SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「舞台少女、レヴュー、それにオーディションにタイムリープ……ですか」
かなり、地下に潜った。何時間降りているか分からないほど、あるいは時間が経過してないと思えるくらいの不思議な感覚を持った杉下右京は、一度階段の広いスペース、いわゆる踊り場と言われる場所までくると、彼女たちの話を総まとめした。
その時、杉下右京の中を通り過ぎて行った感情のふり幅に対して、亀山以外の人間たちが気がつけるわけもなく、彼女たちにとっては朝もやの中を彼が通り過ぎて言ったかのように感じたと言う。
それほどまでに彼が冷静に、かつ動じることがなかったから不気味だった、と言えるのかもしれないが。
「そ、そんな事が本当にこの学校で起こってたのか?」
亀山が狼狽えるように言った。そう、大体このような感じの反応が来てもおかしくはないのだ。舞台少女も、レヴューも、オーディションにも、そしてタイムリープという不可思議な現象に対して、客観的に見て亀山の方が、もしかしたら今の彼女たちにとっては安心できる存在だったのかもしれない。
そんな亀山に対して少女たちは言う。
「この学院だけじゃおはりませんよ」
「ひかりちゃんによれば、イギリスの学校でも、同じことをやってたって、そこで……」
「キラめき、という物を失ったわけですか……」
なるほど、舞台に立つ女の子達、そのキラメキ、つまり舞台少女として最も大切な物を勝手に賭けられ、そして奪われる。何とも理不尽で、かつ奇妙な話。だが、それでも彼の頭脳はいつも通りだった。
「気になる点がいくつかあります」
「何かしら?」
「あなた方は先ほど、レヴューのために剣や弓を使っていたといいます」
「ソレが何か?」
「日本の銃砲刀剣類所持等取締法では、正当な理由なく6センチを超える刃物を所持することは犯罪です。ソレを、理解してますか?」
「あ……」
流石は杉下右京、と言ったところか。確かにそれは、彼女たちが杉下達と出会った時に危惧したことだった。
普通に考えてみれば分かることだが、一般人である少女たちが長い剣や弓と言った武器を使う事は法律違反に該当する。いや、確かにそうなのだが、今この場面でソレを簡単に指摘することができる人間が果たしてこの世にどれくらいいるのだろうか。舞台少女などなどの飛んでも現象について聞かされた後に警察官としての職務をちゃんと全うできる人間、それは恐らく彼位な物。
そんな人間に目を付けられてしまったのは、不運と言わざるを得ない。さて、どうするべきかと華恋たちが悩んでいる時だ。やはり、ここは真矢が一足前に出て行った。
「ご心配なく、我々が使っているのは≪あくまでも≫小道具です。ソレで実際に人を傷つけることはできません」
詭弁、のようなものに見えそうだが事実である。実際彼女たちの使っている剣などの武器で死傷者が出たことはない。けが人が出ることはあってもそれはかすり傷程度。
そもそも彼女たちがこのレヴューの場に置いて火花飛び散る戦いをしたり、簡単にかきわりなどの物を壊していることは確かにあった。しかし、それは≪あくまでも≫舞台演出上の演出であり、実際に彼女たちが使っている武器には何の殺傷能力もない事は、以前のオーディションの時に真矢は実証済みだったらしい。
「ソレならば、結構です」
「よかった……」
その言葉を聞いてほっと胸をなでおろした少女たち。しかし彼女たちの中に共通認識として、彼が犯罪に関してかなり敏感な人間であるらしい事を理解した。彼の目のまでめったなことを言う物ではないようだ。まぁ、人様に顔向けできないような犯罪をしたことはないはずなので大丈夫、とは思うが、そう華恋達は思っていたと言う。
「それで、他の気になる点って?」
「華恋さん」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれた華恋はおっかなびっくりに声をあげた。つい声が上ずり、まるで野鳥が猟師に撃たれて最後の声を上げようとしている時のようにか細い物だった。そんなことにも触れることなく、彼は聞く。
「話を総括すると、貴方だけが未来の記憶を持っておらず、他の少女達が未来の記憶を持っていると」
「は、はい」
「どれもこれも、信じられない話ですよね……」
