SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 この展開を考えた時大きな矛盾と同時にその大きな矛盾の解決方法を思い浮かびました。ソレと同時に、過労で倒れるリスクが頭に浮かび、悩みました。


メインシナリオ第三章 外伝 第六十三話

 とある、丘の上にある木が一本。

 その木は平凡な木であると言っても良かった。世界樹と比べるのすらも恐れ多いくらいに小さく、しかししっかりと育ったその木は、ずっとずっとこの麻帆良の地で多くの若者を見つめていた。世界樹が街全体を支えていたとするのならば、その木はほんの少しの生徒を見守ることしかやってこなかったのかもしれない。

 けど、確かにその木にもちゃんとした役割があったのだ。見守るという、誰にでもできそうな、しかし木という生きているのにその場にい続けならない存在だからこそ、できること。

 その木の下に、今二人の女子生徒が来てその手にスコップを持ち何かをしていた。一方は、そんなものなくてもこのくらいの土なら素手で掘ることが可能だ。でも、そうしなかったのはきっともう一人の女の子を思ってのことだろう。もう一人の、親友の心を案じてのこと。

 

「ッ!」

 

 どのくらい掘り進めていたことだろう。二人は、ある金属製の何かがスコップの先に当たったのを悟った。二人は互いの顔を見ると、最後は共に素手を使って丁寧に土を取り払ってそれを地面に完全に露出させた。

 

「あった……」

「懐かしい……」

 

 四角形の、アルミでできた箱。二人は丁寧にそれを持ち上げると、幼子をベッドの上に下ろすように地面の上にそれを置いた。

 そして、それを撫でながら明日菜は笑う。

 

「ははは……流石にボロボロね」

「そうですね、埋めたのが、数年前のことであると言うのに……この、タイムカプセルは……」

 

 それは、明日菜とあやかの二人が通っていた小学校の卒業式の後のことだった。誰が言い出したことかもうすでに忘れてしまったが、みんなでタイムカプセルを埋めようと言うことになったのだ。

 いつ掘り出すかわからないタイムカプセルを埋めて、いつか誰かが覚えていたら掘り出そうと、そう決めたのだ。

 

「見て、委員長あの頃の思い出が沢山入っている」

 

 明日菜がそういってある写真をあやかに見せた。そこには、思い出が写っていた。小学校の時のお泊まり会の時の様子や、誰が撮ったかわからないような授業中の自分達の喧嘩のシーン、それに卒業式の時に撮った写真まである。

 くだらない思い出から、大切な思い出まで、全部が閉じ込められたタイムカプセル。あの頃はまだ魔法のことも何にも知らなくて、純粋だった。何も知らないのが今となっては信じられないくらい、自分達ははしゃいでいて、本当に、楽しかった。

 もう、こんな時は、二度と訪れないんだ。明日菜は、目頭が熱くなるのを抑えられなかった。

 

「……」

「……」

 

 重い沈黙が走った。あやかは手に取った写真をもう一度タイムカプセルの中に入れると、そこに新しく撮影した写真、今の3-Aの写真をいくつも入れる。

 修学旅行の時の写真。

 麻帆良祭の時の写真。

 それから、自分達3-A全員でただ一度だけ行った魔法世界の時のパーティーの様子。いや、あの時は超がいなかったから実際には全員ではなかったか。ともかく、彼女はソレを入れると、カレーを煮込んだ鍋の蓋をする時のように慎重にでこぼこのアルミの蓋を被せた。

 そして、あやかは明日菜の背後に回るとその身体を抱きしめたのである。

 

「まさか、私が委員長の方を見送る側になるなんて、思わなかった……」

「明日菜さん……」

 

 明日菜は、あやかの手を取るとそう呟いた。儚げに。

 そう、SAOの一つは、あやかが手にしたのであった。そうなるかもしれないとは思っていた。そうなるであろうことはなんとなく予想していた。どう言うわけか、謎の自信のようなものがあった。二人ともが、だからあの赤塗りにさられた当選を示す印を見た時にも、あまりショックは受けなかった。

