SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「SAOの回収が進んでいない?」
『はい、そうみたいです』
国際警察日本支部のいつもの部屋。そこには、ノエルを除いた日本支部の戦力部隊の三人とヒルトップ管理官が揃っていた。その中で、ジム・カーターの報告を聞いたつかさが反応をした。
『回収率は一割未満。ほとんどの人が、SAOに向かうと言っているそうなんです』
全国的に配布されたSAOの回収率は十パーセントを下回っている。それも、以前から事情があってプレイ開始に間に合わなかった人間たちからの回収も滞っていると言う話だ。
はたから見れば、SAOとナーヴギアという死の世界にいざなうようなセット、警察に渡してしかるべきなはず。しかし、ほとんどの人間がデスゲームであると知ってもなお、そして国からの支援がほとんどないと言う事を知ってもなおプレイしようとしている。
「一体……どうして」
「理由があるからですよ、つかさ先輩」
その言葉を発したのは咲也であった。彼は、その言葉を呟くと、唇をかみしめながら、震える手で懐からある物を取り出した。
「ッ!」
「咲也、ソレハ……」
「辞表です、管理官」
辞表、つまり警察戦隊パトレンジャーを、いや違う国際警察を辞めると、そう言うのか。
「咲也」
「先輩、魁利君に言ったそうじゃないですか!」
「ッ!」
彼に声をかけようとした圭一郎の言葉はしかし、彼の怒号によって吹き飛んでしまった。そして、彼はさらに続ける。
「警察という立場故に、目の前の君を救えないのなら、警察を辞めるって……」
「……」
確かに、己は言った。魁利に、ルパンレッドに向けてそう言った。あの、ギャングラーとの戦いの終盤。世間に正体がばれ、敵に敗北寸前になり、味方を失い、たった一人で自分の大事な人間を奪ったギャングラーの幹部であるザミーゴに戦いを挑もうとしていた魁利に向けて、圭一郎は言った。
『俺が警察官になったのは、苦しむ人々を助けるためだ。もし、警察という立場故に、目の前の君を救えないのなら……俺は警察を辞める』
怪盗という、間違った道を進んでしまった人間を、救うために立場という壁があるのならば、もし、そのせいで目の前のたった一人の青年も救う事もできないと言うのならば、そんなものは必要ないのだと。そんなものは不要なのだと。
そんなものが無くても、苦しんでいる人を救う事ができるのだと。
確かに、そう言った。
「僕もそうです。もしも俺が警察であるが故に、この世界でパトレンジャーの一員として必要である限りSAOの世界にいけないのなら……俺も警察を辞めます」
「ッ!」
「圭一郎!」
圭一郎は、覚悟を込めたその男の発言に唇をかみしめながら彼の胸倉をつかみながら言った。
「初美花ちゃんのためか?」
「違います!」
「……」
「確かに最初はそうだった。でも、今は違う……」
泣きそうな顔をしながら、圭一郎の手を払った咲也は続ける。
「あの後、たくさん考えました。たくさん考えて、でも、初美花ちゃんの事でなくても……それでもあの世界に行きたいって思った……あの世界に、今も助けを待っているたくさんの人たちがいるんです! だから……僕はその人たちを助けたいんです」
「咲也……」
率直な気持ち、とはこのことだろうか。最初は確かに私利私欲のために動こうとしていたことを認めつつも、それでも今はどう思っているのかをはっきりという姿勢。この辺りの、時に優柔不断に、しかし時に真剣に物事に取り組む姿勢に、ギャングラーとの戦いのときに何度救われたことか分からない。
だからなのだろう。彼のその想いを叶えさせたいと思ってしまうのは。
「許し難いな……」
「え?」
彼と、同じ想いだからなのだろう。考えて居ることが、同じなのは。圭一郎もまた、懐から紙を取り出した。そこには、彼らしく突っ走るような勢いで書かれた≪辞表≫の文字があった。
「俺も同じ気持ちだ」
「先輩……」
「お前が! もしも初美花ちゃんの事だけを考えてSAOに行こうとしていたら止めていた。しかし……お前は私情を捨てて行くんだな……そうだな?」
「……はい!」
