SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第六十五話

 映像は、あまりにも古ぼけて見えた。白黒であるからそう思うのか、はたまた彼らの目の前で起こった所業を理解するのに脳が追いついていないからなのか、どちらにせよ自分たちにとって信じがたいことが起こったことは事実だ。

 

「確かに、この衣装は初美花ちゃんたちと同じ……」

 

 監視カメラから届いた映像。そこに映っていたのは、紛れもなく自分たちの知っている三人組の衣装と同じ、怪盗というにはちょっと派手な衣装。ソレを着こんだ人間が、音もなくSAOとナーヴギアを保管している部屋に入り、ソレらを持ち去っていく瞬間だった。

 

「どうして白黒なんだ?」

『どうやら、電気系統をやられたみたいです。すぐに警報が鳴らなかったのも、そのためかと……』

 

 手際がいい。まさしく彼らと同じ、いやそれ以上と言ってもいいのかもしれない。

 動きの軽やかさも、洗練さも、プロの犯行であることを示唆している。と言うか、警戒十分な国際警察の中に簡単に入り込んで、誰にも警戒されることなく地下施設に侵入するその手際の良さ。確かに彼らに重なるところがある。

 それは認める。だが。

 

「あり得ない! そんなことは!!」

「圭一郎……」

 

 彼はそう怒鳴った。そう、≪あり得ない≫のだ。彼らがこんなことをする等。

 何故なら彼らの目的である大切な人を取り戻すと言う物自体が既に達成されたから。三人共に、大切な人を取り戻し、日常生活に戻って行くのを見送った。それは事実だから。

 その後のルパンコレクションの収集というのも、以前に自分達が所有している物で最後という事を言っていた。つまり、彼らに犯行を企てる理由などないのだ。

 

「もしかして、初美花ちゃんを取り戻すために!?」

 

 なるほど、確かにかつての仲間を取り戻すためにSAOを盗むと言うのも考えられるであろう。普通であれば、だ。しかし圭一郎はそんなことを言った咲也に向けて言う。

 

「それこそあり得ない!」

『何故ですか?』

 

 この、圭一郎の言葉には、ジムも、それからつかさもまた疑問符を呈しているようだった。自分が、自信を持ってあり得ない、そう言った理由が分かっていない様子。

 

「彼らは確かにかつての仲間だった。だが、それは名目上大切な人を取り戻す。ただ、そのためだけの信頼関係だった」

「けどそんなの……」

「分かっている。あの三人は……きっと怪盗として一緒に活動している間に友情を芽生えた可能性だってある。だが……」

 

 そう、可能性はある。自分たちは詳しくは知らない。彼らが、怪盗として活動していた時どのように過ごしていたのか。どのような心境で、怪盗をしていたのか。ギャングラー事件が終息した後、ノエルから断片的に聞いた情報でしか理解していない。

 だから、もしかしたら彼らが自分たちの命を懸けて仲間を取り戻すと、そう考えた可能性だって十分にある。

 けど―――。

 

「魁利君も透真君も、絶対にSAOに行かない、デスゲームの世界に行くことはない」

 

 そんな心情的なことを除いたとしても、彼らが絶対にデスゲームの世界に参加することはないと、圭一郎はそう信じていた。

 

「ドウシテ、ソウ。言イ切レルンダイ?」

「彼らは知っているからです! 知って、いても……」

「圭一郎?」

 

 その先の言葉を言おうとした瞬間だった圭一郎の頭が、スパークしたような感触がした。

 

「まさか……」

『あ、圭一郎さん!』

 

 考えたくない。だが、こちらはあり得ることだ。

 その考えが浮かんだ瞬間だった。圭一郎は、VSチェンジャーとVSビークルを持つと、国際警察の本部を飛び出して、夜の街に向かった。

 

「我々も追うぞ!」

「は、はい!」

 

 つかさと咲也は、詳しくは分からないが、しかし圭一郎の行動に何か確信めいたものを感じ取ったのか、その後を追う。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 圭一郎はパトカーを使わなかった。理由は彼自身にもよく分からなかった。もしかしたら、そんな乗り物に乗っている時間すらも惜しいと、そう思ったのかもしれない。しかし、その足先は間違いなくとある場所を目指していた。

