SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
広場の方で、とんでもない出会いが行われていることを知らず、麻帆良学園中等部3-A組の教室には大勢の生徒と、そして子供先生の姿があった。生徒たちはみな、自分の席についていて残り二人を待ち侘びるだけ、といったところだろうか。だが、そうなると逆に空白となっている席が目立っていて、なんだかもの悲しさを感じていた。
その、生徒の内の一人、雪広あやかが言う。
「遅い、遅いですわ二人とも!」
「こんな大事な日に、くーちゃんはともかく龍宮さんまで遅刻するなんて……」
「なにか、あったのかな……」
「……」
と、彼女の言葉に同意するように周囲の女の子たちも言葉を重ねる。
ここにいる生徒の数は総勢二十三人。SAOに囚われている人物を除けば、来ていない人間は古菲と龍宮の二人だけだった。知っていたことなのかもしれないが、あえて言う。龍宮真名は高身長で誰がどう見ても大人の女性と言わんばかりの風格を持っている、にもかかわらずまだ≪中学生≫であるのだ。信じられないことだが。
そんな二人を除いてネギ・スプリングフィールドが受け持っている生徒たちが皆集結していた。彼、そしてあやかからの大事な話があるという言葉を受けて。
この日は、件の茅場晶彦がディレイログインの話をテレビジャックして発表したその次の日だった。その翌日早々に集まることができる少女たち、というのも凄いというか、団結力があると言うか、いやむしろ空虚感の埋め合わせのような物なのだろうか。誰かがそう感じていた。
とにかく、彼女たちは既に三十分近く前にこの教室に入り、そしてそれぞれの席についていた。空虚な席を、朧気に見ながら。
そこにいたはずの少女たち。今SAOをプレイ中の少女たち。今もなお死のゲームの中で戦い続けている少女たちにそれぞれが思いを馳せていた。こんなことをしている間にも、もしかしたら誰かが死ぬかもしれない。そこにいた少女たちとは、もう二度と会うことができないのかもしれない。そんな不安の中、今日この日まで、彼女たちは過ごしてきた。
そんな時に、急遽先生やあやか、そしてなおかつ未来に帰った―一部生徒は転校したと説明されていた―はずの超からの緊急招集がかかったのだ。いてもたってもいられなくなって、全員が教室に集合した。
この日、本来平日であり、他の学生達は普通に登校しているはずだった。だが、彼女たち3-AはSAOにクラスメイトを六名も連れていかれると言う精神的なダメージを負っていた。だから特例として一か月の休んでもよいという扱いを受けていたのだ。
その中でも、即座に集まってくれるのだから3-Aの絆がいかに深い物であるのか。しかし、それと同時にどれだけその絆に傷をつけてしまったのかが目に見えてわかると言うところだ。
悔しいことに。
あやかは、怒りを押し殺して、ネギに問う。
「その間に、事情を聞く、というのは野暮でしょうか?」
「と言っても、全部知らないのは、私と桜子、それに委員長だけみたいだけどね?」
というのは美砂、である。事実、今この教室の中にいる生徒の中で全部―ネギがこの学校に来てから今の今まで、一体何があったのかの真実―を知らない人間は彼女が言う通り三人だけ。いや、委員長だけはネギからおおよその話を聞いていたので、知らないことと言えば、超が未来人であったこと、位なのだろうが。
話を戻すが、美砂と桜子の二人はこの3-A、引いてこの一年間麻帆良学園都市内外で発生した自分たちに関りのある人間の事件の事を全く知らされていなかった。最終的には≪魔法≫の事に関しては少し教えてもらったが、しかしそれ以上の事はあえて秘匿されていたのだ。知らなくても良い事、知ってはならないことがこの世界にはたくさんある。それはもちろん理解していたが、しかしそれでも、と彼女たちは思っていた。
仲間たちがどのような一年間を歩んできたのか、を。
きっとそれは、今もSAOの中で戦っている、己らと同じ立場の≪四人≫にもいえる事なのだ。桜子はそう信じていた。
「ま、まぁ確かにそうだけど……」
「いえ……全員が揃ってからにしましょう」
「ネギ先生……」
ネギは、弱弱しく。だが、徐々に決意に溢れた目をしながら、杖を握りしめた。
もう、決心したから。自分たちの事で、このクラスの事でもう、秘密は作らないと。
「それが……僕たちの償いの一つですから……」
と、その時だった。
「!?」
身体全体が吹き飛ばされるのではないかと錯覚するような衝撃が、その場にいた全員の身体を貫いたのである。
「なに!? 今の音!!??」
「なんだなんだ!」
「世界樹の前の広場からみたいよ!?」
