SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第七十七話

 華恋は、その言葉の意味を一瞬だけ理解することができなかったと言う。

 闇に包まれ、かと思えば自分たちがいつもオーディションで使用していた会場に降ろされて、突如として始まった古い映画のような物。

 おどろおどろしい少女の笑い声が耳に届き、辺りを埃と、他の何かが混ざった様な匂いで充満したひんやりとした冷たい、しかし熱気も帯びた場所。今回のホスト、つまり、前回のレヴューの時のキリンの立ち位置となった人物からの言葉を、華恋は反芻するかのように口ずさんだ。

 

「SAOのセットを手に入れるためのレヴュー……」

 

 SAO。あの、自分のライバルの一人を閉じ込め、なおかつこの日本中でたくさんの悲劇を生んだ特急呪術と言っても過言ではないソレを、手に入れるためのレヴュー。

 

≪勝者は、SAOを。敗者は日常を得ることができる。そんなレヴュー、挑む者は前に出てください≫

 

 そして、目の前に差し出されたのはスポットライト。何も当たっていない、役者を指すためのソレを不必要に消費する明かり。いや、違う。これは、自分たちのために用意されたもの。自分たちがその場所に赴くためだけに存在している花道。

 

「どういう事や?」

「簡単なことだよ……前のオーディションの景品が、自分の望んだ舞台で……今回のは、誰も得をしない舞台……」

 

 そう、誰も得をしない。前回のレヴューもそうだったのかもしれないが、しかしあのレヴュー、オーディションは自分達舞台を生きる人間たちを大きく成長させる事件となってくれた。それは確かだ。

 ソレに比べて、今回はSAOというちっぽけな人間が作り出した虚構の大きな箱庭の世界で、日々生きるか死ぬかの戦いを強いられる。そんな世界に赴くことに一体どんな理由があるだろうか。どんな理由があれば、そんな世界にのこのこと踏み込むような人間がいるだろうか

 

「ふざけんじゃねぇ、誰がそんなもんやるってんだ!」

「何故、我々が呼ばれたのか、聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 亀山や、杉下の声が聴こえてくる。どうやら、暗くてよく見えないが観客席の方に二人がいる様子。亀山はその熱血漢ありありの声を高々に、そして右京はそれまでと同じように冷静沈着に問いかけて来る。その相反する二人の言葉を受けたホスト、と名乗った人物はその映像で告げる。

 

≪メールでお伝えした通りです。お二人にはこのオーディションの立会人をしてもらいたい。ただ、それだけです≫

 

 立会人。前回のオーディションの時にはいなかったな、と華恋は心の中で考えて居た。

 不思議なほど冷静だ。今回の景品があまりにも現実的すぎるからか、もしくは世間を騒がしている物であるからか、どちらにしても今回が異例中の異例であることは間違いないはずだ。

 

「ならば、我々には、オーディションに参加する権利もない、というわけですか」

「右京さん!?」

「念のために、聞いただけです」

 

 と、ともすれば、自分が行きたかったと言わんばかりの言葉に、隣にいた亀山が驚きの声を上げる。しかしあらゆる可能性の中からたった一つの真実を求める彼にとっては、例えそれがほんの紙一重の可能性であったとしても聞いておかなければならなかった。そう言う事なのだろうか。

 

「しかし、何故我々だったのですか? 日本にいる何万人もの警察官の中で、何故……我々二人を選んだのですか?」

 

 言われてみれば確かにそうだ。特に彼ら二人は警視庁の中でも窓際部署と言っても過言ではない特命係の刑事。他にも大勢の刑事が、警視庁だけでも何百といるはずなのに、どうして彼ら二人が選ばれたのだろう。

 果たして、少しの沈黙の後ホストから帰ってきた答えは。

 

≪ノーコメント≫

 

 であった。つまり、答えたくない。もしくは答えられない物、なのだろうか。この、人をおちょくっているとしか思えない言葉に、亀山が怒らないわけがなかった。

 

「馬鹿にしやがって……おい、こんなオーディションだかなんだか知らないの、受ける意味ねえぞ!」

「受ける……意味……」

 

 受ける意味、そう、確かにないかもしれない。前回のオーディションでは舞台の主役を勝ち取るためという大義名分があった。彼女と、スタァライトするという夢を叶えたい。そう言う願いで飛び入り参加し、そしてライバルたちと切磋琢磨して、自分を磨き続けて。

