SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第五十六話

 麻帆良とは、学園都市である。学園都市という事は、すなわち大勢の生徒がいるのと同時に、大勢の先生がいるわけだが、その先生たちの中でも、この麻帆良の秘匿性に関しては二者に別れていた。すなわち、知る者と、知らざる者、である。

 その日、麻帆良学園にある学園長室には学園長を含めた三人が集まっていた。当然、この三人は知る者である。

 この学園都市の秘密、そしてこれまで自分たちが育てて来た生徒たちの秘密を知っていた先生たち。この時間、授業中であるため本来であれば全員が出払っているはずの時間帯だったのだが、幸か不幸か、その先生二人だけが空き時間があり、この場所に来ることができた。

 

「どう思うかね、高畑先生、シスターシャークティ」

「……」

 

 と、問われたのはこの学園の中でもトップクラスの実力を持った教師であるタカミチ・T・高畑と修道着に身を包んだシスターシャークティである。タカミチは、その言葉に対し、眼鏡をカチャと上げると言う。

 

「学園長は、どうするおつもりなのですか?」

 

 と問われたこの麻帆良学園都市を統括する立場である人物、近衛近右衛門は、ため息をつくと言う。

 

「ワシとしては、学生たちの考えに任せる……と言ったところかな?」

「そんな、無責任なこと!」

「シスターシャークティー」

 

 シャークティーが近右衛門に対して異論を展開しようとしたところ、タカミチが遮るように声をかけた。

 

「元々ボクたちは彼女たちが積極的にかかわることを止めようとしなかった。なのに、今回に限って止めると言うのは、いささか身勝手ではないかな?」

 

 そう、彼の言う通りだ。今まで自分たちはあの少女たちが例えどんな危機に陥ろうとも、例え命の危機に陥ろうともほとんどの場合で見て見ぬふりをしてきた。学園側に損害が出ようとするときや、正真正銘の緊急事態を除いて、放任主義を貫いてきたのだ。今回のSAO事件にあの少女たちが巻き込まれたのも、それが原因ではないかと、彼ら麻帆良学園都市の先生達は思っていた。

 そんな時に、である。

 

「ですが、だからといって更にSAOに向かう人間を増やすのは……」

「君の言っていることは全面的に正しい、だが……」

 

 近右衛門はシャークティーの意見を肯定したうえで、窓の外に広がる世界を見ながら言った。

 

「ワシたち大人が見逃し続けた結果、もう子供たちを止められる人間はいなくなってしまった……それも確かではないか?」

「……」

「ワシらがどうこうしたところで、彼女たちの覚悟は変えられるんじゃろう……」

「かも、しれませんが……」

 

 シスターシャークティーはその言葉を最後に黙り込んだ。

 確かに、自分も彼女たち、いやこの学園にいる多くの学生に秘密を作った大勢の人間の一人だ。その人間として、彼の言う様に数多くの事件、吸血鬼事件や修学旅行での事件で生徒たちを危険に巻き込んだ。全ては、彼女たちと、その先生の成長を見守ると言う大いなる建前を持って。

 その結果彼女たちが何を得た。何を失った。考えるだけでも胸がまるで鎖にでも巻き付けれてしまっているかのように苦しくなる。確かに放任主義というのは人を成長させる薬なのかもしれない。でも、逆を言えば、手放し続けているとどこか遠くに行ってしまう、悪く言えば家畜と同じもの。

 勿論分かっていることだ。自分達の秘密は守らなければならない物であるのだと。その考えが相反するものであるのだと。

 結果論であるのだと、分かっているのだ。

 でも、彼女は、彼女の中ではその矛盾を咀嚼できない何かで詰められているかのような気がした。

 

「何にせよ、僕たちにできるのは前と同じように、ただ見守る事だけ……それが、掟に縛られた人間の」

 

 末路だ。そう、言おうとした時だった。春麗と古菲の二人のぶつかった衝撃が彼らに届いたのは。

 

「これは!?」

「一方は、恐らく古菲君でしょう、しかしもう一つは……」

「……」

 

 三人はその瞬間にアイコンタクトを取り、タカミチが現場に向かい、シスターシャークティがその場所に向かう人間を一人でも少なくしようと力を行使し、そして近右衛門はこの学校にいる特殊な部類に入る先生たちに連絡を取ることとなった。

 それから、まもなくの事だった。

 

「これは……」

 

 タカミチがその場所に到着した時、既に戦いは佳境に入っていた。いや、一人の男が間に入らそうとしていた。

 

「警察チェンジ!」

≪エックスナイズ! 警察エックスチェンジ!≫

 

 高尾ノエル、彼はその手に持った≪Xチェンジャー≫の≪金色≫と≪銀色≫の先端を持つ二つの内、金色の方を空に向けて、銃を放つように引き金を引いた。すると、空に金色のエムブレムが出現し、ソレが上から下に、彼の身体を通過した。

 やがて、ノエルの身体は金色の光、あたかも金塊が放つ光のように煌びやかとなり、それが次第にマントのような服装になり、装飾品が付き、そして最後に、顔に≪X≫の文字をかたどった仮面をかぶった。

 