 そのすぐ後だった。あやかが小学校のときに埋めたタイムカプセルを掘り返しに行こうと言い出したのは。

 もっと遠い未来で開けるはずだった。でも、もしかしたらもう二度と一緒には開けないから。一緒に、過去の思い出を語り合うなんてこと、できないから。けど、結局は同じことだ。彼女はただただそれを見て泣くことしかできなかった。もう、こんなに仲の良かった友達みんなと会うことができないのだという寂しさが勝ってしまった。

 ある意味で人間らしい。でも、そんな瞬間訪れてほしくなかった。

 

「本当は……本当はね、卒業式の前の日に……高畑先生とネギと、三人だけの卒業式やる予定だったんだ」

「……」

「それで、その後で、委員長に私が眠りにつくことを話して……それで……ね」

 

 自分は何を言っているんだろう。明日菜はそう思っていた。前者の、先生二人と一緒に卒業式をやると言う話は本当だ。でも後者の方はどうだ。自分は、果たして本当にあやかにそんなことを言う予定だったのか。言うはずだったのか。

 いや、言わなかったはずだ。もう二度と会えない少女に、自分の長い長い別れのその瞬間に立ち会ってほしいとは、決して言えないはずだ。

 だって、もしそんなこと言える勇気があったなら、今のようにクラス中が涙で溢れることなんてなかったから。

 全くもって言い訳がましい女となってしまったものだと、彼女は思う。

 その時だった。

 

「100年……」

「え?」

「100年後、私は待っています。ここで、また会いましょう……」

「委員長……」

 

 今、委員長は十五歳。100年後であるのんあらば、百十五歳。現在の世界最長齢である人間は百二十二歳であるので、理論上はそこまで長生きすることは可能だ。

 けど理論上では可能であるとしても、そこまで生きるには険しい道をいくつも乗り越えなければならない。正しい生活習慣を保ち、自己研磨を続け、そしてストレスなどの外的要因からも自分を守らなければならない。

 理論上は可能、でも不可能の可能性の方が高い。そんな、ある意味でも賭けのような、そして願望のような願いを、彼女は明日菜に託すのである。

 

「委員長……ッ!」

 

 振り向いた明日菜は、そんな彼女をただただ抱きしめるしかなかった。そんな途方もない決意をした女の子を、抱きしめてあげることしか。あやかは、そんな彼女を幼子を抱くように包むと、その耳元で囁いた。

 

「あと数ヶ月、残った皆さんと良い思い出を作ってください……明日菜さん」

「うん、わかってるよ委員長……ううん、親友……」

 

 今生の別れに近かった。でも、二人の間に悲壮感はなかった。微かな希望があったから、もしかしたらもう一度会えるかもしれない。そんな希望が備わっていたから。

 だから、二人はこれ以上泣くことはなかった。ただただ沈黙を保って抱きしめ合うこと。それが、彼女達に残された唯一の選択肢、そして彼女達の選んだ会話であったのだ。

 

「まったく、貧乏くじというかなんというか……とんでもないものを引かされた物だ」

 

 一方で、そんな彼女達を見ている少女達がいた。当然、3-Aのクラスメイト達だ。彼女達もまたー特に小学校の頃からの同級生の桜子ー二人と一緒にタイムカプセルを掘り返したかった。でも、ここは二人の大切な場として、見守ることを選択したのである。

 その中で、赤い印の入った紐を手にしたエヴァンジェリンが苦々しい顔をしながらそう言うのに対し。

 

「やめてもいいんだぞ、エヴァンジェリン」

「やめる? この私がか? フン……面白い、一度死ねば終わりのデスゲーム……この不老不死の私にも通用するかどうか、試させてもらう」

 

 と言って笑ったエヴァンジェリンをみて、龍宮もまた、フッと笑うと、自らの手の中にある印の入った紐を見る。そう、エヴァンジェリン、そして龍宮の二人もまたSAOの世界に入ることになったのだ。

 

「龍宮隊長は、いいんですか?」

 

 ふと、ネギがそう呟いた。彼女はいわゆる裏の世界のプロ。そんな人間がなんの依頼料も無しに、2年という彼女にとっては短期間かもしれないがその分の時間をゲームに費やすこと、それは彼女のポリシーに違反していないのかと。

 彼女は言う。

 

「あぁ、超から前金で依頼料を振り込んでもらった。まずは2年分、ゲームが続く様だったらその分の金を用意するとのことだ。プロとして、一度受けた依頼は断らないからな」

「そう、ですか……」

 

