SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
スポットライトが照らす先。街頭一つもない真っ暗な道を照らすかのようなその光は、ある、一点を杉下たちに照らし出していた。
それは≪T≫。文字通り、白いテープで床に貼り付けてあった物。ソレを見た瞬間、華恋たちの表情が曇った。ソレは、そのマークが舞台を生きる人間たちにとってありふれたものであるのと同時に、舞台少女としてオーディションに挑んでいた自分たちにとっては象徴として感じられるものだったから。
「なんです、あのTのマークは」
「どうやら、バミリの様ですね」
「バミリ?」
「舞台や撮影現場で演者やその他の機材の位置を正確に指し示すために床に貼られているテープの事ですよ」
流石博識の杉下右京である。まるでどこかのウェブサイトから引用してきたかのようにスラスラとその答えを提示することができる辺り、彼の脳内にどれだけの情報が集まっているのか、小一時間程問いただしたいくらいに素早く出てきた答えに対して、大場ななは苦笑しながら言った。
「私たちは、ポジションゼロって呼んでます」
「ポジションゼロ?」
「何故、そう呼ばれているのでしょうか?」
「あの場所は、舞台のセンターポジション。主役だけが立つことが許された場所、スポットライトの、中心……」
「なるほど舞台のセンター・中心の事をゼロ・ポジションと呼ぶそうですが、ソレの事でしたか」
少し造語のような改変の仕方はあった物のそれならば納得できる。そして、右京はその言葉を聞いて何か合点が言った様子で、少女たちに言う。
「君たちは、あのポジションゼロを目標に戦っている、そう言うわけですね」
と。この人の洞察力と想像力には叶わない。そう感じながら星見は言う。
「その通り。あの場所こそ、このオーディションで私たちが最後に目指す場所。私たちが決して渡さない、頂点。それがポジションゼロ」
「その、ポジションゼロに何かが突き刺さってるようですが」
「え?」
と言われて少女たちはその方向を見た。確かに、こちらからはスポットライトの角度の関係やソレ自体の向きの関係もあって見づらかったが、しかしよく見ると何かが突き刺さっているかのようだ。
杉下の指摘を受けたからなのかは分からないが、ソレを当てていたスポットライトが突然また別方向から当てられる。今度は、ちゃんとソコに刺さっている物がハッキリと、その影が黒く詳細に見えるように、そこまで来て彼女たちはソレを≪手紙≫であることを確認した。
「早く開けようぜ」
こんなこと、初めてだ。そう感じながらしかし、彼女たちにとって最も大切な居場所に突き刺さっている物なのだから相当なものであるのは間違いない事。少女たちはその手紙を手に取ろうとした。
しかし。
「待ちなさい。もしかしたら危険物が入っているかもしれません。まずは、僕が開けましょう」
と、右京が言う。そう、確かにこの場所は彼女たちにとってはホームと言って過言ではない場所。だからと言って、その場所になる物がすべからず安全な物であるとは限らない。もしかしたら、考えたくないが中に刃物などの危険物、最悪毒物や発火装置のようなものが入っている可能性だってある。
したがって、ここは一番の年長者であり、特命係のトップである杉下右京だけがその手紙に近づき、調べることにした。念のため、亀山や少女たちには少しだけ離れてもらいゆっくりとした足取りで手紙に向かう杉下。
そして、腰を折り曲げてすっと、手紙を手に取ると何も書かれていない表面、裏面を確認する。どうやら、封蝋で止められているようで、光に当ててみると中に一枚の紙が入っていることが分かる。
「どうやら、手紙が一枚、入っているだけの様です」
と、少女たちに伝えた右京。危険な物が入っている確率は低くなったようだ。まだ、気化性の何かが入っていることもあり得るが、しかし今自分が何の体調不良も起こってない事が安心材料の一つだった。もし手紙の中がそれで満たされていたとしたら、手紙の封の隙間から少しずつ漏れているはずだから。
となると、本当に手紙が一枚入っているだけ、のはずだ。
杉下は、その封蝋を外すと、中から一枚の紙を取り出した。そこには、こう書かれていた。
「≪離別のレヴュー≫……ですか」
その、瞬間である。
「ッ!?」
「え……」
「な、なんだこれは!?」
あたり一面が、突如として闇に飲み込まれてしまったかのように、黒い霧が溢れ出し、彼、彼女たちを包み込んだのだ。
そのせいで視界は完全に閉ざされてしまい、暗中模索という言葉がピッタリと似あう状態となってしまった。
何か、ヤバイ。亀山はそう直感して、すぐそばにいるはずの華恋たちに手を伸ばした。
