SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第六十六話

 圭一郎の言葉は、魁利を失望させたのか、それともどうしてそこまで分かってしまうのかという賞賛も込めたのか、とにかく彼はやわら微笑みながらある物を取り出して言う。

 

「時間を奪われて、大切な人を奪われて、そんな経験をしているのに自分からもう一度ソレを誰かに味あわせようとする。そう言う事?」

「あぁ……矛盾している。だが、あり得ることだ」

「それじゃ、聞かせてよ、圭ちゃんの言うそのあり得るかもしれない可能性って奴をさ」

「……」

 

 圭一郎は、魁利のその言葉に、いったん冷静になった。ならざるを得なかった。怪盗が何を思って、どう行動するのかなど警察である彼は考えたくなかった。しかし、彼らがどういう思いであの一年間を過ごしてきたのかを彼は知っていた。彼ら、≪六人≫がどれだけ苦しんできたのか、それも自分たちの正義が至らなかったが故にもがくことを強いてしまった事、ソレを噛みしめたうえで彼は、単刀直入に言った。

 

「国際警察からSAOを盗み出した犯人。それは、ルパンイエローだ」

 

 この言葉に、魁利は心の中で動揺した。圭一郎に分からない角度でポーカーフェイスを気取って見せても、彼には見えることがないと言うのに、彼はそれでも笑って見せた。

 

「何言って……圭ちゃんが一番よく知っているでしょ? 初美花は」

「彼女でもない!」

「……」

 

 圭一郎は自信を持ってそう言った。何より、彼が初美花の名前を出したことがその自信を後押ししたのかもしれない。圭一郎はまるで胸が締め付けられる思いで言葉を紡ぐ。

 

「もう一人いるはずだ……ルパンイエローが」

「……」

 

 あの事件から一年後、その存在を彼は一度だけ認識した。誰であろう魁利たちによって、彼らが行動をしていたと言う事を知っていた。

 

「そうだ。自分の人生を投げうってまで己の事を助けてくれた」

 

 その中の、一人。

 

「今は漫画家として、活動し一般市民の中に溶け込んでいる」

 

 その。

 

「初美花ちゃんの親友であり、恩人でもある女性」

 

 人物の名は

 

「二代目ルパンイエロー……一ノ瀬詩穂だ」

「……快盗チェンジ!」

≪快盗チェンジ!≫

 

 その、言葉を聞いた後の魁利の行動が、答えだったのかもしれない。魁利はすぐさまルパンレッドに変身すると反転、圭一郎をルパンレンジャー共有武器であるルパンソードで強襲する。だが、圭一郎はソレを予期していたかのように避け乍ら、自らもVSビークルを取り出して。

 

「警察チェンジ!」

≪警察チェンジ!≫

≪ルパ〜ンレンジャ〜!≫

≪パトレンジャー!≫

「「ハァッ!!!」」

 

 パトメガボーを取り出してルパンレッドの攻撃を防ぎつつの鍔迫り合いに移行することとなった。

 真偽のほどはともかくとして、確かにルパンイエロー、いやルパンレンジャーにはもう一つのルパンレンジャーとも言うべき存在がいた。それが、彼らが自分の人生をかなぐり捨ててまで取り戻した兄、恋人、そして親友。

 一ノ瀬詩穂は、初美花の一番の親友だった。ごく普通の日常を過ごしていた時にギャングラーの幹部によって囚われの身となった彼女。当時目の前にいた初美花は彼女が囚われの身となるその姿をただただ見ているだけで、何もできなかった。

 そして、彼女を救うために、初美花は怪盗という違法な手段に手を出すに至った。それしか、手段がないのだと、そう思って。

 その三人は、件のギャングラーの事件がおおむね終了した後、閉じ込められていた魁利達三人を解放するために≪あるアイテム≫を探すため、魁利達を怪盗にした張本人たるノエルが再び集めて指導をした。ルパンレンジャーとしての戦闘の実績自体はない。だが、彼女ならば一度国際警察の地下に潜入した経験もあるし、可能性は高いはずだ。

 

「フッ! ハァァ!!」

「フッ!」

 

 パトレン1号とルパンレッドは互いに得物を交わし合いながら叫ぶ。

 

