SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

348 / 361
メインシナリオ第三章 外伝 第七十話

「これで、お二人の願いは叶えられましたね」

 

 芽美、そして聖良の二人は再び礼拝堂にてその顔を合わしていた。聖良は、つい先ほどまでは顔を赤らめており、芽美からは意外そうな顔をされた。

 なぜなら、自分の向かった先は国際警察の日本支部、対して聖良の向かった先はただの一民家だと聞いている。

 一国家機関の支部より、普通の家の方が難しい任務だったのだろうか、そんな疑問が沸いたのだ。実際には同性からのセクハラのようなものを受けていたのだが、それはさておき。

 格好も、二人ともが制服に着替えていて、はたから見れば、この二人が怪盗セイントテールであり、国家権力を相手に盗みを働いたことなど知る由もないだろう。

 

「うん、でも……」

 

 芽美は、確かな達成感のような物を感じ取った。救うことができたと言う達成感。でも、どこかで今までとは違う、自分自身の心への拒絶を感じ取っていた。それは、何故なのか。

 

「本当だったら、アスカjrに予告状を出したかったな」

 

 ライバルが、その場にいなかったこと、そしてそのライバルに対していつものように予告状を出すことができなかったことが、関係しているのかもしれない。

 そう、感じていた。

 

「無理もありません。彼はSAOプレイヤー、厳重な監視体制に置かれている所に向かうのは、私たちの正体を晒すリスクがありますので」

 

 当然の事なのかもしれないが、聖良は現在のアスカjrがどこの病院にいるのかを知っていた。そして、その病院の監視体制が徹底されていると言う事も。もしも今の彼に今までのように予告状を送り付けようとしたら、どこかの防犯カメラに映されて、彼女の正体を露見させる可能性があった、だから、彼女は今回は予告状を出すことができなかったのだ。

 

「うん、分かっている。分かっているけど……」

「それよりもまず、考えるべきなのはこのSAOとナーヴギアです」

 

 と聖良はたしなめるかのように、もしくは彼女の心の中で≪欠けている物≫から目を背けさせるために、そう言葉を紡いだ。

 

「怪盗の人からは……好きに使ってもいいって言われたけど……」

 

 あの時、玄関にSAOとナーヴギアを≪三つ≫置こうとした時、彼女の中に迷いが産まれた。本当に、このままソレを、アスカjrを助けに行くことができるソレを、他人に渡してもいいのかと。

 何を今さらと言われるかもしれない。今までずっとそうしてきたじゃないかと思われるかもしれない。でも、少なくとも彼女の中で一瞬の迷いが産まれたのは確かだ。

 その結果、ルパンレッドである魁利に追いつかれ、正体を内緒にする代わりに今回の迷える子羊たる詩穂に一つ、自分に一つを譲るように促され、そして残る一つは、好きなように使えと言われた。

 

「ねぇ、私はどうしたらいいの?」

「芽美ちゃんは、どうしたいのですか?」

「私は……」

 

 己の心は、どうしたいのだろうか。いや、そんなの決まっている。

 

「あいつを……アスカjrを助けに行きたい!」

 

 自分は、助けを求めている人間がいるのであれば、そこに駆け付ける。それが、自分。怪盗セイントテールだ。

 最初から、決めていたこと、悩み何てなかったじゃないか。いつもの事だったじゃないか。そう、心の底からの叫びを聖良に伝えると、彼女はやや困った顔をしながら。

 

「ですが、私たちがいなくなれば、一体誰が救いを求める人を助けると言うのですか?」

「それは……」

 

 確かに、それも自分じゃなければ無理だ。違法な手段で、あるいは違法スレスレの手段で他人に大切なものを取られたり、あるいは大切なものを無くしたりして、悲しみの底にいる人々を救う。それが怪盗セイントテールだった。聖良はそれも理解したうえで言う。

 

「芽美ちゃんの気持ちもわかります。ですが……」

「でもじゃない……」

 

 ギュッ、と手を握った芽美は今度は、振り絞るように言う。

 

「私を救えるのは、私だけだから。私が今迷える子羊になっているから……そんな私を救えるのは、私だけ……だと思うから」

「……」

 