と、ななを含めた少女達は諸々のことを頭に入れて右京に同意を求めようとした。が。
「そうでしょうか?」
「へ?」
「え?」
「未来からやって来たという記録は各地に存在します。例えば2000年にこの地球で戦っていたスーパー戦隊は未来人であったという説があります。他にも、ある博物館には白亜紀後期の地層から明らかに人間としか思えない様な化石が発掘されたりと、未来人が過去に赴いていると思わしき実例が数多く存在します。他にも……」
等など、このほかにも、杉下はこれまでこの地球上で起こった未来人がいたと言う証拠を羅列していった。
「え、えっと……」
「亀山さん、これは?」
「あぁ、この人こう言うオカルト系の話には目を輝かせるから……」
実は杉下右京は、こういったオカルトめいた話にはかなり興味津々であり、迷信じみた話であったとしても一度首を突っ込むと言う事が多々あった。そんな彼にこんなにも興味がそそられる事案が舞い込んできたわけだ。それはもちろん黙っていられるわけがない。
まるで歩く百科事典、動く歴史書と言ったところか。その顔には、どこかウキウキとしたものを感じざるを得なかった少女たち。まるでこのような状況に巻き込まれたことに喜びまで感じているかのような彼のその素早い言葉にはある意味で感服するしかなかった。
「まぁかく言う俺も、時々幽霊、みたいなのが見えたりすんだけどな」
「幽霊?」
これもおどろくべきことであるが事実である。彼には、一人親友がいた。その男は平成の切り裂きジャックとまで呼称されたことのある人間で、その人物によって数多くの人間が死に至らしめられたのは確か。しかし、その人間によって救われた人間もいたことも確かである。
そんな彼は、とある事件の被害者となって殺されてしまった。さらにその後に発覚した一つの事件。その犯人として捜査線上に浮かんだのもまた生前の親友だった。
亀山はしかし、その親友の幽霊が目の前に現れて、その事件だけは自分が犯人ではない。自分の身の潔白を証明してほしいと願われたことがあったのだ。
実際、その事件に関しては彼は冤罪だった。後にソレが証明されたことを彼の墓前に報告しに行った時にも、うっすらと≪奥さん≫と共にその姿を見たと言う亀山。
こう言っては何だが、彼も人一倍一般人とはかけ離れた能力を持っているような気がする。
「とにかく、何故。華恋さんだけが記憶を持っていないのか」
「正確に言えばひかりちゃんもそうだったけど」
「ひかり、ちゃん?」
そういえば、さっきもその名前を聞いていた。それに、確かこの場所に来る少し前に大岩捜査一課長にこの場所について聞いた時にも。そう、確かこの学校で唯一―――。
「SAOに閉じ込められた、私たちの……仲間です」
「そうでしたか、彼女も舞台少女でしたか」
「えぇ」
「それで、そのひかりさんはどのようにして記憶を取り戻したのですか?」
「それは……」
ソレに答えたのはまひるである。まひるは、あの夜の稽古のことを話した。ソレと同時に、華恋にも真矢経由で未来のことについて話したことをいう事も。
それに対して、ちょっとスパルタ過ぎないかなぁと心の中で呟いた亀山を咎める人間などいないだろう。実際かなりのスパルタであったしもしそれでまひるの記憶が戻らなかったとしたら一生モノのトラウマになっていたはずだから。
「なるほど、それで。華恋さんは話を聞いて何か思い出せたのですか?」
「全然。でも、みんなが嘘を言ってるとは思えないんです」
「その理由は?」
「……皆は、私のライバルだから」
華恋は、自慢するように言った。いや、誇らしげに、と言った方がいいのかもしれない。
レヴューなどと言う不可思議な現象に遭遇してるとは言え、ここまで真正面で受け止めるとは、右京は感服していた。それが、友情、いや彼女たちの言うところのライバルとしての姿、行ったところなのだろうか。
「なるほど……近くで見ている人間だからこそ分かることがある、と言うことですね」
「……はい、私はまだ、みんなに比べれば未熟です。だから、日々成長していきたいんです。成長して、そして、立派な舞台少女になる。それが、今の私の目標です!」
「目標……ですか。いい心がけです」
「ありがとうございます!」
と、杉下はそれまでの頓珍漢な事を考えて居た顔つきと違って朗らかな笑みを浮かべてそう言った。
一方で―――。
「華恋ちゃん……」
複雑そうな顔をしている少女が、唯一人ここにはいた。