SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

350 / 361
メインシナリオ第三章 外伝 第七十二話

 それが届いた瞬間、彼女たちは食卓の上に置かれていたご飯を全てその場に残して靴を履き、学校に向け走り出した。

 また、あのオーディションが開催される。それが頭の中によぎった時、そのオーディションが自分たちにもたらす物、その存在を思い出した。

 そうだ。アレがあれば、ひかりを取り戻すことができる。ひかりをSAOのプレイから≪回避≫させることができるはずだ。

 そう思い、彼女たち走り始めた。

 

「右京さん、あの子達一体……」

「分かりませんが。彼女たちに着いて行ってみましょう」

 

 というのは先ほど彼女たちの場所に到着したばかりの警視庁特命係の亀山と杉下であった。因みに何故彼らが、このような朝早くに華恋たちの元に駆けつけたのかと言うと、それは今朝方届いたメールに関係がある物だ。

 

「しかし、本物なんすかねこのメールは?」

 

 走りながらもメールを開いた亀山はそう右京に尋ねた。

 朝、寝ぼけ眼の亀山はそのメールの受信音で目が覚めたのだ。まだ日も昇っていな時間に届いたメールに迷惑そうに目を通した亀山。しかし、その内容は予想だにしていない物だった。

 

≪警視庁特命係所属亀山薫刑事へ、私の名前は茅場晶彦≫

 

 まさかの、茅場晶彦からの直々のメールだったのだ。これには睡眠状態にあった彼の頭も覚醒して、すぐに色々と考えてはみた物の、頭を動かすよりも身体を動かすのが得意な彼では何も思い浮かばずだった。

 一応、内容的にはとある学校の寮にSAOとナーヴギアを送り付けたという旨の話であることは理解できたが、しかし何故自分に名指しでメールを送ってきたのかが意味が分からなかった。

 いや、そもそもこれは本物か。伊丹や芹沢と言った自分の知り合いが悪戯で送ってきた者ではないだろうか。などと色々と考えて居た時だった。

 今度は電話の着信音が鳴った。相手は、自分の上司でもある杉下右京だ。亀山はすぐに通話ボタンを押す。

 

「もしもし! 杉下さん今!」

『やはり、君にもメールが届いていたようですね』

「え……」

 

 冷静にして何事にも動じない杉下からの言葉に、亀山は一瞬どもった。と、同時に杉下はさらに続ける。

 

『メールには、≪警視庁特命係所属杉下右京刑事へ≫と書かれていました。僕自身にのみ当てた物であるのならば、所属まで書く必要はなく名前だけ書けばいいだけです。なので、君の方にも茅場晶彦からのメールが届いていると思いましたよ』

 

 なるほど、彼の脳はこんな朝早くでも順調に仕事をしているようだ。メールの内容を見て、すぐさま自分の方にもメールが届いていると判断して電話してくるとは、いつもながらその頭の良さには感心する。

 

「けど、どういうことです右京さん? このメール、本物なんすかね?」

『本物かどうかはともかくとして、大岩捜査一課長に連絡をしたところによると、茅場晶彦からその場所にSAOとナーヴギアが送られているのは確かなようです』

「こんな朝早くに、捜査一課長に電話したんですか!?」

『えぇ、なにぶん急を要する事態でしたので』

 

 杉下の突飛な行動に、携帯の前で目を白黒とさせた亀山。それもそうだ。いくら陸の孤島、勝手に色々な事件に首をつっこんでいる特命係とはいえ、いや特命係であるからこそ捜査一課長にこのような時間に連絡することがいかにおかしなことか分かる。

 とはいえ、大岩の方も杉下のその推理力や行動力をかっているので別に問題はないそうだが。

 

『とにかく、茅場晶彦から直々にメールが送られたと言う事は、その場所に我々を行かせる事が、茅場晶彦の狙いなのでしょう』

「でも、どうして?」

『それはまだ分かりませんが、メールには急がなければ面白いものが見れない、等という言葉が書かれていました』

「面白い物……茅場晶彦が言う面白い事ってまさか……SAOをプレイする瞬間ってことですか!?」

『それもまだ分かりません。ですが、早急にこの場所に行って、その送られた先の人たちに会う事が先決です。亀山君、迎えに行っている時間はありません。現地集合という事でよろしいですね?』

「はい、勿論です!」

 

 というわけで、二人はそのメールに描かれていた住所のすぐ近くで合流したわけだが、まさかその場所が―――。

 

