SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第五十二話

 世界には、謎のベールに包まれている世界という物がある。

 人に知られたくない世界、知らなくてもいい世界、知ってしまったら不幸になる世界。

 その多種多様あるうち、この場所は恐らく、日本という島国で一番謎のベール、不可視のカーテンに包まれている土地だ、そう彼は感じていた。

 いや、そう言う話で言えば、日本という国自体が色々な謎に包まれている国であると言ってもいいのかもしれない。この世界で起こる数多くの事件、数多くの怪物騒動、日本という小さな島国は始まりの大地であるのと同時に終焉を伝える大地であるのだ。そうまことしやかにささやかれている。

 多分、自分たちが知らない間に起こって、知らない間に解決した事件など、星の数ほどあるだろう。≪裏≫の情報を沢山集めている彼は、しかしそのうちのいくつかの事件に関わっていた。関りの中で、解決への道筋を導き出し、そして仲間たちとともに打倒した。そんな世界もある。

 そんな彼でも、知られざる世界がある。橋の向こうにある、イタリアの街並みを思わせる洋風の一つの島が、その一つだ。自分は、これからその世界に足を一歩踏み入れることになる。前々からいつかは調査しなければと思っていたが、まさかこんなタイミングでその島の中に入ることになるなど、思いもよらなかった。

 自分はいろんな世界を見て来た。果たして、この先にどんな世界があるのか。

 

「今日はよろしくね、ノエル捜査官」

 

 楽しみであり、不安だ。

 そう、思いながら彼、高尾ノエルは不敵な笑みを浮かべて、幼いシニヨンを二つ付けた、チャイナドレス姿の女性に手を差し出して言う。

 

「オララ~、それはこちらの言うセリフだよ。まさか、国際警察の中でも有名な刑事と一緒に捜査できるなんて……春麗刑事」

 

 かくいう、ノエルもまた国際警察なのだが。しかし部署というか、追っている物が違えば、なかなかこうやって会う機会という物もない。実際、ノエルがこうして春麗に会って会話した事なんて、国際警察のどこかの支部ですれ違った時に一言二言くらい。同じ事件の捜査をすると言うのは、今回が初めてである。

 

「フフッ、ありがとう。まっ、一番は私じゃないだろうけど……」

 

 春麗もまた、その年齢に似つかわしくない、しかし女性らしい笑みを浮かべてある男性の事を思い浮かべていた。国際警察のなか、いや警察全体の中でも、そして一般人の中でも一番市民への認知度が高く、そして信頼される茶色のコートと帽子に身を包み、世界中いたるところを飛び回っている一人の刑事の事を。

 

「オゥ……彼の事、だね。確かに、彼ほど世界中を回って≪たった一人≫の人間を追っている警察官というのも珍しい」

 

 春麗も、己も、それぞれ追うべき存在があった。しかし、それは一個人ではなく、前者は一つの組織、そして後者はとあるモノを追っていた。それも、私情を多分に含んで、である。

 

「おまけにその相手の先祖が……」

 

 まさか、自分の恩人だなんて、そうノエルは思っていた。そう、世間から認知されている人物の祖先が、その人物が追っている人間。であるのは少しおかしなことなのだ。そう、ノエルは確信していた。情報に幾つかの改竄が行われているのだと。なぜなら、自分は会ったことがあるから、本当の、その人物の祖先に仕えているのだから。

 では、一体彼は誰を追っているのか。誰を追って、そしてその正体は何者であるのか、自分も、いつか対峙するであろうとおもう人物。そんな人間の事を考えながら、二人はその島へと向かう橋の上に立った。

 

「さて、ここね……この橋を渡った先が麻帆良学園都市……」

「僕たち国際警察の捜査官でもなかなか入ることのできない謎に包まれた都市……興味深いね」

「それよりも不思議なのは……」

「これだけ巨大な都市なのに不可解な点が多い、そしてその不可解な点をこれまで捜査する人間がいなかった事……」

「えぇ、そうね……麻帆良学園都市では色々な事件が起こっていると聞くわ」

「でも、ついこの間の麻帆良学園都市の中にある大学の一つで殺人事件が起こるまで誰も目をくれようともしなかった……不思議だね」

「それに、流出している麻帆良祭の映像……あれは、私の経験上……」

 

