SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「す、すげぇライト!?」
「えぇ、著名な大劇場でもここまでの光と演出はありません」
簡単に、かつ感嘆なる声を率直に述べた二人。見た通り、どこにライトがたくさん取り付けられていたのかと問いかけたいくらいに無数のライトが舞台に立つ少女たちの姿を捉え、その姿を際立たせた。一瞬雷にでも打たれたかのような衝撃と、彼女達の轟いた口上に、心を鷲掴みにされたかのよう。
舞台に佇む少女達のその様は、まるで舞台の神様に祝福されていたかのようにも、はたまた悪魔に魅入られているかのようにも見えてしまった。
とにかく、とても幻想的な世界を見せてもらった。それだけは確かなのだと思う。
「しかし、二つ、気がかりなことがあります」
「気がかり?」
と、右京は何かの冊子を読みながら亀山に答えた。
「えぇ、まずは目的、です」
「目的? 今回のホストのって事ですか?」
「いえ、そちらではありません。彼女達舞台少女のことです」
「あの子達?」
「えぇ、どうやら、本当にSAOに行きたい人間は、華恋さんだけのようです。大切な友達、つまりこの学校でただ一人SAOに囚われた……神楽ひかりさんを救いに行きたい。それが彼女がこのオーディションに参加した理由です」
「なるほど、それを理由にしてこのオーディションって奴をホストは企画したわけだな」
確かに少し前に聞いていた。ひかりという少女を囚われたのだと。彼女も、舞台少女だったのだと。なるほど、確かに大切な友達を助けに行きたい、いや彼女たちの言葉を借りるとすればライバルか。ソレを助けに行きたいと言う事だったら彼女がこのオーディションに出る理由は理解できる。しかし。
「ですが、他の七人にはあまりSAOをプレイする理由はないようです」
「んじゃ、なんで?」
そう、逆説的に言えば他の七人の舞台少女にはSAOをプレイする直接的な理由はないはずだ。それなのに、どうして他の七人はこのオーディションに参加したのだろうか。どうして、こんな未来を閉ざすようなオーディションに参加する意思を固めたのか、それが右京には気がかりだった。
「仮説ですが、プライドのため、でしょうか?」
「プライド?」
「えぇ」
勝手なことだとは分かっている。しかし、何か答えを見つけ出さなければならないと言うのが、探求者のさだめとでもいうのだろう。彼は、開いていた冊子を閉じると言う。
「舞台に生き、舞台で散る。それが舞台少女です。もし、その舞台がSAOの世界であるのなら……そのためのオーディションがこれであるのなら」
「断る理由がない、って奴ですか? けどいくらなんでも自分の命や人生をかけるなんて」
馬鹿な真似、するはずがない。それは、一般的な意見だ。しかし。
「亀山くん、忘れましたか?」
「え、何をです?」
「彼女達は『華恋さんを除いて』記憶を持ってこの世界にやってきてるのですよ? この先送るはずだった学生生活、この先得るはずだった経験、それらを持ってるのです。僕には、彼女達の気持ちは完全には分かりません。ですが、もし、それで満足しているのなら。もしその経験が未来で活かすことができると信じているのなら……また、別の舞台を目指す。そういうことではないでしょうか?」
そう、七人は持っている。それぞれその終着点は違えども、未来の記憶を、この先送るはずだった学校生活、その先で入るはずだった舞台の道。そんな記憶を彼女たちは持っている。
そんな同じ道を歩もうとするのか、二重の意味で否だ。同じ道なんて物はない。たくさんの人間の思惑があって、たくさんの人間の意思があって、そしてたくさん人間の思いがあって、不確定要素があってそれもまた全てを織り込んだ末に同じ道を歩くことなんて、絶対にありえない。
でも、それでも似たり寄ったりの道を歩くことは確か。それで、自分自身を進化させることができるか。
恐らく、彼女たちはソレを考えたのだろう。ソレを考えた末で、自分たちをさらに進化させることができる舞台として、SAOというデスゲームを選んだ。それが、答えなのだろう。あくまでも勝手な推測に過ぎないのだが。
「そんな……けど、確かに俺たちには分からない世界ですね……」
亀山は反論の一つでもしようと思ったが無理だった。自分よりも頭がいいと断言できる右京がそう言っているのだし、自分には何も答えが浮かんでこなかったから。そして何より、自分達一般人と彼女たち舞台少女では全然生きる世界が違うのだから。そこに他人が口をはさむ余地何てなかったのかもしれない。
