SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第六十八話

 怪盗セイント・テール。日本語に訳すと、≪聖なる尻尾≫か。圭一郎は、その名前を知っていた。

 

「貴様が今世間を騒がしている怪盗か!!」

 

 ソレは、この一年間の間に出現した新しい怪盗の名前だ。年齢、性別一切不明の怪盗。確か、主に聖華市周辺を根城にして活動していて、不定期に出現しては様々な場所で盗難事件を起こしている。

 だが、その行動にはある一定のポリシーという物があるのか、はたまたこれもまた怪盗たちと同じ義賊としての側面があるのか、物を盗まれる人間は違法、もしくはソレのスレスレの手段を用いて他人から大切な物を奪った人間であると言う事。盗難品は宝石や自転車、プロ野球選手のグローブ等々。

 怪盗セイントテールはそう言った人間たちから大切なものを取り返して本当の持ち主の場所に届ける怪盗なのだ。その行動については賛否両論があるが、当然のことながら圭一郎は例え理由がいかにせよ犯罪に手を出した存在を許しておかない。元来セイントテールには専任の捜査官のような存在しているためそちらの方に任せていたが、目の前に現れたからには問答無用で逮捕するべく行動を起こす。

 しかし、風船の波に飲まれているためか上手く進むことができず、セイント・テールのいる建物に近づくことができない。

 

「フフッ、国際警察の中って色々なトラップがあって結構楽しかったよ」

 

 とそんな彼をあざ笑うかのように、というか実際に微笑んでそう言った。

 彼女にとって、厳重な警備のある場所に潜入すると言う事は今回が初めてではなかった。だが、その言葉通りに警察の中は今までに見たことのないトラップが数多くあって大変な思いをした。しかし、そこは彼女自身の身体能力で何とかカバーをし、目的のSAOとナーヴギアを奪取したのだ。

 彼女の姿を映した防犯カメラに関しては、彼女自身はハッキングする力などなかったため、聖良が事前に用意したハッキング用のウイルスを使用し、少しだけ不本意ではあったがルパンレンジャーの面々の姿を利用させてもらった。

 本当はそのまま逃げてもよかったのだが、芽美は目の前で怪盗仲間というか先輩であるルパンレンジャーとそのライバルのパトレンジャーの戦いを目撃して、少しだけ面白そうと思って観察しながら、自分が出る時を待っていたのである。

 

「な、ふざけるなぁ!!」

「うわぁ、熱血お巡りさん! アスカJr.とは違った意味でしつこそう」

「そ、それが圭ちゃんのいいところってね」

 

 と、彼女は自身のライバルを引き合いに出して圭一郎の事をそう評して、そして魁利はその言葉に同調しながら変身を解除した。これは、もうこれ以上戦う事はないと言う意思表示なのだろうか。

 

「じゃあね、ケイちゃん? だっけ」

「な、待て怪盗!!」

 

 なんにせよ、今は目の前にいる怪盗だ。そう考えたパトレン1号は風船の波を再度かき分けながら彼女の場所に向おうとする。その姿を見たセイント・テール、さっきよりも少しは進むようになった。今は頭に血が上っているからその考えがないのだろうが、風船を割ると言う簡単な策を思いつかれると色々と面倒なことになりそうだ。そう思ったセイントテールは、ステッキを取り出すと。

 

「いくよ、ワン!」

「なに、風船が膨らんでいく!?」

「ツゥー!!」

「へぇ……」

「スリー!!!」

「うお!?」

 

 その言葉と同時に、彼らを囲っていた風船が一斉に破裂した。それと同時に小さな爆発が起こる。

 爆弾、いや爆竹だ。それも他人を傷つけることのない小さなもの、音と煙だけで威嚇するようなものであり、パトレン1号、並びに彼に近づこうとしていた咲也とつかさの目と耳を一瞬だけ奪う。

 いや、それだけじゃない。

 

「これは、花びら?」

「く、花に隠れて逃げるつもりか!」

 

