の容姿に関しての補足だが、彼女は人間ではない。キャットウーマンと呼ばれている魔界にかつて生息していた種族であり、現在では希少種となってる種族。彼女から生えている耳や尻尾は作り物でもなんでもない本物のソレである。のだと、以前雑誌で紹介されているのをプロデューサーは見たことがあった。
不思議なことだが、この世界では他世界で見ると異色と言われている人間たちが普通に暮らしている。その最たる例が前回も話したようなジューマン、と呼ばれている動物の姿を持った人間たちだ。彼らもまた元々この日本とはまた別の世界に住んでいた種族で、とある出来事がきっかけで数年前にこちらの世界に降り立った。多種多様な場所からの支援や協力もあり市民権を獲得した彼らは、今もなおこの地球上のいたるところで暮らしている。
そんな存在を知っていたから、キャットウーマン族という本来であれば忌避されるかもしれない種族たるフェリシアは大多数の人間によって受け入れられ、今では彼女のステージは≪一度彼女のショーを見に来た観客は、そのダンスと愛らしい歌声に魅了される≫とされているほど喝采を浴びている。
「その、フェリシアさんがどうして……765プロに?」
そう、それが一番の問題。どうしてそんな既に名声を手に入れているような女性が日本の、この小さな事務所に所属するという話になったのか、その詳しい経緯がよく分からなかったのだ。
そんな言葉に対して、桃が恐る恐る手を挙げながら。
「あの、実は……」
「桃からお誘いが来たの!」
「え?」
と、彼女の言葉を遮るようにフェリシアがやはり元気いっぱいと言わんばかりの声で言った。
「えっと、詳しくは話せないんですけど、以前フェリシアさんと一緒になることがあってそこで仲良くなって……で、今回私が765プロに所属する話とか色々話したら……」
『面白そう! 私も765プロに入る!!』
「という事で……」
「そんな簡単な理由で!?」
と、流石にあまりも安直すぎる理由に、周囲にいたアイドル達もさすがに驚きの表情を見せた。
因みに、桃とフェリシアの関係性に関して詳しく話せない、というのは俗にいう国家機密に抵触しているから、ということになっている。というよりも、言っても信じてもらえないかもしれないというのが桃の考えでもあったらしい。正直彼女自身も≪あの一件≫は経験した自分でも半信半疑で、終わった時にはまるで夢でも見ていたのではないかと思うほどに短い間に起こった事件だったから。
「確か、フェリシアさんは事務所には入っていないフリーで活動しているミュージカルスター……いや、シスターだから事務所移籍問題は起きないだろうけど……」
「確か雑誌で読んだ話によれば、孤児院を経営していると……」
律子が思い出すように話した。以前フェリシアの事を紹介した雑誌によれば、彼女は元々孤児で、とある教会に拾われたのだとか。以来孤児院でひそかに過ごしていたが、自分の容姿が他人から見れば不自然であった事から周囲から孤立していき、その教会のシスターと一緒に孤児院から離れて静かに過ごしたそうな。
そんな経験から、孤児院≪ねこのこはうす≫を創設し、以来歌って踊れるミュージカル≪シスター≫としての今の彼女があるのだと。かいつまんで言えばそんな話なのだが、そこまで話したときに、フェリシアが言う。
「そう! それが問題なの!」
「え?」
「確かにフリーだからお金は全部私の独り占めになるんだけれど、運営費とかで色々持ってかれたり、仕事がその時々で安定しないから、ちゃんとした収入が期待できないんだよねぇ」
と。それがフリーで働いている芸能人の宿命、といえばそれまでだが、事務所に所属している人間は、諸々の裏仕事を765プロのように社長やプロデューサーのに他人任せにすることはできず、更には共演者への出演代も自分自身で捻出しているので、安定した収入が維持できていない。
今のところは向こう数カ月、孤児院の子供たちが路頭に迷わないようにとお金は稼げているのだが、それがいつまで続くかが問題だった。
「だから! これを機にしっかりとした事務所に入って、安定した収入を貰えるようになればいいんじゃないかなって! そう思ったの!」
「これを機にって……」
「『ねこのこはうす』の皆も、応援してくれるって言ってくれたし、一番の後輩として、よろしくお願いします!」