 だから、そう言葉を紡ごうとしたのだろう。口の動きで察してしまう。聖良は、その前に儚く言った。

 

「分かりました。では……今日をもって、怪盗セイントテールは、廃業という事でよろしいですか?」

「……」

 

 あの話を、するべきだろうか。自分が、都合のいい言い訳として使用した、怪盗セイントテールを廃業する、とシノに言った話を。

 でも、あの時も、この時も聖良は感じていたのかもしれない。もしも、怪盗セイントテールがいなくなったとしても、彼女は他の誰かのためにと信じてやまない行為を決して止めることはないだろうと。

 彼女は脆い存在なのだ。その笑顔に隠れがちだが、どこかで何かが壊れて、欠けてしまっている。そんな女の子。己も、先の彼女の言葉で気がついたのかもしれない。彼女がそもそも迷える子羊であったと、誰よりも迷って、行き止まりを見つけて、それでも何かしらの方法でその先へ歩いて行く女の子。それが、羽丘芽美だった。

 今まで目を逸らしてきたけれど、でもここでハッキリと分かってしまった。彼女こそが、怪盗セイントテールが救うべき存在であったのだと。

 今更の事と言えば、今更なのかもしれない。言葉を出さない芽美にかわり、聖良は。

 

「芽美ちゃん……実は……」

 

 その償いも上乗せしよう。今度は、正真正銘の罪の償いを。そう信じて、言葉を紡ぐ。

 

 

「失態だな……」

 

 と言ったのは、国際警察日本支部の中で、体中に付いた花を一枚一枚剥がしている圭一郎であった。そんな彼に対し、というわけではないがヒルトップ管理官は独白した。

 

「マサカ、怪盗ニSAOヲ三ツ奪ワレルナンテ」

 

 この日本支部の中に潜入されたのはまだしも、いや良くないのだがともかく潜入された挙句大事な証拠品でもあるSAOとナーヴギアを奪われてしまうなんて、思ってもみなかった。

 怪盗セイントテールがあの場から離れた後、圭一郎たちは街中の防犯カメラの映像を取り寄せてその行方を追った。だが、その存在は人ごみの中に紛れ込んだ瞬間に完全に姿を消した。とても用意周到に計画されていたのだと思われるその手口は、やはりかつて自分たちが追った怪盗と似たところを感じさせる。

 追跡は困難、であるのならば次に考えるべきはどんなことか。

 

「先輩、今すぐ初美花ちゃんの親友の一ノ瀬さんのところに!」

「無駄だ。例え俺達が彼女の家に押しかけSAOを見つけたとしても、ソレが我々のところに来たSAOである証拠があるか分からない。それに、俺達が追いかけてくることなど容易に想像がつく」

「既に雲隠れしてる可能性もなくはない、か」

 

 膨大な、裏の人間たちへのパイプを足掛かりにして、事実この時には既に一ノ瀬詩穂はマンションを出ていわゆるセーフハウスと呼ばれている安全な場所へと向かっていた。もしもここから彼らが一ノ瀬詩穂の事を追ったとしても無駄だったであろう。

 

「それじゃ、このまま一ノ瀬さんがSAOをプレイするのを、黙ってみる事しかできないんですか!?」

 

 と、咲也の混乱も混じった声を受けた圭一郎は、魁利の言葉を思い返していた。いや、彼と対峙した時からずっと考えて居た。今の自分達の立場でできる事とは、一体何なのかと。

 否、決まっていたじゃないか。圭一郎は、咲也の顔を見て言う。

 

「いや、俺たちにはまだできることがある」

「え?」

 

 立ち上がった圭一郎は、咲也にゆっくりと近づくと、その胸に拳を置いて言った。

 

「今でもまだ、SAOへ行きたいと言う思いに変わりはないか?」

「……」

「SAOの中にいる一般市民を助けたいと言う、その気持ちに偽りはないか!」

「……勿論です!」

 

 圭一郎の言葉に、しかしはっきりとした口調で答えた咲也。そんな彼の姿を見た圭一郎は、こわばった表情を崩すことなく、ヒルトップの元に向い言った。

 