 確かに辛い事や苦しい事はあった。でも、そのおかげで自分は、いや自分たちはたくさんのかけがえのない経験を手に入れることができた。

 今回のオーディションで勝ったとしても、自分たちにあるのは、舞台少女としてだけじゃない。高校生として、そしてその先を生きる舞台女優として生きるはずだった未来を捨てるという最悪な道だけ。

 たくさんあったはずの可能性を狭め、自分自身の力を、表現力を、そしてキラめきを届かせるという目標すらも失った世界。そこに、自分の居場所何て存在しないはず。そうなる未来しか想像できないはず。

 そう、こんなオーディション受けても意味なんてないのだ。

 いや。

 

「華恋ちゃん……!」

「私、受けます! そのオーディション……受けて立ちます!」

「ッ!」

 

 意味は、ある。スポットライトに当てられた場所に立った華恋は、とても凛々しい表情、覚悟を決め、あるはずのない未来を見据えてまっすぐ前を向いて言った。あたかも、本当の舞台のオーディションに臨むかのように。堂々としているその姿は、周りにいるライバルたち、ひいては。

 

「華恋さんッ……」

 

 右京ですらもその背中から彼女の熱意を感じ取れるものだった。何であろうか、彼女の中からあふれ出しているガラスの破片のようなキラキラは、あれが、彼女たちの言うところのキラめきと言うのだろうか。もしそうだとしたら、一体彼女は体内にどれだけのキラめきを隠し持っているのか。右京には想像することもできなかった。

 そして、華恋のその行動が他のライバルに与えた影響は大きい。

 

「なら、私も!」

「まひるちゃん!」

「……」

「皆!」

 

 華恋、まひるに続き、他の六人の舞台少女も、まるで示し合わせたかのように同時にスポットライトの下に足を踏み入れた。

 彼女たちは言う。

 

「例えどのようなオーディションであったとしても、退くことはしない。それが、私、天道真矢……」

「久しぶりのレヴューや、ウチも参加させてもらいます」

「今の自分の演技力……ソレを試したいから」

 

 それぞれの、覚悟。それぞれの、思いを持ってオーディションに挑もうとする少女たち。亀山と右京はソレを観客席で見る事しかできない。それがとても歯痒かった。

 

「ッ、右京さん。止めなくていいんですか!?」

 

 と亀山が隣にいる右京に訴願するように言う。しかし、右京は冷静にその場の様子を確かめてからため息を一つ吐いて言う。

 

「我々が止めたところで、このオーディションの主催者、ホストにとってはただの言葉なのでしょう。ここは、一度様子を見てみましょう」

 

 と。もはや、既に自分たちの人智の及ぶところに存在しないと言う事を鑑みたうえでの発言であった。腹立たしいことに、今の自分達に出来る事は、ホストである人物が言った通りに立会人として彼女たちのオーディションを見ているだけしかなかったのである。

 

≪流石杉下警部。聡明な刑事です≫

「ですが、オーディションという物が終わった後はまた別です。彼女達がナーヴギアとSAOを手に入れたとしても、回収させてもらいます」

 

 そう、それだけが唯一の抵抗と言ってもいいだろう。確かに彼女たちがSAOとナーヴギアを手に入れたとて、だ。ソレを回収してしまえば彼女たちがソレをプレイすることができない。この二つに関しては、警察からも回収要請のようなものが出されているため、自分たち警察が介入すれば簡単に押収することもできる≪はず≫だ。

 

≪お好きにどうぞ≫

 

 そんな、不確かな答えをよそにし、ついにオーディションが、開幕する。

 

≪では、始めましょう。『離別のレヴュー』を≫

「ッ!」

 

 瞬間、再び目の前が真っ白になったのだった。

 二度目の光、亀山と杉下はやはり観客席にいた。違っていたのは、いつの間にか自分たちが椅子に座っていたと言う事。それから、それまで円形状で連なっていたはずの観客席が、二人が座れる分だけの二席と、他≪六つ≫の空いた椅子、合計八つの席しかなかったと言う事。

 そして、その客席が、天井から吊り下げられているようになっていると言う事。つまり、今自分たちは宙ぶらりんの状態になっていると言う事だ。であるのに、あまりバランスが悪く感じられない。むしろ地上に居た時と同じように行動ができると言うのが、この場所の異質さを物語っていると言ってもいいのかもしれない。