「君はどこかで彼女が今夜SAOを盗み出す予定であると言う事を知った。だから来たんじゃないのか! 彼女をサポートするため、いや先に盗み出すために!!」

「だったら、どうする?」

「決まっている! 彼女の手からSAOとナーヴギアを奪い返す!!」

 

 この時、圭一郎は魁利がSAOを盗み出したと言う可能性を強く否定した。先ほども見た映像、アレに映っていた人物は、その体格、身長からして魁利よりも小さな人間だった。自分より背の高い人間に成りすますのは上げ底などをすれば少しは可能であろう。だが、己より小さい人間に返送するためにはズボンの丈に会わせて膝をかがめたりとかなりの苦労がいる。

 だが、怪盗たちが使用している衣装は、ひざ元がハッキリと見てわかるようになっていた。つまり、その人物が身をかがめていると言う可能性を排除し、その体格、身長、そして上記の情報を統合した結果、圭一郎は一ノ瀬詩穂がSAOを盗みだした犯人であると断定したのだ。

 

「市民を巻き込みたくないから? 圭ちゃんらしいけどさ!!」

「ッ!!」

 

 ルパンレッドは、近接での戦闘の最中、VSチェンジャーを至近距離で放った。その攻撃はパトレン1号の腹部に当たり、後ずさりした。攻撃自体は、スーツの防御力が高いために大したダメージにはならなかったが、死角となる場所から攻撃したあたり、やはり流石だと言う考えが圭一郎の中に浮かぶ。

 

「圭ちゃんにも分かっているんでしょ? これしか、方法がないんだって」

「なに……」

「これしかないから怪盗やってるんだってさ!!」

「ッ!!」

 

 懐かしいセリフだ。あの戦いの序盤も序盤の時に彼の口から出た台詞、ソレと共にVSチェンジャーから出る弾丸を受けながらパトレン1号は突撃してくるルパンレッドに立ちふさがる。だが、ルパンレッドはそんな彼をあざ笑うかのように直前で空中へと跳び、一回転してからパトレン1号の背後に回った。

 そして、VSチェンジャーの銃口をパトレン1号の頭部に当てる、はずだった。しかし。

 

「あぁ、分かっているさ!」

 

 と、言いながらパトレン1号は振り返りながらルパンレッドの手を攻撃、その手を引き寄せて頭と頭をぶつけ合うほどの距離に接近させて叫ぶ。

 

「だが、だからと言ってここで立ち止まるわけにはいかない! それが、警察官である俺の使命だ!!」

「だったら、圭ちゃんはこの世界で何ができるって言うのさ!!」

「ッ!!」

 

 虚を突かれたのかもしれない。ルパンレッドは自分を掴んでいるパトレン1号の手を引きはがすと、ルパンソードで一度彼の身体を切り裂いた。パトレン1号はその攻撃によって背後に飛び、地面を何度も転がり、止まる。

 

「茅場晶彦を逮捕することもできないで、SAOに奪われた人たちを取り返そうとしている人たちから手段を取り上げて、それが圭ちゃんの正義なの?」

「ッ……」

 

 正論に、聞こえる言葉だ。そう圭一郎は思ってしまった。事実、自分たち警察はいまだにこの事件の首謀者である茅場晶彦を逮捕するどころか居場所も、今どこで何をしているのかもわかっていない。やっていることと言えば、SAOのディレイログインをしようとしている、覚悟を持った人間たちと交渉をして、彼らのSAOをプレイすると言う手段を取り上げると言う事だけ。しかし、その収集作業もいまいち芳しくないという情報が来ている始末。

 本当に自分の中の正義と思っていることが正しいのか、そう悩んでしまっている人間が何人もいる。自分だって先ほどまではSAOの中にいる市民を救いに行きたいと叫んでいた。心の底から。けど。

 

「ならば、何もせずにデスゲームの世界に市民を送り込むことと、茅場晶彦がその市民をデスゲームの中に閉じ込めたことに違いはあるのか!」

「……」

 