しかし、そこには誰もいなかった。もう、誰も、まるで自分たちの手の届くところには誰もいない。そう、暗示するかのように。
と、その時だった。
「ウフフフフ、キャアハハハハハハハハハ!!! アァハハハハハハハハハ!!!!」
「誰だ!?」
「なに、この不気味な笑い声……」
「こんなの聞いたことがない……」
金切声に近いだろうか、不快な、しかしどこか悲し気な声が彼らの耳に響き渡った。いや、耳どころじゃない。心臓をかき乱し、その心拍を乱れさせるかのような気持ち悪さも感じられる。これは、本当に人間の笑い声なのか。そう不安になるのも当然とも言うべき声。
しかして、亀山はこんな状況の中でも一つ安心したことがあった。それは、自分たちのすぐ近くから少女たちの声が聴こえてきたこと。良かった、自分は捕まえることができなかったが、どうやら彼女たちはまだこの近くに居るようだ。
「おい、皆その場を動くんじゃねぇぞ!」
「は、はい……ッ!?」
と、亀山が注意喚起をした瞬間であった。
「うお、なんだこの光!?」
「これは!?」
まるで、それまでの出来事が全て嘘であったかのように突如としてその場にいた全員を光が包み込んだ。ライフルで狙撃されたかのように正確に、一人一人に当たって言ったスポットライト。それまでの暗闇に慣れ始めていた目に、その光は毒だった。
彼らは視界を奪われ、目を瞑り、保護することで精いっぱい。周りにいる少女たちのことを気に留める隙すらも与えられず、その光線を浴び続けるだけであった。
それから、何秒、何分経ったであろうか。亀山の視界は元に戻り、辺りを見渡すことができるようになっていた。
「ッ……う、ここは!?」
しかし、そこにあったのはそれまでの殺風景な場所ではない。赤い、高級そうなフワフワの椅子のシートが規則階段状に置かれているスペース。すべてが等間隔で置かれており、いつこんな場所に来たのかという疑問を提示する余地も与えられなかった。
「どうやら、観客席の様です……」
「俺たち、いつの間にこんなところに……? って、右京さん!」
周りを見渡していた亀山、近くに居るのは杉下右京≪だけ≫のようだ。そう、だけ、である。それは右京も案じていたようだ。
「分かっています。華恋さんたちがいません。探しに行きましょう」
このような不可思議な場所に、未来の知識があるとはいえまだまだ子供の女の子達を放っておいていいわけがない。右京はその言葉を紡ぐとすぐに彼女たちを探し出すために動こうとした。
「ッ!?」
「なんだ!?」
その時だった。
「あれは……」
ジリジリジリと8ミリ式のカメラが回り始める。それは、観客席の向こう側にある幕をスクリーンとして何らかの映像が投影されているようで、なにやらカウントダウンのような物が始まった様子だ。
④
②
①
⓪は、なかった。ついでに言うと③もだ。そのカウントダウンが終了した瞬間、幕が重々しく開かれた。その先にいたのは、華恋たち舞台少女だ。横一列に並んだ彼女たちもそれぞれに不安そう、な気持ちがこちらにも伝わって来る程。
そして、幕というスクリーンを失ってもなお、映像は回り続ける。
≪ようこそ『離別のレヴュー』へ、私が貴方たちを招待したこのレヴューのホスト≫
という文字が現れた。この映像、事前に制作した物なのだろうか。いや、もしかすると。右京は確かめるように言う。
「教えてもらえるのでしょ? 私たちを、この場所に呼んだ理由を」
≪この場所に呼んだ理由、それは勿論≫
やはり、この自分の質問にほとんど空き時間なく答えた様子から察するに、それは事前に収録されたものではなく、どこかで誰かが自分たちの話を聞いて答えているように思う。どうしてそのようなことをしているのか。自分の声のサンプルを入手される危険性を鑑みたことなのか。この時の杉下にはまだ判断材料がなかった。
「え!?」
そして、その言葉とほぼ同時に四つのスポットライトが順番に点灯して言ってある、全員にとって見慣れた物が現れた。
「あれは、ナーヴギア……それにそのすぐ近くに置かれているのって、まさか……SAO!?」
≪ここに、四つのナーヴギアとSAOがあります≫
あれが、この場所に送られたと言う四セットのゲーム。それが、≪舞台≫の上にある。
キラめき、オーディション、レヴュー、勝った者だけがすべてを手に入れることができる。
まさか、右京はこの時頭の中で最悪な想像をしていた。自分の予感が正しければ、この後このレヴューのホストと名乗った人物はこう、述べるはずだ。
≪これから、貴方たち八人の舞台少女には、このセットを手に入れるためのレヴューを、行ってもらいます≫
と。果たして、それは杉下右京が考えていた物とまるっきり同じものであったと言う。