SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ第三章 外伝 第八十四話

 それは、相反する舞台。

 決して交わることのない、交わってはならない存在が≪ここにいること≫を許されるたった一つの方法。

 偽物の世界。でも、誰かにとっては本物以上の世界。

 その世界で、今、少女達の閃光がかきわりに間に挟んで交わる。

 

「星の光は眩しいけれど、月光の前には、全て霞んで消えてしまう」

 

 一人は、太陽の前で武器を構える舞台に生きる女優。

 

「月の光は眩しいけれど、月から見ればもっと眩しい者がいた」

 

 一人は、月の前で剣を構える舞台少女。

 

「私は守護者(ガーディアン)。光を守るために陰ながら戦う一人の戦士」

「私は旅人。月の光も突破して、新しい舞台とひかりを求めて旅立つの」

「それは許さない!」

「!」

 

 太陽の前に立っていた少女は、暗黒の中に足を踏み入れた。その瞬間、舞台が彼女の望みをかなえるかのように光、照らされ、そして真っ暗闇だった大地に一つの世界が現れた。

 勿論、全部がかきわり、偽物だ。しかし、ソレを理解してもなお、そこにある舞台装置から出る煙や、ひんやりとした触覚が、そして辺り一面から感じられるほのかな舞台の埃の匂いが、現実と虚像、二つの境界線を曖昧にさせる。

 最後のレヴュー、その舞台は≪地球≫全体と言っても間違いではない程だった。いや、もしかすると純奈のレヴューを合わせると、天の川銀河、太陽星が舞台、なのかもしれない。

 少女は、呟く。

 

「光は光らしく、闇を照らしていればいい!」

 

 そして、その言葉と同時に光の中に残されていた愛城華恋もまた、恐る恐る闇の中に足を踏み入れた。その間にも、少女露崎まひるは自分の武器である棍棒を、メイスを回転させる。まるで、見る物全てを魅了するかの様に。

 

「私は守護者(ガーディアン)! 月ほど小さい光だけれど、それより大きな光を、守れるのなら!」

「行くよ、まひるちゃん!!」

「「ハアッ!!」」

 

 こうして、親友同士による最後のレヴューの幕が開いたのであった。

 まず、先手を打ったのはまひるであった。

 

♪やっとたどりついた愛 にぎしりめ 小さな眠りに♪

「ッあ!」

 

 まひるのメイスが、華恋の横を掠めていった。確かに初動も距離も同じであったはずなのに、この速さ、それにこの洗練された動き、完璧な流れだ。華恋はそう思いながらがら空きとなった彼女の肩に剣を向ける。

 しかし、まひるはそれをすぐに察知すると完全に伸ばしたと思わせていたメイスの持ち手の先を左手で持つと、華恋の剣先にそれで触れて軽くはじき返した。

 全てを予測していたことなのか、それとも≪アドリブ≫なのか。

 

「凄い……」

 

 なんにしても、華恋は感嘆の声を上げるしかなかった。

 

「どう、華恋ちゃん? これが、今の私。華恋ちゃんの知らない私だよ!」

 

 自分の知らないまひる、自分の知らない舞台を経験して、日本有数の劇団員の一員となった少女、その実力、か。華恋は心の中で汗をかく。実際に彼女の進化を見るのは初めてだった。でも、確かにその実力は今までの、少なくとも自分が知っている彼女のソレとは全く違う物である。そう彼女は感じ取った。

 分かるのだ。彼女とついこの間その演技をぶつけ合ったからこそ。分かるのだその進化に、そのキラめきの増大に、彼女の道溢れる希望に。

 分かるのだ。このままじゃ、自分は勝てないのだと。けど。

 

♪安らぐひと 閉じたまぶたにさよなら くちづけて♪

「うん、凄いよまひるちゃん。でも……私は絶対に勝つ!」

 

 だからと言って、自分は負けない。負けたくない。負けるわけにはいかないのだ。だって、この戦いの先には、このレヴューを超えた先には。

 

「勝って、ひかりちゃんのところに向かうんだ!!」

 

 自分の親友が、待っているのだから。一緒の舞台に立つと、そう約束した友がいるのだから。

 

♪時間の花園に あなた置き去りにした 愛は夢のままではつづかない むさぼれば美しい しかばね♪

「どうしてそんなにひかりちゃんの所に行くのにこだわってるの!」

「ッ!」

 

 華恋は必死に形相で剣を振るう。しかし、その攻撃は全て華麗にはじき返されてしまい、何度もカウンターを受ける。その威力は、地面にクレーターを作ってしまうほど。前よりも大きなソレに、彼女はまひるの覚悟と、そして決意を感じ取っていた。

 いや、行動だけじゃない。台詞に乗せた感情もそうだ。自分を、絶対にSAOという舞台に連れて行かない。そう言った強い思いを感じ取れる。二度と、自分に辛い思いをさせないという確固たる純粋な意思のようなものを感じる。

 正直言って、怖い。ここまでの演技力を、彼女が持つことができるなんて、そんな未来があるだなんて。とても、怖い。

 でも、羨ましくなかった。

 

