SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第七十三話

 地下深くへと樹木の根っこのように下る階段。

 前は、こんなものじゃなかったはずなのに、そう考えながら愛城華恋は降りていく。

 いや、最後の最後、≪自分≫が赴いたという高校二年生最後のレヴューの時もこうだったと仲間達から聞いたことがある。華恋と、あともう二人以外の面々は思い出しながら降りていく。長い、長い階段を。

 ここは、聖翔音楽学園の校舎、その一角に存在している火災報知器のすぐ近くにあるエレベーター、の扉を開けた先にあった階段である。この時点で何かがおかしい気がする。

 例えば、エレベーターなのに階段、というところ。すぐ横には当然のようにボタンがあったので念の為にソレを押したが反応しなかった。前のオーディションの時は、そのエレベーターを使って会場に向かっていたはずなのにと、不思議に思いながら自分達はエレベーターの扉に手をかけた。

 すると、その瞬間に扉がとてつもない勢いで開かれて、その先にあったのがこの長い階段だ。もう、かれこれ数十分程度は降りているであろう。あの時と同じ状況だとしたらば、もう少し下に降りないとあの舞台へと向かう事ができないはずなのだが、しかしそれ以上に不思議というか問題のある部分があった。

 

「随分と下に降りて来ましたね、右京さん」

「えぇ、そうですね」

 

 そう、警視庁の特命係と自分たちの事を紹介した杉下右京と亀山薫もまた、一緒に着いて来てしまっているのだ。

 彼らは、学校の地下にとてつもなく広い空間があることに驚きつつも彼女たち、舞台少女の八人の後を付いて来ていた。と言っても、驚いているのは基本的に亀山であって、杉下は冷静に周りの状況を感心しながら見ているのだが。

 

「なぁ、本当にこの二人も連れて来てよかったのか?」

「私に聞かないでよ」

 

 純奈は双葉の言葉にやや苛立った返事をした。それもそうだ。なぜなら彼らが付いてきたのは自分のせいではないのだから。しかし、問題なのはこの場所に部外者を入れてしまったこと。

 本来であれば、ソレ禁忌とされもしそのような事をしたら罰金などとと教えられた。それなのに、二人も部外者を入れてしまって、どうすればいいのだろうか、そう華恋が心配していた時だ。

 

「あぁご心配なく、我々にはメールで招待状が届いていましたので」

「招待状?」

 

 と言って、杉下は自分に届いたメールを彼女たちに見せた。そこには色々な文章が書かれていて、最後の最後に、こう書かれていた。

 

「レヴュー観戦の切符、だそうですよ?」

「え?」

 

 観戦の切符、どういうことだ。また華恋達が疑問に思った。このオーディションは極秘。観客何て一人たりともいないはず。あの、≪この世界≫で最後のレヴューとなった時、当事者であった九人の内五人が観客として最後のレヴューを見守っていたことはあったが、それ以外は基本的に観客はいなかった。

 勝手について来て、勝手に観客席にいた愛城華恋という例外はいるが、それ以外では基本的にオーディションを、レヴューを他人に見せるなんてことは絶対になかった。部外者の人間であればもっとだ。

 と、ここで杉下がややシニカルな笑みを浮かべながら指を一本立てて言う。

 

「最初は何の事なのか分かりませんでした。レヴューという言葉は、英語圏においては二つの文字があるからです。例えば、reviewには批評、評価、復習、再考、再検討。一方で、Vの後がueで終わるrevueの場合は、歌や踊り、寸劇などを組み合わせた舞台芸能を指す言葉です。レヴュー観戦という言葉から後者だとは思っていました、ですがディベート、特定のテーマについて、賛成派と否定派に分かれて議論するというものもあり、ソレをレヴューとしてる可能性も考えられました。ですが、ここが音楽学院である事から考えて後者、つまり舞台芸能のこと、そうですね?」

「凄い……」

 