 風船の中から飛び出してきたのは綺麗な花びらだ。それらがさらに彼、彼女たちの視界を奪い、その間にセイントテールはその場から離脱していた。

 魁利は、同業者の行動に対して何か思う事があったのか、地面に落ちた無数の花びらの内の一枚を持ち上げると呟く。

 

「やるじゃん。あの子」

「セイント・テールも、お前たちの仲間なのか?」

「いいや」

 

 というと、魁利は花びらを風の中になびかせると、ルパンレンジャーの装備の一つであるバックルを取り出すと、近くの建物に向けて内蔵されているワイヤーガンを飛ばした。

 

「俺は、今夜国際警察に侵入者が現れるって聞いてきただけさ」

「おい、どこに行く!」

「SAO! 面白くなってきたでしょ?」

「なにっ……!?」

 

 圭一郎は絶句した。冗談、じゃないようだ。その顔を見ればわかる。彼は、本気でSAOの中に行こうとしているのだ。けど―――。

 

「何故だ! 君にはSAOをプレイする理由は!」

「無い! でも、ソレが俺たち怪盗のやり方、圭ちゃんたちとは違うやり方だからさ!」

「魁利くん……」

「アデュー!!」

「待てッ!!」

 

 その言葉を最後にして、魁利は夜の街に消えて行った。

 残されたのは、地面一杯に広げられた花びらの絨毯と、割られた風船の残骸と思わしきゴム、そして。

 

「おのれ、かいとおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 呆然と足しつくす二人と対照的に叫ぶ、圭一郎の姿だけであった。

 

 一方で、とあるマンションの一室。そこに、一人の女性の姿があった。

 

「初美花……」

 

 一ノ瀬志穂、である。彼女は元は実家暮らしであったのだが、漫画家としてデビューしてからはこのマンションで一人暮らしをしていた。漫画家という職業は、家に少なからず影響を与える物だ。編集者が来たり、アシスタントの人間が来たりと人の出入りが激しくなり、あるいは自分が集中できる場所を作るためだったのかもしれないが、家にはいつの間にか居づらくなってしまった。そのために、彼女は実家を離れてこの家で一人暮らしをしていた。

 そんな彼女は、一人写真立ての中を見つめて呟く。その写真立てには自分だけじゃない、親友の初美花が映っている。自分と、彼女が最後にあった時に撮った写真だ。

 その向こうにいる彼女は、とてもいい笑顔をしていて、自分も同じように笑顔になれて、互いに笑いあったのに、なのに今は遠く離れて顔すらもみることがままならなくなって。

 

「会いたいよ……初美花……」

 

 彼女は、必死で涙を沈めようとしていた。そんな些細なことで怒る人間など、いやそもそもこの家に自分以外の人間なんていないはずなのに、涙を流しても構わないはずなのに、それでも涙を押し殺していた。一度泣いてしまったら、もう二度と笑顔になれない気がしたから。

 おかしな話だ、自分が怪盗となっていた一年間ではこんな寂しくなることなんてなかったはずなのに、たった一か月親友と会えないだけでこんな気持ちになるなんて。

 きっと、希望があるかないか、なのであろうか。あの時は、ノエルから確かな希望が、初美花を助けられる絶対的な可能性を提示してくれていたから自分は絶望の中に沈むことはなかった。でも、今回は、今回に限っては彼女が今度も帰って来るかどうかの確証を得られていない。もしかしたら、永遠に、永久に彼女とお別れになってしまうかもしれない。

 そう考えたら寂しくなって、悔しくなって、やるせなくてそして―――。

 

「……」

 

 詩穂は、その瞬間考えるのを止めた。彼女は懐から例のマスクを取り出して、目元を隠すと誰に語るでもなく言う。

 

「初美花……私、やっぱりやるよ……」

 

 国際警察に忍び込んで、SAOとナーヴギアを盗み出す。昼間は、冷静になるようにとシスター見習いの女の子に助言された。確かに、少し冷ややかな頭で考えてみると自分の行為自体が、親友の努力を無に帰すような行動なのかもしれない。

 だが、頭では分かっているけれどやはりそれでも彼女にはいきたい場所があった。

 守りたい親友がいる。

 それが、犯罪の先でしか到達することができないと言うのならば、自分は。

 詩穂が、覚悟を決めた。刹那の事であった。

 