「待ってればいいでしょ! 帰ってくる時を、別の舞台で、待ってればいいでしょ! 華恋ちゃん!!」

 

 心の底からの叫び。まひるの、ライバルを一人でも守りたいと言う思いからの叫びだった。

 自分にとってのキラめき、憧れで、そして絶対に手放したくないと思っている少女。その少女には待っていてもらいたい。この舞台で、自分たちが帰って来るのを。安全な場所で自分を磨いて、自分の未来を考えて、自分の道を生きて、そしていつか帰って来た自分たちと一緒にスタァライトをやる。

 それでいいでしょ、それで我慢してよ、これ以上苦しまないでよ。そんな、まひるの苦悩が見え隠れしていた。

 

♪それでも♪

「待てないよ!」

「ッ!」

 

 当然、華恋はその言葉を突っぱねる。

 

♪望むのなら 追いかけてきて あのくちづけは赤い♪

「出ることのできる舞台の切符を掴めるのに、持ってるのに、ただ観客として見るだけなんて、そんなの嫌!!」

♪Tatoo♪

「馬鹿!!」

 

 大ぶりで振られたメイス。そこには、先ほどまでの舞台女優としてのまひるではない。一人の舞台少女と戻ったまひるの姿が見て取れた。

 

♪くちびる型に痛むTatoo かくせないわあなた♪

「私にはあるの! 未来の記憶、未来の経験が!」

 

 真矢と双葉と共に歌劇団の団員になって、そこで過ごした記憶達。尊敬できる先輩に出会って、その人に色々と教えてもらって、自分を磨いて。そんな記憶がまひるにはあった。

 

「でも、華恋ちゃんには何もない! みんなと過ごした時間も、みんなと離れていた時間も、みんなでやった! 二度目のスタァライトの記憶さえも!!」

 

 けど、華恋には何も残されていない。何も、なにも、ナニモ。あったのは、唯一人、あの頃のままの純粋な舞台少女である愛城華恋だけ。

 今思えば、きっと運命だったのだろう。彼女に舞台少女としての記憶しかなかったのは。きっと、このためだったのだろう。彼女が歩むべき未来を知らなかったのは。

 彼女が新しく歩む舞台。そんなもの必要ない。だって彼女にはそもそも前の舞台の記憶がないのだから。これから作ればいいのだから。この、現実という舞台で。

 

「なのにSAOに飲み込まれないで! 私が、貴方の光になるから!!」

 

 まひる。その名前の通りに皆を照らす太陽が作り出した時間。彼女はその時間の名前を頂いた舞台女優だった。

 華恋によってその光に気がつかされ、たくさんの人々に自分が貰ったようなキラめきを与えたい。そう願った少女の確固たる願いはしかし、華恋には決して届くことはない。

 

「私だって、みんなを照らす光になりたい! はぁ!」

「フッ!」

「ッ!?」

「華恋ちゃんのキラメキは、ここで終わらせない!」

 

 まひるは、バトンの要領でメイスを空中に放り投げた。まやかしだ。でも、それを知っててもなお彼女は綺麗に回転しているソレから目を離せなかった。ソレを目で追った華恋はしかし、回転しながら自分の方に近づいてきたまひるに気がつくことができない。

 まひるは、無防備だった華恋の腹部を蹴ると、放り投げたメイスをキャッチする。華恋は、その攻撃で地面に落ち、何度もバウンドを繰り返して舞台端まで転がり、ついに止まった。

 

「華恋ちゃんのキラメキは私だけじゃない! たくさんの人を笑顔にするキラメキなの! それを、こんなことで途絶えさせたりなんてしない!!」

「消えることはない。私が帰ってくるまで!! まひるちゃんが、皆んなが届けてくれるから……私が作ったキラメキを!!」

♪望むのなら 追いかけてきて♪

「他人まかせなんかにするところ、やっぱり子供だね、華恋ちゃんは」

「あ……」

 

 痛みに耐えながら立ち上がろうとした華恋。しかし、その前に立っていたのはメイスを構えたまひるであった。まひるは、彼女の留め具にメイスの先を付けると、冷たい声で囁く。

 

♪あのくちづけは赤いTatoo 運命の予告刻む Tatoo 私になら一目でわかる くちびる型に 痛むTatoo かくせないわあなた♪

「私は太陽。真昼の太陽。月も星も地球でさえも、私に照らされなければただの闇」

「ッ!!」

 

 そして、メイスは無情にも華恋のマントの留め具を外し、小気味のいい音を立てて地面に落ち、転がった。

 そして―――。

 

♪it's Moon Revenge, woo...♪

「華恋ちゃん。貴方は、闇の中から光を見つめて。ただ、それだけでいいから……」

 

 マントが、華恋の肩から離れていった。まるで、二人の行く末を暗示する様にゆっくりと、撃たれた鳥の様に力無く。

 ソレが落ちるまで、たった数秒。だけど、二人にはソレこそ太陽が一度沈むほどの時間に感じられた。

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