「まさか、数多くの舞台女優を輩出した聖翔音楽学園の寮だったとは、思いもよりませんでしたねぇ……」

「え、そんなに有名なんですか?」

「えぇ、かなり歴史の長い学校です。確か今年で創立百年。その学校から排出された生徒は誰もが演劇界隈では表でも裏でも引っ張りだことなる、まさしく由緒正しい学校です」

 

 本当なんでも知っているなぁこの人はと感心しながら走る亀山と杉下。そして、と杉下は一度言葉を置いてから言った。

 

「今回のSAO事件に置いてその生徒が一名、SAOに囚われた学校です」

「え、そうなんっすか?」

「えぇ、神楽ひかりさんという女の子で、今年十七歳の高校二年生になります」

 

 もう一度言うが、本当になんでもよく知っている者だ。まるで警察のデータベースをそのまま写し取ったかのような情報量の多さにこれで何度亀山が下を巻いたのか分からない程。

 とにかくだ。

 

「で、あの子たちは一体どこに向かっているんでしょうかね!」

「えぇ、彼女たちの表情から察するに、SAOとナーヴギアを持っているとは思えませんでした」

 

 人間というのは、表情一つをもってして様々な情報を与えてくれる生物だ。彼女たちに対して自分がSAOとナーヴギアの話をしたとき、彼女たちの中にあったのは明らかに困惑、であった。つまり彼女たちの元にSAOもナーヴギアも届いていないのではないか、そんな可能性が杉下の中で産まれていた。

 その直後である。一斉に彼女たちの携帯にどこからかのメールが届いて、その目を大きく見開いたのは。

 あの感情は、驚愕であった。それは、亀山の目から見ても明らかだった。その後の彼女たちの行動、まるで示し合わせたかのように自分たちが来てすぐに送られたメール。

 ともすれば、自分たちは何者かに見張られているのではないだろうか。そう考えてもおかしくない程にタイミングが良すぎる。

 そして、そのメールを見た瞬間の彼女たちの瞬発力。間違いなく、自分達に宛てられたメールの送り主に心当たりがあるのだ、と思う。

 と思うとしたのはまだ確証も証拠もなかったから。そもそもの話、仮に彼女たちの向かう先にSAOとナーヴギアがあるのだとしても。そんな回りくどいことをしなくてもソレらを自分たちが先ほどまでいた寮に送り付ければいい話だ。それなのに、どうして一度別の場所に送るという方法を取ったのか。それが杉下には気になっていた。

 それから数分後、彼女たち、そして杉下たちがたどり着いたのは。

 

「ここは……」

「えぇ、ここが聖翔音楽学園です。これは少し面倒なことになりましたねぇ」

 

 と、たどり着いたのはいかにも伝統のあると言わんばかりのレトロな外観をした彼女たちの通う学校。聖翔音楽学園の門の前であった。まだ校門の開く時間にはなっていないのだろう、おかげで若くて素早く動くことのできる華恋たちに追いつくことができた。

 

「あの、部外者の立ち入りは……」

「えぇ、分かっています。ですが、急を要する自体なのです。警察なので、と言うことで通してもらえませんか?」

 

 と毅然とした対応する警備員に対して、杉下は言った。普通の学校でもそうなのだろうが、由緒正しい音楽学園に部外者を入れる訳がない。そう考えて交渉する前段階だった。すると、警備員は少し驚いたような顔を見せて駐屯所に入っていった。何なのだろうか。

 数分後、現れた警備員は言う。

 

「警察の方……あの、お名前を聞いても」

「杉下右京です。杉花粉の杉、上下の下、左右の右、東京の京と書いて杉下右京と言います」

「亀山薫、です」

「はい、ありがとうございます。学校への入門手続きは既に伺っています。今、入館証を渡しますので少々お待ちを」

「え?」

「え?」

「……」

 

 この言葉に、右京以外の全員、つまり先に走っていたこの学校の生徒の華恋たちも疑問符を抱いていた。恐らく、念密に仕組まれていたことなのだろう。自分たちがこの学校に来ることさえも、茅場晶彦に。

 という事は、杉下右京は心の中にあった疑問が何か確証に変わったように感じた。この学校には、何かがある。そして、彼女たちはその秘密を知っている。だからこそ、一目散にこの学校にやって来れたのだ。その秘密と、出会うために。そして、茅場晶彦は、その秘密と自分たちを、出会わせるために。

 とりあえず、警備員が戻ってくるまで少し時間がありそうなので、杉下は少女たちに向けて言った。

 

「では、改めまして、警視庁特命係の、杉下です」

 

 と。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。