音は、まるで花火のような激しさで、教室の中にいる少女達のみならず、麻帆良学園都市の内外にいる人間全員が耳にしていた。花火以上の爆発と言っても良いのかもしれない。よくみると、世界樹の前の広場から大きな土煙が上がっており、そこでなにかしらのできごとがおこったのだろうっと全員が認識した。
当然そちらの方向に向けて走っていく学園中の生徒達。ソレを見て、当然このクラスの人間達も動かないわけがなかった。
「行ってみましょう!」
「では、拙者から失礼」
と、あやかの言葉に呼応するようにまずは忍者である永瀬楓が教室の窓から簡単に飛び出していった。そして、彼女は屋根づたいに走り件の世界樹前広場へと向かう様子だ。
「あっ! 楓ちんズルイ!」
「さすが忍者……」
そういえば、とネギは思い出していた。彼女、実はさんぽ部というなんとも言い難い部活に所属しているのだ。そして、このクラスでさんぽ部に所属している人間は永瀬楓の他にもう二人、今もなお、SAOの中に閉じ込められている鳴滝姉妹だ。
確か、自分がこのクラスの担任になってすぐの頃だったか、ネギは思い出す。さんぽ部の部活動という名目で、あの世界樹に鳴滝姉妹と一緒に登った日のことを。そして思う。もしも、あの時あの二人に、あの二人にも魔法のことを話していれば、話していたのならば、どうなっていたのだろうかと。
もう考えても栓のないことなのだが
「とにかく、僕たちも後を追いましょう」
というその言葉に、エヴァやサジといった数名の人間を除いたクラスメート全員が世界樹前広場へと向かうことなったのだ。
その頃、世界樹前広場では。
「「はァァァァァ!!!!」」
古菲と春麗の二人が激突していた。戦いは、かなり拮抗しているように見える。
まず、ぶつかり合った二人。そのうち、相手の実力を図るように手を出したのは春麗だった。彼女は、突き出した足を引っ込めながら空中でもう一方の足、左足で古菲の横っ腹を狙う。
だが、古菲は甘んじてその攻撃を受けることはなかった。瞬時に頭を引っ込めると、春麗の軸足となっている右足を狙って足払いを仕掛けたのである。
軸となっていた足を払われた春麗の視界は、まるで世界が反転してしまったかのように空中が地面に、地面が空中に見えるようになった。
普通の格闘家であれば、これで終わりのはず。しかし。
「ハァァァァァァァァァ!!!」
「ッ!?」
春麗はすぐさま両手を天に伸ばした。すると、その先にあったのは当然≪地面≫である。そこに手をつき、衝撃を地面に逸らした彼女はそのままの状態で浮かび上がり、両足を広げ、プロペラのように回転をし始める。
空中で回転蹴りを喰らわす春麗の得意技の一つ≪スピニングバードキック≫、である。
「く、体が……持っていかれる!」
頭を屈めたままの古菲。そのままの状態であってもその蹴りは頭の上を空過するか、ソレとも掠っていくかのどちらかであったはずだ。
しかし、彼女の生み出した風は、まるで竜巻のように幼い少女の体を巻き上げ、吸い込んでいき、自分の蹴りの射程内に入れ込んだのである。
「ッ!!」
古菲は、咄嗟に頭を庇うように腕を上げた。そこに、春麗の蹴りが炸裂する。
刹那、春麗は驚かされる。
この子、なんて筋肉量なの、と。
見た目からは想像ができないほどに腕の筋肉が硬い。まるで、鋼鉄を蹴っているようにも錯覚するほどの頑丈さは、これまでにあってきた多くの好敵手と遜色がなかった。
おまけに判断力、俊敏性も悪くない。まだ相手は子供であると言うのに、まるで熟練の達人と戦っているような、そんな感覚を受けた春麗。なるほど、手加減なんてしてたらきっと最初のぶつかり合いで負けていただろう。そう彼女に認識させるものだった。
「まだまだ、よ!」
春麗はそういうと地面に三点着地して後方回し蹴りを使った。これは、古菲のガードが上がっていることによって彼女に死角ができているところをついた攻撃だ。
だが。
「それは、こっちの台詞アル!」
回転による束縛がなくなったからなのだろう。古菲はすぐさま地面を蹴り、後方へと退避した。その瞬間、春麗の足が顎下を通って行った。もしこれをノーガードで喰らっていたら、そんなことを考えている時間もなかった。
「ハァァァァ!!!」
地面に足をついた古菲は、すぐさまもう一度地面を蹴り、春麗に向けて肘打ちの体勢をとった。春麗もまたソレを認識すると、両の掌を古菲に向けて、その攻撃を抑え込む。
しかし、力が相当のものだったのだろう。受け止めた瞬間に衝撃波が発生し、自分たちの戦いで捲れ上がった地面がさらに捲り上がる。さらに、衝撃は完全には抑えきれなかったようで、春麗は一瞬だけ顔を顰めることとなった。
今のところ、戦いは五分五分といったところ、か。