SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「全く、本当に手加減しないとはな」
と、春麗と古菲の戦いを木陰で見ていた龍宮が呆れるように言った。確かに春麗という人間の強さに関しては裏でも有名である為知っていたし、自分の仲間たる古菲の強さも知っていた。だが、まさか双方ともに自分の力の出し惜しみをしないとは、思っても見なかった。
特に春麗が、である。本来相手は子供であるのだから、少しくらいは手加減をしてもいいとは思う。しかし、ソレでは相手に失礼となるという彼女の信念が、その攻撃を一つ一つ見ていけばわかる。
大人気ない、と思われるかもしれない、しかしそれが彼女なりの自分に対して対戦を申し上げてきた人間への礼儀なのだろう。
ソレはともかく、だ。
「とんでもないことになっているけど、コレ……後々大丈夫かい?」
とノエルが広場を見渡して言う。彼の言う通り、二人のぶつかり合いによって世界樹前広場はかなり混沌とした様相を呈していた。
地面の煉瓦がいくつもはずれ、ソレが空中で彼女達の気に当てられて砕けたように細かくなり、そして石つぶてのように周りの建物に損害を与えいる。この被害を修繕するために、一体どれだけの労力と資金が必要になることか、おそらく管理者にとっては頭が痛くなる問題のはずなのだが。
「あぁ……この学園ならどうとでもなるだろう」
と龍宮は言う。続けて、おそらく明日明後日には何事もなかったかのように修理されているはずだとも。
本来はその程度で回復するはずのない傷であるのだが、しかし彼女のソレは冗談ではないまっすぐなものだった。
「なるほど」
で、あるが故にノエルはその言葉を信じて疑わなかった。実際、この後この学園のある特殊な部類の人間達が広場の片付けをし、次の日の朝には新品同様に綺麗になっていたのだとか。
それはさておき、である。戦いはどんどんと激しいものとなる。確かにこの二人の戦い、見ていて損はない、この後この広場を直すことになる人間にとっては損なことなのかもしれないが。ノエルが面白そうに笑みを浮かべていた時のことだ。
「お、真名?」
「ん、楓か」
一人の少女が、葉っぱ生い茂る木の中からひょっこりと顔を逆さまに出し、龍宮に話しかけたのである。
「忍者?」
その風貌、そして動きからしてノエルはそう判断した。いや、そうでなければ説明ができないのだ。気配もなく、自分たちに近づくことができた、その理由が。
「なにやら騒がしいと思ったら、一体何をして……あれは……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どうやら、楓と呼ばれた忍者はすぐさま状況を把握したのであろう。気がつけば、二人は汗だくでその場に立ち尽くしていた。身体に大きな傷はないように見えるが、しかし服はところどころが破けていて、まるで何時間も激しい戦闘を行った後のように思える。
しかし、実際には彼女達が戦い始めてから十分程しか時間は経っていないのだ。裏を返せば、その間に如何に彼女達が神経も体もすり減らす戦いをしていたのかという裏返しでもある。
一つ間違えれば、少しでも油断をしてしまえば大けがにつながりかねない戦い、まさしく死闘と言ってもいいのかもしれない。
だが、その中で。
「フフッ……やるわね」
「春麗さんもアル!」
二人は、笑顔で互いをたたえ合っていた。拳を交えたからこそわかる物、相手の実力が相当なものである事が分かって、互いの実力を出し合ったからこそ通じる世界がある。二人の間にある物はまさしくソレであったのだ。
「私とまともに戦える人間がまだこの世界にいる事、嬉しいアル!」
「私も色々なストリートファイターを見て来たけど……若くて伸びしろもありそうで、興味深いわ」
古菲にとっては、この世界にまだ自分と対等に戦う人間がいることの喜び。
春麗にとっては、まだまだこの世界には大きな成長が期待できる人間がいると言う喜びと、そしてその力が悪用されないように導くという正義感が渦巻いていた。