だから、彼は意気消沈し、ゆっくりとフカフカの席に座ると右京に聞く。
「で、右京さん。もう一つの気になることって?」
「組み合わせです」
「組み合わせ?」
というのは、さっきの名乗り口上を上げていた四組の事か。
確か、最初は華恋とまひる。
その次が、純奈となな。
双葉と香子。
そして最後が真矢とクロディーヌ。この組み合わせに何があると言うのだろうか。
「えぇ、華恋さんとまひるさん。この二人は寮ではひかりさんと含めてルームメイト。三人ともが親友と言って良いほどの間柄でそうです。さらに、香子さんと双葉さん。この二人は幼馴染で、幼い頃から親しい仲であると。また、真矢さんとクロディーヌさんは憧れ、憧れる関係でありライバルであるとのことです」
「そんじゃ、関係ないのは星見って女の子とななって子だけか」
「いえ、純那さんとななさんの二人は、互いを理解し合える関係性である。つまり、全員が全員、相手を大切にしている人と戦っている。そう言うことです」
つまり、全員が全員自分たちが大切に思っている存在と戦わされるとそう言う事なのか。まったくもって。
「たく、悪趣味悪なことしやがって……」
亀山は悪態をついた。SAOというデスゲームに純粋無垢な女の子達を送り込もうとしているだけでも悪趣味であると言うのに、それに加えて大切な人間同士、いわば≪相棒≫同士を戦わせるなんて悪趣味を通り越して狂っていと言う物だ。
「なんにせよ、自分が勝てばSAOをプレイできる、負ければ、大切な人がSAOに行ってしまう。『離別のレヴュー』……その意味がよく分かりました」
なるほど、どちらにしても大切な人間とはしばらく会えなくなる。だから、≪離別≫か。安直だがしかし、その文字通りの意味合いである。何とも酷な真似ばかり押し付けて、このオーディションのホストとやらはとんだサディスト。一体どのような人物なのだろうか。いや、そもそもこんなおかしなオーディションとやらを開くことができるのだから人間である事すらも怪しいと言えるのかもしれないが、何にしても一つ、亀山は気になったことがあった。
「にしても右京さん? なんでそんな裏事情を知ってるんですか?」
亀山は先ほどから右京が妙に華恋たちの内部事情に関して知っているのが気になっていた。流石の杉下右京であったとしても一個人のデータ、特に何の犯罪も犯していない人間のデータを知りえることはできないはずなのに、どうしてそこまで知ることができたのだろうか。
その問いに対して、亀山は先ほどまで杉下が手に取ってた冊子を提示されながら言った。
「えぇ、パンフレットに、書いてました」
「ぱ、パンフレット?」
「座席の後ろにあります」
「え? あ、ほんとだ」
亀山もみると、そこにはかなり分厚い冊子が置かれてあった。彼もその中を見ていると、どうやらそこには彼女たちに関わるパーソナルデータ、他にもオーディションのルールである≪マントを落とされた者が負け≫等細かい物が書かれていた。
その後ろには、ひかりという少女の頁もある。この少女が、例のSAOをプレイ中の少女なのだろう。他にもたくさんの名前が見えるが、途中からは写真がなく、また名前や説明欄も見たことのない文字で羅列してあるだけの頁が続くばかりであった。
「えっと、右京さん? この文字って……」
「僕にも分かりません。なにぶんこの世界には有史以来幾何万もの種類の文字がありますからねぇ」
「えぇ、右京さんにも分からない字が……」
杉下右京にも分からない文字、という物があったのかと何か安心した亀山。
だが、彼に分からないのも当然だ。なぜなら、その文字は≪人間が扱う物≫ではないのだから。
と、その時ポンと天井から何かが落ちて来た。これは、ペットボトルのお茶とそれから―――。
「お弁当にお茶もあるようです。せっかくなので、朝ごはんを食べながら鑑賞しましょう」
いや、確かに自分たちは朝早くに家を出たからちゃんとしたご飯を食べてはいなかったけれど、今この状況ですることがそれって、あまりにも能天気というかなんというか。
「少なくとも、命の危険は今のところないようですので」
「は、はぁ……」
全く、この人の考えていることはよくわからない。そう思いながら、亀山がお弁当の蓋を開けようとした。
その瞬間だった。
「ッ!?」
ブザーが、鳴り響いたのは。