SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第六十話

 その場にいる者が、超のもたらした情報によって騒然となる。絶望の未来、それがこの世界では確定していると言うことに動揺する者が多数。ネギ達にとっては戦争によってこの世界と魔法世界が戦争になると言うことを知っていたが、まさかソレ以降でこの世界が滅亡するなんて思ってもみなかったから。

 全てが語られた後、誰もが絶望という二文字を脳裏に宿した瞬間、春麗は唇をかみしめながら言う。

 

「貴方の言い分はわかったわ。それにSAOに関しても……不服だけど、それで未来を少しでも変えられるのなら……」

 

 例え、この世界が絶望に向っていたとしても、それでも未来を夢見ることを諦めない。それが、人間だから。だからこそ、この世界は滅びへと向かうのだから。

 なら、あがくだけだ。この世界で、そして、超の言う通り、少しでも希望を残すために。

 

「それで、どうするアル?」

「どうするって、何が?」

「ここにはSAOとナーヴギアがある。つまり、ここにいる人間にもSAOをプレイするチャンスが与えられるわけだが……」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、いやあの超と再会した病室の前ですでに心に決めていた彼が立ち上がって言った。

 

「なら、僕が行きます!」

「ネギ先生!?」

「千雨さんたちは、僕の大切な生徒です。だから……」

 

 生徒を守るのが、先生の役目だから。しかし、そんな覚悟も今は無駄なのである。

 

「残念だが、それは駄目ネ」

「え……?」

「ネギ先生には大事な仕事があるネ。現実世界と魔法世界の交渉役という大事な使命が」

「でも!」

 

 確かにそうだ。彼には彼の、ブルーマーズ計画という火星をテラフォーミングして人間が住める環境にすることによって魔法世界が現実世界の領土を奪うために戦争になるという事態を回避するという役目が存在している。

 彼は、魔法世界にとっては英雄の息子であり、そしてなおかつ彼自身もその世界を救った英雄≪達≫の一人。そんな彼がいなくなれば、交渉はまとまらないかもしれない。その可能性が提示されれば、躊躇するのは当然の事。

 けど、この時ネギの心の中には悪魔が住み着いていた。例え、現実世界と魔法世界を上手く取り持つことができたとしても、この世界の未来は―――。そんな、まるで自分がいてもいなくても大丈夫だと言わんばかりの、ある意味で職場放棄のための言い訳のようなモノを心の中で堂々巡りさせている時点で、もう彼には言葉を紡ぐ権利はなかったのだろう。

 

「そして、それは明日菜さんにも言えることです」

「ッ!」

 

 そして、葉加瀬が明日菜にそう告げた。どうして、等という感情を明日菜は持たなかった。ゆっくりとため息をついた明日菜は、廊下側の壁にその背をもたれ描かせると自嘲するように言う。

 

「そう、よね。私は百年間眠らないといけない……そうしないと、あっちの世界を救えないから……」

 

 魔法世界が、崩壊してしまうから。二人には力があった。だが、力があったからこそ助けに行くことは許されないのだ。それが、力を持ってしまった者の使命だったから。自然の理、という物である。

 

「その通り、二人には二人のやるべきことがある。そのために、デスゲームの世界には一緒に連れて行くことはできないネ。だから……」

 

 というと、超はクラスメイト一人一人の顔を見る。まるで、自分の罪を刻み込むように。

 

「向こうに行くとすれば、残った3年A組の二十一人のうち七人……いや、幽霊のさよさんやロボットである茶々丸は除けば、十九人。その中から選出したいアル」

「……」

「……」

 

 全く持って、身勝手な話だと超も思う。考えてみれば、自分が彼女たちにSAOを与える義務はないし、そもそも彼女たちの前に来る理由なんてなかった。最初から、この世界にいる人間たちにSAOを与えるだけ与えて、そして自分ただ一人がSAOをプレイするだけでよかったのだ。

 でも、そうしなかった。それはきっと、彼女が知っていたからなのだろう。麻帆良学園女子中等部3-A組という、少しの亀裂ですぐに崩れてしまう活断層のような脆弱性を持ったこのクラスの、性質を。彼女たちだったら、きっと自分たちもプレイしたいと思うはず、そんな良く言えば信頼、悪く言えば願望に近い物を超は感じていたと言う。

 

「超、質問なんだけれど……私は使ったらいけないのかしら?」

「春麗さん……」

 