≪パトレンエックス!≫

「えっ!?」

「そ、その姿は……」

 

 ノエルは、ネギたちのその言葉を聞いてか聞かずか、その姿になると手を天に向けて言った。

 

「気高く輝く警察官……パトレンエックス」

「ぱとれん……」

「えっくす?」

 

 彼、高尾ノエルは国際警察の潜入捜査官だ。しかし、彼には他の顔が複数存在する。その一つが、この警察戦隊パトレンジャーの四人目の戦士たる、パトレンエックス。

 その力は数年前異世界犯罪者集団ギャングラーとの戦いで遺憾なく発揮され、多くの敵を倒してきた。そんな力を持ってしなければ、止められないと思ったのだ。

 

「行くわよ!」

「ッ! 来るアルか!!」

 

 この、二人の戦いは。ノエル、いやパトレンエックスは武器であるXロッドソードをその手に持つと二人の間に向けて走っていった。

 

「気功拳!!」

「ッ!」

 

 刹那、春麗の手から青色の気でできた弾が発射された。これが、春麗の気功拳。古菲はこれまでも、似たような技の持ち主と何度か戦ったことがあった。しかし、彼女のソレは今までのどの気功の技を使った物よりもはるかに質のいいもの。例えるのならば、これまで戦ってきた人間のソレが、溶けかけたアイスのような物だとすれば、春麗の物はコンクリートのように固く、さらにその上からさらにコーティングがされているようなモノだ。

 普通の人間がまともに受ければただでは済まないだろう。裏を返せば、春麗が古菲の事を本気で戦う相手であると認めてくれていると言う証拠でもある。ならば、その覚悟を受け止めなければならない。

 古菲にはその攻撃を受け止める自信があった。当然、春麗にも。しかし

 

「ハァァ!!」

「え?」

 

 古菲、そして古菲の≪後ろに回り込んでいた≫春麗の前に現れたパトレンエックスは、武器のXロッドソードにて春麗の気功拳を両断する。当然、彼女の攻撃は重かったが、しかし気の流れに逆らわないように斬ったために何とかその弾を二つに分けることができ、三人の後方で二つの爆発となって消化された。

 

「なるほど、これが春麗刑事の気功拳……とてもいい攻撃だ。まるでそう、パフェの一番上にそびえたつイチゴのように……」

「ノエル?」

「どうして邪魔したアル!?」

 

 古菲からは、当然のような抗議の声が上がるが、しかしノエルは変身を解除して言う。

 

「これ以上は、ギャラリーにけが人が出るからねぇ」

「ギャラリー?」

「アイヤー……」

 

 と、言われて春麗は周りを見渡した。古菲との戦いに集中していてあまり気にはしていなかったが、確かにいつの間にか自分たちの周囲には大勢の見物人が出来上がっていた。さらに言えば、古菲はその見物人の中に自分のクラスメイトや先生がいることを確認する。そう言えば、自分は彼らから話を聞くために教室に向っていたのだと、今更のように思い出す古菲。

 春麗は、群衆を見てから考え込む癖、のような物なのだろう手を顎下にもってくると言った。

 

「ストリートファイトしていたらそう言うこともよくあるけど、確かにそれは問題ね……」

 

 彼女たちストリートファイターが外で戦いを繰り広げていたら、おのずとこうやって人が集まって来る。当然その場合その人間たちが戦いに巻き込まれることがあるのだが、多くのストリートファイターはソレをその集まった人間の責任と割り切っていた。

 しかし、彼女は言わずも名がICPOの刑事、できるのならばそう言った被害は押さえたい者。加えて、見物人は見たところ子供たちばかりだ。未来のある人間に怪我を負わせるのもためらわれる。ここはノエルの言う通りに、戦闘を終了した方が良いだろう。

 

「むぅ、仕方ないアル。でも、楽しかったアル! また、手合わせ願いたいネ!」

「えぇ、こちらこそよろしく頼むわ」

 

 そう言って春麗は古菲と固い握手を交わした。この時点で、彼女はこの麻帆良学園都市に来た意味があったと思っている。何しろ、ここまで自分と対等に戦える若手がこの学園にいるのだと知れたのだから。彼女には伸びしろがある。いや、彼女は本来の力の半分も出していない。そう直感的に分かった。

 彼女の力、自分自身で伸ばせることはできないか、そう春麗が考えていた時だった

 

「いい物を見させてもらいましたよ」

「貴方は?」

「タカミチッ!」

 

 タカミチは、ネギのその声に、後は任せてくれと言わんばかり笑みで答えてから春麗に言う。

 

「私は、タカミチ・T・高畑……この学園で教師をしている」

「ICPOの春麗よ」

「同じく、高尾ノエル」

「よろしく、早速だが君たちは一体何の用で……」

「それは……」

「それは、無論私たちに関係あることネ」

「……君はッ」

 

 ふと、学生たちの中にいた超鈴音が現れ、タカミチに言った。

 

「二人は私が招待した……この後の話し合いに欠かすことができない人間として、ネ」

 

 と。一つの戦いは終わった。だがそれは、新たなる戦いの始まる前章であったことは、まだ誰も知らぬことであったのだ。

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