SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第八十三話

 二組の舞台が終わった直後、舞台は突如として暗転し、何も見えなくなった。観客席だけには、小さなライトが照らしているようで、暗黒の中で並んで座る亀山、杉下、真矢やクロディーヌの姿が見える。四人は、それぞれに手に持った弁当やお茶を飲みながら二組の少女の舞台に拍手を送った。中でも驚いていたのはもっぱら亀山だった。これが、舞台少女のレヴューなのかと、途中で立ち上がってしまってからはそのまま四人の少女の戦いを呆然と眺めていた。

 一方で杉下右京は冷えた紅茶の様に冷静に舞台上で行われているレヴューを見ており、真矢とクロディーヌは自分たちのライバルの成長ぶりを見て、もしも自分だったらどう立ち回るだろうかと、と考察をしていた。

 この場に置いて狼狽していない人間が四人中三人、というのはある意味ではおかしなことだ。が、しかし、そこにいる人間たちを知っている者にとっては当たり前の行動でもあると言えるのだ。

 

「はぁ、なんか、久々すぎてちょっと疲れた」

「ほんまや、お茶もろてよろしい?」

 

 ふと、その時後方から一組の少女たちの声が聴こえて来た。

 大場なな、そして花柳香子だ。そのさらに後方、光の階段の様なものから降りてきているのは石動双葉と星見純奈だ。香子、そして純奈の手にはSAOとナーヴギアが見て取れる。最も、それもほんのわずかの間だけで、ソレら二つはすぐに≪自分たちの目≫からは見えなくなってしまった。右京はその瞬間に何かを悟った。

 

「たく、命がかかってないって言っても能天気にも程があるんじゃないか?」

 

 確かに、このレヴューでは命はかかっていない。しかし、次の舞台は命がけの物となるのだ。デスゲームと言う、全てを賭けた舞台に。それに向かって地雷原にタップダンスをしながら足を突っ込むかの様な少女達に亀山は呆れる。

 すると、右京がいつもの様に冷静沈着な分析を行う。いつものパターンだ。

 

「亀山くん、彼女達にとってオーディションは自分の全てを曝け出す場所。そして……命をかけること等当然のように分かりきっている。その舞台の合間というのは彼女達に与えられた舞台の神からの贈り物。能天気ではなく、彼女たちは……真面目に息抜きをしているだけなのですよ」

「えぇ、その通りです」

 

 真矢が当然と言う様に頷いた。人間には時折休む時間という物が必要になる。ソレを彼女たちは痛いほどに前の人生経験で知っていた。だからこそ、ここまで力を抜くことができてしまうのだろう。

 新しく現れた二組の少女は、それぞれに右京達の座席の後ろに座ると、これまたお弁当やお茶が空から降ってきて、それに舌つづみを打ち始める。

 こう見ているうちには、普通の女の子達なんだけどなぁ、と亀山が思っていた時、ふとこんな言葉を呟いた。

 

「にしても、なんか不思議というか……」

「?」

「いや、だって真矢ちゃんとクロディーヌ……は、ともかくとして。他の二組のレヴューの始まりが同時だったってのが、なんか不思議って言うかなんというか……」

 

 変かもしれないが、そう感じたのである。真矢とクロディーヌの舞台に関しては最初の舞台であると言う事もあって彼女たちの舞台の最初から見ることができていた。それはまだいい。しかし、他の二組はその少し後に始めたと言うのに、自分たちは彼女たちの舞台を最初から最後まで、一から十までを見ていた。

 この問題に関しては、開演時間がずらされた、その一言で全てが終わってしまうはずなのだが、しかし亀山はど王にも何かが引っかかるような、そんな気がしてならなかったのだ。直感力、という物なのだろう。

 果たして、彼の直感はあながち間違いではなかった。

 

「それは気のせいじゃないと思うな」

「え?」

「私たちがレヴューをしていたのは約五分、それは間違いないから」

「うちもや」

「同じく」

 

 石動、香子の二人もまたななと純奈の言葉に補足した。確かに、自分たちが行ったレヴューは体感でもおよそ五分程だった。体内時計に狂いはないはずだ。

 何が言いたいかというと、最初の真矢とクロディーヌのレヴューとほぼ同時に自分達のレヴューが始まったのだと、彼女達はそう主張したいのだ。

 でも、それはおかしい。それではまるで。

 