「え?」

 

 コンコン、と窓を叩く音がしたのである。彼女がその方向を見ると、そこには自分の見慣れた姿があった。

 

「よっ、久しぶり」

「貴方、初美花の怪盗仲間の……」

「夜野魁利。久しぶり」

 

 と言いながら窓を開けた魁利は、靴を脱ぐとゆっくりと部屋の中に入っていく。詩穂は、慌てる様子を見せた。と言っても不審人物が入ってきたからではない。夜もかなり深い時間になったと言うのに電気もつけずにいると言う事で、電気を付けようとしているのである。

 先も彼女自身が言った通り、彼女は魁利の事を知っていた。≪初美花と一緒に≫怪盗をやっていた人間で、初美花からは一種のリーダー的な扱いを受けていた人間。≪自分と一緒に≫怪盗をやっていた彼の兄の勝利からもその人柄は良く教えてもらっていた。だから、彼に対して怖がるそぶりは見せなかった。

 

「あの、突然で驚いちゃって。すみません」

「いいさ、怪盗が怖がられるなんて普通の事だって」

 

 電気がついて数分。落ち着いたところで、詩穂の言葉に魁利がそう返答した。いや、怪盗であるのならば自分だってそうなのだが、と詩穂は思った様なのだがそれはともかく。詩穂は不思議そうに聞いた。

 

「今日はどのような用件で……」

「君に……プレゼント」

「え?」

 

 そう言って、魁利が取り出した物。それは、SAOとナーヴギアのセット、自分が喉から手が出るほどに欲しかったソレであった。詩穂は、おっかなびっくりに、震える手でソレを受け取ると疑問を呈する。

 

「どうしてこれが……まさか、魁利さん……」

 

 盗み出したのか、どこからか。そんな普通の人間であったならば考えないような答えを言うと、魁利はフッと笑い。

 

「いや、セイント・テールが盗み出した……らしい。これ自体は玄関に置いてあった」

 

 セイント・テール、あの今の時代に活躍、というのも意味合い的には違うかもしれないが、ともかく活動している怪盗の名前だ。自分も、漫画の取材のために色々な資料を集めている時に名前やその主な実績を見たことがある。でも、どうしてセイント・テールが自分の家にSAOを、そんな当然な疑問が湧いてくる。セイント・テールの正体を知らない人間、そしてその行動目的を知らない人間からしてみれば、当たり前の疑問だ。

 一方で、魁利の答えにも一部誤りがあった。正しくは≪玄関に置こうとしていたセイント・テールからSAOを二セット貰った≫である。

 セイント・テールは確かに圭一郎たちを撒くことには成功した。だが、それ以外の警察が総出で警察署から出動して己の事を探していたのだ。警察、それも国際警察から茅場晶彦の手がかりになりうる証拠品が盗み出されたのだから、警察が血眼になって捜索するのも分かると言う物だが、ともかくそのために彼女は様々なルートを使用して一ノ瀬詩穂の家に辿り着いていた。そのため、直線的に動いてここに到着した魁利と出くわしたのだ。

 その折に、魁利がセイント・テールに対しお礼をした後に自分たちを勝手に監視カメラの映像に使ったことに関しての出演料の要求として、SAOとナーヴギアを二つずつ貰ったのである。

 

「まぁ、なんでお前の所にソレが届けられたのか分からないけど、もし、SAOに行くのならノエルに相談しなよ。アイツなら、病室の一つや二つ用意できるだろうし」

 

 と、魁利はさも自分は関係ないと言わんばかりに言った。確かに、ノエルの人脈、そして経済力を用いれば彼女たちをかくまう事の出来る病室、いや下手をすれば自家発電を持っている屋敷の部屋を貸してくれるはずだ。その言葉に頷いた詩穂は、すぐさまある言葉が気になった。病室が、≪二つ≫。それにSAOも二つ。まさか、この人も、詩穂は恐る恐る聞いた。

 

「あの、魁利さんもプレイするんですか?」

「さぁ、どうしようかな?」

 

