SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第五十八話

 話を全て聞いた時、ノエルと同じように納得ができたのは概ねの事情を理解していたタカミチ、そして多くの世界を知っていた春麗。超、葉加瀬といった事前に知っていたものと、龍宮、エヴァ、サジ、茶々丸といった、あまり表情に出さない人間達。

 ソレ以外の人間は文字通りパニックを引き起こしていた。

 

「何故、そのような重要な事を黙っていたんですか!?」

 

 綾瀬夕映、このクラスの中では魔法の事に関しては深く知っている方の少女が、明日菜に詰め寄っていた。

 そう、修学旅行の時に魔法の事を知って、魔法世界にも―事情があって記憶喪失となっていたが―向かった彼女であったが、しかしそんな子にも知らされていなかった。彼女が、百年という長い眠りに入ると言う事を。

 

「アスナが百年間眠り続けないといけないなんて……私や委員長たちに、そんな事隠しているなんて……」

「いくら私たちが仲間外れでも……あんまりだよ」

 

 っと、悲しげに言ったのは桜子だった。

 そう、≪仲間外れ≫。このワードが、このクラスのキーワードであり、ともすればこの世界全体を見渡した時のキーワードであったのかもしれない。

 桜子は、以前言っていた。高らかに叫んでいた。

 

『今回はもう、私も仲間外れじゃない!』

 

 と。彼女は巻き込んでもらいたかったのかもしれない。彼女は彼女たちもまた、このクラスの役に立ちたかったのかもしれない。自分達の知らないところで人知れず戦うのではない、その戦いに自分達も一緒にいて、何かをしたかった。

 でも、教えられたのは全てが終わったあとだった。全てを知って、そして全てに後悔したいくつもの日々の記憶が脳内で再生される。あの時の笑顔の下に隠した涙は、今でも思い出すことができる。でも、まだ教えてもらっていなかった事があったなんて―――。

 その、言葉がクラス中に大きな波紋となって広がった。

 

「ちょ、待って! 私だって初耳だって!!」

『はい……私も今、ショックを受けてます……』

「さよちゃん……が言うなら確かみたいね……」

 

 相坂さよ。彼女は幽霊である。多くの人間にとってはその少女の存在もまた既知の物となっていた。だが、桜子や柿崎はその少女の事をかなり後、というより夏休みの最終日くらいに教えてもらった。わずか三か月前の事だ。彼女はいわゆる地縛霊のようなもので、この学校のこのクラスに何十年といたのだと言う。元々の影の薄さがあいまって、霊力を持った人間にもなかなか見つけてもらえず、偶々ネギが見つけてくれ、仮初の機械の体を与えられた女の子。

 現在は地縛霊という足枷はかなり外れていて、このクラスを、この町を出ることも容易にできるそうなのだが、しかし彼女にとってはこのクラスが一番いたい場所、ということだから、ずっとこの教室で過ごしているのだとか。

 多分、ここにいる人間が全員死んだ後も。

 

「その……ゴメン、皆に心配とかかけたくなかったから……」

「御免で済む話じゃない!」

「ッ!」

 

 柿崎が、明日菜の言葉に反論した。

 何が心配かけたくなかっただ。そんなの、これまでの彼女たちの行動の全てと真逆を行っているではないか。

 

「どうして私たちに話してくれなかったの、全部! 魔法世界っていう場所の事も、先生たちの戦いの事も、どうして……」

「柿崎……」

「馬鹿みたいじゃん。私たち、明日菜たちが死ぬかもしれない戦いをしてたのに、何も知らないで学校生活を満喫しちゃってさ……夏休みだって……私のせいで何人も、死ぬかもしれない思いさせて……」

「桜子さんそれは……」

 

 仕方ないことだと言われた。≪知らなかったから≫彼女には罪がないと言われた。でも、だ。でももし自分の犯した運の良さという過ちのおかげで友達が死んでいたら。いや、それ以前に友達を危険にさらした。死ぬかもしれない冒険に友達を巻き込んだ。その罪は、生涯消えることはないだろう。