「へ? でも……」

「時間が歪んでる、そういうことですか?」

「じ、時間が?」

 

 この辺り、もはや超常現象の類になってきて極々普通の一般人には理解することができない領域であるはずだった。しかし、その中でも杉下は、やはり冷静になってその答えを導き出した。ここまでの理解不能な現象にも答えを見出せるあたり、流石の杉下右京であると言えるだろう。あくまで、推測の範囲内であるのだが。

 ななが、そんな右京の言葉に付け加えるように梅干しを口に入れてから言う。

 

「この空間だと、そんなことが起こってもおかしくないしね……多分それであってると思う」

「えぇ、僕たちと彼女達、どちらの時間が狂ってしまってるのかは分かりませんが」

 

 さしてどうでもいいことにまで目を向けてしまうのは彼の悪い癖、である。ともかく、ななは右京と同じ考えを持っていたのは確かだ。実際自分も以前のレヴューの時に時間をさかのぼった経験があるし、このレヴューは薄々は感じていたが普通の物ではない―薄々というあたり、彼女たちの認識に異常があることが分かる―。つまり、時間操作くらいはお手の物、という事だ。

 だから、本来は同じ時間に行われていたはずの三つのレヴューをそれぞれの最初から、まるでDVDのチャプター機能を使うかのように最初から最後まで個々の人間達は見ることができたのだ。

 

「なら、これからやる華恋ちゃんとまひるちゃんのレヴューも最初から見れるってことか」

「えぇ。運のいいことに」

 

 亀山は、この真矢の言葉に少しだけ疑問符が沸いた。どうして、彼女たちのレヴューを見ることが、運のいい事だと、そう言い切れるのだろうか。その答えは意外というか、当たり前というか、右京が答えてくれた。

 

「このレヴューを、あの舞台に立つチャンスを待っていたのは、一番待っていたのは華恋さんだから、ですか?」

「そうか……」

 

 亀山は上司の言葉でようやく思い出すことができた。右京がこのレヴューのパンフレットを見ながら解説をしてくれたのだ。このレヴューを一番待ち望んでいた、もといあの舞台に行くのを文字通り恋焦がれていたのは、最初からレヴューの商品を目当てにしてこの場に立ったのは愛城華恋という一人の女の子だけだった。

 他の舞台少女の面々とは違って、たった一人だけ未来の記憶を保持することなくこの世界で生きる少女、舞台少女愛城華恋。そして―――。

 

「えぇ、でも」

「まひるはそれを許さない。きっと、全力を尽くして華恋を止めようとする」

 

 対するまひるは、華恋の友人かつ親友かつルームメイトかつライバル、そして華恋の親友であるまひるのライバルでもある。果たして、そんな人間が、簡単に死の恐怖が待ち受ける世界に少女を送ることができるだろうか。いや、できない。彼女は必死で、例えどんなことがあろうとも、どんな力をもってしても、彼女の、文字通りキラめきを奪ってでも華恋の事を止めようとするはず。

 という事は、これから始まるレヴューは、本気と本気のぶつかり合い。いや、語弊があった。それまでの三組の少女たちの戦いもまた真剣そのものだ。彼女たちの場合は、そう。

 本気以上の死闘を見せつけてくれるかもしれない。どちらが勝ったとしても、相手が地獄に落とされることになる。そんな戦い。覚悟を持った少女たちの、そんな、戦いの中でも一番つらいと断言できる物。

 だからなのだろう。三組のレヴューを先に見せたのは、その姿を彼女たちに見せるためだったのだろう。ならば、見てやろうではないか。

 

「どちらの思いが勝つのか……拝見しましょう、彼女達のライバルとして」

 

 ここに、このオーディション最後の幕が上がるのであった。果たして、その先に待っている舞台に辿り着くことができるのは、純粋無垢で子供の心を持った少女の舞台なのか、はたまたその少女の事を守りたいと願っている一人の少女の舞台なのか。

 必見である。

 その時、ブザーが鳴り響いた。

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