 ななは思わずつぶやいてしまった。杉下の知識量や、それを披露する長尺の台詞。自分達演劇の世界に生きると決めている舞台少女であったとしてもスラスラとソレが出て来るか分からないような言葉に、舌を巻く者が多数であった。

 加えて、杉下は聞いた。

 

「見たところ、随分とたくさんの舞台の書き割りのようなものが置いてある様ですが、ここは、聖翔音楽学院の倉庫、なのでしょうか?」

「書き割りって、何ですか右京さん?」

「舞台の背景に使われている大道具の一種です。木枠や板に紙や布を張って風景や建物を演出するために使われている物です」

「へぇ……確かにそう言われてみればかなりたくさんの書き割りって奴があるような……」

 

 言われてみて、亀山も周りを見てみた。すると、そこには煉瓦模様が描かれている背景らしきもの、飛び出し注意を知らせるために子供が作った様な小道具らしきもの、多種多様の書き割りと呼ばれているソレが見て取れる。

 それも上から下まで、おびただしい数のソレがあるのを見てある種の恐怖すらも感じ取った。もしもこれが、本当に聖翔音楽学院の倉庫であり、その舞台装置の保管場所として使われているとしたら、なんという規模なのだろうか。

 

「いや、あの、どう答えればいいのか……」

 

 と、確か華恋と自分の事を名乗った赤髪の少女が困っている様子が見て取れる。ソレを見た杉下は、何かが確証に変わった様な気がした。

 

「なるほど、この場所は何か後ろめたい事が関わっている。もしくはこの学院の秘密に関わっている、という事でしょうか?」

「え!?」

「どういうことですか右京さん!?」

 

 何故、今の言葉でそう言う捉え方をしたのか、亀山はよくわからなかった。そして、ある意味で核心をついてきたともいえる杉下の言葉に驚き、足を止めた少女たち。

 その少女たちを追い越すように階段を下りて行った杉下は、振り返ると再び、指を一本立てて説明する。

 

「本来、自分が何も情報を知らない場合は分からないの一言で済むはずです、ですが貴方はこう答えました。≪どう答えればいいのか≫と」

「あ……」

「そうです。どう答えればいいか、つまり答えを知っているがどこまで話していいのか、そう考えていないと出ない言葉なのです。つまり、このかきわりなどの小道具類、そしてこの地下倉庫について、貴女たちは何かを知っている。しかし、何らかの理由によって話す事ができない。そういう事ですね?」

 

 確かに言われてみれば簡単な事である。ある意味で人間心理の裏を曝け出したかのような論証に、誰もが唖然となった。華恋の言葉は失言などではなかった。亀山など、普通の人間が聞いただけでは何の変哲もない言葉。

 だが、その何の変哲もない言葉に何か意味を見出すところは、流石は杉下右京と言ったところであろう。

 

「なるほど、鮮やかな推理です。たった一言で、そこまで導き出すなんて……」

「いえいえ、仮説を積み上げただけの物ですよ」

 

 杉下はまるで謙遜するかのように笑った。その仮説の積み上げでの推理力、という物が凄いのであるが。天童真矢は、そう心の中で呟きながら杉下の横に立った。

 この人にならば、話してもよいのかもしれない。そんな期待を抱きながら。

 

「天堂さん?」

「お話ししましょう。私たちの秘密、そして、私達の置かれてる状況を」

「え!?」

 

 その言葉に、七人の少女が驚きの様そうを見せる。しかし、真矢はそんな事いにもかえすことなくやや厳しい顔つきを変えることなく言った。

 

「レヴューへの招待状が届いていたこと、そしてこの学院への入館許可が出ていたことからみて、この二人には、これから私たちのレヴューを見てもらう必要がある。という事なのでしょう。ならば、私たちの事を知ってもらわなければなりません。私たち、舞台少女の真実を」

「舞台、少女?」

「それは、舞台女優とは違うのですか?」

「えぇ……舞台少女、それは……」

 

 真矢は、数段階段を下りた先で、杉下たちを見上げるような形で言った。

 

「舞台に魅了され、舞台に生き、生かされている少女の名前、です」

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