彼は、既に覚悟を決めていた。圭一郎もまた覚悟を決めていた。そう、あの戦いと同様だ。咲也と同じなのだ。自分もまた、デスゲームの中で苦しんでいる人間を救いたいと心の中で苦しんでいた。けど、彼の立場が、彼の正義感がソレを許さなかった。
彼の誰かを救いたいと言う気持ち、しかし、現実の世界の人々を救いたいと言う気持ち、そのどちらも確かに心の中に会って、板挟みにされていた。
けど、考え抜いた結果、彼は一つの答えに辿り着いた。
「今もなお、現実の世界で暮らしている一般人を守るのは俺たちの使命だ。だが、それと同時に、デスゲームに囚われた市民もまた、この世界で生きるはずだった一般市民だ。その人たちを放っておくこと等……できるわけがない!」
どちらも、この世界に必要な命。この世界に、なくてはならない存在であるのだと。
こちらの世界は多くの戦隊の仲間たちや仮面ライダーがいて、世界の平和を守っている。
しかし、だったらSAOの世界の平和は誰が守ると言うのか。誰が、虚構の世界を救う事ができるのであろうか。
決まっている。≪おまわりさん≫だ。
自分は、そのおまわりさんとして、一般市民を守る使命を帯びている一人の人間として、そんな人間たちを放っておくことはできなかった。圭一郎は、咲也にゆっくりと手を差し出して言った。
「一緒に、デスゲームに囚われた人たちを救いにいくぞ、咲也!」
「ッッッ! はい!!」
咲也は、圭一郎の手を握った。その手はとても温かくて、そして大きい物。そして、咲也のそれも。彼らは、その自らの手でこれまで世界を救って来たのだ。いや違う。市民の平和を脅かす存在から人々を救って来たのだ。
肩書など無くなってもいい。人々を守るという思いがある限り、自分たちは決して揺るがない覚悟を持っている。
こうして、警察戦隊パトレンジャーは解散。圭一郎と咲也の二人は、SAOの世界に―――。
「熱くなるのはいいが、一つ忘れていないか?」
「「え?」」
まったくこれだから男という物は、つかさはまるで冷めた表情で咲也がヒルトップ管理官の机の上に置いた辞表を咲也に返却しながら言う。
「我々の所有しているSAOとナーヴギアは、≪国際警察≫名義で送られていると言う事だ」
「えっと、つまり?」
『国際警察じゃない人に、そのセットを渡すのは上層部が許さないかと』
「なっ……!」
と、驚いた圭一郎だが言われてみれば確かにそうだ。確かにSAOとナーヴギアは国際警察宛に送られてきている物。自分達個人に向けて送付された者ではないのだ。故にその所有権は自分たちにはない、国際警察にあるのだ。
仮に自分たちが一般人に戻れば、ソレを使用するどころか所有する権利すらもない。上層部は、プレイする権利を与えない、というより与えられない、という事だ。
まさかの事で自分たちが辞表という最終兵器を用いたとしてもプレイできないと言う事が発覚したところで、つかさは呆れるようにため息をつく。そして、そのすぐあとに。
「実ハ、SAOニツイテノエルカラ報告ガアル」
「ノエルから?」
と、ヒルトップ管理官が話始めた。
「ソウ、ソレモ踏マエテ君タチニハ……」
その時だった。
「ッ!!」
パトカーのサイレン音にも似た音が、国際警察の本部中に鳴り響いたのである。
「これは……」
「侵入警報!?」
『んん? た、大変です!!』
「どうした!」
ジムが、何かを確認した様子を見せた後に慌てた様子で彼らに言った。
『地下施設に何者かが侵入! SAOとナーヴギアが三つ、持ち去られました!!』
「なッ!!」
四つ送られたセットから三つが、盗まれた。それも、盗まれたことが≪発覚した後≫にソレが報告されたと言う事実。つまり、地下に侵入を許した時点で賊が入り込んでいることが知れ渡らなかったと言う事。ただの盗人ではない。その言葉が三人の脳裏をかすめた瞬間だった。まさか、とあり得ない、という思いが浮かび上がってくる。
「犯人の姿は!?」
『データベースと照合しました! ですが……』
「なんだ!?」
圭一郎は焦るように叫んだ。すると、ジムは人間のようにやや狼狽えながら呟く。
『る、ルパンレンジャーと同じ服装だそうです』
「馬鹿な……」
この時、圭一郎は不意に頭が真っ白になってしまったという。いや、というよりも鮮明になったと言った方がいいのかもしれない。どちらにしても、ただ事ではないと言うのが、彼の中の結論であった。