 

「なんだ、一体何が起こって……」

 

 その時だった。

 

『アタシ再生産』

 

 鮮血のような背景に、そんな文字が浮かんだのである。そして、その瞬間に聞こえてくるのは工場のような機械音。

 何かが作られて行くような音、山彦のように繰り返される言葉、何かが焼けつくような音に、小さいものが次々とどこかに積み上げられていくような音。

 そして、闇に一筋、否大量のスポットライトが照らし出される。そこにいたのは。

 

「ッ!? 華恋さん!」

 

 言下、大量のスポットライトがまるで生きているかのような動きを見せると、その中で少女の声が響き渡る。

 

「星屑溢れるステージに華麗に咲かせる愛の華!」

「99期生、愛城華恋!」

「皆を、スタァライトしちゃいます!!」

 

 そこにいたのは、一振りのサーベルを持ち、赤い制服とスカート、そして金色の飾りで衣装と結びつかれた赤いマントを羽織った可憐な少女。

 対するは。

 

「キラめく舞台が大好きで、キラめく私も大好きで。貴方が指し示してくれた光は、ずっと私を照らしてる。今度は私が照らしてく……」

「99期生、露崎まひる」

「ずっとそばにいたのは、私なんだよ」

 

 装飾がかなり施されているが、棍棒(メイス)らしきものを握りしめた露崎まひるがいた。

 

「まひるちゃん……!」

「華恋ちゃん……」

 

 互いにその姿を見た二人は思ったと言う。≪今回のライバル≫は貴方なんだね、と。

 

「うぉ、何だ!?」

 

 と、その時だった。突如として亀山と杉下のいる観客席が動き出したのである。

 

「これは、どうやら観客席が動いているようです!」

 

 右京は今起こっていることを端的に述べるだけ。恐らく、この時の彼もまたいつも通りの冷静さをかけていたのだろう。だからこそ、思った言葉を出すだけになってしまった。今のこの状況、平静であったのならばもっと他に言葉があったはずなのに。

 二人の目線の先にあった華恋とまひるの姿は一瞬のうちに消え去り、また、別の二人がライトに照らされている姿が見えた。

 

「一等星、二等星、三等星。星はたくさんあるけれど、自分で輝く星は数少ない。なら、私は私と言う煌めく星へと変わっていく!」

「99期生、星見純奈」

「掴んで見せます、自分星!」

 

 弓矢を持った眼鏡の少女、星見純奈。

 

「木に付いた実はもがれたけども、新たな実を付け旅立ちます。北から南、西から東へもがれた実となって届けるは私自身!」

「99期生! 大場なな!」

「私が守るの! ずっと! 何度でも!」

 

 二振りの剣を握りしめた少女、大場なな。彼女だけ衣装が真っ白なのだが、なにか理由があるのだろうか。

 そんな疑問を呈することもできずにそうそうにその場から動いてしまった観客席、そして次に現れたのは。日本ではおなじみ、というより日本の武器としてはこれが真っ先に思い浮かぶであろう薙刀と、それに相反するように日本では絶対に見ないであろうスイス原産の巨大な斧のような武器ハルバートを持った二人の少女。

 

「歌に踊につきっきり。違えてもうた二本道」

「だけど未練は微塵もねぇ! 空を突っ切る一本道! 99期生! 石動双葉! 気合い入れて、突っ走ります!」

「99期生! 花柳薫子! 最後まで付き合うてもらうで!!」

 

 そして、再び観客席が動き出す。

 

「星の瞬き、空の青さ。誰もが見れるがその意味を知るものは少ない。ならば、私の歌で、舞で教えよう」

「99期生主席! 天堂真矢!」

「今宵、キラメキを貴方に!」

「二度と味わえない貴方との舞台。宿命背負い私は輝く」

「99期生次席! 西條クロディーヌ!」

「C'est moi, la star!(スタァになるのは、この私!)」

 

 レイピア、そして剣を持った少女。

 八人八様に様々な姿形をした武器、そしてキラめきを持った少女たち。その姿を見て、右京は残念に思ったそうだ。

 そう、もうこの時点で察してしまったのであろう。だからなのだろう、フッ、とため息をつくと肩の力を抜いて、席に深々と座ったのは。

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