SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
超の言葉、それはある意味で地雷であると言える物だ。ノエルと春麗は、そう考えながらもしかし、まるで冗談を言っているかのような超の言葉を考察する。
もし、彼女の言う事が正しいのであれば、自分たちは彼女を茅場晶彦の共犯者として逮捕する権利がある。そして、彼女自身の手から残されているSAOとナーヴギアを確保する義務も。だが、その物的な証拠は今のところない、と言うよりそもそもそんなことが可能なのかという疑問も出て来る。
超鈴音、ノエルが彼女の名前を聞いた後、端末を利用して検索したが、そんな名前の人間、戸籍名簿には登録されていなかった。日本、中国問わずとして、だ。
そんな人間が茅場晶彦と内通していたと言うのか。
いや、今ですら茅場晶彦は雲をつかむように警察を煙に巻いて逃げている人間だ。そんな人間の協力者であるのならばそれくらいできるかも、そう思わせられる程あの男の存在は警察内では神格化していたのかもしれない。
ノエルは、いたって冷静に言う。
「つまり、君は……茅場晶彦の仲間という事かい?」
「違うアル」
瞬間、か。ノエルはその一言だけで超が本当に茅場の仲間ではないと言う事を判断していた。
人間という生き物は、嘘をつく際に必ず何らかの反応を示す物だ。それが例え本人が意図していたなかったとしても、どこかに何かしらの動作が出る。それが人間なのだ。
しかし、彼女は≪違う≫という言葉を発するときに一切の無駄な動作を見せることなく、加えてその表情に一切の陰りを見せることはなく、まっすぐに自分たちを見つめて言った。
「どうやら、君の冗談を真に受けた方がよさそうだ」
「冗談じゃない……私は、いたって真剣ネ」
ノエル自身も、数多くの嘘をついてきた経験則のような物なのだろう。彼女の言葉に何の嘘も混じっていないことを悟る。春麗もまた、そんなノエルの姿を見て、超の話を信じることにした。いや、信じた気持ちで話を聞くことにしたのだろう。
その行いが、決して許されない物であると分かっていると言うのに。
だが、内通していないとなると、今度はそのSAOとナーヴギアをどこから持ってきたのかという疑問も出てくる。まさか、≪作った≫わけではないだろうし。
果たしてそんな二人、そしてクラスメイトや先生たちの反応を見た超は、ため息をつくと頭を掻きながら言う。
「さっき柿崎さんにネギ先生が約束したように、私も洗いざらい話すネ」
教室中に緊張感が走った。
「まず最初に、私は未来人であり、火星人アル」
「未来人であり、火星人?」
「より正確に言うと、未来の魔法世界で産まれた人間……アル」
その言葉を受けたネギが、補足をするように説明を入れる。
「つまり、元々魔法世界というのは火星の上に出来た幻想の世界なんです。そして、超さんはその世界の未来からやって来た、未来人であり火星人とは、そう言う事なんです……」
「……」
春麗は不思議と、その言葉をまっとうに受け止めた。というよりもこの程度の事で驚いていたらICPOの刑事、というかストリートファイターなんてやっていられないから。
だが、それは彼女だけの話であり。
「超が……未来人?」
「火星人って……」
桜子や柿崎と言ったその辺の事情を知らされていなかったらしい女の子たちにとっては衝撃的な言葉だったようだが。
無理もない、自分たちが一年以上に渡ってクラスメイトとして付き合っていた人間が、そのような特殊な人種だったなんて、いやソレを言うのならばこのクラスのほとんどの人間がそうであるらしいのだが、この辺りの話は後々ネギが説明するとして、二人は唖然とした口を閉じた。
「話を戻すネ。私は、未来で≪この世界の≫過去の歴史を知る手段を獲ることができたアルが、それによればSAOはとある人物によってクリアされることになっていたネ」
「とある、人物?」
「キリト、本名桐ケ谷和人……アル」
「ふむ……」
その名前を聞いたノエルは、携帯端末を取り出すと国際警察内に保存されているアーカイブを確認する。だが―――。
「国際警察の情報によると、そんな名前の人間プレイしていないみたいだ……でも、同じ苗字の女の子がプレイしているようだね」
桐ケ谷和人という人間はプレイしていない、しかし同じ苗字、桐ケ谷の苗字を持った人間がプレイしている。
「桐ケ谷直葉……キリトのイモウトさんネ。けど、その人物は逆にSAOをプレイしていないはずアル」
「どういうこと?」
歴史が、書き替えられたと言う事なのか。いや、だとしたら何か違和感のようなモノを感じる。
「単刀直入に言うわね、超。そもそもどうして未来人のアナタがこの世界にやってきたのかしら? いえ、違うわね。どうしてこの≪時間≫に現れたのかしら?」
「え?」
春麗の言葉に、教室の中にいた約半数の人間が疑問符を浮かべた。しかし、頭脳明晰のネギは確かに、と思った。
「そうだ。SAOのサービス開始前に飛べば、世間にSAOがデスゲームになると公表してたくさんの人間がプレイするのを止めれたはず」
勿論、今プレイ中の千雨たちも。だが、その言葉に葉加瀬が首を横に振って言う。