 その都市は、色々な意味で有名だ。まずもって、≪有名のはずなのに無名≫であると言う事。麻帆良学園都市で、世間に明らかにされている行事はたくさんある。その最たる例が麻帆良祭と呼ばれている学園祭で、その学園祭が行われている期間に経済界に反映される程の多くの金が行きかいする一大イベント。

 で、あるのに、その内情を見た人間たちは皆口をそろえて言う。

 ≪面白かった≫と。ただ、その一言だけだ。

 それの何が不思議なのか、それは麻帆良祭の内容を語る人間がいないと言う事。

 その映像が世間に出ていると言うのに、別にその内容で何かを唱える人間がいないと言う事。

 誰も気がついていない。麻帆良学園都市の異常な科学力技術に、異常な人間たちに。

 ノエルを含めた何人かの人間は、しかし気がついていた。麻帆良祭の映像を見た瞬間の不自然さに。

 おおよそ学生が作ることができないはずの人型アンドロイド、巨大な恐竜型ロボット、飛行機を操縦したり、超高速で移動したり、飛んだりと、そんなことを容易にやってのける学生たち。

 そして極めつけは、麻帆良祭の最中に行われたと言うイベントの格闘大会。その大会は後々合成だったと発表がされた。だが、自分の経験を踏まえて言うのであれば、あの格闘大会に合成らしきものは何一つ見当たらなかった。

 生徒たちの動き、攻撃、そして摩訶不思議な能力。あれは、全部自分がかつて体験したソレに完全とまではいかないが類似していた。書くいう自分もまた、摩訶不思議な能力の一つや二つ使えるのだが、故にそのおかしさに気がついたのだ。

 でも、ソレを誰も不思議がらない世界。

 これは何かおかしい、そう思ったノエルは一度麻帆良学園都市への捜査を本部に申し出たことがあった。しかし、その時の本部の返事は今もなお、出ることはない。保留という事で、良い声を聞かせてもらっていない。

 それは、国際警察自身が何かを知っているからなのだろうとノエルは考えている。そして、だからこそ今回普通の警察でいいはずの、SAOとナーヴギアの回収もしくは説得を自分たちにまかされたのだと。

 

「……まぁ、ついこの間警視庁の刑事が麻帆良で起きた事件に巻き込まれたみたいだけど……とりあえず、入ってみましょう」

「ウィ」

 

 そう、会話をしながら橋を渡った二人。目の前には、麻帆良学園都市に入るための入口がある。果てしなく、とても端っこの方が見えなかった橋。でも、渡ってみれば短かったと認識してしまう橋。ただ、これだけでこの都市が普通ではないと言うのが目で見えるほど分かった

 町に入った瞬間、自分たちに何か危害が加えられるかもしれない。そんなことをアイコンタクトで再確認した二人は、静かに、その街の入口を通ったのだ。

 

「!?」

「これは……」

 

 瞬間だった。二人は、一瞬顔をしかめた。

 

「気がついた?」

「勿論……何か、得体のしれない物を通ったような……」

 

 ビリビリと、体内を通った何かの感覚。きっと、自分たちのようなその道の人間でなければ絶対に気がつかないような物。簡単に言えば、結界のような物だろうか。それに似た何かを通った様な、そんな感じがした。

 

「でも、これは私たちに悪影響を与えるような物じゃない……」

「確かに……念のために、と言ったところなのかな?」

 

 本来だったら、警戒してしかるべくなのだが、そこはプロの二人、である。臆することなく分析をし始める。この結界、別に自分たちに直に悪影響を与える者ではない様子だ。どちらかというと、偵察、と言ったところだろうか。そうノエルは判断した。

 それに、だ。春麗はとあるものに注目していた。

 

「あの木から感じる物……間違いないわね……」

「何がだい?」

「不死桜……」

「ん?」

 

 都市の中心に根付く巨木、それにどこか既視感のようなものを覚えたのである。

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