 沈黙に包まれる中、大人代表としてなのだろう、春麗が即座に手を挙げた。この時、もうすでに彼女の中から超からSAOとナーヴギアを取り上げる、逮捕するという考えはなかったと言う。

 

「大人として、一刑事として、子ども達がデスゲームなんて物に行こうとしているのを放ってみておくわけには行かないわ」

「勿論、僕にも行く権利はあるはずだね?」

「右に同じく……いや、僕の場合はすでに招待状をもらっている様なものかな?」

「タカミチッ!」

「ノエルさん……」

 

 と言って、タカミチとノエルもまた、春麗の言葉に同意するような発言をする。彼らはもう見たくなかったのだろう。身勝手な理由で、人生を奪われていく子供たちを、それこそ身勝手な理由で大勢の人生を捻じ曲げた自分達が、いえる事ではないと言うのに。

 しかし、超は首を縦に振らなかった。

 

「残念ながら、春麗さんはSAOには連れていけないネ」

「なぜ?」

「春麗さんには、シャドルーを追う大事な任務がある。それが将来的には大事な役目になってくるネ」

「……」

 

 シャドルー、か。確かに、今自分はその組織を追っている。最初は、ただ失踪した父親を追うと言う理由で、でも今では一警察官として、シャドルーを追っている。実際にはその総帥たる人物を既に倒して、ほぼ壊滅状態である。だが、シャドルーの総帥は、過去に一度倒したはずなのに復活したという経緯を持つ人間であるが故に、油断はできない。

 今も、こうしている間にもその力を蓄えているかもしれない。そう、彼女は思っていた。そして、自分の役目が大事という事は、やはりシャドルーはまだ。

 

「そして、ノエルさんや高畑先生も……確かにSAOに連れていっていいかもしれません。けど……」

「私たちとしては、こっちの世界で頑張ってもらった方がいいと思っているネ」

「なるほど確かに……」

「さっきの話を聞けば……少しでも戦力を残していた方がいい……か」

 

 何十年もあとの事なのかもしれない、けどもしかすると数年、あるいは数か月以内の事なのかもしれない。≪件の日≫が訪れるその日は、今もなお変化し続けているのだから。だから、そのための戦力は一つでも多い方がいい。タカミチとノエル、そして春麗の三人の強者は、この世界に残ってもらっていた方が都合がいいのだ。

 ノエルに関しては、自分たちの方から招待状を送っておいて、勝手な話であるが、少なくともこれだけは言える。

 

「つまり、SAOの世界に行くのは……」

「ネギ先生たち≪五人≫を除いた中から、アル。どうするカ?」

 

 どうする、だと。決まっているではないか、そんな事。でも、誰もその言葉を出す勇気がなかった。当然だ。事は、自分の人生にも影響を与えるのだから。

 確かに友達を助けに行きたい気持ちは山のようにある。けど、その結果失う物があまりにも多すぎるのだ。そんな状況で、いの一番に声を上げれるほど勇気がある人間は、いや違う、勇気を分け与えられる人間はきっと、たった一人しかいなかっただろう。

 

「……どうするかですって? そんなの愚問ですわ」

 

 やはり、このクラスを取り締まっている委員長、雪広あやかである。彼女は、スッと立ち上がると言った。

 

「勿論、SAOに向かうに決まっているじゃありませんか! 大切なクラスメイトを、友を救うために!」

 

 誰もが言いたかった。でも、言いづらかったその言葉を。

 

「わ、私も!」

「勿論、私もね」

「今度は……私だって、一緒に戦いたい!」

「そうね……そのチャンスがあるのなら……」

 

 まるで、その言葉に同調するかのように周りの生徒たちも立ちあがった。自分も、自分も、今度こそ自分もと、皆が皆いちクラスメイトであり、友人を助けるために人生をなげうつ覚悟を表明したのである。

 その姿が、彼女にとっては滑稽に見えた。

 

「全く、揃いも揃ってバカばかりだな……このクラスの人間は」

「え?」

「エヴァちゃん……?」

 

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。金髪にロングヘアの、一見すればフランス人形のような小さななりをしている少女、しかしその正体は既に六百年の時を過ごしてきた吸血鬼。裏の世界ではその名前を知らぬものはいないと言われるほどの著名人であり、≪闇の福音≫の異名を持つ女性だ。