古菲の力は確かに凄い。今まで自分が出会って来た多くのファイターの中でも上位に来るかもしれない程の実力を持っている。それに、これは推測であるが彼女はまだ≪自分と同じように≫秘策を隠し持っているはず。
その力を悪に利用されないようにと彼女を導く大人が必要だとも。
先の言葉、春麗はその言葉にある危機感を抱いたと言う。
それが、飽くなき闘争。戦いに明け暮れ、自分の力を試し続け、そして自分よりも強い人間がいなくなった時の恐怖。絶望。野望。そして殺意。
ソレを、彼女は痛いほど身に染みていた。置いて行かれる恐怖という物を、目の前で見させてもらったことや、戦いの果ての答えに辿り着くために戦っている格闘家を何人も見て来た。古菲は、まだ子供だ。きっとこれから世界を知っていく中で、自分よりも強い人間を求めて旅に出ることもあるだろう。
そして、いつかどこかで挫折するときが来るだろう。自分と対等に戦える人間が少ないことを、自分が本気でその力を出せる人間が少ないと言う事に絶望する。
その結果、彼女が正義の道か、あるいは悪の道に行くのかを導けるのは大人だけ。
「でも、負けないアル!」
「こちらこそよ、来なさい! 古菲!!」
春麗は、確かな正義感でそう叫んだ。彼女が、決して一人ぼっちで悩まないように、その好敵手としていられるようにと、ハッキリと。
「古、楽しそうでござる」
「当然だ、あれほどの達人と拳を交えれるのは……」
彼女にとっていつ振りなのだろうか、龍宮と楓もまた、どこか春麗と似た考えを持っていた。
彼女の力という物は凄まじい物がある。だが、彼女はあまりにもその道を究めすぎた。結果、この町で彼女と対等に戦う事の出来る人間は数限られている。恐らく、世界中を見渡してもごくわずかと言ってもいいはずだと。だからこそ、彼女の行く末に一抹の不安を持っていた。
しかし、今彼女の目の前に救世主が現れた。大人であり、そして自分の闘争心を一心に受け入れてくれる人間。まだまだ世界中には自分と同じくらい、いやそれ以上の強さを持った人間がいてくれると言う事を教えてくれる女性。自分の持っている春麗の情報から察するに、彼女が、闘争心むき出しで強さを求め始めている古菲を放っておくはずがない。
彼女ならば、武闘の一人の先達として、古菲を導いてくれるはず。彼女を欲望と殺戮の世界から手放してくれるはずだ。そう、二人は期待していた。
そのときだ。
「楓ちん!!」
「お、皆もきたでござるな」
ネギたち、3-Aのメンバーがその広場にやってきたのだ。
そして、彼らは驚愕することになる。
「一体何が……あ、あれって……」
「フッ! ハッ! ヤァァ!!!」
自分たちのクラスメイトである古菲と、その彼女と互角に戦う一人の武闘家の戦いに。
「す、すごい……」
「あの古師匠と、互角に戦っているなんて……」
「何者なの?」
全員が騒然、と言った雰囲気に包まれていた。それもそうだろう。古菲の実力という物を彼女たちは痛いほど知っていたから。彼女がどれほどの力を持ち、そしてどれほどの経験をしてきたのかを知っていたから。
そんな彼女が、手加減を一切加えないで全力を持って戦えている。その姿にもはや感銘を覚える者すらもいた。
「国際警察の春麗刑事……だけど」
「え?」
ノエルはニヤリと笑みを浮かべて、ある物を取り出して周りの人間たちを見渡した。
そう、ここにいるのはもはや四人だけではなかった。騒動を聞きつけてたくさんの生徒が、人間がその広場に集まってきていたのである。
彼女たちの戦いは、確かに多くの人間の視線を集める者であろう。が、それゆえに。
「これ以上ギャラリーが増えたら、けが人が出そうだ」
二人の戦いでけが人が出ると言う事は、避けなければならなかった。それが、自分たちのルールだから。
「それは?」
「まぁ、ちょっとした仕事道具……かな?」
と言って、ノエルは列車型のアイテムである≪Xチェンジャー≫の操作を始めた。この戦いを、終わらせるために。