 同じだと、圭一郎は考えて居た。魁利もまた、その言葉に何か思うところがあったのか棒立ちになって隙を作ってしまう。確かに何もしないという選択肢はあるのかもしれない。だが、それは結果的に多くの市民をデスゲームの世界に向かわせてしまうと言う結果につながり、そしてそれは遠い目から見れば茅場晶彦が何の罪もない市民たちを死のゲームに連れて行ったと言う事と何ら変わりはない。

 なすか、なさないかじゃない。ためらっている場合じゃない。自分達警察は茅場晶彦のようになってはならないのだ。無理かもしれない。それを重々承知の上でもそれでもSAOを回収するのだ。それが―――。

 

「これ以上市民から被害を出さない。そして、君たちのような人間を生みださない! それが、今の俺のやるべきことだ!!」

 

 ≪これしかない≫と正規の手段、方法を失い、怪盗という違法な手段に手を染めてしまった若者たち、魁利達への償いでもあると、そう信じているから。

 魁利は、その圭一郎の気持ちを十分に分かっていた。やっぱり、こんな自分なりの正義を頑なに持っている人間を相手に、説得なんてもの意味はなさない様子だ。

 

「あ、そ……なら」

 

 そのお宝、もらい受ける。

 

「予告する! アンタのお宝、頂くぜ!!」

「国際警察の権限において、実力を行使する!!」

 

 二つの正義は決して交わることがない。そこに思いが、信念がある限り交わってはならない。誰かが誰かの正義を否定すると、また誰かは誰かの正義を否定する。

 無限のループ、人が人である限り、この世界に悲しむ人間が、そしてその悲しみを喜ぶ人間がいる限りその絶望は決して途切れることなく続いて行く。

 その絶望の中、圭一郎は戦うのだ。市民の味方たる警察官として、自分自身の正義のために。

 その絶望の中、魁利は戦うのだ。アウトローの道である怪盗として、自分自身の正義のために。

 

「圭一郎!」

「魁利君!!」

 

 その時、ようやくつかさと咲也の二人も現場に到着した。すでにルパンレッドとパトレン1号は互いにVSチェンジャーを向けながら互いに向けて走り出していた。止めることなどできない。

 何が起こったのかは分からない。だが、少なくとも二人共に守りたいものがあるから戦っているのだ。そう、二人ともが思った。その正義の対決を、あるいは正義が反転した戦いを止められようか。

 二人の事を良く知って、その心の強さを知っているからこそ、単純に自分たちが彼らの下に向かったところで止められるはずがない。そう、思ってしまったのだ。

 

「ハァァァァ!!!」

 

 そう、二人の戦いを止められる人間など、いないはずだった。

 けど。

 

「ッ!?」

「なんだ!?」

 

 激突しようとした、その瞬間。二人の間に突如として浮かび上がった物。

 それは、風船であった。一つの、それこそ≪ナーヴギアがおさまるくらいの大きさ≫の風船が、二人の間に割って入ったのだ。

 いや、一つだけじゃない。二つ、四つ、八つ、それ以上の多くの色とりどりの風船が二人を中心にしてどんどんと増えていく。

 

「いったいこれは……」

「こんばんは、警察に同業者さん」

 

 と、疑問の声を上げたのは誰だったか。もしかしたらそれに応える形で一人の≪女の子≫の声が聴こえて来た。

 

「同業者?」

「……あそこだ!」

 

 ルパンレッドがとある単語に引っかかっている中、どこから聞こえてきた声なのかを辺りを見渡してその方角を探ったパトレンジャーの面々。すると、つかさが、三階建ての建物の屋上に一人立つ人間の姿を発見、指を指した。

 

「お前は、いったい何者だ!?」

 

 服装は、月の影でぼやけていて良く見えないが、ルパンレンジャーのような豪華な装飾がないことから恐らく自分たちが追っていた人間ではない、つまり彼ら以外の≪盗人≫なのだろうか。

 果たして、これまた圭一郎の言葉に応えるように少女は微笑みながら言った。

 

「その銃を見て」

「なに?」

 

 と、その言葉にルパンレッド、パトレン1号双方が互いのVSチェンジャーを見た。すると、そこには予告状のような物。そして、その少女が何者であるのか。

 

「怪盗……セイント・テールだと!?」

 

 それは、≪今≫世間を騒がしている怪盗であった。

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