 それと同時に、友達が悩んでいるのに、友達が秘密を共有して、切磋琢磨して自分たちを成長させようとしているのに、自分たちはのほほんとした学園生活を送って、もしかしたら次の日には誰かが大けがをしていたかも、誰かが死んでいたかも、そして≪その理由も教えてもらえなかったかも≫、そんなことを考えたりして。

 

「本当、馬鹿みたい……魔法の事を教えてもらった時は、凄い事を教えてもらったとか、向こうの世界のこと教えて持った時には旅行してみたいとか思って……それが、危険な事だって知らずにさ……」

「それは……」

 

 魔法世界の一部の事だ、そう慰めようとしたネギはしかし、その言葉が何の慰めにもなっていないことを察すると、柿崎の肩に触れようとしていたその手を下に降ろすしかなかった。なぜなら、そう言った世界を追い求めていた人たちを知っていたから、教え子を、知っていたから。

 釘宮、そして鳴滝姉妹の事である。実は彼女たちがSAOをプレイするきっかけとなったのがこの魔法世界での出来事。たくさんのクラスメイトが未知の世界で冒険をし、成長して帰って来たと言う出来事がきっかけであると言えるのだ。

 彼女たちはSAOに行く前に、というよりSAOに応募するときに言っていた。≪これで自分たちも、少しは皆の気持ちが分かるかな≫と。

 彼女たちは無知の罪を決して受け入れることはなかったのだ。仲間たちのような冒険をして、仲間たちのように心身ともに成長して、そしてまた仲間たちと一緒に、少しでも長く一緒の道を歩きたかった。ただ、それだけなのだ。

 勿論、不必要に魔法の情報や魔法世界の事情を垂れ流すことの危険性を彼女たちは理解していた。桜子たちも、その理由を聞いて理解は示している。

 けど、結果論としてそのせいで桜子や柿崎は罪悪感を抱えてしまった。

 釘宮と鳴滝姉妹は、未知の世界、未知の冒険という物を追い求めて死の世界に行くことになった。

 このクラスの、大勢の人間の人生を、歪めてしまった。その罪はもう二度と取り返すことができないのだ。

 

「ネギ君」

「は、はい……」

「今度こそ、今度こそこれからは、隠し事なしだから」

「……はいッ」

 

 ネギは、その柿崎の言葉に喉から絞り出すような声を出すしかなかった。残念なことに、今の彼に出来ることはこの程度だけなのだ。

 それが、真実を隠してきた人間にできる最善であり、そして最低限の事、だから。

 

「隠し事……か」

「ノエルさん?」

「いや、なんでも……」

 

 隠し事をする罪、その痛みを、ノエルもまた知っていた。あの時のパトレン2号である陽川からの叱責は、今でも思い出せる。怪盗と警察、相反することのない二組が≪親しくなる≫。その姿を見て≪面白がっていたのかと≫。

 当然そんなことはない、本当に、仲良くなれたら素敵だと、そう思ったから秘密にしていた。警察も、怪盗も、どちらも大切な仲間だから。けど、その結果双方ともに傷を負ってしまったのは皮肉以外の何物でもない。平和の未来を守る事、失った物を取り戻すこと、そのどちらもが大切な目標だった彼にとって、その姿は自分が思っていた以上の苦しみを彼らに与えてしまっていた。

 今の状況は、その時によく似ている。あの、絶望感に満ちて冷たい氷の上を素肌で歩くような感覚と、空気と。ノエルは、ゆっくりとネギに歩み寄ると言う。

 

「それより、問題なのはこの学校に、SAOが全部で『七つ』送られてきたこと、そうじゃないかい?」

「それは少し誤った情報ネ」

「え?」

「正確に言えば、こっちからSAOに向かうのがあと七人……私とハカセ以外に誰が行くのか……という話アル」

「……どういう事かしら?」

 

 超の言葉に、春麗が訝しげに言った。すると、超はそんな彼女を挑発するようにさらっと言ってのけた。

 

「今回のSAOとナーヴギア……送り主は私アル」

「え……」

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