SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
不死桜。それは、かつて春麗が巻き込まれた事件で訪れた異世界に存在している巨木の事だ。今、自分たちの目の前にある木と同じように生命力に溢れた木で、そこに抱擁されている気は膨大。ある一定の方向に向けてその気を全て放出すれば、砲台として機能させて世界一つ丸ごと壊すことが可能、とされているらしいと言伝で聞いたことがある。
「以前の戦いで踏み入った世界。そこで感じた物に似ているのよねこの木……」
「似ているって、何がだい?」
春麗とノエルは、その木の前にある広場にやって来た。コンクリートで作られた広場はかなり大きなもので、まるでその木に見守られているかのように感じられる。よく見るとその木のすぐそばには説明欄のようなものがある。彼女はソレを興味深そうにのぞき見しながら言う。
「気……みたいな物かしら……こっちのほうが少しだけ禍々しい気がするけど……」
「なるほど、それは興味深い……」
≪世界樹≫というそうだ、随分と尊大なる名前を付けられている物だが、確かにこれほどまでの大きさがあればそう言う名前を付けたくもなるだろう―――。
「って、ちょっと待って!」
「ん?」
その時、春麗は気がついた。ある、不自然なところに。いや違う。前提が違う。正しくは、≪どうして気がつくことができなかった≫のか、だ。春麗は言う。
「これだけ大きな木が日本にあるなんて、それこそ有名になってもおかしくはないわ……なのに」
「ウィ、どうして話題にならないのか……だね」
先ほど見た説明欄によると、この世界樹の大きさは樹高270M。規格外すぎる大きさだ。ノエルが言うには、現時点で一番樹高のある木、と呼ばれているのが、アメリカに存在しているとある木であるらしく、ノエルは補足するように言う。
「その木は確かに高いけど、雨風の対策のためなのか木々がこんな風に生い茂っているわけじゃない。木の枝の先まで、ここまで葉に覆われている木という点で見ても、異質だろうね」
と。ノエルの言う木、というのは≪セコイア≫と言われている世界で最も高い木と呼ばれている種類の木だ。その中でも、アメリカのとある国立公園に生えているハイペリオン、高さ115Mほどの木の事なのだが、実際には幹の直径はあまり大きいわけではなく、木々が目の前の木のように山のように生い茂っているわけでもない。
だが、目の前の木はそんな常識何て知ったことはないと言わんばかりに大きく、そして迫力のある。もしかすると、近づけば自分自身の力が吸い込まれてしまうのではないか、それほどまでの吸収力を感じてしまう。
「麻帆良の技術も、この世界樹も、本当ならもっと世界中に宣伝してもいいはず……なのに」
「ソレをしていない……もしかすると、麻帆良は裏の世界と何か関係があるのかもしれないねぇ」
と二人は考察した。例えば、この麻帆良で開発された機械の技術が裏の世界、現在の名称ではいわゆる≪反社会的勢力≫や、もしくはどこかの軍、表に出来ない組織に悪用されている可能性がある。そう、二人は考えて居た。
世界樹だってそうだ。見たところあまり害はないように思える。しかし、内包されている気が膨大であることも踏まえると、その膨大な気をどこかに送って、それが悪用されている可能性を考える。
職業病のような物なのだろう。こうやって公にされていない出来事が裏の世界に通じていると考えてしまうのは。
熟考の末、二人の出した結論は同じものだった。
「この麻帆良には、何か大きな秘密……陰謀が隠されている」
「ウィ。それも、国際警察に圧力をかけられるくらいに大きなものがね」
春麗がノエルの言葉に頷いた。そうだ、そもそもどうして今まで自分たちはこの麻帆良学園都市の調査を拒否され続けて来たのか。そこには、麻帆良が都市全体の秘密を守るために、国際警察機構と密約を躱しているという可能性が存在するのだ。
麻帆良の技術を、そしてこの世界樹をどうしても隠し通さなければならなかった。そんな麻帆良の、いわゆる大人の事情という物が存在した。そう考えれば、麻帆良の異常な秘匿性の説明が十分につく、はず。
これは、今回上からの指令と一緒に麻帆良学園都市全体の調査も、行わなければならない。そう、二人が考えて居た時だった。
「あっ!! あ、アナタまさか!!」
「ん?」
一人の少女と、一人の女性が広場に現れたのは。どちらも褐色の肌を持つ女性、外国人か。少女の方は春麗と同じチャイナ服を着た、いわゆる元気っこであると表面上から見ても分かる少女。
長身の女性の方は、その道のプロだ。二人は瞬時にソレを悟った。
醸し出しているオーラ、という物が普通の人間とは違う。上手に隠しているようなのだが、それが逆に不自然さという物を生みだしていて、見ているだけでピリッとした圧力を感じる。背中にしょっているバッグは、アレは上手くカモフラージュしているが、しかしそのオーラと形状だけで中身が何なのか悟ることができた。
二人、とりわけ春麗は臨戦態勢を取る。すぐに戦いが始まっても、対応できるようにと。ノエルは、恐らく必要はないだろうが≪ある物≫を取り出すそぶりを見せる。張り詰めた糸のような嫌な緊張感が蔓延していた時だ。
「や、やっぱり春麗ネ!!」
と、少女の方が叫んだ。その言葉を聞いてか、二人は≪必要最低限の臨戦態勢≫を残して、安堵する。その声色から、自分たちに敵意をもっているわけではないと分かったから。むしろ、敬意のようなものを感じ取って居た。
「ほう、これはこれは……表の世界でも裏の世界でも有名な人間が来たか……」