 真実にたどり着いた刑事は、みんなそうだ。わき目も降らずにただただがむしゃらに走り出す。その先にいるはずの被疑者を確実に逮捕するために、自らの手で手錠をかけるためにと走り出す。

 だが、もし自分の考えが正しいとするのなら、己のする行動は果たして正しいのか。そんな葛藤が生まれる。つい先ほどまでの自分がその世界に行こうとしていたと言うのに、他人が向かうと言うのはダメだと、そんな矛盾した思いが芽生えていたから。

 いや、矛盾なんかじゃない。自分と彼らで違うところがある。それは、己が警察官であり、市民の平和を守る義務があると言う事。そして、彼らが市民であり、守られる義務があると言うこと。

 早く、あの人物の家に向わなければ。ただその一心で走っていた。走って、走って、走って、どれくらい走った事だろう。

 

「こんな夜遅くに、元気だねぇ、おまわりさん?」

「ッ!?」

 

 ふいに、背後から声をかけられた。この声、良く知っている物だ。圭一郎は立ち止まると、一度目を瞑って深呼吸をする。息を整えて、精神を統一する。そして。

 

「フッ!」

「ッ!」

 

 彼らは、≪互いに≫VSチェンジャーを向け合った。

 

「やはり君だったか。魁利君……」

「フフッ」

 

 その先にいたのは例の衣装に身を包み、自分の顔に向けてVSチェンジャーの銃口を向けている夜野魁利だ。かくいう自分もまた、彼に向けてその銃口を向けているので人の事を言えないのだが。とにかく、圭一郎はその銃口を逸らすことなく言った。

 

「何をしに来た?」

「決まってるでしょ? 今回の得物を頂戴したって、圭ちゃんに言うためさ」

 

 軽い口調でそう言った魁利は、VSチェンジャーを下げ、圭一郎に背中を見せる。それは、彼が自分を撃たないと言う事を知っているから取れる行動であるのか、逆を言えば、信頼しているからこそ取れる行動なのかよく分からなかった。

 とにかく、魁利はそのままの姿で言う。

 

「分かっているんでしょ? 圭ちゃん。俺が、SAOを盗んだって」

「……国際警察の、日本支部に忍び込んでか」

「そう。その通り」

「理由は何だ?」

「勿論、初美花を救うため。それ以外にないでしょ?」

 

 圭一郎は、唇をかみしめた。君は、そこまでして、そんな思いでいっぱいだったから。

 

「まぁ、俺も今は自由気ままな探偵業をやってるわけだし……たまにはデスゲームなんてものに手を出すのも」

 

 と、いけしゃあしゃあと続ける魁利に対して、圭一郎は絞り出すように言った。

 

「君じゃないッ」

「……」

 

 いつの間にか、圭一郎もまたVSチェンジャーの銃口を下ろしていた。その言葉に、魁利は動かしていた足を止めて、聞く。

 

「なんで?」

「知っているからだ。君たちは……残されることになる苦しみや悲しみ、囚われることになった苦しみも」

「……」

 

 そう、彼らは知っている。どちらも、自分の大切な人達を奪われて、残されることとなってしまったその苦しみ、悲しみを知っていた。だからこそ、その大切な人達を救い出すために怪盗という違法な手段に手を出してしまったのだ。

 そして、彼らはその報いを受けた。それが、最後の戦いの後にギャングラーのボスの体内に一年間囚われの身になってしまったと言う事。自分たちの方からそのボスの体内―実際には金庫だが―に向い、そこで自分たちの決着をつけた後、出ることができなかったという事情があるが、しかしそれも全て彼らは覚悟の上、場合によっては死をも覚悟していた。

 そんな囚われる苦しみ、囚えられる苦しみをもう一度誰かにさせるわけがない、そう圭一郎は考えて居た。

 

「だったら、どうして」

「だがッ、知っているからこそ……」

 

 その刹那、圭一郎は一本の指を上げた。まるで、己がパトレン1号に変身した、その時のように。

 

「一人だけいる。このようなことをするであろう人間が……」

 

 夜は、更にその深さを増し、辺りを包み込んでいく。その二人の姿をも覆い隠していく。まるで、今の≪自分達≫のようだと、そうある建物の屋上から彼らのことを見ていた人物は、思っていたと言う。

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