 もしかしたら、ネギは龍宮に残ってもらいたかったのかもしれない。いや、全員に残ってもらいたかったのかもしれない。だからこそ、一番私情でSAOに行かなそうなこの二人ならと、そう思っていたのかも。しかし、それも無駄だった様子。

 特にエヴァに関しては彼女の性格的に行かなそうという考えがあったのかもしれないが、しかし彼女に関してネギはなんの言葉も発することはできなかった。まるで、そのことについて聞いたら半殺しにすると言わんばかりの目線にタジタジとなるだけ。

 そう、忘れているかもしれないが彼女とて今こそ吸血鬼であるが元は人間だ。普通の女の子だったのだ。魔力を持って、そして恐れられて、長い年月を生きているだけの女の子だ。外面だけではそれこそ魔王のように振る舞っているが、もちろん彼女にだって心があったのだ。

 十五年、この学園都市に幽閉されてきた。今まで四回も同級生を見送ってきた。その同級生達は自分がクラスメイトの一人であったことすらも忘れて、高校に通い、大学に行き、社会人となり。

 そして五回目にして、二度と忘れてくれなさそうなメンツにようやく出会うことができた。

 彼女は心の中で思っていたという。確かに五回目の学園生活は今までと似たような感じだった。けど、この五回目の学園生活が一番楽しかったよ、と。毎度毎度の馬鹿騒ぎも、浮かれた子供の世話も、何度も何度も経験するうちに、それがだんだん愛おしくなって、尊くなってーーーいや、止めよう。これ以上は自分のキャラじゃないな。エヴァはそう考え、目を瞑った。今までのクラスメイトの顔を、思い浮かべるために。

 

「頑張ってね、五月!」

「また、あの美味しい肉まんを食べれる日を楽しみにしてますから……」

ありがとうございます。皆さん

 

 そして、四人目は四葉五月。とても穏やかな性格を持つ女の子で、その性格が声に出ているのかいつもいつも出る声は小さめで、でも伝えたいことははっきりと伝わるという少し不思議な女の子。

 彼女が不思議なのはそれだけではない。彼女は、魔法というものを一切知ろうともしなかった。それどころか、魔法を知った人間達や、それで変化していく人たちを見てもその穏やかな顔つきを変えることは一切なかった。

 いつもいつもお手製の中華料理を屋台でふるまったりして、途中で魔法のことを知る機会があって、それでもその振る舞いを一切変えることはなかった。

 そして、彼女の言葉がネギを励ましたこともあったし、彼女の存在そのものがこのクラスの静かな柱であった。

 彼女は、このクラスの母親であった、のかもしれない。そんな女の子が、クラスから離れることに悲しみを覚える少女達。しかし、それでも彼女はやっぱり穏やかな顔をして言うのだ。

 

絶対帰ってきますからね

 

 と。

 

「はぁ……全く、仕方がないとはいえ……」

「美砂……」

 

 柿崎美砂は、自分の手元にある印の入っていない紐を見るとため息をついた。まぁ、あの確率だ。自分が外れることなんて当然と言えば当然のこと。これが幸運の女神に愛されているかどうか、と言うのが問題になってくるのだが、しかし目の前の少女を見るときっと、向こうの世界に行った方が幸運の女神に愛されている、と言った方がいいのだろうか。

 

「美砂、その……」

 

 椎名桜子、そして和泉亜子の二人だ。そう、この二人が五人目、六人目の選ばれしものだった。

 幸運の女神に愛されていると言われているほどの桜子がそれを引き当てたのだ。きっと、彼女にとってSAOに行くと言うのは幸運なことなのかもしれない。少なくとも、残される柿崎にとっては不運なことだったのだが。

 

「小夜さんにはもう連絡したんでしょ?」

「うん、お仕事の関係で頻繁には関われないかもしれないけど、って……」

 

 彼女達が言っているのは、グロウィングアフターティタイムの話。桜子はそのバンドのドラム担当なのだが、こうなってしまえば、キラメイバンドでドラムをやっていた小夜に託すしかない。と言っても、彼女もドクターであるので、どこまで関わることができるのかわからないと返事はもらったが、できることはすると対応してもらったそうだ。