女性の方も、少女の言葉に続くようにそう呟いた。興味深げに、まるで値定めでもするかのように上から下まで観察するその姿は、まさしくプロのソレだ。いや、その前にその言葉を馬鹿正直に受け止めるとしたら、だ。彼女は裏の世界にも生きている人間、少なくとも、裏の世界という物を知っている人間ということになるのだろうか。
まだ、それは想定内ともいえるのだが。
「貴方たちは?」
「私は古菲! よろしくアル!!」
「龍宮真名だ。よろしく頼む」
「僕の名前はノエル。初めまして」
恐らく、彼女たちは自分の名前を知っているのだろう。ソレを考慮に入れて、春麗は自己紹介を簡単にする。少女の方は古菲、長身の女性の方は龍宮というらしい。少女の方は、やはり外国の人間、察するに自分と同じ中国から来た人間なのだろうと思う。
それにしても、このたたずまい。龍宮もそうだが、古菲という少女も侮りがたい。自分と同じようにすぐに臨戦態勢を取れるように準備をしているが、ソレを悟られないように隠しているのが分かる。この二人は、過酷な環境に身を置いてきたのだろう。そう感じ取れた。
「あぁ……」
「どうしたんだい?」
「いや……」
この時、龍宮はノエルの顔を見てある考え事をしていた。この男もまた、ただ者ではないな、と。
春麗の事は、先も言った通り裏の世界では有名人。なにせあの犯罪組織シャドルーを追っている専任捜査官なのだから知っていてあたりまえの情報だ。一方で、ノエルという人間の事に関してはあまり情報を持っていなかった。だが、そのたたずまい、そして見ているだけで感じる何か異質な雰囲気が、龍宮に警戒を抱かせていたのだろう。
「まさか、この場所で春麗に出会えるなんて、思わなかったアル!」
等と相方が考えているどうかいざ知らず、古菲は簡単に話を進め始める。
「その恰好からして……貴方も中国の?」
「そうアル! そして、拳法使いネ!」
「へぇ、そう……」
古菲の自己紹介を聞いた春麗が、まるでオモチャを見つけた子供のような笑みを浮かべた。拳法使い、つまり自分と同じ。それもおよそ子供とは思えない程の熟練度がある。そう思ったのだ。
自分も格闘家も相手も格闘家、なら答えは一つしかないだろう。
「オララァ~どうやら、今の二人に近づかない方がいいみたいだね」
「……同感だ。古菲早めに済ませなよ」
と、ノエルと龍宮は言うと、二人から若干離れた位置に陣取る。どうやら、これから二人の間で何が行われるのかを既に察知しているようだ。
そうだ。二人の格闘家が集ったと言う事は、やることはただ一つだけ。互いの拳を叩きつけて、その力量を図る事。つまり、試合である。春麗は国際警察の人間ではあった物の格闘家ではなかった。だが、来る者は拒まず、また犯罪組織シャドルーを追うために鍛えた技とその力は、間違いなく普通の格闘家のソレを凌駕する程。
だからこそ彼女は格闘家として、相手をすることにした。目の前にいる、≪強者≫の相手を。
「分かってるアル……でも」
「ん?」
古菲はウズウズとしていた。同じ格闘家で、そして世界的に有名な国際警察官春麗と、この麻帆良という場所で相まみえる事、そのうれしさと、そして自分の力がどこまで通用するのか。ソレを試したい気持ちで胸の鼓動が高鳴る。
確かに古菲はある出来事を経験して強くなることができた。いや、その前から十分に強かったのだが、そのある出来事が彼女の強さにさらに拍車をかけたと言っても過言ではないだろう。そんな彼女だからこそ、ワクワクしているのだ。自分の力がどこまで成長することができたのか、ソレを試したいと。
「同じ格闘技をする者同士、出会えたことは偶然じゃないはず……」
「これは、私たちに戦う様にと拳法の神が与えた好機ネ!」
武道は礼に始まり、礼に終わる、と呼ばれている。二人がソレを理解していたかは定かではないが、しかし互いに前口上をぶつけ合ったのは、二人ともが真摯に相手との手合わせを願うという表れなのかもしれない。
「最初に言っておくけど、拳を合わせるからには、手加減は無しよ!」
「……承知の上ネ!」
むしろ、その方が自分にとっては退屈な、自分より弱くなってしまった人間たちと戦うよりは好都合な事である。そう古菲は感じていた。
「まったく……だが、これは見ものだな」
龍宮はそんな古菲を見ながら、最終的には彼女が≪アレ≫を出す可能性すらも考慮に入れる。本来だったら一般人に見せてはならない物なのだが、まぁ相手が裏の社会でも有名な春麗だったらギリギリいいだろうか。そんな折版案のような物。
それに、自分も気になる。自分達麻帆良学園中等部3-A組一の憲法の達人である古菲と、シャドルーを追って西から東へと闊歩する春麗の戦い。果たして、結果はどうなる事か。
「彼女、腕はどれ程かな?」
「一つの世界を救うのに手助けできるくらい……とでもいえばいいか?」
と、龍宮は大げさではないが事実だけをノエルに伝えた。この言葉の答え次第では、ノエルに警戒を抱かなければならない。そう考えて居たのかもしれない。
すると、ノエルは憎たらしいほどの笑みを浮かべて言う。
「……なるほど、君がそう言うなら確かな腕何だろうね……
龍宮は、その言葉に一瞬だけ眉が動いた。いや、そう見えたのは錯覚なのか。そう思えるくらいに彼女はいたって冷静だった。
「知ってたのか?」
「僕もまた、裏の世界の情報を沢山持っているからね」
「なるほど……」
自分の事を知っていてもおかしくはない、か。まったく、この男も腹に何を隠し持っているのか、油断も隙もない。そう思いながら、龍宮が再び格闘少女二人の方を向いた瞬間だった。
「「ハァァァァァァ!!!!」」
二組の鍛え抜かれた脚が、激突した。