「ソレが、ダメだったらしいんです」
「え?」
「ダメって、どういう事かな?」
タカミチが、少しだけずれた眼鏡をクイッと上げ直して聞いた。すると、超は肩をすぼめながら言う。
「私や私の仲間たちは勿論、SAOの開始前に飛んだアル、が……」
「超さんたちがたどり着くのは、どうあってもSAO開始後……一人は例外的にその前に飛ぶことができたそうですが、それもたった数分だけだったそうです」
「そんな……」
聞くところによれば、一番初めにこの世界にきた時、超は未来からネギがこの学校で教職に就く≪直前≫にタイムスリップしてきたらしい。つまり、それと同じ方法を用いれば、簡単にSAOのサービス開始日以前に戻ることができると、そう考えることができるのだが、事はそう単純にはいかなかったらしい。
超とその仲間たちは何度もタイムスリップを繰り返したらしい、何度も何度も、だがどうしてもたどり着くのはあの悪魔の日たるSAOの正式サービス開始日。それ以前に行くことはできず、また行けたとしてもたった数分。その人物は何の行動もとることができず、ただ一人の人間に会うだけでいっぱいいっぱいであったそうだ。
一体なぜ、そのようなことが起こったのだろう。
「恐らく、歴史の分岐が起こった後に……≪切断≫されたのではないかと」
「切断?」
「そうアル」
というと、超は教室に置いてある普遍的な緑色の黒板に白いチョークである物を書き出した。それは、まるで大きな大木、そう今も窓の外に見えているこの町の象徴の世界樹のように見えた。
超は、その樹木の半分ほどに一筋の線を入れて言う。
「つまり、樹木方式で分岐する時間枝のその途中の幹の部分で切断されて、それがSAOのサービス開始日だった。だから、いくら時を遡ろうとも、その時間軸以前に戻ることはできないことになった……そう言うことアル」
「そんなことが、起こるの?」
にわかに信じがたい話だ。超は真面目に話しているようだが、しかしあまりにも話のスケールが大きくなりすぎてよく分からなくなってしまう。一体何が真実で、何が嘘であるのか。
けど、全て真実である。
「起こるも何も、私は実際に見て来たアル。仲間に連れられて」
「え?」
「時の流れ……幾重にも分岐していくはずの歴史の実物……私のいた≪時間軸≫では想像もできなかった光景に、私は感動すら覚えてしまったアル」
確かに彼女自身自分のいた時間軸とはまた別の時間軸に飛ぶ方法という物を模索した事はあった。だが、それを実際にこの目で確かめることは一切できなかったのだ。
けど、新しくできた仲間は自分達を遥かに凌駕した科学技術を持っており、彼らは指し示してくれたと言う。時間軸の樹木が、はるか彼方へと伸びていく、その光を。
そして、その悲しみを。
「はっきりというネ、私がこの時間軸に飛んできたのは、仲間の命を救うため……アル」
「仲間の命?」
「それって……まさか!?」
「この事件で、誰かが死ぬって事……?」
「……」
事前に聞いていたネギや明日菜、そしてあやかは驚くことはなかった。しかし、それ以外の人間にとっては寝耳に水の話で、一瞬悲鳴すらも幻聴してしまうような声が聴こえて来た。
千雨か、木乃香か、刹那、あるいは戦いに慣れていないどころか戦いに参加してこなかった千鶴、円、そして鳴滝姉妹。この中の誰かが死ぬことになる。確かに想像はしていた、勿論したくなかったが人間は一番最悪な状況を思い浮かべるのが得意な人種だ。だから、彼女の言葉を聞いた瞬間に、どこかでやっぱりと思ってしまったのも致し方ないのかもしれない。
だが、事はそれだけにとどまらなかった。
「そうアル。それも、キリトがプレイしない故にさらに世界は混沌と化しているアル……完全に詳細は見せられないガ、これをみるアル」
「これって……」
「まさか、未来の景色!?」
超が持ちだした≪三角形の形をして真ん中に緑色のレンズのハマっている機械≫から、映像が映し出された。コレは、ホログラムであろうか。瞬間的に、教室の景色が一変する。
荒廃した、世界へと。
「そう、これは麻帆良があったすぐ近くの光景ネ」
「ひどい……」
と言ったのは誰であっただろうか。彼女の指し示した未来は、その一言に凝縮されていた。地はまるで乾ききったかのようにところどころひび割れ、自分たちの見慣れた建物は崩れ、そして大きな穴が開いている。
その風景は、いうなれば地獄の風景であると言われても不思議にならない程凄惨な光景だった。
「この景色……そして未来……もしかして」
「春麗?」
この時、春麗はある残酷な想像をしてしまった。知っているではないか。自分は、≪この光景≫を、そして≪この先の未来≫を。何人かの人間は、ソレを平行世界の一部として認識していた。でも、可能性としては十分あり得るのではないか、そう自分を含めた何人の人間は思っていた。
そんな、世界を。
「その通りアル春麗。この世界はある意味で……」
超は、まるで春麗の脳裏によぎった最悪のパターンを肯定するかのように、陰のある笑みを浮かべて言った。
「もう、滅びることが確定している世界……ということアル」
そう、それでも、この世界で、生きたいのかと、問いかけるように。