「後輩なのに一番スターなのはどうなのかな?」
「フフッ、そうね」
あずさ以外のアイドル勢力、そして新人アイドル集団がみんなして苦笑いした。確かに今回彼女は事務所に入る機会があったのかもしれないが、だからと言って大スターを受け入れてもいい物なのだろうか。
彼女の歌やダンスのセンスは抜群だ。それにその容姿も、勿論事務所としては所属してくれると言うのならばこれほどうれしい物はない。しかし、彼女を受け入れて、同期入社となることになるアスミ達にプレッシャーにならないか、そんな疑問が浮かび上がる
当人たちはそんな彼の不安何てどこへやらと言わんばかりに仲良し気に話しているのだが、心配な物は心配だ。
「プロデューサーさん」
「桃さん……」
と、その時だ。心配は無用とばかりに明るく話しかけて来た桃。彼女に対してプロデューサーは当然のことながらさん付けで呼んだのだが。
「桃でいいです。心配しなくても、あの子達にはあの子達の強みが、光を作り出す力があると、そう思います。スターになる素質……だから、私がSAOの世界に行っている間、みんなの事、よろしくお願いします」
というと、彼女は頭を下げた。なんと、礼儀正しい女性だろう。流石社長が初めてプロデュースしたアイドルなだけある。そんな少女にこうも頼み込まれると、断れるものも断れないであろう。
プロデューサーは、しかしソレで改めて決心が固まったのかもしれない。
「……あぁ、分かった! アスミ、ちゆ、亜久里、ひめ、あや、まゆ、フェリシア……それに桃……」
そして、元より765プロに所属していたアイドル達、事務員の音無、プロデューサー仲間の律子、高木社長を順番に見ると言った。
「俺たちは絶対にこの事務所を立て直して見せる! 765プロという家族を、絶対に壊させはしない」
家族、家族、家族。何度でも言ってやる。自分は彼女たちを含めて765プロを一つの家族であると信じている。家族であるからこそ、乗り越えられる痛みや苦しみが存在しているのだと信じている。彼女たちがいれば、何も怖い物はない。挫けても、誰かが支えてくれ、また立ち上がる。自分が、支えて見せる。
そう覚悟したプロデューサーは、高らかに宣言した。
「だから……みんなの力を、貸してくれ!」
と。こうして、この世界の765プロ再始動の瞬間が訪れたのであった。
「はい、プロデューサーさん!」
「あ、それからラテも一緒ですから」
「ワン!」
と小さく鳴いたアスミのペットと言う子犬のラテ。彼女が言うには、ラテにも何か仕事をさせてもらいたいと言う。これに対して、同じくペットを飼っている響が対抗心を燃やしたりするのだが、それはまた別の話として。
プロデューサーは、アスミの胸に抱かれているラテの頭を撫でると言う。
「そうか。ラテ、よろしく」
「よろしく!」
「え?」
「あ……」
「今……しゃべらなかった?」
「き、気のせい気のせい!!」
そう、だろうか。今間違いなく、ラテの口から≪よろしく≫という単語が出て来たような気がする。
いや、そんな事どうでもいい事か。きっと、最近のストレスによる疲れがたまっていたのだ。そう思った彼は、765プロの外に広がる青空を見上げながら言う。
「皆、俺たちは大丈夫だ。お前たちの帰る場所を、絶対に守って見せる」
SAOの中にいる七人の家族、七人のアイドルに向って届くようにと、そう願って拳を突きあげた。
「だから……絶対に帰ってこい! この、新しい765プロに!」
アイドル事務所、765プロ。
多種多様の悲劇、苦難に陥りながらも、それでも何度も不死鳥のように立ち上がるその事務所は、新しい仲間を迎え入れて、より一層にぎやかになるのだった。
その時、一陣の風が吹いたような気がした。窓も閉じ切っていると言うのに頬に当たった暖かい風を感じたプロデューサーは、フフッ、と笑いながらこれから彼女たちをどうプロデュースしていくか、頭の中で考えて居た。
考えるだけでも、楽しかった。
そうならないようにこれから彼は必死に彼女たちのプロデュースに専念するのである。これまでも、これからも。
プレイヤーNo.225(DRPNo.14)神田桃(???【???】)≪原作:ワンダーモモ≫
今週から作者事情により毎週金曜日投稿となります。
なお、次回からは桜蘭高校編となります。