 もちろん彼女だって一度入ると決めたバンドから脱退するのはいやだ、でももう覚悟を決めたのだ。だからこそ、嫌な予感がするソレにあえて向かっていったのだ。

 けど、その対価としてーーー。

 

「これで、でこぴんロケットも私一人だけになったわけか……」

「美砂……」

 

 でこぴんロケット。桜才学園の畑が彼女達という逸材を見つけるのに一役を買ったバンド。桜子はそこのドラムだった。亜子は、ベースだった。そして、現在もプレイ中の円はギターだった。

 残ったのは、ギター&ボーカルの柿崎だけ。そして、考えてみればすぐに分かるのだがあのクラスの中で、ほとんど何も知らなかった組で現実世界に残るのもまた柿崎だけになる。桜子は、少しだけ罪悪感を覚える。果たして、自分の直感は、自分のSAOに行くという選択は本当に正しいものであったのかと。そう、信じられるのかと。

 けどーーー。

 

「まっ、仕方ないね。桜子の強運は誰もが知っていることだし!」

 

 といって、柿崎は両者の肩を抱き寄せるようにすると、笑顔でいう。

 

「その強運を生かして、絶対に帰ってきて。桜子、それに亜子も……」

「……もちろん」

 

 その言葉に、桜子は頷き、そして亜子も小さく返事をした。ちなみに亜子は、ネギが魔法世界に行った時にうっかり迷い込んでしまったため冒険に少しだけ参加している組の一人だった。なので、でこぴんロケットもある意味でそれぞれがバラバラの勢力図となるのかもしれない。

 ほとんど何も知らなかったけれど、冒険を経験していた亜子。

 冒険を知らなかったけれど、だからこそ冒険先を目指した円。

 冒険先を目指さなかったけれど、自分が冒険する場所を目指した桜子。

 そして、何も知らず、冒険を知らず、普通の人生を送りながら仲間達が帰ってくることを祈ることになる柿崎。

 みんなバラバラの道をあるいていくのだ。いつかそうなると分かっていたけれど、でもそれでもやっぱり悲しいものがある。

 

「絶対にうちも帰ってくる。その時は……その、グローウィングアフターティータイム、紹介して欲しいかな?」

 

 だからこそなのだろう。柿崎はその言葉に対して、はっきりと、そして力強い言葉でいう。彼女が一番辛いはずなのに、それでも気特に笑顔を振りまいて言うのだ。

 

「勿論……だから、これはさよならじゃない……私たちが前を向いて歩き始めるための、第一歩……」

 

 柿崎はそういうと、二人の背中を叩いて言った。

 

「私の代わりに、一杯冒険してきな、二人とも!」

「「うん!」」

 

 こうして、3-Aクラスメイト達の行方は大まかに決まったのであった。

 

「大人は見送ることしかできない、か」

「タカミチ……」

 

 そんな子供達を見ながら、タバコを吸う高畑は、ネギに近づいて言う。

 

「入院代は、学園側で出すことが決まったよ。ただ、ソレを伝えに来ただけだよ」

 

 大人は何にもできることはない。危険な旅路に出る子供達を、黙って見送るしかできない。

 無論、止めようとすれば出来うること。でも、果たしてその道もまた正しいものであるのかと聞かれれば迷ってしまう。

 彼女達の悲しみを知っているからなのか、それともこれまでも危険な戦いを続けてきた彼女達を止めなかったのに今更という敗北感か。

 少なくとも、彼らは今の彼女達の姿が輝いて見えた。

 そして、虚しかった。

 

「高畑先生」

「春麗刑事……」

 

 春麗は、そんな彼に対してどんな言葉をかけるべきか一瞬迷った。だが、その顔つきはすぐに真っ直ぐな物になり、手を差し出して言う。

 

「私達で守りましょう、この世界を。この子達が生きる……未来を」

「……あぁ」

 

 彼女の手を取ったタカミチ。果たして、この言葉掛けで良かったのか、春麗にもわからない。だが、分かることと言えば、ただ一つ。

 この、滅びに向かう世界を守る。ただ、その使命感だけだった。

 冬は更に深くなる。その中で、少女達は仲間を奪われても、ソレでも生きていく。

 次の、百年に向けて。




 さぁ、もう後には戻れないぞ。がんばれ、作者。
 とにもかくにも、ここでネギま編終了、あと三つ(キリト編含む)、か。
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