「管理官。俺は……SAOへの潜入捜査を進言します」

「潜入捜査?」

「はい、そして、潜入する人間として、咲也を推薦します」

「先輩……」

 

 潜入捜査、それはその言葉の通りにある特定の場所やグループの中に潜りこんで情報を収集する操作方法だ。これは、国際警察でも一部取り入れられていることで、その最たる例とも言える高尾ノエルは国際警察の人間でありながらもルパンレンジャーにも所属してその情報を搾取していた―と公ではそうなっているが実際には逆で国際警察の情報をルパンレンジャーに垂れ流す役割を持っていたのだが―。

 

「シカシ、侵入シテ一体ドンナ情報ヲ集メルツモリダイ?」

 

 というヒルトップのもっともらしい言葉が帰って来た。それに対して、圭一郎は自分の中の正義感と対立したその言動をとる己を律しながら、しかしそれが唯一の自分たちにできる手段であるのだと信じて言う。

 

「SAOの中に入るはずの怪盗……夜野魁利、そして茅場晶彦を追うためです」

『えぇ!?』

「確かに、彼は去り際にSAOに入ると、言っていたが……」

 

 と、その場にいたつかさが思い出すように言うと、圭一郎は険しい顔をより一層濃くしながら言う。

 

「確かに、彼の言う通りにソレが彼らのやり方なのかもしれません……ならば、俺たちにできる事は何か……ソレを考えた末に、怪盗を追い、並びにSAOの中から現在も行方不明となっている茅場晶彦の手がかりを探し出すことだと、俺は思います」

 

 全く持って言い訳がましい言葉だ。それに、本当だったらこの潜入捜査を提案した人間である自分がSAOに向わなければならないはずであるのに、あろうことか同僚にすべてを託そうとするなんて、前代未聞の事なのかもしれない。だが、それでも彼は咲也をSAOに向かわせる理由があった。

 

「咲也、俺はこの世界で茅場晶彦の事を追う。ソレが彼らとは違う、警察官としての俺に出来ることだ」

「先輩……」

「だからお前は、内側から茅場晶彦、そして怪盗の足跡を追え。それがお前の任務だ」

 

 圭一郎は決して諦めてはいなかった。正義の限界、非現実への直視、そして今の自分たちにできることが少ないと言う現状への挑戦を。

 そして彼は心の中で自分の罪を懺悔する。自分たちの力が足りないことによって、再び彼らに怪盗になる道を選ばせてしまったと言う事実に。

 腹が立つ。だが、それ以上にもっと腹立たしいのはソレを促した存在たる茅場晶彦が、今もなおこの世界のどこかで高みの見物をしているであろうことだった。

 絶対に茅場を捕まえなければならない。この手で、そのためには多少強引な方法であったとしても、いや強引であるからこそ己のような猪突猛進な人間ではなく、ちょっとだけ抜けているところがあるが自分よりも優れた一面を多分に持っている咲也の方が潜入捜査にはうってつけだった。

 心の中で言い訳をしながら、圭一郎は咲也に言った。

 

「必ず、デスゲームの世界から戻ってこい……」

「……はいッ!」

 

 咲也は、そんな圭一郎の思いを汲み取って涙ながらにそう返答した。その後、ヒルトップ管理官が国際警察の上層分にも話を通して、陽川咲也のSAOへの潜入捜査が正式に認められることになった。

 圭一郎は、屋上に出て、一人あつあつのブラックコーヒーを飲みながら≪こんなことでしか一人の男を救う事ができなかった≫自分自身を殴りたい気分だった。

 けど―――。ふと、彼は空を見上げた。

 

「俺は諦めないぞ、茅場晶彦……絶対に、お前を逮捕する……」

 

 そう言うと、スチール製の堅い缶を握りつぶして、寒空の下から、暖房のよく効いた国際警察の中に戻って行く。

 その時流れ星が一つ、空を滑った。果たして、それは圭一郎を励ます神の言霊だったのか、それとも彼の正義感への敗北を叩きつけるきらきら星であったのか、それとも―――。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。