 彼女は、その人生遍歴から来る達観した性格というか、冷酷さと、しかしどこか本来の性のような物なのか他人を無下に放っては置けない人格を持っていた。故に、彼女は言ったのだ。

 

「超、教えてもらえるか? 未来のSAOが、何年で攻略されたのかを」

「……二年ネ、もしかするともっとかかるかもしれないアル」

「二年……フン、私にとっては居眠りに近いが、小娘どもには痛い二年じゃないのか?」

「ッ……」

 

 と、改めて超に問う事によって、この教室にいた人間たちの覚悟を問うのだ。

 二年、そう、たった二年だ。六百年という月日を生きた自分にとって、そして色々あって十五年前にこの麻帆良の土地にその力と身体を封じ込められたその時間から見ても、さらに短いたった二年間。でも、普通の人間たちにとっては長い二年間。ソレを再度問う事によって、彼女は確かめたのだろう。少女たちの、自分がその六百年の年月の中でたった三年、しかしとても濃密な三年を過ごしてきたクラスメイト達の信念を。

 覚悟していた。全員が、けど、あえてそれを言葉にされると躊躇してしまうのもまた人間の性。誰もが、エヴァの言葉に固まってしまった。ある意味、それは彼女たちに安易な答えを出さないようにというエヴァによる釘刺し―吸血鬼にこの言葉を使うのはいかがなものかと思うが―のように思えた。

 

「そうだな、行くとしたら……なるべく人間の寿命の外にいるような人間の方がいい」

 

 といって、窓枠を椅子代わりにしていた龍宮が教室に降り立つと言った。

 

「私や、ザジの様にな」

「……」

 

 その言葉を受けた魔族のザジは無言で頷いた。この三人は、このクラスの中でも長命種に属する人間たちだ。エヴァの言う通り、たった二年間の出来事何て、昼寝と同じくらいの長さであろう。

 でも、それは彼女たち自身の問題だ。

 

「でも! いくら長生きでも……同じ時を一緒に過ごせないんだよ……」

 

 そんな言葉を発したのは誰だったか、あるいは全員だったのか、混乱する中では誰にも分からないことだった。多分、これもまた全員が同じ想いだったから。確かに自分たちにとってはとても重く受け止めなければ二年間が、彼女たちにとっては軽い物になってしまうのかもしれない。でも、人間である少女たちにとっては、彼女たち過ごす大事な時間は、彼女たちが昼寝と銘打ったソレよりも、夢現よりもはるかに重い物だったのだ。

 自分たちが彼女たちのように長生きできないことは知っている。でも、彼女たちと同じ時を少しの間だけでも過ごせるのだと言う事も知っている。彼女たちにとってはかすかな思い出の一つになるのかもしれない。でも、それでもかけがえのない宝物になるかもしれない物を、手放させてはならないと言う使命感のようなものが蔓延していた。

 だが、龍宮はそんな言葉を一蹴する。

 

「いつかはそうなるものだ。それに、卒業すれば、誰もが別々の道を歩むことになる。もしかしたら、二度と会うことは叶わないかもしれない。だったら、今のうちにキッパリと別れてしまう方が、気楽でいいのかもしれないな」

「龍宮さん……」

 

 龍宮は、そう言いながらある人物の方を向いた。そして―――。

 

「その方が、別れを見送る人間としてはまだマシさ……」

「ッ!」

 

 明日菜は、もうその場にとどまっておくことができなかった。

 

「明日菜さん!」

「先生!」

 

 明日菜、そしてその後を追ったネギは廊下側に続く窓から出て行ってしまった。そんな二人の事を追おうとするクラスメイト達はしかし。

 

「二人のことは、僕に任せてくれ」

 

 というノエルに制止される。春麗は、ノエルの目を見据えて言った。

 

「ノエル……お願い」

「ウィ」

 

 その言葉を最後に、ノエルはその教室を後にしたのであった。

 刹那、枯れた木の葉が開かれた窓の外からヒラヒラと舞い落ちた。そうか、考えてみれば、例えこの世界に残ったとしても、龍宮たちと一緒に学生生活を送れるのは、たったの≪三、四か月≫程度しかないのだ。二年に比べれば、遥かに短い時間。

 でも、一番の思い出を作ることのできる、四か月。

 ソレを胸に刻み込んだ上で、彼女たちは再度自分自身に問うた。

 果たして、自分にとっても、誰かにとっても大切な数カ月のために、二年という月日を失う覚悟はあるのか、と。深く、深く、深く―――。

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