 と口では言っている。でも、詩穂はその言葉でどこか確信めいた物を感じ取った。けど、もし、もし本当にそうだったら。

 

「もし、魁利さんがプレイしたら……勝利さんが悲しみます」

「……」

 

 そう、だからこそ魁利がSAOをプレイするとは圭一郎は考えて居なかった。残されることになる哀しみ、苦しみを知っているのにそれをもう一度味あわせるなんてないと、そう彼女も思っていた。だが。

 

「かもね、けど……」

「けど?」

 

 彼は、悪戯っぽく言った。

 

「怪盗が、昔の仲間を盗まれっぱなしってのもむかつくだろ?」

 

 と、おどけるように、だ。詩穂もまた、やや悪戯っぽく頬を膨らませると。

 

「怒りますよ?」

「わりぃ、まぁ、本音としては……」

 

 そう、彼が呟いた瞬間。その場の空気が変わった印象を受けた。間違いない。次の言葉に嘘偽りなんて物はないのだ。そう考えながら、詩穂はその言葉を聞いた。

 

「俺たちみたいな人間を、たくさん生みだした……そんな茅場を許せない」

 

 なるほど、言われてみればそうかもしれない。確かにSAOをプレイすると、残された人間たちが悲しむことになる。それは正しい事。だが、逆説的に言えば既にSAOをプレイしている人間の家族や、大切な人達は今もなお悲しい思いを、辛い思いをしていると言う事。そう、詩穂のように。あの時に、魁利たちのように。

 そんな人間を溢れ返すように生みだした茅場晶彦の事が許せなかったのだ。彼は、さらに言う。

 

「勿論、この一か月俺だって茅場晶彦の居場所を追った。けど、どれだけ調べまわしても見つけることができなかった」

 

 それこそ、表の手段、裏の手段色々な方法を用いて探したが、見つけることができなかった。まるで、もうこの世界にいないかのように茅場晶彦の行方はあるところを境にぷっつりとその所在が途切れ、行方不明と言っても過言ではない状況になったのだ。

 ならば、と最後の手段として思い浮かんだのが内側、つまりSAOの内部から茅場晶彦に関する情報を集める事、というよりも茅場晶彦もSAOをプレイしている可能性を追うと言う細い細い糸を手繰り寄せるような奇跡を追う事だけだった。

 無謀な賭けに思える。でも、その賭けをできるだけの信頼がおける人間が、この世界には残っていたからこそ、彼はその選択ができたのかもしれない。

 

「こっちの世界は圭ちゃんたちに任せることにして、俺は向こう側から茅場の手がかりを探す。それが、俺が今できる事だから」

 

 それが、自分たちが行使できる正義だから。圭一郎たちとはまた違った歪んだ正義だけど、でもそれで救う事ができるかもしれない命があるはずだから。信頼できる人間、自分が裏の世界から正義を貫き通す道を選んだように、彼には彼の、表の世界だからこそ行使できる正義があるのだから。だから自分たちは互いの正義を信じて一歩ずつ進んでいく。それが、自分の決めた道だった。

 

「優しいんですね、魁利さん」

「ん?」

「ううん、なんでも……でもこれで……」

 

 詩穂は、そう言うと大事そうに、まるで赤ちゃんを抱くかのようにその機械を丁寧に持つと言う。

 

「これで、もう一度初美花を助けに行くことができる……」

「今度は、合法的な手段で、な」

 

 合法、とは少し違うような気がするが、そう詩穂は心の中で冷や汗をかいたと言う。

 次の日の朝、彼女はすぐさま自分の所属先の編集部に≪グッドスリー≫休載の記事を雑誌に乗せてもらう様にと頼んだ。理由は、体調不良という事にしたらしい。当然SAOの事は伝えられないし、ギャングラー犯罪に遭遇した経験がある彼女だからこそ、PTSD―心的外傷後ストレス障害―を理由とできたのかもしれない。

 とにかく、それを編集部に伝えると、彼女はマンションの一室の部屋代を数年分支払って、一人どこかへと消えた。

 初美花に叱られるかな。そんな心配を胸に、抱きながら。

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